主KW: 事業承継補助金 個人事業主
「補助金は法人向け」だと思って検索をやめていないでしょうか。個人事業主も、事業承継・M&A補助金の対象です。ただし無条件ではありません。青色申告者であること、開業から5年が経過していることなど、法人にはない条件がいくつか付きます。ここを知らずに準備を進めると、書類を出す段になって足止めを食います。
個人事業主の事業承継・M&Aは、法人よりも身近な場面で起きています。個人で営む飲食店や美容室、小売店を子どもに継がせたい、あるいは高齢を理由に第三者に事業を譲りたい――こうした相談は珍しくありません。ただし、法人の株式譲渡と違って、個人事業の譲渡は許認可や契約関係を個別に引き継ぐ手間があり、補助金の要件も法人とは一部異なります。まずは自分がどの要件に当てはまるかを、順番に確認していきましょう。
個人事業主が使う枠は主に2つです。店舗や事業を第三者に売るなら専門家活用枠(小規模売り手支援類型)、補助上限450万円・補助率2/3。親族や従業員に継がせて新しい取組をするなら事業承継促進枠、補助上限800万円(賃上げ達成で1,000万円)・補助率1/2以内(小規模事業者は2/3以内)。廃業を考えているなら廃業・再チャレンジ枠、上限150万円です。まずは自分がどの場面に当てはまるかを整理しましょう。
現在の公募は第16次。申請受付は2026年10月2日(金)〜11月6日(金)17:00です。募集は年に複数回行われており、今回の締切に間に合わなくても、次回以降の公募で改めて申請することができます。ただし、要件(青色申告・開業から5年)を満たしていない場合は、次回の公募までに条件を整えておく必要があります。
まず確認すること:自分は対象になるのか
個人事業主がこの補助金を使えるかどうかは、主に次の3つの条件で決まります。ひとつずつ、順番に見ていきましょう。
- 青色申告者であること(白色申告は対象外)
- 開業届と青色申告承認申請書の提出から5年以上経過していること(事業承継促進枠の場合)
- 常時使用する従業員数が業種ごとの基準以下であること(詳細は後述します)
青色申告者であること(白色申告は対象外)
公式のFAQでは「白色申告者の方は、本補助金の対象となりません」と明記されています。申請には、確定申告書Bの写しと所得税青色申告決算書の写し(いずれも税務署の収受印または電子申告の受信通知が確認できるもの)を提出します。
まだ白色申告のまま、あるいは開業したばかりで確定申告を一度も済ませていない場合、この時点で申請要件を満たしません。青色申告への切り替えは、まず税務署への届出から始まります。 補助金の検討と同時に、税理士や税務署に相談しておくと動きが早くなります。焦って手続きを進めるより、まず税務上の土台を整えることが結果的に近道になります。
開業から5年が経過していること(事業承継促進枠)
事業承継促進枠には、「公募申請時点で個人事業の開業届出書並びに所得税の青色申告承認申請書の提出から5年が経過していない個人事業主は、申請要件を満たさず対象外」という条件があります。開業して間もない個人事業主は、この枠を使えません。
専門家活用枠(小規模売り手支援類型)にも同様の要件が確認されており、開業したての事業を第三者に売るケースは対象外になりやすい点に注意が必要です。
従業員数の基準(資本金の概念はない)
対象事業者の基準は、資本金または常時使用する従業員数のどちらかです。個人事業主に資本金はないので、判定は従業員数だけで行われます。業種によって基準が異なるため、順番に確認していきましょう。
- 小売業:常時使用する従業員5人以下(小規模事業者)
- サービス業(宿泊業・娯楽業を除く):同じく5人以下
- 上記以外の業種:20人以下
事業主本人や同居の親族従業員は、この「常時使用する従業員」には含まれません。ひとりで、あるいは家族だけで営んでいる個人事業主の多くは、この基準に楽に収まります。
例:夫婦で営む食堂(パート従業員2人・小売業以外のサービス業扱い) 事業主である夫と、事業を手伝う妻(同居の親族)に加えて、パート従業員2人を雇っている。「常時使用する従業員」としてカウントされるのはパート従業員2人のみ(事業主本人と同居の親族は含まれない)。サービス業の基準(5人以下)を下回るため、小規模事業者に該当します。
このように、実際に店に立っている人数と、補助金上でカウントされる「常時使用する従業員」の人数は一致しないことがよくあります。家族経営の個人事業主ほど、実際の人数より少なくカウントされる傾向があるため、「うちは人数が多いから対象外だろう」と自己判断で諦める前に、この数え方を確認することをおすすめします。
個人事業主が使う枠はどれか
4つの枠のうち、個人事業主が実際に使う場面が多いのは次の2つです。
| 枠 | どんな場面で使うか | 補助上限額 | 補助率 |
|---|---|---|---|
| 専門家活用枠(小規模売り手支援類型) | 個人事業主が店舗・事業を第三者に売る | 450万円(M&Aが不成立の場合は50万円に減額) | 2/3 |
| 事業承継促進枠 | 親族・従業員に継がせ、後継者が新しい取組をする | 800万円(賃上げ達成で1,000万円) | 1/2以内(小規模事業者は2/3以内) |
| 廃業・再チャレンジ枠 | 廃業し、次の事業に進む | 150万円 | 1/2以内(要件により2/3以内) |
小規模売り手支援類型は、第15次公募で新設された比較的新しい類型です。個人事業主が仲介業者を通じて事業を売却する場面を想定して作られました。専門家活用枠には他にも「買い手支援類型」「PMI推進類型」がありますが、これらは主に法人の買い手を想定した類型で、個人事業主が売り手として使う場面は多くありません。
PMI推進枠(PMIとは、M&Aの成約後に組織・業務・システムを統合していく取組のことです)は、M&Aが成約した後の統合作業に使う枠です。個人事業主が事業を売却した直後は使う機会が少ないですが、逆に個人事業主が第三者から事業を譲り受けた場合は、この枠の対象になりえます。
対象経費の中身
専門家活用枠(小規模売り手支援類型)で対象になる経費は、主に次のとおりです。
- M&A支援機関への手数料:M&A支援機関登録制度に登録された仲介業者・FA(フィナンシャルアドバイザー)への着手金・成功報酬
- デューデリジェンス費用:譲渡先が事業の実態を調査する際にかかる専門家費用
- 表明保証保険料:M&A契約に付随する保険の保険料
事業承継促進枠で対象になる経費は、設備投資・システム導入・店舗改装など、承継後の新しい取組にかかる費用です。承継そのものにかかる費用(登記費用など)は対象外で、あくまで承継を機にした事業の変化に使う費用が対象になります。
いくらもらえるか(個人事業主のシミュレーション)
美容室(従業員2人・個人事業主が第三者に事業を譲渡) M&A支援機関登録制度に登録された仲介業者に依頼し、仲介手数料の見積もりは150万円。従業員2人は小規模事業者の基準(5人以下)に該当し、専門家活用枠の小規模売り手支援類型を使う。 → 150万円 × 2/3 = 約100万円の補助(上限450万円の範囲内)。青色申告・開業から5年経過を満たしていれば、単独での申請が可能です。
雑貨店(従業員3人・親族に承継し、キャッシュレス決済とネット販売を導入) 子どもが後を継ぎ、老朽化したレジをタブレット型のPOSレジに更新。ネット販売もあわせて始める計画で、見積もりは180万円(事業承継促進枠)。従業員3人は小規模事業者に該当し、補助率2/3。 → 180万円 × 2/3 = 120万円の補助(上限800万円の範囲内)。この場合、現事業主(親)と後継者(子)による共同申請が必要です。
飲食店(従業員4人・M&Aが不成立に終わり50万円枠になったケース) 仲介業者を通じて事業売却を試みたが、条件が折り合わずM&Aが成立しなかった。この場合、専門家活用枠(小規模売り手支援類型)の補助上限は450万円ではなく50万円に減額されます。仲介手数料の見積もりが80万円だったとすると、 → 80万円 × 2/3 = 約53万円のところ、上限50万円が適用され50万円の補助にとどまります。M&Aが成立するかどうかで、受け取れる補助額が大きく変わる点に注意が必要です。
いずれも、開業から5年以上経過し、青色申告者であることが前提です。この2つの条件を満たしていない場合、金額シミュレーションの前にまず要件を整えるところから始まります。
「自分は対象になる?」判定の整理
ここまでの要件を、自分に当てはめて確認できるよう整理します。
| チェック項目 | 対象になる条件 | 対象外になるケース |
|---|---|---|
| 申告方法 | 青色申告者であること | 白色申告のまま |
| 開業からの期間 | 開業届・青色申告承認申請書の提出から5年以上経過 | 開業から5年未満 |
| 従業員数 | 業種ごとの基準以下(事業主本人・同居親族は含まない) | 基準を超える従業員数(多くの個人事業主は該当しない) |
| 申請形態 | 事業承継促進枠は共同申請(現事業主+承継予定者) | 承継の相手が決まっていない |
4つすべてを満たして初めて、金額のシミュレーションが意味を持ちます。特に開業から5年未満の場合は、他の条件を満たしていても対象外になるため、最初に確認しておくべき項目です。
逆に言えば、この4つを満たしていれば、業種を問わず検討する価値があります。飲食店・小売店・美容室・整体院など、個人事業主が営む店舗型の事業は、いずれも対象業種から除外されていません。「うちのような小さな店には縁がない制度だろう」と決めつけず、まずは自分の状況が4つの条件に当てはまるかどうかを確認してみることをおすすめします。
屋号・許認可の引き継ぎは対象になるか
個人事業の譲渡では、屋号や許認可を引き継げるかどうかが気になるところです。ここは補助金の対象・対象外の話ではありません。
飲食店営業許可のように、業種によっては許認可が個人単位で発行されており、譲渡先が改めて取得し直す必要がある場合があります。この判断は法律にもとづくもので、税理士・行政書士など専門家の領域です。補助金が対象にするのは、あくまで承継・M&Aにかかる仲介手数料や設備投資などの費用であり、許認可を引き継げるかどうか自体が審査対象になるわけではありません。
個人事業の場合、法人と違って許認可・屋号・取引先との契約が事業主個人に紐づいていることが多く、譲渡先が同じ屋号を名乗り続けられるかどうかも、業種や契約内容によって扱いが異なります。補助金の申請可否と、譲渡の実務が円滑に進むかどうかは別問題であることを理解しておくと、混乱せずに準備を進められます。事業計画書の作成にあたっては、許認可の引き継ぎに関する見通しも整理しておくと、審査で説明を求められた際にスムーズに対応できます。
対象にならないものの例
- 白色申告の個人事業主(青色申告者であることが前提)
- 開業から5年未満の個人事業主(事業承継促進枠・小規模売り手支援類型とも)
- M&A支援機関登録制度に未登録の仲介業者への支払い
- 交付決定より前に契約・発注した費用(交付決定とは、採択の後に届く「補助金を出します」という正式な通知のことです。この通知より前に発注・契約した費用は対象外になります)
- 個人の生活費や、事業と関係のない支出
- 風俗営業等、公的資金の使途として不適切とされる事業
事業と私生活の支出が混在しがちな個人事業主は、経費の線引きを特に意識しておきたいところです。特に自宅兼店舗で事業を営んでいる場合、設備投資が「事業のためのもの」なのか「生活のためのもの」なのか、区分が曖昧になりやすい部分です。見積書・請求書の段階で、対象経費とそれ以外を分けて計上できるよう準備しておくと、審査や実績報告の際にスムーズです。
必要書類とタイミング
個人事業主の場合、法人にはない税務書類の準備が加わります。ここまでの内容を踏まえて整理します。「何が必要か」よりも「いつ何が必要か」で押さえたほうが動きやすくなります。
| タイミング | やること | 必要になるもの |
|---|---|---|
| 検討を始めたらすぐ | 青色申告者かどうか、開業から5年経過しているかを確認する | 開業届・青色申告承認申請書の控え |
| 同時並行 | GビズIDプライムを取得する(発行に2〜3週間) | マイナンバーカードや印鑑証明書等の本人確認書類 |
| 枠が決まったら | 専門家活用枠ならM&A支援機関登録済みの仲介業者を選ぶ/事業承継促進枠なら認定経営革新等支援機関に相談する(国が認定した中小企業の支援機関で、商工会議所・金融機関・税理士などが登録しています) | 選定資料 |
| 〜2026年11月6日(金)17:00(第16次締切) | 電子申請システムで申請 | 確定申告書B・所得税青色申告決算書の写し(いずれも税務署収受印または受信通知) |
| 採択発表後 | 交付決定(契約・発注はここから) | ― |
| 事業実施後 | 実績報告 → 入金 | 支払いを証明する証憑(領収書・振込明細など) |
事業承継促進枠は、被承継者(現事業主)と承継予定者(将来の事業主)による共同申請が必須です。ひとりでは申請できません。承継の相手が決まっていない段階では、まずこの枠自体を検討しにくい点に注意してください。
専門家活用枠(小規模売り手支援類型)は、事業主本人が単独で申請できます。ただし仲介業者(M&A支援機関登録制度に登録された事業者)を通じた手続きが前提となるため、実質的には仲介業者との契約が申請の起点になります。仲介業者選びから逆算してスケジュールを組むと、締切に追われずに済みます。
GビズIDプライムの取得は、個人事業主でも法人と同じ手続きです。マイナンバーカードがあればオンラインで即日〜数日、印鑑証明書を使う書面申請では2〜3週間かかります。検討を始めた段階で、まずこのIDの取得から着手するのが結果的に早道です。
法人成りしてから申請すべきか
法人化していないと使えない制度ではありません。個人事業主のままでも申請できます。
一方で、譲渡の手法(事業譲渡か、法人成りしたうえでの株式譲渡かなど)によって、税務上の扱いは変わります。この判断は税理士の領域です。補助金の対象になるかどうかとは切り離して、別途専門家に相談することをおすすめします。
個人事業主の事業譲渡は、法人の株式譲渡と違い、契約・許認可・取引先との関係をひとつずつ個別に引き継ぐ必要がある点が特徴です。これは補助金の対象・対象外の話ではなく、譲渡の実務そのものに関わる論点です。「補助金が使えるかどうか」と「譲渡の手法として何が有利か」は、別の軸で検討する必要があります。
法人成りを検討している場合、タイミングにも注意が必要です。法人化した直後に申請すると、個人事業主としての開業からの年数がリセットされ、事業承継促進枠の「開業から5年」の要件を再び満たせなくなる可能性があります。承継を検討し始めた段階で、法人成りのタイミングと補助金の申請タイミングをあわせて整理しておくと、あとで慌てずに済みます。
よくある質問
白色申告の個人事業主は本当に対象外ですか?
はい。公式のFAQで「白色申告者の方は、本補助金の対象となりません」と明記されています。青色申告への切り替えを検討している場合は、まず税務署への届出が必要です。
開業したばかりでも申請できますか?
事業承継促進枠・専門家活用枠(小規模売り手支援類型)とも、開業届出書と青色申告承認申請書の提出から5年が経過していることが要件です。開業から5年未満の場合は、この時点で対象外になります。
屋号や許認可は補助金の審査に関わりますか?
いいえ。屋号・許認可の引き継ぎ可否は法律上の判断であり、補助金の対象・対象外を分ける要件ではありません。判断そのものは税理士・行政書士に確認してください。
従業員がいない一人事業主でも対象になりますか?
対象になりえます。従業員数の基準は「上限」であり、従業員がいない、または少人数でも問題ありません。事業主本人・同居の親族は「常時使用する従業員」に含まれないため、小規模事業者の基準(5人以下・20人以下)に該当しやすくなります。
M&Aが成立しなかった場合、補助金はもらえませんか?
専門家活用枠(小規模売り手支援類型)の場合、M&Aが不成立に終わっても補助自体は受けられますが、補助上限額が450万円から50万円に減額されます。仲介手数料など、M&Aに向けて実際に発生した費用が対象です。
事業承継促進枠だけを個人事業主が単独で申請できますか?
いいえ。事業承継促進枠は、被承継者(現事業主)と承継予定者(将来の事業主)による共同申請が必須です。承継の相手がまだ決まっていない場合は、この枠を検討する前段階にあると考えられます。
次回の公募まで待つべきか、今回申請すべきか迷っています
今回の第16次公募(2026年10月2日〜11月6日17:00)の要件を満たしているなら、募集は年に複数回行われるとはいえ、次回の日程が確定していない以上、今回申請できるなら早めに動く方が安心です。要件(青色申告・開業から5年)を満たしていない場合は、まず条件を整えることが先決です。
