キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者(非正規雇用労働者)のキャリアアップに取り組んだ事業主に支給される制度です。コースが6つあり、それぞれ支給額の仕組みが異なります。 一番よく使われる「正社員化コース」では、中小企業で対象労働者1人あたり最大80万円が支給されます。
非正規雇用で働く労働者の中には、正社員として働きたいという希望を持ちながら、雇用契約の形態が壁になっているケースが少なくありません。キャリアアップ助成金は、こうした労働者の待遇改善に踏み出した事業主を後押しする位置づけの制度です。
この記事では、令和8年4月8日付の厚生労働省リーフレットにもとづき、全6コースの支給額を企業規模・対象者の区分ごとに整理します。 制度の解説にとどめ、申請書の作成代行のような踏み込んだ手続き支援については触れません(社会保険労務士など専門家への相談が必要な領域です)。
「正社員化」には勤務地・職務限定の正社員も含まれる
正社員化コース・障害者正社員化コースでいう「正規雇用労働者」には、いわゆる典型的な正社員だけでなく、「多様な正社員(勤務地限定正社員・職務限定正社員・短時間正社員)」も含まれます。
- 勤務地限定正社員: 転勤がなく、特定の勤務地での勤務を前提とした正社員
- 職務限定正社員: 特定の職務・職種に限定して働く正社員
- 短時間正社員: フルタイムより短い所定労働時間で働くが、雇用期間の定めがなく待遇も正社員に準じる労働者
転勤や職種変更に応じられない事情がある労働者でも、多様な正社員制度を新たに設ければ正社員化コースの対象にできるため、育児・介護等の事情で働き方に制約がある労働者を正社員化する際の選択肢にもなります。多様な正社員制度を新たに規定して転換した場合は、前述のとおり1事業所あたり40万円(大企業30万円)の加算対象にもなり、企業にとっても取り組みやすい仕組みになっています。
対象になる事業主の基本要件
キャリアアップ助成金を受けるには、コースごとの個別要件に加えて、すべてのコースに共通する基本的な要件を満たしている必要があります。
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- キャリアアップ管理台帳(対象労働者ごとの雇用形態・賃金等の記録)を整備していること
- 支給のための審査に必要な書類を整備し、労働局等の実地調査等に協力すること
- 労働関係法令の違反がないこと
これらは「取組さえすれば自動的にもらえる」制度ではなく、日頃の労務管理が適切に行われていることが前提になっている点を押さえておく必要があります。就業規則や賃金台帳が整っていない状態で急に取組を始めても、審査の過程で不備が見つかり支給されないことがあります。
キャリアアップ助成金の全体像
キャリアアップ助成金は、大きく「正社員化支援」と「処遇改善支援」の2つに分かれます。
| 区分 | コース名 | 内容 |
|---|---|---|
| 正社員化支援 | 正社員化コース | 有期雇用労働者等を正社員化した場合 |
| 正社員化支援 | 障害者正社員化コース | 障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換した場合 |
| 処遇改善支援 | 賃金規定等改定コース | 有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定した場合 |
| 処遇改善支援 | 賃金規定等共通化コース | 有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規定等を新たに規定・適用した場合 |
| 処遇改善支援 | 賞与・退職金制度導入コース | 有期雇用労働者等を対象に賞与・退職金制度を導入した場合 |
| 処遇改善支援 | 短時間労働者労働時間延長支援コース | 短時間労働者の労働時間を延長した場合 |
正社員化コース: 中小企業で最大80万円
最も利用されているのが正社員化コースです。有期雇用労働者等を正社員化した場合、対象労働者1人あたりに支給されます。
| 転換パターン | 重点支援対象者(中小企業) | 左記以外(中小企業) | 重点支援対象者(大企業) | 左記以外(大企業) |
|---|---|---|---|---|
| 有期雇用→正規雇用 | 80万円 | 40万円 | 60万円 | 30万円 |
| 無期雇用→正規雇用 | 40万円 | 20万円 | 30万円 | 15万円 |
「重点支援対象者」とは、次のいずれかに該当する労働者です(会社が特別な手続きをするわけではなく、対象労働者の状況で自動的に区分が決まります)。
- 雇入れから3年以上の有期雇用労働者
- 雇入れから3年未満で、過去5年間に正規雇用労働者であった期間が1年以下、かつ過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていない有期雇用労働者
- 派遣労働者、母子家庭の母等、人材開発支援助成金の特定訓練修了者
さらに、次の取り組みを行うと加算措置があります。
- 正社員転換等制度を新たに規定し、その区分に転換等した場合: 1事業所あたり20万円(大企業15万円)
- 多様な正社員制度(勤務地限定・職務限定・短時間正社員のいずれか)を新たに規定し、転換等した場合: 1事業所あたり40万円(大企業30万円)
- 正規雇用労働者への転換等に係る情報を自社サイトや「しょくばらぼ」で公表した場合: 1事業所あたり20万円(大企業15万円)
正社員化コースの基本額と加算をすべて満たせば、1人あたりの受給額はさらに大きくなります。 ただし加算は「1事業所あたり」であり「1人あたり」ではないため、複数人を同時に正社員化しても加算部分は重複して受け取れません。
障害者正社員化コース: 最大120万円
障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換した場合に支給されます。障害の程度によって金額が変わります。
| 転換パターン | 重度身体障害者・重度知的障害者・精神障害者(中小企業) | 左記以外(中小企業) |
|---|---|---|
| 有期→正規 | 120万円 | 90万円 |
| 有期→無期 | 60万円 | 45万円 |
| 無期→正規 | 60万円 | 45万円 |
大企業の場合は中小企業の75%相当の金額(例: 有期→正規は重度該当で90万円)になります。助成額が支給対象期間中の対象労働者への賃金総額を超える場合は、その賃金総額が上限になる点も押さえておきましょう。
賃金規定等改定コース: 増額幅に応じて最大7万円
有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、実際に適用した場合に支給されます。
| 増額幅 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 3%以上4%未満 | 4万円 | 2.6万円 |
| 4%以上5%未満 | 5万円 | 3.3万円 |
| 5%以上6%未満 | 6.5万円 | 4.3万円 |
| 6%以上 | 7万円 | 4.6万円 |
「職務評価」の手法を活用して増額改定を実施した場合や、有期雇用労働者等の昇給制度を新たに設けた場合は、それぞれ1事業所あたり20万円(大企業15万円)の加算があるため、あわせて確認しておきましょう。
賃金規定等共通化コース・賞与退職金制度導入コース: 1事業所単位で支給
この2つのコースは「1人あたり」ではなく「1事業所あたり」で支給される点が正社員化コースと異なります。
- 賃金規定等共通化コース(有期雇用労働者等と正規雇用労働者の共通の賃金規定等を新たに規定・適用): 60万円(中小企業)、45万円(大企業)
- 賞与・退職金制度導入コース(有期雇用労働者等を対象に賞与・退職金制度を導入し、支給または積立を実施): 40万円(中小企業)、30万円(大企業)。両方を同時に導入した場合はさらに16.8万円(大企業12.6万円)を加算
令和8年度から「社会保険適用時処遇改善コース」が生まれ変わった
これまでキャリアアップ助成金には「社会保険適用時処遇改善コース」という、パート等の労働者を新たに社会保険に加入させた際の手取り減少を緩和するコースがありました。このコースは暫定措置として設けられていたもので、令和8年3月31日をもって終了しています。
令和8年4月1日以降、労働者を新たに社会保険に加入させながら収入を増やす取組を行う場合は、代わりに「短時間労働者労働時間延長支援コース」を活用することになります。 「以前調べたときは社会保険適用時処遇改善コースがあった」という情報のまま止まっていると、現在は使えないコース名で検索し続けてしまうため、名称が変わったことを知っておくことが重要です。
短時間労働者労働時間延長支援コース: 労働時間の延長幅で決まる
短時間労働者の週の労働時間を延長した場合に支給されるコースです。1年目・2年目で条件が分かれます。
| 1年目の取組 | 労働時間の延長 | 賃金の増加 | 小規模企業 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|---|---|---|
| ① | 5時間以上 | ― | 50万円 | 40万円 | 30万円 |
| ② | 4時間以上5時間未満 | 5%以上 | 50万円 | 40万円 | 30万円 |
| ③ | 3時間以上4時間未満 | 10%以上 | 50万円 | 40万円 | 30万円 |
| ④ | 2時間以上3時間未満 | 15%以上 | 50万円 | 40万円 | 30万円 |
2年目の取組(1年目の取組後、さらに労働時間を2時間以上延長、または基本給を5%以上増加・昇給・賞与や退職金制度を適用した場合)は、小規模企業25万円、中小企業20万円、大企業15万円です。1年目・2年目を通して活用することで、より大きな支給を受けられます。
「助成金」と「補助金」の違い
キャリアアップ助成金は「助成金」であり、「補助金」とは審査の性格が異なります。助成金は、要件を満たしていれば原則として支給される制度で、補助金のように予算の範囲内で審査され、要件を満たしても不採択になることがある制度とは仕組みが違います。
- 助成金(キャリアアップ助成金等): 主に雇用保険料(雇用保険二事業)を財源とし、要件を満たせば原則支給される
- 補助金(ものづくり補助金等): 税金を財源とし、審査で優劣が付けられ、予算枠を超えると不採択になる
「補助金は競争、助成金は要件確認」という違いを理解しておくと、申請へのハードルの感じ方が変わります。 ただし助成金も、要件を厳密に満たしていなければ不支給になるため、「出しさえすれば通る」というものでは決してありません。
他の助成金との併用はできるか
キャリアアップ助成金は、同一の労働者・同一の目的について、他の雇用関係助成金と重複して受給することはできません。 例えば、同じ労働者を正社員化した取組について、キャリアアップ助成金の正社員化コースと、特定求職者雇用開発助成金を同時に申請することは原則できません。
一方で、対象労働者や対象となる取組が異なれば、複数の助成金を組み合わせて活用することは可能です。どの助成金がどの取組に対応しているかを事業計画の段階で整理しておくことで、使える制度を取りこぼさずに済みます。人材開発支援助成金のように訓練を対象にした助成金であれば、キャリアアップ助成金とあわせて活用できるケースもあります。
いくらもらえるかのシミュレーション
ケース1: 飲食店で3年以上勤務するパート従業員1人を正社員化した場合(中小企業)
雇入れから3年以上経過しているため「重点支援対象者」に該当し、有期→正規で80万円。就業規則に正社員転換制度を新たに規定していれば、1事業所あたり20万円が加算され、事業所としては100万円(他に対象者がいなければ)が支給対象額になる計算です。
ケース2: 小売業で有期雇用のパート5人の基本給を4%引き上げた場合(中小企業)
賃金規定等改定コースで、対象者1人あたり5万円。5人分で25万円です。職務評価の手法を使って改定していれば、1事業所あたり20万円が別途加算されます。
ケース3: 製造業で新たに賞与・退職金制度を導入した場合(中小企業)
賞与・退職金制度導入コースで、1事業所あたり40万円。賞与と退職金制度を同時に導入すれば、16.8万円が加算され合計56.8万円になります。制度導入は就業規則の変更を伴うため、社内での周知期間も見込んでおくとよいでしょう。
ケース4: 障害のある有期雇用の従業員(重度身体障害者)を正規雇用に転換した場合(中小企業)
障害者正社員化コースの重度身体障害者区分に該当し、有期→正規で120万円が支給されます。同時に、正社員化コースの加算措置(正社員転換制度の新規規定等)は障害者正社員化コースとは別建てのため、重複しての適用可否は個別に確認が必要です。
ケース5: 短時間労働者の週の労働時間を5時間延長した場合(中小企業)
短時間労働者労働時間延長支援コースの1年目の取組①(労働時間5時間以上延長)に該当し、中小企業で40万円が支給されます。2年目にさらに労働時間を2時間以上延長すれば、追加で20万円が支給されます。
支給申請には回数・人数の上限がある
キャリアアップ助成金は、コースによって1事業所あたりの支給申請回数や、1年度あたりに助成を受けられる人数に上限が設けられています。
- 正社員化コース: 1年度1事業所あたりの支給申請上限人数が定められている(企業規模により異なる)
- 賃金規定等改定コース: 一定期間内に複数回申請できるが、同一労働者について同じ内容で重複して申請することはできない
「対象になる従業員が多いから、その分だけ何度でも申請できる」というわけではありません。 想定より多くの従業員を対象にした取組を計画している場合は、事前に上限人数を確認しておく必要があります。年度をまたいで複数回に分けて取組を進める場合も、それぞれの年度での上限を意識した計画が求められます。
支給の前提になる「就業規則の整備」
正社員化コース・賃金規定等改定コースなど多くのコースで、取組を行う前に就業規則等(正社員転換規定、賃金規定等)を整備しておくことが前提になります。
- 就業規則に正社員転換の規定が無い状態で従業員を正社員化しても、規定の整備自体は評価されず、加算の対象にならない場合がある
- 賃金規定等改定コースでは、改定後の賃金規定を「本人に周知」していることが要件になる
就業規則の作成・変更そのものは、事業主自身または社会保険労務士等の専門家に相談しながら進める必要があります。 この記事では制度の解説にとどめ、具体的な規定の文言の作成支援には立ち入りません。就業規則の届出義務がある常時10人以上の事業所はもちろん、10人未満の小規模な事業所でも、規定を明文化しておくことが審査を通すうえで重要になります。
申請の流れ
キャリアアップ助成金は、取り組みを実施する前に「キャリアアップ計画」を都道府県労働局・ハローワークへ提出しておく必要があります。
- 各コースの実施日の前日までにキャリアアップ計画を作成・提出する
- 正社員化支援コースの場合: 就業規則等の改定(必要な場合)→就業規則等に基づく正社員転換→転換後6か月分の賃金の支払い
- 処遇改善支援コースの場合: 取組の実施(就業規則の改定等)→取組後6か月分の賃金の支払い
- 取組後6か月の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内に支給申請を行う
キャリアアップ計画の提出が取組の実施日より後になると、原則として助成金の対象になりません。 これは制度上もっとも見落とされやすい期限で、「先に正社員化してから計画を出す」という順番の間違いが不支給につながります。
よくある質問
正社員化コースと賃金規定等改定コースは両方申請できますか?
要件を満たせば、複数のコースを同じ従業員について申請することも可能です。ただし、コースごとに満たすべき要件が異なるため、実施する取組がどのコースの要件に該当するかを一つずつ確認する必要があります。無理に組み合わせようとせず、順を追って要件を照らし合わせることが大切です。
申請書は自社で作成しないといけませんか?
キャリアアップ助成金の申請書類は事業主自身が作成・提出するのが基本です。就業規則の整備や制度設計について不安がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することもできます。専門家に依頼する場合も、最終的な内容を理解したうえで進めることをおすすめします。
中小企業かどうかはどう判断しますか?
業種ごとに資本金と従業員数の基準があり、どちらか一方を満たせば中小企業に区分されます(例: 製造業その他は資本金3億円以下または従業員300人以下)。具体的な基準は厚生労働省・中小企業庁の公式資料で確認できるので、自社がどちらに該当するか事前に把握しておきましょう。
「社会保険適用時処遇改善コース」はもう使えませんか?
令和8年3月31日で終了しています。令和8年4月1日以降に同様の取組(社会保険加入と収入増加の両立)を行う場合は、短時間労働者労働時間延長支援コースを活用することになります。 過去の情報のまま「社会保険適用時処遇改善コース」を探している場合は、最新のコース名で調べ直してください。ネット上の古い記事を参考にする際は、更新日を必ず確認しましょう。
パートやアルバイトを正社員化した場合も対象になりますか?
対象になります。「有期雇用労働者等」には、パート・アルバイトを含む有期契約の労働者、短時間労働者、派遣労働者が含まれます。 雇用形態の呼び方(パート・アルバイト・契約社員等)にかかわらず、契約期間の定めの有無や労働時間で判断される仕組みです。「アルバイトだから対象外」と思い込まず、契約の実態を確認してみることをおすすめします。
支給決定までどのくらいの期間がかかりますか?
取組の内容や労働局の審査状況によって幅がありますが、支給申請から支給決定までは数か月程度かかることが一般的とされています。取組を実施してから実際に助成金が入金されるまでには、6か月分の賃金支払い期間に加えて審査期間が必要になるため、資金繰りの計画には余裕を持たせておくことをおすすめします。
派遣労働者を直接雇用した場合も正社員化コースの対象になりますか?
対象になります。派遣労働者を派遣先が正規雇用労働者等として直接雇用した場合も、正社員化コースの対象に含まれます。 この場合、派遣先の事業主が助成金の申請主体になり、派遣元事業主が申請するわけではない点に注意してください。派遣契約の内容によって扱いが変わることもあるため、事前に確認しておくと安心です。
免責事項: 本記事の内容は令和8年4月8日付の厚生労働省リーフレットにもとづき2026年9月時点で整理したものです。支給額・要件は年度により変更される場合があるため、申請前に必ず厚生労働省の公式ページまたは最寄りの都道府県労働局・ハローワークでご確認ください。
