顧問先とのやり取りが、紙の資料とメールと電話のあちこちに散らばっている。記帳や申告のたびに、紙の領収書や通帳のコピーを手作業で入力し直している。日程調整や見積書・請求書のやり取りに時間を取られ、本来の業務に集中できない――。こうした士業・専門サービス業の「紙とメールの散在」を解消するITツール導入費用の半分から最大4/5を、国がまかなってくれるのが、これまで「IT導入補助金」の名で知られてきた制度です。

2026年度、この制度は**「デジタル化・AI導入補助金」という名称になりました。廃止されたわけではなく、AI活用ツール(AI-OCR・AI会計・AI翻訳など)が新たに対象に加わり、枠組みも基本的に引き継がれています。申請枠は5つ**、補助上限は枠によって5万円〜450万円、補助率は1/2〜4/5。申請受付は2026年3月30日から始まっており、直近の締切(1次締切)は2026年8月25日(火)17:00です。クラウド会計から電子契約まで、士業・専門サービス業で何に使えて、いくらもらえて、自分の事務所が対象になるのか――順番に見ていきましょう。

図: IT導入補助金の全体像(士業・専門サービス業向け)。詳しくは本文で解説します

IT導入補助金は士業・専門サービス業の何に使える?【5つの申請枠】

「IT導入補助金」という名前は消えたわけではなく、新しい名称「デジタル化・AI導入補助金」の中の枠組みとして引き継がれています。まずは5つの枠それぞれで、税理士事務所・会計事務所・行政書士事務所・社労士事務所・デザイン事務所などの専門サービス業では何ができるかを押さえましょう。

通常枠(クラウド会計・CRM・電子契約などITツール全般)

クラウド会計・税務申告ソフト、顧客管理(CRM)、電子契約、日程調整・オンライン面談システム、請求・入金管理システム、ファイル共有・セキュリティツールなど、顧問先とのやり取りや事務所内の業務をデジタル化するソフトウェア・クラウドサービスの導入が幅広く対象です。ソフトウェア購入費・クラウド利用料(最大2年分)が必須経費で、そのほか導入コンサルティング費・設定費・研修費・保守サポート費なども対象になります。

インボイス枠(インボイス対応類型・電子取引類型)

会計・受発注・決済のいずれかの機能を持つソフトウェアの導入や、電子取引(電子帳簿保存法対応など)にかかわるシステムの導入が対象です。顧問先とのインボイス・請求書のやり取りが多い税理士事務所・会計事務所では、インボイス対応の会計・請求管理システムを導入する事務所も少なくありません。インボイス対応類型では、対象ソフトとセットで導入する場合に限り、事務所で使うPC・タブレットなどのハードウェアも一部補助対象に加えられます。

セキュリティ対策推進枠

IPA(情報処理推進機構)が公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されたサービスの導入費用・利用料(最大2年分)が対象です。顧問先の税務データ・契約書・社会保険手続きなど機密性の高い情報を日常的に扱う士業だからこそ、自社だけでは手が回りにくいセキュリティ強化に使える枠として押さえておきたいところです。

複数者連携デジタル化・AI導入枠

複数の中小企業等が連携してIT導入・DXに取り組む場合の枠です。士業法人やグループ事務所が共通のクラウド会計・CRMシステムを導入するようなケースが想定されます。単独の事務所ではなく、複数事務所での共同導入を考えている場合に検討したい枠です。

図: 各枠で対象になりやすい士業・専門サービス業向けITツール・使い道の例

対象にならないものの例

  • 顧問料の未収分の穴埋めや家賃・人件費など、日々の事務所運営を回すための「単なる運転資金」
  • 通常枠における、パソコン・タブレットなど業務以外にも使える汎用品単体の購入費
  • IT導入支援事業者を通さず、事務局に未登録のツールを独自に選んで導入する費用
  • 交付決定より前に発注・契約してしまった費用(フライング発注)

じつは、顧問先とのオンライン面談や書類スキャンのためのタブレットを、クラウド会計ソフトとセットで導入する場合、それが本当に「対象ソフトウェアと一体で機能するIT環境の整備」と認められるかどうかは、単に同時に購入すれば済むという話ではありません。通常枠では汎用品として対象外のPC・タブレットも、インボイス枠で対象のソフトウェアとセットで導入する場合に限り、PC・タブレットは上限10万円まで補助対象に加えられます(あくまで、対象ソフトウェアと一体で機能するIT環境の整備であることが前提で、ハードウェア単体の申請や、関連の薄い汎用品の便乗購入は認められません)。この“対象ソフトウェアと一体のIT環境整備として正しく位置づけ、申請書に落とし込むための考え方”は、GRANTOS公式LINEの登録者限定ページで、採択されやすい書き方の例とあわせて紹介しています。

いくらもらえる?枠別の補助上限額

「最大450万円」という単純な数字では実態を捉えきれません。上限額は枠・プロセス数・事業者規模の組み合わせで決まるので、まずは内訳を正確に押さえておきましょう。

補助額の目安補助率
通常枠(1プロセス以上)5万円〜150万円未満1/2以内
通常枠(4プロセス以上)150万円〜450万円以下1/2以内
インボイス枠(インボイス対応類型・50万円以下部分)〜50万円3/4以内(小規模事業者は4/5以内)
インボイス枠(インボイス対応類型・50万円超〜350万円以下部分)50万円超〜350万円2/3以内
インボイス枠(ハードウェア加算・PC/タブレット等)上限10万円1/2以内
インボイス枠(ハードウェア加算・レジ/券売機等)上限20万円1/2以内
セキュリティ対策推進枠5万円〜150万円中小企業1/2以内・小規模事業者2/3以内

補助率はいくら?

  • 通常枠:原則1/2以内。「令和6年10月〜令和7年9月の間で3か月以上、地域別最低賃金未満で雇用している従業員が全従業員の30%以上」という要件を満たす事業者(最低賃金近傍事業者)は2/3以内に引き上がります
  • インボイス枠(インボイス対応類型):50万円以下部分は3/4以内(小規模事業者は4/5以内)、50万円超〜350万円以下部分は2/3以内
  • セキュリティ対策推進枠:中小企業1/2以内、小規模事業者2/3以内

事務所タイプ別・シミュレーション

同じ「士業・専門サービス業」でも、事務所の規模とやりたいことで使い方はまったく変わります。3つのタイプを例に、いくら投資すると補助がいくらになるかを見てみましょう(以下は通常枠・原則の補助率1/2で計算した例です。最低賃金近傍事業者の要件を満たせば2/3に引き上がる場合もあります)。

図: 事務所タイプ別に見る「いくら投資して、いくら補助されるか」。プロセス数や賃上げ要件で受け取れる金額が広がります

① 一人の税理士事務所(従業員なし・通常枠1プロセス) 紙とハンコでのやり取りが中心だった会計処理をクラウド会計に移し、顧問契約も電子契約に切り替えたい。クラウド会計ソフト・電子契約サービスを導入する見積もりは40万円(1プロセスの構成)。 → 40万円 × 1/2 = 20万円の補助(1プロセス帯・上限150万円未満に収まる)。 従業員のいない個人開業の税理士でも、GビズIDプライムとSECURITY ACTION宣言さえ済ませれば対象になり得ます。1プロセスの少額な導入からでも申請できます。

② 数名の会計事務所(従業員5人・通常枠4プロセス) 顧問先ごとに担当者の記憶とExcelに頼っていた進捗管理を、CRMで一元化したい。請求書の発行・入金確認も手作業で追われている。顧客管理(CRM)、電子契約、請求・入金管理、日程調整・オンライン面談ツールを組み合わせた見積もりは320万円(4プロセスの構成)。 → 320万円 × 1/2 = 160万円の補助(4プロセス帯・上限150万円〜450万円に収まる)。 最低賃金近傍事業者の要件を満たすと補助率は2/3に上がり、320万円 × 2/3 = 213万円(上限450万円の範囲内)。浮いた53万円分で、クラウド会計ソフトの上位プラン(複数顧問先の一括管理機能付き)まで導入できます。

③ デザイン等の専門サービス事務所(従業員8人・通常枠4プロセス) クライアントごとの受発注・請求のやり取りがメールとExcelに散在し、契約書や制作データのセキュリティにも不安がある。受発注管理システム、請求・入金管理システム、顧客管理(CRM)、ファイル共有・セキュリティツールを組み合わせた見積もりは350万円(4プロセスの構成)。 → 350万円 × 1/2 = 175万円の補助(4プロセス帯・上限150万円〜450万円に収まる)。 最低賃金近傍事業者の要件を満たすと補助率は2/3に上がり、350万円 × 2/3 = 233万円(上限450万円の範囲内)。浮いた58万円分で、セキュリティ対策推進枠の対象サービス(ランサムウェア対策など)まで別途強化できます。

このように、事務所タイプが違っても「投資額の半分から4/5」という考え方は共通です。まずは自分の事務所がどの枠・どのプロセス数構成に近いかを確認してみましょう。

セキュリティ対策やインボイス対応など、やりたいことによっては別の枠・別の補助金のほうが自社に合っているケースもあります。この補助金だけで判断がつかないと感じたら、他に使える補助金がないか探してみるのも有益です。

あなたの事務所で使える補助金は、これだけではないかもしれません。他に使える補助金を無料で診断する

クラウド会計やCRMがどの枠の対象になるか、自事務所の投資規模ではどのプロセス数構成が現実的か――判断に迷ったら、専門家に相談するのも一つの方法です。

どのITツール・どの枠が自事務所に合っているか判断に迷ったら、専門家に直接聞くのが近道です。専門家に無料相談する

締切はいつ?年に複数回ある「ローリング公募」です

IT導入補助金(デジタル化・AI導入補助金)は、他のjGrants補助金と違い、年に複数回、締切が繰り返し設定される「ローリング公募」の制度です。申請受付は2026年3月30日(月)10:00に始まっており、直近の1次締切は2026年8月25日(火)17:00、交付決定は2026年10月7日(水)頃の予定です。2次締切以降(2〜6次分)は、公式サイトで確定次第、随時更新される仕組みになっています。「今回の締切に間に合わなくても、次の回で申請できる」という点は、他の補助金にはない特徴です。

図: 申請から着金までのスケジュール。GビズIDプライムの取得は発行までに時間がかかるため、今すぐ着手しておきたい最初のステップです

事業実施期間は交付決定日から2027年3月31日(水)17:00までが予定されています。補助金は経費を立て替えて支払った後に交付される「精算払い」のため、着金は実績報告のあとになります。着金までの資金繰りに不安がある場合は、早い段階で金融機関に相談しておくと安心です。

承認までの重要なタイミングと必要書類

「何が必要か」よりも「いつ何が必要か」を押さえるほうが、準備のスケジュールを組みやすくなります。着金までの主なタイミングと、その時点で必要になるものは次のとおりです。

タイミングやること必要になるもの
導入を決めたらすぐGビズIDプライムアカウントを取得する(電子申請にはこのIDが必須。発行までおおむね2週間)マイナンバーカードや印鑑証明書等の本人確認書類
申請の少し前SECURITY ACTIONの「★一つ星」または「★★二つ星」を宣言する(発行まで約2〜3日)宣言済みアカウントID(交付申請時に入力必須)
申請前IT導入支援事業者に相談し、事務局に登録済みのITツール(クラウド会計・CRM・電子契約など)を選定する導入したい業務内容の整理、見積もり
〜1次締切:2026年8月25日(火)17:00電子申請システムで申請事業計画書、決算書(個人事業主は確定申告書等)、その他申請枠に応じた添付書類
2026年10月7日(水)頃交付決定
交付決定日〜2027年3月31日(水)17:00事業実施(ツールの契約・導入・支払い)契約書・見積書・請求書・領収書などを保管
事業終了後実績報告 → 補助金の入金実績報告書、支払いを証明する証憑(領収書・振込明細など)

図: いつ・何が必要になるか。GビズIDプライムとSECURITY ACTION宣言の2つが、最初に済ませておきたい手続きです

特に注意したいのが、この補助金は自分で好きなITツールを選んで申請する仕組みではないこと。事務局にあらかじめ登録された「IT導入支援事業者」に相談し、その事業者を通じて、同じく登録済みの「ITツール」を選定したうえで申請する流れになっています。クラウド会計ソフトやCRMであっても同様で、ツール選定より前にGビズIDプライムとSECURITY ACTION宣言を済ませておくと、申請直前になって慌てずに済みます。

「うちの事務所でも対象?」対象事業者の考え方

対象になるのは、資本金または常時使用する従業員数のいずれかが、業種ごとの基準以下の中小企業・小規模事業者等です。税理士事務所・会計事務所・行政書士事務所・社労士事務所・デザイン事務所などの士業・専門サービス業は、中小企業基本法上の**「サービス業(ソフトウェア業を除く)」区分**にあたります。

業種資本金の基準従業員数の基準
製造業・建設業・運輸業3億円以下300人以下
卸売業1億円以下100人以下
小売業5,000万円以下50人以下
サービス業(ソフトウェア業を除く)5,000万円以下100人以下

つまり、士業・専門サービス業は資本金5,000万円以下または従業員100人以下であれば中小企業者として対象になります。このほか、常時使用する従業員数が商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)で5人以下の事業者は「小規模事業者」に該当し、インボイス枠(50万円以下部分)やセキュリティ対策推進枠で補助率が高くなります。

例:フルタイム社員3人の税理士事務所(個人開業) → サービス業の基準は「資本金5,000万円以下または従業員100人以下」。個人事業主のため資本金基準はそもそも該当せず、従業員3人であれば基準以下のため中小企業者として対象です。小規模事業者(商業・サービス業は5人以下)の基準にも収まるため、インボイス枠やセキュリティ対策推進枠では小規模事業者向けの高い補助率が適用される見込みです。

自社が中小企業・小規模事業者のどちらにあたるかの最終判断に迷う場合は、公式サイトの「申請対象者チェッカー」で確認するか、IT導入支援事業者に相談すると確実です。

なお、150万円以上を申請する場合は賃上げに関する目標へのコミットも求められます。2026年度からはこの算定基準が「給与支給総額の年平均成長率」から**「1人当たり給与支給総額」**の基準に変更され、目標水準も引き上げられています。

よくある質問

締切は2026年8月25日で終わりですか?

いいえ。2026年8月25日(火)17:00は1次締切です。この補助金は年に複数回締切が設定される「ローリング公募」で、2次締切以降も確定次第、公式サイトで随時公表されます。

「IT導入補助金」はもうなくなったのですか?

なくなったわけではありません。2026年度から「デジタル化・AI導入補助金」という名称になり、AI活用ツールが新たに対象に加わりました。枠組み・骨格は基本的に引き継がれています。

一人で開業している税理士・行政書士・社労士でも対象になりますか?

対象になり得ます。サービス業(ソフトウェア業を除く)の基準は資本金5,000万円以下または従業員100人以下で、従業員のいない個人事業主の一人事務所も基準の範囲内です。GビズIDプライムとSECURITY ACTION宣言を取得し、IT導入支援事業者を通じて登録済みのITツールを選定すれば、少額な1プロセスの構成からでも申請できます。

PCやタブレットの購入費も対象になりますか?

通常枠では、業務以外にも使える汎用品としてパソコン・タブレット単体の購入費は対象外です。ただし、インボイス枠で対象のソフトウェア(会計・請求管理システムなど)とセットで導入する場合に限り、PC・タブレットは上限10万円まで補助対象に加えられます。

好きなクラウド会計ソフトやCRMを自分で選んで申請できますか?

いいえ。事務局に登録済みの「IT導入支援事業者」を通じて、同じく登録済みの「ITツール」の中から選定して申請する仕組みです。まずは士業・専門サービス業向けのクラウド会計・CRM・電子契約に強いIT導入支援事業者を探すところから始めましょう。

※補助上限額・補助率・締切などの制度内容は、公募要領の改定により変更される場合があります。申請前に必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。

出典(一次情報): デジタル化・AI導入補助金2026 公式サイト(中小機構)同・事業スケジュール同・通常枠同・インボイス枠(インボイス対応類型)同・セキュリティ対策推進枠同・申請を行う前に必要な手続き同・制度概要


採択される事業計画には“書き方の型”があります

同じITツール導入でも、事業計画の書き方ひとつで採択・不採択は変わります。クラウド会計やCRMを導入する目的をどう位置づけるか、審査で見られるポイントや、そのまま使える記入例は、一般には出回っていません。

\プロだけが知る申請のコツはコチラから/

公式LINEで攻略ガイドを見る

この補助金の概要(早見表)

検索項目内容
制度名デジタル化・AI導入補助金2026(旧称「IT導入補助金」。通常枠/インボイス枠2類型/セキュリティ対策推進枠/複数者連携枠の5枠)
対象業種全業種(士業・専門サービス業を含む)
利用目的設備整備・IT導入をしたい
対象地域全国
従業員数中小企業・小規模事業者(士業等サービス業は資本金5,000万円以下または従業員100人以下で判定)
補助上限額最大450万円(枠・プロセス数で変動。内訳は本文表を参照)
補助率1/2〜4/5(枠・要件で変動)
申請受付2026年3月30日(月)〜(1次締切2026年8月25日(火)17:00。2次以降は確定次第更新)
公式サイトデジタル化・AI導入補助金2026 公式サイト

※この表の項目(対象業種・利用目的・対象地域・従業員数)は、GRANTOSの補助金診断の検索軸に対応しています。