引っ越し費用を対象にした国の制度は、目的によって2つに分かれています。 地方への移住なら「移住支援金」(単身60万円以内・世帯100万円以内)、結婚を機にした引っ越しなら「結婚を機にした新生活支援」(自治体により最大60万円)です。「引っ越し 補助金」で検索すると情報が錯綜しやすいのですが、実はこの2つを区別すれば整理できます。
- 地方への移住を目的にした「移住支援金」:東京圏から地方へ移住する場合に使える制度
- 結婚を機にした引っ越しを対象にした制度(旧・結婚新生活支援事業):新婚世帯の新居費用・引っ越し費用を補助する制度
この記事では、この2つの制度をそれぞれ整理し、東京都・自治体での実施状況を確認しながら、実際にいくらもらえるのかを試算します。どちらも「東京都内で完結する引っ越し」には使えない、または自治体ごとに実施の有無が異なるという前提を踏まえて読み進めてください。
引っ越しの補助金の全体像
引っ越し費用に関連する補助金は、次の2つの制度を軸に考えると整理しやすくなります。
- 移住支援金:東京圏から地方へ移住し、就業・起業などの要件を満たす場合に使える制度。国の地方創生の枠組みで、都道府県・市町村が窓口になります
- 結婚を機にした新生活支援(旧・結婚新生活支援事業):結婚に伴う新居費用・引っ越し費用を補助する制度。国の交付金(地域少子化対策重点推進交付金)を使って、実施する市区町村だけが運用しています
どちらも「引っ越しをする人なら誰でも使える」制度ではありません。 対象になるかどうかを、まず確認しましょう。
【国の制度】移住支援金
対象者の要件(移住元)
- 移住直前の10年間で通算5年以上、東京23区に在住または東京23区へ通勤していること
- 直近1年以上、東京23区に在住または通勤していること
東京都内で完結する引っ越し(例:23区から多摩地域への転居)は、この制度の対象になりません。 移住先が「東京圏外の道府県」または「東京圏内の条件不利地域」であることが前提です。
移住先の要件
- 転入後1年以内に申請すること
- 申請後5年以上、継続して移住先市町村に居住する意思があること
就業・起業などの要件
移住先での活動として、次のいずれかを満たす必要があります。
- 移住支援金のマッチングサイトに掲載されている企業への就業
- テレワークによる、移住前の業務の継続
- 市町村独自の要件(関係人口として認定される場合など)
- 起業支援金の交付決定を受けること
補助額
- 世帯の場合:100万円以内(18歳未満の世帯員を帯同する場合は、1人につき最大100万円を加算)
- 単身の場合:60万円以内
具体的な金額は、移住先の都道府県・市町村が設定します。すべての都道府県・市町村が実施しているわけではないため、移住先が制度を実施しているかどうかを事前に確認してください。
実施自治体の一覧はどこで見られるか
移住支援金は都道府県・市町村ごとに実施の有無・金額・要件が異なるため、内閣官房が運営する「いいかも地方暮らし」というサイトに、地方創生移住支援事業を実施している都道府県・市町村の一覧ページが用意されています(移住支援金 - 地方創生からリンクをたどれます)。移住を検討している地域が決まっている場合は、まずこの一覧で実施の有無を確認するのが近道です。
テレワーク要件の考え方
就業・起業以外の要件として、「テレワークによる移住前の業務の継続」があります。公式資料では「自己の意思によって移住し、移住先で移住前の業務を引き続き行うこと」が求められると説明されています。転職せずに今の勤務先の仕事をそのまま続けながら地方に住む、という働き方を想定した要件です。ただし、テレワークの実態(勤務日数・頻度等)をどこまで細かく確認されるかは移住先の自治体によって運用が異なるため、テレワーク要件で申請したい場合は、移住先の窓口に「どの程度の在宅勤務実績があれば要件を満たすか」を具体的に確認しておくことをおすすめします。
【自治体実施】結婚を機にした新生活支援(旧・結婚新生活支援事業)
名称変更に注意
2026年度、国の「地域少子化対策重点推進交付金」のもとで実施されてきた結婚新生活支援事業は、「結婚・妊娠・共育ての相談機会提供・支援プログラム」という枠組みに再編されています。 旧制度名で検索して出てくる情報が、そのまま2026年度に当てはまるとは限りません。 新居の賃借・取得費用、引っ越し費用等の補助は、この新しい枠組みの中で引き続き実施されています。
実施は自治体ごとに異なる(重要)
この制度は、実施するかどうかを市区町村が個別に判断します。 実施していない自治体に住んでいる、または引っ越し先にしても、この制度は使えません。実施例として、横須賀市(神奈川県)の令和8年度の制度を紹介します。
補助上限額の例(横須賀市)
| 年齢区分(婚姻日時点) | 補助上限額 |
|---|---|
| 29歳以下 | 60万円 |
| 39歳以下 | 30万円 |
| 49歳以下 | 20万円 |
年齢が若いほど補助上限が高く設定されているのが特徴です。
対象要件の例
- 夫婦双方とも49歳以下であること
- 夫婦合計の年間所得額が500万円未満であること(年収ベースではおおむね650万円前後が目安)
- 婚姻日から一定期間内に申請すること
- 3年以上、継続して居住する意思があること
- 39歳以下の場合、国が指定する内容の講座受講または相談が必須であることが多い
対象費用の例
- 住宅賃貸費用:敷金・礼金・家賃・共益費・管理費・仲介手数料
- 引っ越し費用:引っ越し事業者または運送業者へ支払った費用のみ(自分で運んだ場合の実費やレンタカー代等は対象外になることが一般的です)
- 住宅購入費:建物代のみ(土地代は対象外)
- リフォーム費:住宅機能の維持・向上のための修繕・増改築
講座受講・相談が必須になっている理由
39歳以下の世帯には、国が指定する内容の結婚生活に関する講座受講・相談が求められることが一般的です。これは「結婚生活の準備」を後押しする目的で設けられている要件で、補助金の審査を通すための形式的な手続きではありません。 受講・相談を済ませていないと、他の要件をすべて満たしていても申請自体ができなくなるため、婚姻届を出す前後の早い段階で済ませておくことをおすすめします。
講座は「オンライン動画の視聴」だけで済むことが多い
横須賀市の例では、対象講座として次のようなものが挙げられており、いずれもオンライン動画の視聴だけで要件を満たせます。 会場に足を運ぶ必要は必須ではありません。
- ライフデザイン支援講座(産後のメンタルヘルスケア・乳児期の子育てに関する内容)
- プレコンセプションケア講座(都道府県のWEBサイト経由で視聴できるものが多い)
- 共家事・共育て講座(男性の家事・育児参加を後押しする内容)
- 医療機関への妊娠・出産に関する相談
「講座を受けに行かなければならない」と思って後回しにしている場合、実際にはスマートフォンで動画を視聴するだけで済むケースが多いため、申請期限が迫ってから慌てないよう、婚姻届を出す前後の空いた時間に済ませておくのがおすすめです。動画視聴後は、自治体の申請フォームで受講状況を申告する形が一般的です。
東京都内の実施状況
東京都内の市区町村では、結婚を機にした新生活支援を実施している自治体と、実施していない自治体があります。「東京都だから使えない」わけではなく、自治体ごとに実施の有無が分かれるという点に注意してください。
移住支援金については、東京23区は移住「元」としての要件に関わる地域であり、23区内への移住には使えません。多摩地域の一部市町村では、独自に近居・同居を条件にした転入支援(移住支援金とは別の制度)を実施している例もあります。
この記事で紹介した内容は一例です。 2025年8月時点の東京都の子育て・住宅支援制度データでも、結婚・子育て世帯向けの独自の転入支援を行う区市町村が複数確認されています。お住まいの、または引っ越し先の自治体の公式サイトで直接確認してください。
いくらもらえるか(試算)
ケース1: 東京23区在住の単身者が地方へ移住(移住支援金)
- 移住先の市町村がマッチングサイト掲載企業への就業を要件として実施している場合
- 単身の上限60万円(移住先の都道府県・市町村が設定する額)
ケース2: 東京23区在住の世帯が子ども1人を連れて地方へ移住(移住支援金)
- 世帯の上限100万円+子ども加算100万円(18歳未満1人につき)=最大200万円
- 就業・起業などの要件を満たす必要があります
ケース3: 26歳同士のカップルが結婚し、実施自治体で新居に引っ越し(結婚を機にした新生活支援)
- 29歳以下の区分で上限60万円
- 家賃・敷金礼金・引っ越し業者への支払いを積算し、上限額の範囲内で補助されます
ケース4: 35歳同士のカップルが結婚し、実施自治体で住宅を購入(結婚を機にした新生活支援)
- 39歳以下の区分で上限30万円(横須賀市の例)
- 建物代の一部と引っ越し業者への支払いを積算し、上限額の範囲内で補助されます
- 土地代は対象外のため、建物代のみで積算する必要があります
【国の制度】住居確保給付金(引っ越し費用そのものではなく家賃相当分)
離職・収入減少で家賃の支払いが難しくなった方向けに、国の生活困窮者自立支援法にもとづく「住居確保給付金」という制度もあります。ただしこの制度は引っ越し費用そのものを補助するものではなく、原則として家賃相当額を市区町村が大家・管理会社の口座へ直接支給する制度です。「引っ越し 補助金」で検索してこの制度にたどり着いた方は、想定している使い道と違う可能性があるため、対象者・支給内容を確認しておく必要があります。
- 対象者:離職・廃業した方、またはこれに準じる程度まで収入が減少した方で、就労能力・就労意欲があり、住宅を喪失している、または喪失するおそれがある方
- 支給内容:世帯人数ごとに定められた住宅扶助基準額を上限に、実際の家賃額(上限額のほうが低い場合は上限額)を支給。支給先は本人ではなく大家・管理会社の口座です
- 支給期間:原則3か月(延長・再延長で最長9か月まで)
引っ越し費用(敷金・礼金・運送費等)そのものの補助を求めている場合は、この制度では対象にならない可能性が高い点に注意してください。対象になるかどうか、支給額の詳細は、お住まいの自治体の生活困窮者自立相談支援機関にご確認ください。
移住支援金と結婚を機にした新生活支援、何が根本的に違うか
2つの制度は、どちらも「引っ越し費用」を対象に含みますが、制度が想定している課題がまったく違います。
- 移住支援金:東京圏への一極集中を是正し、地方の担い手を増やすことが目的です。そのため「東京圏から地方へ」という方向性が固定されており、就業・起業などの要件も課されます
- 結婚を機にした新生活支援:少子化対策の一環として、結婚に伴う経済的負担を軽減することが目的です。そのため移住の方向性は問われず、同じ市区町村内での引っ越しでも対象になり得ます(実施自治体の要件による)
「引っ越し」という共通点だけで2つの制度を混同すると、要件を勘違いしやすくなります。 どちらの制度を使いたいのかを最初に整理しておくことが大切です。
併用できるか
- 移住支援金と結婚を機にした新生活支援は、制度の目的が異なるため、要件を満たせば両方の申請を検討できます(例: 結婚を機に地方移住する場合)。ただし同一の引っ越し費用に対して二重に受給することはできません
- 実際に両方を申請する場合は、それぞれの窓口(移住先の地方創生担当課、婚姻届を出す市区町村の担当課)に個別に確認してください
申請の流れ
移住支援金
- 移住先の都道府県・市町村が制度を実施しているか確認する
- マッチングサイトの掲載企業への就業など、要件を満たす活動を行う
- 転入後1年以内に、移住先の窓口へ申請する
結婚を機にした新生活支援
- お住まいの、または新居を構える市区町村が制度を実施しているか確認する
- 39歳以下の場合、国が指定する講座受講・相談を行う(必須になっていることが多い)
- 婚姻届の提出、転入後、必要書類をそろえて申請する
- 交付決定通知を受け取る(審査に一定期間かかります)
注意点(対象外になるケース)
- 移住支援金:東京圏内での引っ越し(例: 23区から多摩地域へ)は対象外です。就業・起業などの要件を満たさない場合も対象外になります
- 結婚を機にした新生活支援:自分で荷物を運んだ場合の実費は対象外になることが一般的です。所得要件(500万円未満が目安)を超えると対象外です
- どちらの制度も:必ずもらえるものではありません。予算の範囲内で運用されている自治体が多く、申請が集中すると受付が早期終了することがあります
- 実施していない自治体:移住先・引っ越し先の自治体が制度を実施していなければ、そもそも申請できません
お住まいの自治体で探す方法
この記事で紹介した制度・自治体は一例です。全国の自治体を網羅しているわけではありません。
- 移住を検討している場合は、移住先の都道府県・市町村の「移住支援金」窓口を確認する
- 結婚を機にした引っ越しの場合は、新居を構える市区町村の「結婚新生活支援」「結婚・妊娠・共育て支援」などのキーワードで公式サイトを確認する
- どちらも、自治体の地方創生担当課・子育て支援担当課に直接問い合わせるのが確実です
移住支援金は、移住先が決まっていない段階でも調べ始められます。 内閣官房の「いいかも地方暮らし」の一覧ページで、自分が興味のある都道府県を先に絞り込んでから、その中で条件に合う市町村を比較していく進め方が効率的です。制度の有無だけでなく、就業要件(マッチングサイト掲載企業への就業か、テレワーク継続か)がどちらに対応しているかも、市町村によって差があります。
結婚を機にした新生活支援は、婚姻届を出す前から情報収集を始めるのがおすすめです。 39歳以下の場合に必要な講座受講・相談は、婚姻届の提出前でも済ませられることが一般的なので、結婚が決まった段階で新居を構える予定の市区町村に問い合わせておくと、実際の申請がスムーズになります。引っ越し業者への見積依頼と同じタイミングで、自治体への確認も済ませておくと、後から慌てて書類をそろえる事態を避けられます。移住・結婚どちらのケースでも、窓口への相談は早いほど選択肢が広がります。
よくある質問
東京都内での引っ越しでも使える制度はありますか?
移住支援金は東京圏内での引っ越しには使えません。結婚を機にした新生活支援は、実施している市区町村であれば東京都内でも使える場合があります。実施の有無は自治体ごとに確認が必要です。
移住支援金は誰でも申請できますか?
いいえ。移住直前の10年間で通算5年以上、東京23区に在住・通勤していたことなど、移住元の要件を満たす必要があります。また移住先での就業・起業などの要件も満たす必要があります。
「結婚新生活支援事業」という名前で調べても情報が出てこないのですが?
2026年度から「結婚・妊娠・共育ての相談機会提供・支援プログラム」という枠組みに再編されています。新居費用・引っ越し費用の補助は、この新しい枠組みの中で引き続き実施されている自治体があります。
引っ越し業者を使わず自分で荷物を運んだ場合はどうなりますか?
結婚を機にした新生活支援の例では、引っ越し事業者または運送業者へ支払った費用のみが対象になるのが一般的です。自分で運んだ場合の燃料代・レンタカー代などは対象外になることが多いため、事前に自治体へ確認してください。
移住と結婚、両方の理由で引っ越す場合はどうすればいいですか?
制度の目的が異なるため、要件を満たせば両方の申請を検討できます。ただし同一の引っ越し費用に対する二重受給はできません。移住先の地方創生担当課と、婚姻届を出す市区町村の担当課の両方に相談することをおすすめします。
講座受講・相談はいつまでに済ませればいいですか?
自治体ごとに定められた申請期限までに、必要書類とあわせて講座受講・相談の証明を提出する必要があります。婚姻届の提出後すぐに動き出すと、期限に余裕を持って進められます。
移住支援金の「関係人口として認定される」とはどういうことですか?
移住先の市町村が独自に定める要件で、移住前から地域と継続的に関わってきた実績(ふるさと納税での寄付、地域行事への参加等)が考慮される場合があります。具体的な認定基準は市町村ごとに異なるため、移住を検討している自治体の窓口に直接確認することをおすすめします。
離職して収入が減り、家賃が払えなくて困っています。使える制度はありますか?
「住居確保給付金」という国の制度があります。ただしこれは引っ越し費用そのものではなく、家賃相当額を大家・管理会社へ直接支給する制度です。離職・廃業などで収入が減少した方が対象になります。お住まいの自治体の生活困窮者自立相談支援機関にご相談ください。
