一人で開業している税理士や行政書士でも、対象になるのか。士業は「法人向けの制度」だと思われがちですが、結論から言うと対象になります。従業員がいない一人事務所でも、要件を満たせば申請できます。
顧問先とのやり取りが紙とメールに散らばっている。記帳のたびに、領収書を手作業で入力し直している。こうした状態を解消するITツールの費用を、国が半分から最大4/5まで負担します。
2026年度、この制度は「デジタル化・AI導入補助金」という名称になりました。申請枠は5つ(通常枠/インボイス枠2類型/セキュリティ対策推進枠/複数者連携枠)、補助上限は5万円〜450万円、補助率は1/2〜4/5。直近の締切は2026年9月29日(火)17:00(複数者連携枠は2026年10月30日(金)17:00)です。対象は事業者(法人・個人事業主)で、士業・専門サービス業は「サービス業(ソフトウェア業を除く)」区分にあたり、資本金5,000万円以下または従業員100人以下なら対象です。
枠別・士業での使い道と補助率
| 枠 | 補助率 | 補助上限額の目安 | 士業での主な使い道 |
|---|---|---|---|
| 通常枠(1プロセス以上) | 1/2以内 | 5万円〜150万円未満 | クラウド会計・電子契約などを単体で導入 |
| 通常枠(4プロセス以上) | 1/2以内 | 150万円〜450万円以下 | 会計・CRM・請求管理・オンライン面談を組み合わせて導入 |
| インボイス枠(インボイス対応類型) | 3/4以内(小規模事業者4/5以内)〜2/3以内 | 〜350万円 | 電子帳簿保存法対応の電子取引システム、請求書のやり取りの電子化 |
| セキュリティ対策推進枠 | 中小企業1/2以内・小規模事業者2/3以内 | 5万円〜150万円 | 顧問先の税務データ・契約書を守るセキュリティ対策 |
よく誤解されるポイント:「従業員がいない」と対象外だと思っていないか
士業の開業相談でよく聞くのが、「うちは自分1人でやっているから、中小企業向けの補助金は対象外だろう」という思い込みです。これは誤解です。
従業員のいない個人開業の税理士でも、GビズIDプライムとSECURITY ACTION宣言さえ済ませれば対象になり得ます。この制度が見ているのは「従業員を雇っているか」ではなく、「資本金または従業員数が業種ごとの基準以下か」です。従業員0人は、当然この基準を満たします。
士業は「サービス業(ソフトウェア業を除く)」区分にあたり、資本金5,000万円以下または従業員100人以下なら対象です。個人事業主であれば資本金の概念自体がないため、従業員数だけで判定されます。
IT導入補助金は士業・専門サービス業の何に使える?【5つの申請枠】
「IT導入補助金」で検索して出てくる情報は、2026年度から「デジタル化・AI導入補助金」に置き換わっています。旧年度の枠名・上限額はそのまま使えません。5つの枠それぞれで、あなたの事務所に何ができるかを見ていきます。
通常枠(クラウド会計・CRM・電子契約などITツール全般)
対象は幅広いです。クラウド会計・税務申告ソフト、顧客管理(CRM)、電子契約、日程調整・オンライン面談、請求・入金管理、ファイル共有・セキュリティツール。必須経費はソフトウェア購入費とクラウド利用料(最大2年分)です。導入コンサルティング費・設定費・研修費・保守サポート費も対象になります。
インボイス枠(インボイス対応類型・電子取引類型)
対象は、会計・受発注・決済のいずれかの機能を持つソフトウェアです。電子帳簿保存法に対応した電子取引システムも含まれます。顧問先との請求書のやり取りが多い税理士事務所・会計事務所向けの枠です。この類型では、対象ソフトとセットで導入する場合に限り、PC・タブレットも一部が対象に加わります。
セキュリティ対策推進枠
対象は、IPA(情報処理推進機構)の「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に載ったサービスです。導入費用と利用料(最大2年分)が補助されます。顧問先の税務データや契約書を預かる士業にとって、後回しになりがちなセキュリティ強化に使える枠です。
複数者連携デジタル化・AI導入枠
複数の中小企業等が連携してIT導入に取り組む場合の枠です。士業法人やグループ事務所が、共通のクラウド会計・CRMを導入するケースが想定されます。
対象にならないものの例
- 顧問料の未収分の穴埋めや家賃・人件費など、日々の事務所運営を回すための「単なる運転資金」
- 通常枠における、パソコン・タブレットなど業務以外にも使える汎用品単体の購入費
- IT導入支援事業者を通さず、事務局に未登録のツールを独自に選んで導入する費用
- 交付決定より前に発注・契約してしまった費用(フライング発注)
では、オンライン面談用のタブレットはどうか。通常枠では汎用品として対象外です。ただしインボイス枠なら、対象ソフトとセットで導入する場合に限り、上限10万円まで対象になります。
ここで問われるのは「対象ソフトウェアと一体で機能するIT環境か」です。同時に買えば通る、という話ではありません。ハードウェア単体の申請や、関連の薄い汎用品の便乗購入は認められません。
よく誤解されるポイント:「士業だから使えないツール」があるわけではない
もう一つ、士業特有の誤解があります。「補助金対象のITツールは、一般企業向けのものばかりで、士業の専門業務には使えないのでは」という懸念です。
これも誤りです。クラウド会計・税務申告ソフト、顧客管理(CRM)、電子契約は、いずれも通常枠・インボイス枠の対象として明記されています。 税理士・会計事務所が日常的に使う業務ソフトの多くが、対象ツールとして登録されています。
- 税理士・会計事務所:クラウド会計・税務申告ソフト、電子帳簿保存法対応の電子取引システム
- 行政書士・司法書士事務所:電子契約サービス、顧客管理(CRM)
- 社労士事務所:勤怠・給与計算と連携するクラウドサービス、顧客管理(CRM)
自分の専門分野で使っているツールが対象になるかどうかは、IT導入支援事業者に確認するのが確実です。「士業向けではないから対象外」と決めつけず、まず登録済みツールの一覧を確認することをおすすめします。
似ている制度との違い:小規模事業者持続化補助金との使い分け
士業事務所の投資で検索すると、IT導入補助金と並んで「小規模事業者持続化補助金」も候補に挙がります。この2つは目的が異なります。
- IT導入補助金(デジタル化・AI導入補助金):業務効率化のためのITツール導入が対象。会計・CRM・電子契約など、内向きの業務改善が中心
- 持続化補助金:新規顧客の獲得・販路開拓が対象。事務所のホームページ制作や、セミナー開催のための会場費・広告費など、外向きの集客活動が中心
同じ「ホームページ制作」でも、既存顧問先とのやり取りを効率化するポータルサイトならIT導入補助金、新規顧客を集めるための集客サイトなら持続化補助金、という住み分けです。事務所の投資の目的が「効率化」か「集客」かを整理すると、どちらの制度が向いているか判断しやすくなります。どちらの制度も、同時に検討して両方から資金を確保することも可能です。
いくらもらえる?枠別の補助上限額
「最大450万円」だけでは判断できません。上限額は枠・プロセス数・事業者規模の組み合わせで決まります。内訳は次のとおりです。
| 枠 | 補助額の目安 | 補助率 |
|---|---|---|
| 通常枠(1プロセス以上) | 5万円〜150万円未満 | 1/2以内 |
| 通常枠(4プロセス以上) | 150万円〜450万円以下 | 1/2以内 |
| インボイス枠(インボイス対応類型・50万円以下部分) | 〜50万円 | 3/4以内(小規模事業者は4/5以内) |
| インボイス枠(インボイス対応類型・50万円超〜350万円以下部分) | 50万円超〜350万円 | 2/3以内 |
| インボイス枠(ハードウェア加算・PC/タブレット等) | 上限10万円 | 1/2以内 |
| インボイス枠(ハードウェア加算・レジ/券売機等) | 上限20万円 | 1/2以内 |
| セキュリティ対策推進枠 | 5万円〜150万円 | 中小企業1/2以内・小規模事業者2/3以内 |
補助率はいくら?
- 通常枠:原則1/2以内。「令和6年10月〜令和7年9月の間で3か月以上、地域別最低賃金未満で雇用している従業員が全従業員の30%以上」という要件を満たす事業者(最低賃金近傍事業者)は2/3以内に引き上がります。従業員10人の事務所なら3人以上、5人の事務所なら2人以上が該当する計算です
- インボイス枠(インボイス対応類型):50万円以下部分は3/4以内(小規模事業者は4/5以内)、50万円超〜350万円以下部分は2/3以内
- セキュリティ対策推進枠:中小企業1/2以内、小規模事業者2/3以内
事務所タイプ別・シミュレーション
同じ士業でも、事務所の規模とやりたいことで使い方は変わります。3つのタイプで、投資額と補助額を並べます。以下は通常枠・補助率1/2での計算です。
① 一人の税理士事務所(従業員なし・通常枠1プロセス) 紙とハンコでのやり取りが中心だった会計処理をクラウド会計に移し、顧問契約も電子契約に切り替えたい。クラウド会計ソフト・電子契約サービスを導入する見積もりは40万円(1プロセスの構成)。 → 40万円 × 1/2 = 20万円の補助(1プロセス帯・上限150万円未満に収まる)。 従業員のいない個人開業の税理士でも、GビズIDプライムとSECURITY ACTION宣言さえ済ませれば対象になり得ます。1プロセスの少額な導入からでも申請できます。
② 数名の会計事務所(従業員5人・通常枠4プロセス) 顧問先ごとに担当者の記憶とExcelに頼っていた進捗管理を、CRMで一元化したい。請求書の発行・入金確認も手作業で追われている。顧客管理(CRM)、電子契約、請求・入金管理、日程調整・オンライン面談ツールを組み合わせた見積もりは320万円(4プロセスの構成)。 → 320万円 × 1/2 = 160万円の補助(4プロセス帯・上限150万円〜450万円に収まる)。最低賃金近傍事業者の要件を満たすと補助率は2/3に上がり、320万円 × 2/3 = 213万円(上限450万円の範囲内)。浮いた53万円分で、クラウド会計ソフトの上位プラン(複数顧問先の一括管理機能付き)まで導入できます。
③ デザイン等の専門サービス事務所(従業員8人・通常枠4プロセス) クライアントごとの受発注・請求のやり取りがメールとExcelに散在し、契約書や制作データのセキュリティにも不安がある。受発注管理システム、請求・入金管理システム、顧客管理(CRM)、ファイル共有・セキュリティツールを組み合わせた見積もりは350万円(4プロセスの構成)。 → 350万円 × 1/2 = 175万円の補助(4プロセス帯・上限150万円〜450万円に収まる)。最低賃金近傍事業者の要件を満たすと補助率は2/3に上がり、350万円 × 2/3 = 233万円(上限450万円の範囲内)。浮いた58万円分で、セキュリティ対策推進枠の対象サービス(ランサムウェア対策など)まで別途強化できます。
このように、事務所タイプが違っても「投資額の半分から4/5」という考え方は共通です。まずは自分の事務所がどの枠・どのプロセス数構成に近いかを確認してみましょう。
締切はいつ?年に複数回ある「ローリング公募」です
この制度は、年に複数回締切が来る「ローリング公募」です。直近の締切は2026年9月29日(火)17:00(通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠)、交付決定は2026年11月9日(月)頃の予定です。複数者連携枠は1か月遅れで、締切は2026年10月30日(金)17:00です。
今回に間に合わなくても、次の回で申請できます。他の補助金にはない特徴です。
事業実施期間は、交付決定日から2027年4月30日(金)17:00までの予定です。この補助金は「精算払い」で、経費を立て替えて払った後、実績報告を経て着金します。資金繰りに不安があれば、早い段階で金融機関に相談してください。
承認までの重要なタイミングと必要書類
大事なのは「何が必要か」より「いつ必要か」です。着金までのタイミングと、その時点で必要になるものを並べます。
| タイミング | やること | 必要になるもの |
|---|---|---|
| 導入を決めたらすぐ | GビズIDプライムアカウントを取得する(電子申請にはこのIDが必須。発行までおおむね2週間) | マイナンバーカードや印鑑証明書等の本人確認書類 |
| 申請の少し前 | SECURITY ACTIONの「★一つ星」または「★★二つ星」を宣言する(発行まで約2〜3日) | 宣言済みアカウントID(交付申請時に入力必須) |
| 申請前 | IT導入支援事業者に相談し、事務局に登録済みのITツール(クラウド会計・CRM・電子契約など)を選定する | 導入したい業務内容の整理、見積もり |
| 〜締切:2026年9月29日(火)17:00 | 電子申請システムで申請 | 事業計画書、決算書(個人事業主は確定申告書等)、その他申請枠に応じた添付書類 |
| 2026年11月9日(月)頃 | 交付決定 | ― |
| 交付決定日〜2027年4月30日(金)17:00 | 事業実施(ツールの契約・導入・支払い) | 契約書・見積書・請求書・領収書などを保管 |
| 事業終了後 | 実績報告 → 補助金の入金 | 実績報告書、支払いを証明する証憑(領収書・振込明細など) |
注意したいのは、好きなITツールを選んで申請する仕組みではないことです。事務局に登録された「IT導入支援事業者」に相談し、その事業者を通じて登録済みのツールを選びます。クラウド会計もCRMも同じです。ツール選定より先にGビズIDとSECURITY ACTIONを済ませておくと、申請直前に慌てずに済みます。
「うちの事務所でも対象?」対象事業者の考え方
対象は、資本金か従業員数のどちらかが業種ごとの基準以下の中小企業・小規模事業者です。税理士・会計・行政書士・社労士・デザインの各事務所は、「サービス業(ソフトウェア業を除く)」区分にあたります。
| 業種 | 資本金の基準 | 従業員数の基準 |
|---|---|---|
| 製造業・建設業・運輸業 | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業(ソフトウェア業を除く) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
士業は資本金5,000万円以下または従業員100人以下なら対象です。さらに常時使用する従業員が5人以下なら「小規模事業者」に該当します。インボイス枠(50万円以下部分)とセキュリティ対策推進枠で、補助率が上がります。
例:フルタイム社員3人の税理士事務所(個人開業) → 個人事業主なので、資本金の基準は関係ありません。従業員3人は100人以下なので、中小企業者として対象です。5人以下なので小規模事業者にも該当します。インボイス枠とセキュリティ対策推進枠では、高いほうの補助率が使えます。
例:一人で開業したばかりの行政書士(開業1年目・従業員なし) → 従業員0人は、当然100人以下の基準を満たします。小規模事業者にも該当するため、インボイス枠なら補助率4/5が視野に入ります。開業したばかりであることは、対象・対象外の判断に影響しません。
判断に迷う場合は、公式サイトの「申請対象者チェッカー」かIT導入支援事業者で確認してください。
なお、150万円以上を申請する場合は賃上げに関する目標へのコミットも求められます。2026年度からはこの算定基準が「給与支給総額の年平均成長率」から「1人当たり給与支給総額」の基準に変更され、目標水準も引き上げられています。従業員のいない一人事務所は、この賃上げ目標の対象外です。
よくある質問
締切は2026年9月29日で終わりですか?
いいえ。2026年9月29日(火)17:00は直近の締切です。この補助金は年に複数回締切が設定される「ローリング公募」で、次回以降の締切も確定次第、公式サイトで随時公表されます。複数者連携枠は2026年10月30日(金)17:00が締切です。
「IT導入補助金」はもうなくなったのですか?
なくなったわけではありません。2026年度から「デジタル化・AI導入補助金」になり、AI活用ツールが対象に加わりました。ただし枠名や上限額は変わっているため、旧名称で検索して出てくる過去年度の要件はそのまま使えません。
一人で開業している税理士・行政書士・社労士でも対象になりますか?
対象になり得ます。基準は資本金5,000万円以下または従業員100人以下。従業員のいない一人事務所も範囲内です。GビズIDプライムとSECURITY ACTION宣言を済ませ、IT導入支援事業者を通じてツールを選べば、1プロセスの少額導入でも申請できます。
PCやタブレットの購入費も対象になりますか?
通常枠では、業務以外にも使える汎用品としてパソコン・タブレット単体の購入費は対象外です。ただし、インボイス枠で対象のソフトウェア(会計・請求管理システムなど)とセットで導入する場合に限り、PC・タブレットは上限10万円まで補助対象に加えられます。
好きなクラウド会計ソフトやCRMを自分で選んで申請できますか?
いいえ。事務局に登録済みの「IT導入支援事業者」を通じて、同じく登録済みの「ITツール」の中から選定して申請する仕組みです。まずは士業・専門サービス業向けのクラウド会計・CRM・電子契約に強いIT導入支援事業者を探すところから始めましょう。
