「IT導入補助金」は2026年度から「デジタル化・AI導入補助金2026」という名称に変わっています。検索する方の多くが以前の名称のまま探しているため、まずこの点をしっかりと押さえておく必要があります。通常枠の採択率は、2026年の1〜3次締切でいずれも42〜44%台で推移しており、半数以上が不採択になる水準です。
この記事では、事務局公式サイト(中小企業基盤整備機構が採択し、中小企業庁監督のもとで運営)が公表している「交付決定事業者一覧」ページの実数だけを使い、締切回・申請枠ごとの採択率を丁寧に整理します。
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者がITツール(会計・販売管理・在庫管理等のソフトウェア、クラウドサービス等)を導入する際の費用を支援する制度として、長く親しまれてきました。名称・制度設計が変わっても、中小企業のIT化・デジタル化を後押しするという基本的な位置づけは変わっていません。
紙の伝票処理やExcelでの在庫管理から、クラウド型のシステムへ切り替える中小企業は年々増えていますが、導入コストがネックになるケースは少なくありません。この補助金は、そうした導入コストの負担を軽くする大きな役割を担っています。
なぜ制度名が変わったのか
2026年度からの名称変更は、単なる呼び方の変更ではなく、「AI導入」を明確に支援対象に含める制度設計の大きな見直しを伴っています。
- 旧: IT導入補助金(ITツール全般の導入支援が中心)
- 新: デジタル化・AI導入補助金2026(IT化に加え、AI技術の活用を促進する要素が強化された)
検索する際に「IT導入補助金」という旧名称のままだと、最新の公式情報にたどり着きにくくなっている点に十分な注意が必要です。事務局サイトのURL自体は変わっていないため、ブックマークしている場合はそのまま最新情報が確認できます。
5つの申請枠、それぞれの狙い
デジタル化・AI導入補助金2026には、目的の異なる5つの申請枠があります。
- 通常枠: 会計・販売・在庫管理等、業務全般のIT化・デジタル化を支援する、もっとも申請件数の多い基本の枠
- インボイス枠(インボイス対応類型): インボイス制度対応のための会計ソフト・受発注システム等の導入を支援
- インボイス枠(電子取引類型): 電子取引に対応するためのシステム導入を支援
- セキュリティ対策推進枠: サイバーセキュリティ対策(サイバーセキュリティお助け隊サービス等)の導入を支援
- 複数者連携デジタル化・AI導入枠: 商店街・組合等、複数の中小企業が連携してデジタル化・AI導入に取り組む場合を支援
申請件数のほとんどは通常枠とインボイス枠(インボイス対応類型)に集中しており、この2つの採択率の動向が制度全体の傾向を大きく左右します。 自社がどの枠の対象になるかは、導入したいITツールの種類によって決まります。
例えば、会計ソフトを紙の伝票処理からクラウド会計に切り替えれば、月末の請求書発行・入金消込にかかっていた作業時間を大きく減らせます。パート事務員が月20時間かけていた経理業務が半分の10時間になれば、時給1,300円換算で月13,000円分の人件費相当が浮く計算です。こうした業務の効率化を、対象経費と結びつけて事業計画に落とし込むことが、審査でも重視されるポイントになります。
IT導入支援事業者との共同申請という仕組み
デジタル化・AI導入補助金は、申請者(中小企業等)が単独で申請するのではなく、事務局に登録された「IT導入支援事業者」と共同で申請するという、他の補助金にはない独特の仕組みを採っています。
- IT導入支援事業者: ITベンダー・ソフトウェア会社等、事務局に事前登録された事業者
- 導入するITツールも、事務局に登録された「ITツール」である必要がある
自社が独自に選んだITツールを自由に導入できるわけではなく、登録済みのIT導入支援事業者・ITツールの中から選ぶという制約があります。この点は、他の多くの補助金(対象経費を自由に選べる場合が多い)と大きく異なる特徴です。
2026年1〜3次締切の採択率(申請類型別)
公式サイトに掲載された実数(2026年9月2日更新)にもとづく採択率は次のとおりです。
| 締切 | 交付決定日 | 申請類型 | 申請数 | 交付決定数 | 採択率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1次締切分 | 2026年6月18日 | 通常枠 | 2,028 | 891 | 約43.9% |
| 1次締切分 | 2026年6月18日 | インボイス枠(インボイス対応類型) | 4,324 | 2,027 | 約46.9% |
| 1次締切分 | 2026年6月18日 | インボイス枠(電子取引類型) | 0 | 0 | ― |
| 1次締切分 | 2026年6月18日 | セキュリティ対策推進枠 | 88 | 64 | 約72.7% |
| 2次締切分 | 2026年7月23日 | 複数者連携デジタル化・AI導入枠 | 2 | 1 | 約50.0% |
| 2次締切分 | 2026年7月23日 | 通常枠 | 1,879 | 819 | 約43.6% |
| 2次締切分 | 2026年7月23日 | インボイス枠(インボイス対応類型) | 3,790 | 2,096 | 約55.3% |
| 2次締切分 | 2026年7月23日 | インボイス枠(電子取引類型) | 0 | 0 | ― |
| 2次締切分 | 2026年7月23日 | セキュリティ対策推進枠 | 28 | 20 | 約71.4% |
| 3次締切分 | 2026年9月2日 | 通常枠 | 1,913 | 807 | 約42.2% |
| 3次締切分 | 2026年9月2日 | インボイス枠(インボイス対応類型) | 3,982 | 1,781 | 約44.7% |
| 3次締切分 | 2026年9月2日 | インボイス枠(電子取引類型) | 0 | 0 | ― |
| 3次締切分 | 2026年9月2日 | セキュリティ対策推進枠 | 18 | 13 | 約72.2% |
インボイス枠(電子取引類型)は、1〜3次のいずれも申請数が0件でした。この類型自体への申請がまだ発生していないという状態で、採択率を計算する母数がありません。
枠によって採択率の水準がまったく違う
上の表からわかるとおり、枠ごとに採択率の水準がはっきり分かれています。
- 通常枠: 42〜44%台で安定して推移。応募が多い分、審査も相応に厳しい水準
- インボイス枠(インボイス対応類型): 44.7%〜55.3%と、通常枠よりやや高め。回によるブレも大きい
- セキュリティ対策推進枠: 71.4%〜72.7%と、他の枠よりかなり高い水準で安定
セキュリティ対策推進枠の採択率が突出して高いのは、申請数自体が少ない(18〜88件)ことと関係している可能性があります。 ただし、これが「狙い目の枠」であることを保証するものではなく、対象となるサービス(サイバーセキュリティお助け隊サービス等)を導入する必要があるという制度上の前提があります。
セキュリティ対策推進枠は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービス」の登録サービスを導入する場合に限られており、通常枠のように幅広いITツールから自由に選べるわけではありません。 対象になるサービスが限定されているぶん申請件数が少なく、それが高い採択率につながっている、という構造だと考えられます。
通常枠は「半数以上が不採択」という水準
通常枠の採択率が42〜44%台ということは、申請の半分以上が不採択になっているという現実を意味します。以前は7割以上が採択されていたとする情報もありますが、この過去の水準については公式ページへの直接アクセスができず一次情報での確認ができなかったため、本記事では参考情報として触れるにとどめ、確定した数字としては扱いません。
もし過去に「IT導入補助金は通りやすい」というイメージを持っていた場合、2026年時点の実態とは差があると考えたほうがよい、というのが一次情報から言える範囲の結論です。
締切回による採択率の変動
1次締切(43.9%)→2次締切(43.6%)→3次締切(42.2%)と、通常枠の採択率はわずかに下がる傾向が見られます。ただし3回分のデータだけでは、これが継続的な傾向なのか、回ごとの応募内容のばらつきによるものなのかは判断できません。
インボイス枠(インボイス対応類型)は、1次46.9%→2次55.3%→3次44.7%と、通常枠よりも変動の幅が大きくなっています。申請件数自体が締切ごとに3,700〜4,300件台と幅があり、応募が集中する回と落ち着く回で採択率のブレが生じている可能性があります。インボイス制度への対応は事業者にとって喫緊の課題であるため、税制上の締切(申告時期等)に近いタイミングで申請が増える傾向があるとも考えられますが、これは推測の域を出ません。
複数者連携デジタル化・AI導入枠は申請件数が極端に少ない
上の表のとおり、複数者連携デジタル化・AI導入枠は2次締切分で申請2、交付決定1という極端に少ない申請件数でした。この枠は、商店街組合や中小企業団体等、複数の中小企業が連携してデジタル化・AI導入に取り組む場合を対象にしており、申請できる主体自体が限られていることが、この少なさの背景にあると考えられます。
採択率だけを見ると50%という数字が出ますが、母数が2件では統計的な意味を持ちません。 件数が極端に少ない枠の採択率は、あくまで参考程度に留めておくのが適切な考え方です。
申請にはGビズIDが必要
デジタル化・AI導入補助金の申請は電子申請のみで、GビズID(GビズIDプライムまたはGビズIDメンバー)の取得が前提になります。GビズIDプライムは発行までに2〜3週間程度かかるため、締切間際に慌てて取得しようとすると間に合わないことが十分にあり得ます。
IT導入支援事業者と共同で申請を進める都合上、書類のやり取りにも一定の時間がかかります。 締切の1〜2か月前には、IT導入支援事業者への相談とGビズIDの取得を並行して進めておくことを強くおすすめします。
IT導入支援事業者は、事務局公式サイトで検索できるようになっています。すでに付き合いのあるITベンダーがいる場合は、そのベンダーが登録済みかどうかをまず確認し、未登録であれば、他の登録済み事業者を探す必要があります。「使いたいツールが決まっているのに、そのツールを扱うIT導入支援事業者が見つからない」という事態を避けるため、早い段階で確認しておくことが重要です。
採択率を左右する要素(公式に示されている範囲)
デジタル化・AI導入補助金は、IT導入支援事業者(ITベンダー)と共同で申請する仕組みが特徴です。審査では次のような点が重視されるとされています。
- 導入するITツールが、事務局に事前登録された「IT導入支援事業者・ITツール」であること
- 労働生産性(営業利益+人件費+減価償却費を年間総労働時間で割った数値)の向上計画など、公募要領で定められた要件を満たしていること
- 交付申請の内容に不備がないこと(記載漏れ・添付書類不足は不採択の一因になり得る)
労働生産性の向上計画は、単に「効率化します」という言葉だけでなく、具体的な数値目標として事業計画に落とし込む必要があります。 前述の会計ソフト導入の例のように、削減できる作業時間や増加が見込める利益を試算し、労働生産性の計算式に当てはめて示すことが求められます。
申請枠ごとに求められる要件が異なるため、自社の目的(インボイス対応・セキュリティ強化・複数事業者連携等)に合った枠を選ぶこと自体が、採択率に影響する最初のポイントになります。
4次締切分はすでに受付終了、結果はまだ
2026年9月時点で、4次締切分の申請受付(2026年8月25日締切)はすでに終了しています。 交付決定は2026年10月7日予定とされており、本記事執筆時点(2026年9月)ではまだ結果が公表されていません。
「1〜3次の採択率」がこの記事で扱える最新の実数であり、4次以降は事務局の公式発表を待つ必要があります。 公募スケジュールは締切ごとに追加で公表される運用になっているため、5次・6次以降の日程も、その時点で確定したものから順次公開される点も押さえておきましょう。
他の補助金と採択率を比べるとどうか
同じ中小企業向けの主要補助金である「ものづくり補助金」の直近の採択率は33.6%〜37.5%で推移しています。デジタル化・AI導入補助金の通常枠(42〜44%台)は、ものづくり補助金より高い水準にあることが分かります。
- デジタル化・AI導入補助金(通常枠): 42〜44%台程度
- ものづくり補助金(製品・サービス高付加価値化枠): 33.6%〜37.5%程度
両者を並べると、デジタル化・AI導入補助金のほうが通常枠だけを見れば通りやすい水準にあることが分かります。ただし、これはあくまで公表された実数の比較であり、事業ごとの難易度を保証するものではありません。
ただし、両者は審査の観点も対象経費の規模も異なる制度であり、単純に「どちらが通りやすいか」を比較して申請先を決めるべきではありません。ITツールの導入を検討しているならデジタル化・AI導入補助金、設備投資を検討しているならものづくり補助金というように、自社が実現したい取組の内容に合わせて制度を選ぶことが前提です。
採択(交付決定)後の実務も忘れずに
デジタル化・AI導入補助金は、交付決定を受けてから初めてITツールの発注・契約が可能になります。交付決定前にITツールを発注・契約してしまうと、その部分は補助対象外になる点は、他の多くの補助金と共通するルールです。
- 交付決定: 申請内容が承認され、正式にITツールの発注・契約が可能になる
- 事業実施: 交付決定後、定められた期間内にITツールを導入し、対価を支払う
- 実績報告: 導入したITツールの内容・支払い状況等を報告する
- 補助金の請求・入金: 実績報告の確認を経て、補助金が入金される
採択率の数字にばかり気を取られず、採択後のスケジュール(事業実施期間の期限等)も事前に確認しておくことが、実際に補助金を受け取るまでのつまずきをしっかりと防ぎます。
まとめ: 採択率だけでなく枠選びから逆算する
ここまで見てきたとおり、採択率は枠によって42%台から72%台まで大きく異なります。 ただし、採択率が高い枠(セキュリティ対策推進枠等)は対象になるツールが限定されているため、「採択率が高いから」という理由だけで枠を選ぶことはできません。
まず自社が導入したいITツールの種類(会計・インボイス対応・セキュリティ対策等)を決め、それに合致する枠を選んだうえで、その枠の採択率を参考に事業計画の完成度を高めていくという順番が現実的です。数字だけを追いかけるのではなく、自社の課題解決に本当に必要なツールかどうかを起点に考えることが、結果的に採択にもつながります。締切のたびに公表される最新の実数を継続的に追い、次の申請機会に活かしていきましょう。
よくある質問
IT導入補助金とデジタル化・AI導入補助金は別の制度ですか?
同じ流れの制度です。従来「IT導入補助金」と呼ばれていた制度が、2026年度から「デジタル化・AI導入補助金2026」という名称になりました。検索する際は両方の名称で情報が出てくることを踏まえて、内容をよくよく確認するとよいでしょう。
不採択だった場合、次の締切に再申請できますか?
できます。締切ごとに独立した審査が行われる仕組みのため、1次締切で不採択になっても、要件を満たしていれば2次・3次締切に再度申請することが可能です。事業計画を丁寧に見直したうえで、次の締切に向けてしっかりと準備し直すことを心よりおすすめします。
セキュリティ対策推進枠は採択率が高いので狙い目ですか?
採択率だけを見れば他の枠より高い水準ですが、対象となるツール・サービスが限定されているため、自社の導入目的に合っているかどうかを先に確認する必要があります。採択率の高さだけを理由に枠を選ぶのは適切ではないので注意しましょう。
4次締切の結果はいつ分かりますか?
事務局の公表によれば、4次締切分(2026年8月25日締切)の交付決定は2026年10月7日予定とされています。結果が公表され次第、事務局公式サイトの交付決定事業者一覧ページで確認できるようになります。
不採択になりやすい理由には何がありますか?
公式に明示された不採択理由の統計はありませんが、IT導入支援事業者との共同申請という制度上、書類の記載不備や、事務局登録済みのITツールと異なるツールを申請してしまうことが不採択の一因になり得ます。申請前にIT導入支援事業者と入念に内容を確認し、記入漏れが無いか複数回チェックすることが、こうしたミスを防ぐ基本です。
個人事業主でも申請できますか?
対象になります。デジタル化・AI導入補助金は法人だけでなく、個人事業主も対象に含まれます。ただし、業種・従業員数等の要件を満たしていることが前提になるため、公募要領の対象者要件をあらかじめ確認してください。
大企業は申請できますか?
原則として対象外です。デジタル化・AI導入補助金は、中小企業基本法第2条第1項に規定する中小企業者(業種ごとに資本金と従業員数の上限が決まっており、製造業その他は資本金3億円以下または従業員300人以下、卸売業は1億円以下または100人以下、小売業は5,000万円以下または50人以下、サービス業は5,000万円以下または100人以下。どちらか一方を満たせば該当)や小規模事業者を対象とする制度です。大企業が株式の一定割合を持つ「みなし大企業」に該当する場合も対象外になることがあるため、資本関係が複雑な場合は事前に必ず確認してください。
インボイス枠と通常枠、両方に申請できますか?
同じ締切回で、異なる目的のITツールについてそれぞれ申請することは制度上可能ですが、同一のITツール・同一の経費について複数の枠で重複して申請することはできません。 導入したいツールの内容に応じて、該当する枠を1つ選んで申請するのが基本です。
申請してから交付決定までどのくらいかかりますか?
締切回によって幅がありますが、公式スケジュールを見ると、申請締切から交付決定まではおおむね1〜2か月程度が目安です。例えば4次締切分は2026年8月25日締切、交付決定は2026年10月7日予定となっており、約1か月半の審査期間が設けられています。事業計画のスケジュールを立てる際は、この審査期間をあらかじめ見込んだうえで逆算しておくとよいでしょう。
免責事項: 本記事の内容は2026年9月2日時点で公式サイトに公表されている情報にもとづきます。採択率は締切回ごとに変動するため、最新の情報は事務局公式サイトでご確認ください。
