チラシを作ろうと見積を取ると、デザイン費・印刷費・ポスティング料を合わせて数万円から数十万円になることがあります。「補助金で作れないか」と考えるのは自然ですが、チラシの制作費だけを対象にした補助金申請はできません。小規模事業者持続化補助金という制度の中の「広報費」という経費区分の1つとして申請する形になります。
この「単独では申請できない」という点を知らずに動くと、思っていた進め方と違って戸惑うことになります。順に見ていきます。
チラシに使える主な制度は、小規模事業者持続化補助金<一般型・通常枠>(第20回)です。 補助上限額は基本50万円(特例で最大250万円)、補助率は2/3以内、申請受付は2026年12月15日(火)17:00締切(様式4発行の受付締切は2026年12月4日)です。公式サイトは中小企業庁「小規模事業者持続化補助金<一般型・通常枠>(第20回)」。
自分の事業は対象になる?
小規模事業者持続化補助金の対象は、中小企業基本法上の「小規模事業者」です。ここでいう小規模事業者とは、常時使用する従業員数が原則20人以下(商業・サービス業は5人以下)の事業者を指します。個人事業主でも、この従業員数の基準を満たせば対象になります。
- 飲食店・美容室など商業・サービス業なら、従業員5人以下が目安
- 製造業・建設業など、それ以外の業種なら、従業員20人以下が目安
フルタイムの社員が数人、あわせて業務委託のスタッフが数人という体制でも、常時使用する従業員としてどう数えるかで判定が変わるため、迷う場合は商工会・商工会議所に確認するのが確実です。
「常時使用する従業員」に数えるかどうかは、雇用形態よりも実態が基準になります。 具体的な体制で見てみます。
- フルタイムの正社員3人だけの美容室 → 商業・サービス業の基準(5人以下)を満たすため対象
- フルタイム4人+パート2人(週20時間未満)の飲食店 → パートは「常時使用する従業員」に数えないことが多く、実質フルタイム4人として判定されやすい(対象になる可能性が高い)
- フルタイム社員18人の製造業 → 20人以下の基準を満たすため対象。ただし役員・個人事業主本人は従業員に数えない
- スポットワーク(単発の求人サービス等)で人手を確保している小売店 → 短時間・単発の労働者は「常時使用する従業員」に含めないのが基本だが、実質的に恒常的な勤務であれば含める必要が出る場合もある
パート・アルバイト・業務委託・スポットワークの数え方は、勤務時間や継続性の実態で判断が変わるため、境界線に近い体制の場合は、申請前に必ず商工会・商工会議所へ確認しておくと安心です。判定を誤ったまま申請し、後から対象外と分かると、事業計画を立てる時間そのものが無駄になってしまいます。
いくら戻るかを計算する
小規模事業者持続化補助金は、チラシだけで申請することはできません。 販路開拓の取組全体を計画し、その中の1つの経費区分として広報費(チラシ等)を計上する形になります。
- 補助上限額は基本50万円。賃金引上げ特例やインボイス特例を組み合わせると最大250万円まで上がります
- 補助率は2/3以内(賃金引上げ特例のうち赤字事業者は3/4以内)
- ただし広報費は単独で上限30万円(税込)。ウェブサイト関連費も同様に上限30万円で、広報費・ウェブサイト関連費だけの単独申請はできません
業務の変化まで見るとこうなります。 新商品のチラシ制作(デザイン費10万円・印刷費8万円・ポスティング料5万円で合計23万円)と、あわせて店舗の看板改修(機械装置等費30万円)を計画したとします。このケースでは合計53万円の対象経費に対し、補助率2/3で35.3万円程度が補助される計算になります(*上限50万円の範囲内)。チラシの23万円だけを申請することはできず、看板改修などの別の経費とあわせて初めて申請できる、という点が実務上のポイントです。
枠によって上限額・補助率が変わる
小規模事業者持続化補助金<一般型・通常枠>には、通常枠に上乗せする形で複数の特例が用意されています。どの特例に当たるかで、同じ経費でも実際に戻る額が変わります。
| 枠・特例 | 補助上限額 | 補助率 | 主な条件 |
|---|---|---|---|
| 通常枠 | 50万円 | 2/3以内 | 上記の基本形 |
| 賃金引上げ特例(黒字事業者) | 200万円 | 2/3以内 | 事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上とする計画等 |
| 賃金引上げ特例(赤字事業者) | 200万円 | 3/4以内 | 上記に加え、直前の決算が赤字であること |
| インボイス特例 | 上記+50万円 | 上記に同じ | 適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)への登録 |
賃金引上げ特例とインボイス特例は併用でき、その場合の上限額が最大250万円になります。ただし、広報費として計上できる額は特例の有無にかかわらず上限30万円のままです。上限額が200万円や250万円に上がっても、チラシ等の広報費だけで使い切ることはできず、機械装置等費や展示会等出展費など他の経費区分と組み合わせる必要があります。
対象になる費目・ならない費目
チラシ制作に関わる費用の中でも、対象になるかどうかは費目で分かれます。まず基本の線引きを見ておきます。
| 費目 | 対象になるか |
|---|---|
| チラシのデザイン費 | 広報費として対象になりうる |
| チラシの印刷費 | 広報費として対象になりうる |
| 新聞折込・ポスティングの配布料 | 広報費として対象になりうる |
| 広告媒体への掲載料(フリーペーパー等) | 広報費として対象になりうる |
| 自社で使う名刺・年賀状等、販路開拓に直接関係しない印刷物 | 対象外になりやすい |
| チラシで告知する商品・サービスそのものの開発費 | 別の経費区分(開発費等)で計上する |
「販路開拓の取組」として位置づけられるかどうかが判断の軸になります。 単なる社内用の印刷物ではなく、新しい顧客層への訴求、既存商品の売上拡大につながる広報物であることを、事業計画の中で示す必要があります。
どこまでが「広報費」なのか、もう一段細かく見る
広報費として計上できるのは、不特定多数への訴求を目的とした媒体・回数に限られるという考え方が基本です。実際に線引きで迷いやすい費目を、もう少し具体的に並べます。
| 費目 | 判断のポイント |
|---|---|
| チラシのデザイン費・印刷費 | 対象。枚数分の実費が経費になる(自社で印刷機を持っている場合の人件費相当は対象外) |
| 新聞折込・ポスティング業者への配布委託料 | 対象。配布エリア・枚数が分かる契約書・請求書が必要 |
| 看板・のぼり・ポスターの制作費 | 対象。ただし恒久的に設置する看板は「広報費」ではなく別区分(例: 各種経費)で見られることがある |
| Web広告(リスティング・SNS広告)の出稿費 | 対象。ウェブサイト関連費との区分に注意(バナー制作はウェブサイト関連費側になりやすい) |
| 展示会でのチラシ配布用パンフレット | 対象。ただし展示会自体の出展料は別区分(展示会等出展費)になる |
| 既存顧客への年賀状・暑中見舞い | 対象外。不特定多数への新規顧客獲得ではなく、既存顧客への挨拶とみなされやすい |
| 名刺・封筒・請求書等の事務用印刷物 | 対象外。販路開拓ではなく通常の事業運営費とみなされる |
| チラシで告知する新商品そのものの開発費・試作費 | 対象外(広報費としては)。開発費等の別区分で計上する |
| チラシに掲載する写真撮影のためのカメラ購入費 | 対象外になりやすい。機材そのものは広報費ではなく「機械装置等費」で見られ、汎用性の高い物品(誰でも使えるカメラ・PC等)は対象外とされることが多い |
同じ「チラシ」でも、配る相手と目的で扱いが変わる、というのがこの費目区分の実質です。既存顧客向けの挨拶状は対象外、新規顧客を狙った販促チラシは対象、という区別が代表例です。
この「販路開拓の取組としてどう位置づけるか」は書き方次第で通りやすさが変わるグレーな部分でもあります。たとえば「既存商品のチラシ」でも、新しい販路(新しい地域・新しい客層)への配布であれば販路開拓として位置づけられるという考え方もあります。どのような言い回しで事業計画に落とし込むかは、会員限定の攻略ガイドで具体的に解説しています。
自治体独自の広告宣伝費補助も確認する
小規模事業者持続化補助金は全国の事業者が使える国の制度ですが、チラシ・広告に特化した補助金を自治体が単独で用意しているケースもあります。国の制度のように「他の経費と組み合わせる」必要がなく、広告宣伝費だけで単独申請できるのが特徴です。
| 自治体 | 制度名 | 補助上限額 | 補助率 | 対象経費の例 |
|---|---|---|---|---|
| 東京都港区 | 広告宣伝活動費支援事業補助金 | 40万円 | 2/3 | チラシ印刷費、のぼり、新聞・雑誌広告、オンライン有料広告 |
| 東京都墨田区 | 区内生産品等販路拡張事業補助金 | 個人・企業20万円/団体100万円 | 1/2(創業者は2/3) | パンフレット等の制作費、紹介動画・画像の作成委託費 |
港区の制度は、区内に本店登記があり、区内に主たる事業所を有する中小企業が対象で、区内で2年以上事業を継続していることなどが条件になります。過去にこの補助金を受けたことがある事業者は対象外という制限もあります。墨田区の制度は、区内生産品の販路拡張(区外の需要開拓)を目的とした展示会・商業広告等が対象です。
自治体の制度は、国の持続化補助金と違って「チラシだけ」で申請できる場合があるため、事業所のある市区町村に同様の制度がないか、まず確認する価値があります。ただし補助対象になる経費の範囲・上限額・受付期間は自治体ごとにまったく異なるため、必ずその自治体の公式ページで最新の内容を確認してください。
つまずきやすい順番の話
- ✗ チラシを先に発注・印刷してしまい、あとから補助金を申請する → 交付決定前の発注は対象外になります
- ✗ 広報費だけで単独に申請しようとする → 単独申請はできません。他の経費区分とあわせた事業計画が必要です
- ○ 販路開拓の事業計画を立てる → 広報費(チラシ等)を含む経費区分を計画に入れる → 商工会・商工会議所で事業支援計画書(様式4)の発行を受ける → 申請 → 交付決定を受けてから発注・契約する
様式4の発行には日数がかかるため、申請締切より前に余裕をもって商工会・商工会議所へ相談する必要があります。第20回では、様式4発行の受付締切が申請締切(2026年12月15日)より11日早い2026年12月4日に設定されています。
「チラシを作ってから申請できるか」の実務上の答え
答えは「見積を取る段階までは可能、契約・発注は不可」です。 ここを取り違えて動くと、せっかく採択されても補助対象から外れてしまいます。
- 見積書を取得する(申請時の必要書類として使う)→ 問題ない
- 印刷会社に発注書を出す・契約を結ぶ → 交付決定前ならアウト。この経費は補助対象から外れます
- 印刷代を支払う・チラシを受け取る → 同上。発注が先に立った時点で対象外になります
判断の分かれ目は「見積」と「発注(契約)」の間にあります。見積は複数の情報を集める行為で、事業を実施したことにはなりません。発注は「やります」という意思決定なので、そこから補助の対象期間が始まる、という考え方です。「早くチラシを配りたいから」と発注を先に済ませてしまうケースが実際に多く、採択後に経費を精算する段階で除外され、結果的に自己負担になるという失敗につながります。
採択後の実務(発注してから完了報告まで)
交付決定を受けた後の流れも押さえておきます。採択されたら即・補助金が振り込まれるわけではないという点が、実務上よく誤解されるポイントです。
- 交付決定通知を受け取る
- 印刷会社等に発注・契約する(ここから初めて対象経費になる)
- チラシの制作・印刷・配布を実施する
- 支払いを済ませ、証拠書類(契約書・請求書・銀行振込の記録・実際に配布したことが分かる写真等)を保管する
- 事業実施後、実績報告書を提出する
- 事務局の確認を経て、補助金額が確定し、指定の口座に振り込まれる
補助金は「先に事業者が全額を立て替えて、あとから決まった額が戻ってくる」仕組みです。 チラシの印刷代を含め、いったんは自己資金またはつなぎの融資で支払う必要があり、交付決定=即現金が手元に入るわけではない、という点を資金計画に入れておく必要があります。
実績報告で特に見られるのが「本当に配布したか」の証拠です。 印刷しただけで配布していないチラシは、販路開拓の効果を示せず、事務局から追加の説明を求められることがあります。配布エリア・枚数が分かる業者の実施報告書や、実際にチラシを配っている現場の写真を残しておくと、実績報告がスムーズに進みます。
交付決定の通知は、採択結果の通知とは別のタイミングで届きます。 「採択されました」という通知を受け取っても、それだけでは発注してよい状態にはなっていません。交付決定通知を受け取るまでは見積の準備にとどめておくのが安全です。
書類をそろえる
必要書類は「いつ」用意するかで整理すると分かりやすくなります。
申請前に準備するもの
- 経営計画書・補助事業計画書(所定の様式。チラシ等の広報費をどう販路開拓に使うかを記述する)
- 事業支援計画書(様式4。商工会・商工会議所が発行。発行までに日数がかかる)
- 直近の確定申告書または決算書
- チラシ制作等にかかる見積書(発注前の段階でよい)
- GビズIDプライムのアカウント(電子申請のみで、郵送申請は不可)
交付決定後に必要になるもの
- 印刷会社等との発注書・契約書(交付決定後の日付であることが必須)
- 支払いを証明する請求書・銀行振込の記録
- 完成したチラシの現物(実績報告時に提出を求められる)
GビズIDプライムは取得まで2〜3週間かかることがあるため、申請を検討し始めた段階で早めに取得しておくと、締切間際で慌てずに済みます。過去に取得したことがある事業者は、パスワードを失念していないかも早めに確認しておくと安心です。見積書は申請前に取れますが、発注書・契約書は交付決定を受けたあとの日付でなければ経費として認められません。 この2つを取り違えると、せっかく用意した書類が使えなくなってしまいます。
具体的な業態でシミュレーションする
チラシ制作単体では申請できないため、実際にどんな組み合わせで計画を立てるのか、業態を変えて2つ試算します。
① 個人経営の美容室(新規客向けチラシ+施術チェアの更新)
新メニューの告知チラシ(デザイン費6万円・印刷費4万円・ポスティング料3万円で合計13万円)と、あわせて施術チェア1台の更新(機械装置等費37万円)を計画したとします。対象経費の合計は50万円、補助率2/3で計算上は33.3万円ですが、通常枠の上限は50万円なので満額の33.3万円が補助されます。 自己負担は16.7万円です。チラシ単独では申請できませんが、設備投資とあわせることで広報費13万円も対象に組み込めます。
② 個人事業主の学習塾(オープンチラシ+教材用タブレットの検討)
新規開校のチラシ(デザイン費8万円・印刷費6万円・新聞折込10万円で合計24万円)を計画。あわせて生徒管理用のタブレットも欲しいところですが、パソコン・タブレット等は汎用性が高いとして持続化補助金の対象外経費に明示されています。この場合、チラシの24万円だけでは単独申請できないため、教室の看板制作費(機械装置等費相当・15万円)とあわせて申請します。対象経費の合計は39万円、補助率2/3で26万円が補助される計算になり、自己負担は13万円です。タブレット代は別途自己資金で用意する必要があります。
よくある質問
チラシ制作費だけで補助金は申請できますか?
いいえ。小規模事業者持続化補助金は広報費単独での申請ができません。販路開拓の事業計画全体の中で、広報費(チラシ等)を経費区分の1つとして計上する必要があります。
広報費の上限はいくらですか?
広報費は上限30万円(税込)です。補助上限額(基本50万円、特例で最大250万円)の範囲内で、広報費として計上できるのはこの30万円までという位置づけです。
個人事業主でも申請できますか?
はい。中小企業基本法上の小規模事業者の基準(従業員数が原則20人以下、商業・サービス業は5人以下)を満たす個人事業主であれば申請できます。
チラシを発注してから補助金を申請しても大丈夫ですか?
いいえ。交付決定前に発注・契約した経費は対象外になります。申請 → 交付決定 → 発注という順番を守る必要があります。見積を取るだけの段階であれば問題ありません。
チラシだけで単独申請できる補助金はありますか?
国の小規模事業者持続化補助金では単独申請できませんが、自治体独自の制度であれば広告宣伝費だけで申請できるものがあります。例えば東京都港区の「広告宣伝活動費支援事業補助金」(上限40万円・補助率2/3)は、チラシ印刷費や新聞広告費が単独で対象になります。事業所のある市区町村に同様の制度がないか確認する価値があります。
賃金引上げ特例やインボイス特例を使うと、チラシに使える額も増えますか?
いいえ。特例で補助上限額全体が200万〜250万円に増えても、広報費として計上できる額は上限30万円のままです。 増えた枠を使うには、機械装置等費や展示会等出展費など、チラシ以外の経費区分と組み合わせる必要があります。
採択されればすぐにチラシを発注していいですか?
いいえ。採択の通知と交付決定の通知は別のタイミングで届きます。 交付決定通知を受け取るまでは発注を控え、見積の準備にとどめておくのが安全です。交付決定通知を受け取った後であれば、発注・契約して問題ありません。
