面貸しや業務委託のスタイリストが多いサロンは、それだけで対象外になるのか。結論から言うとなりません。 持続化補助金の従業員数要件は「常時使用する従業員」を数えるもので、雇用契約のないスタイリストは含まれない見込みです。思っているより、多くの個人サロンが対象に収まります。
「うちは規模が大きいから対象外だろう」と最初から諦めているオーナーほど、実際に数えてみると要件を満たしていることがあります。逆に「小さい店だから当然対象だろう」と思い込んでいると、全員が雇用契約のフルタイムスタッフというサロンでは意外な壁にぶつかることもあります。まずは正しい数え方を知ることから始めましょう。
第20回の補助上限は250万円(基本額+特例加算)、補助率2/3。申請受付は2026年11月5日に始まり、締切は12月15日17:00です。制度名は小規模事業者持続化補助金〈第20回・一般型/通常枠〉で、対象は事業者(法人・個人事業主)、地域は全国です。
美容室・理容室は日本標準産業分類では「生活関連サービス業、娯楽業」に区分されますが、この補助金でも対象業種にきちんと含まれます。予約の空きはあるのに新規客が増えない。セット面が足りず来店を断ってしまう。後回しにしていた投資を、この制度でどう動かすかを、対象・対象外の線引きに沿って見ていきます。
「うちみたいな個人サロンでも対象?」まず従業員数を数える
多くの美容室・理容室オーナーが最初につまずくのが、この従業員数の数え方の部分です。
従業員要件は次のとおりです。
- 美容室・理容室(商業・サービス業):「常時使用する従業員」5人以下
- 宿泊業・娯楽業、製造業その他:従業員20人以下
美容室・理容室は、日本標準産業分類では「生活関連サービス業、娯楽業」です。しかし持続化補助金の従業員数要件では、20人以下ではなく商業・サービス業の5人以下が適用されます。分類名に惑わされないでください。
ポイントは、パートやアルバイトを全員数えるわけではないことです。この「常時使用する従業員」には、次の人は含めません。
- 事業主本人(個人事業主)・会社役員
- 同居の親族従業員
- 通常の従業員より勤務時間が短いパート・アルバイト(=短時間労働者)
- 日雇い、2か月以内の短期雇用、季節的な短期雇用の人
よく誤解されるポイント:面貸し・業務委託のスタイリストは数えるのか
美容業界特有の悩みがここです。指名制のサロンでは、面貸し(席貸し)や業務委託契約のスタイリストが在籍していることが珍しくありません。この人たちは「常時使用する従業員」に数えるのでしょうか。
面貸し・業務委託契約のフリーランス美容師は、雇用関係にないため、「常時使用する従業員」には含まれない見込みです。ただしこの扱いを明記した公式資料は確認できていません。該当するなら商工会議所・商工会に個別に確認してください。
これを実際のサロンに当てはめて数えてみます。
例:オーナー美容師本人+フルタイムのスタイリスト2人+受付の短時間パート1人のサロン → オーナー本人は数に入りません。短時間の受付パートも「常時使用する従業員」に含まれません。数えるのはフルタイムのスタイリスト2人だけ。従業員2人=5人以下なので、対象になります。
例:フルタイムのスタイリスト4人+面貸し・業務委託契約のフリーランス美容師2人が在籍するサロン → 数えるのはフルタイムのスタイリスト4人。面貸し・業務委託のフリーランス美容師は雇用関係にないため、「常時使用する従業員」には含まれない見込みです。この店も4人=対象です。
例:フルタイムのスタイリスト6人が全員雇用契約のサロン → 全員が雇用契約のフルタイムスタッフの場合、6人は「常時使用する従業員」としてそのまま数えます。5人を超えるため、このままでは対象外になる可能性があります。
オーナー本人・家族・短時間パート・業務委託を除くと、人数は思ったより少なくなります。多くの個人サロンが対象になる一方で、全員が雇用契約のフルタイムスタッフというサロンは、5人という壁に直面しやすいという対比です。
6人を超えてしまった場合でも、諦める前に確認すべきことがあります。育児・介護等で勤務時間を短縮しているスタッフがいれば、その人は「通常の従業員より勤務時間が短いパート・アルバイト」に該当し、カウントから外れる可能性があります。契約形態だけでなく、実際の勤務実態も含めて、もう一度丁寧に数え直してみる価値があります。
持続化補助金は美容室・理容室の何に使える?
店舗改装、予約システムの導入、販促物の作り直し。美容室・理容室の「やりたいこと」を幅広くカバーします。
対象になる使い道の例
- 予約・集客の仕組み化:ホームページの制作、ネット予約システムの導入、SNS運用と連動した集客ページの制作
- 販促・ブランディング:チラシ・ショップカード・看板のリニューアル、施術メニュー表の作り直し
- セット面・設備の増設:新規客層の取り込みにつながるセット面・シャンプー台の増設や入れ替え、待合スペースの改装
- 新メニュー・新サービス開発:トリートメントや着付けなど新メニューの開発、出張理容・出張美容サービスの立ち上げ
対象にならないものの例
- シャンプー剤・カラー剤・パーマ液などの消耗品の仕入れ、家賃、人件費など、日々の営業を回すための「単なる運転資金」
- パソコン・タブレット・家庭用家電・自転車など、業務以外にも使える汎用品の購入
- 交付決定より前に発注・契約してしまった費用(いわゆる「フライング発注」。交付決定とは、採択の後に届く「補助金を出します」という正式な通知のこと)
- 開業資金(物件取得費・内装工事費など、新規開業そのものにかかる費用)
- 販路開拓や生産性向上につながらない、事業計画と関係のない支出
判断の分かれ目は一つ。その投資がサロンの集客・売上拡大にどうつながるかを、事業計画で説明できるかどうかです。
じつは、セット面やシャンプー台の入れ替えは、はっきり白黒つくものではありません。同じ「セット面の入れ替え」でも、新規客層の取り込みにどう結びつくかを事業計画で示せるかどうかで、対象と認められるかが変わります。老朽化した設備を同等品にそのまま交換するだけなら販路開拓の要素が弱く、新規客層の取り込みを狙った増設・改装なら対象になりやすい、という整理です。
似ている制度との違い:開業資金には使えない
「持続化補助金で開業したい」という相談をよく受けますが、これは誤解です。持続化補助金は、既に事業を営んでいる小規模事業者の販路開拓を支援する制度で、これから開業する人の物件取得費・内装工事費は対象外です。
開業をこれから予定している方が使える制度は、別に用意されています。
- 持続化補助金〈創業型〉:過去3年以内に「特定創業支援事業」による支援を受けて創業した事業者向けの別枠です。持続化補助金の一般型・通常枠とは対象者が異なります
- 地域の創業助成金・開業支援金:自治体によっては、美容室・理容室の開業にかかる内装工事費や設備費を対象にした独自の助成金があります
「持続化補助金=開業でも改装でも何でも使える制度」ではありません。 既に営業しているサロンが、販路開拓のために投資する場合の制度、と正しく理解しておくと、申請段階での的外れを防げます。開業を控えている方は、この記事の制度とは別の窓口を先に確認してください。
よく誤解されるポイント:出張サービスは「販路拡大」になるか
近年、出張理容・出張美容サービスを新たに始めたいというニーズが増えています。既存の店舗型サロンが出張サービスを始める場合、これは対象になるでしょうか。
既存店舗のサロンが、在宅高齢者向けなど新しい客層に向けて出張サービスを始めるのは、新しい販路の開拓として対象になりやすいケースです。単に既存客への追加サービスというより、これまでリーチできていなかった客層(外出が難しい高齢者など)に新しくアプローチするという点が、販路開拓の要件と噛み合います。
一方で、既に来店している常連客に対して「出張もできますよ」と案内を追加するだけでは、新規の販路開拓とは言いにくくなります。対象になるかどうかは、その投資が「新しい客層・新しい販路」に向いているかどうかという視点で判断されます。事業計画にこの視点を明記できるかどうかが、審査での説得力を左右します。
似ている論点:フランチャイズ・チェーン店のサロンは対象になるか
複数店舗を展開するチェーン美容室や、フランチャイズ加盟店から「うちは対象になるか」という質問もよく受けます。
- フランチャイズ加盟店で、加盟店ごとに独立した法人・個人事業主として営業している場合は、その加盟店単位で従業員数を数え、要件を満たせば対象になり得ます
- 直営の複数店舗を1つの法人が運営している場合は、法人全体の従業員数で判定されます。店舗ごとに5人以下でも、法人全体では5人を超えることがあります
チェーン展開しているサロンほど、「うちの店舗だけなら対象になりそうだが、法人全体だと超えてしまう」というケースに直面しやすくなります。申請単位が店舗なのか法人なのかを、早い段階で確認しておくことをおすすめします。事業計画の準備を始める前に、この点をはっきりさせておくと手戻りがありません。
いくらもらえる?上限250万円の中身は
「上限250万円」は無条件ではありません。基本額に特例を組み合わせて、初めて届く金額です。
| 区分 | 補助上限額 |
|---|---|
| 基本 | 50万円 |
| +インボイス特例 | 100万円(基本50万円+50万円) |
| +賃金引上げ特例 | 200万円(基本50万円+150万円) |
| +両特例併用 | 250万円(最大) |
特例の中身は次のとおりです。
- インボイス特例:免税事業者から適格請求書発行事業者に新たに登録した場合の特例です。インボイス登録済みの個人サロンなら、対象になりやすい特例です
- 賃金引上げ特例:事業場内最低賃金を一定額以上引き上げる計画がある場合に使える特例です
補助率は通常2/3です。賃金引上げ特例を利用する事業者のうち、赤字事業者は3/4に引き上がります。自社がどの特例に当てはまるかを、先に確認してから投資額を検討すると計画が立てやすくなります。
美容師免許・理容師免許は申請の条件になるか
意外と聞かれるのが、「開設者本人が美容師免許・理容師免許を持っていないと申請できないのか」という疑問です。持続化補助金の申請要件に、美容師免許・理容師免許の有無は含まれていません。 保健所への美容所・理容所の開設届と、事業として美容室・理容室を営んでいる実態があれば、免許の名義がオーナー本人か雇用しているスタイリストかは、補助金の対象・対象外を分けません。
ただし、これは美容室・理容室の営業許可(保健所の開設届出)まで不要という意味ではありません。営業そのものに必要な許認可は別の話として、通常どおり満たしておく必要があります。補助金の審査が見ているのは、あくまで小規模事業者としての要件(従業員数)と、事業計画の内容です。
美容室・理容室のタイプ別・シミュレーション
サロンのタイプとやりたいことで、使い方は変わります。3つのタイプで試算します(補助額は「対象経費×2/3」を、枠の上限まで受け取れる、という考え方です)。
① 個人経営の小さなヘアサロン(基本枠・上限50万円) 電話とノートでバラバラだった予約を、ネット予約システムでまとめたい。ホームページも新しく作り、初めての客が検索から予約できるようにしたい。見積もりは75万円(予約システム導入費+ホームページ制作費)。 → 75万円 × 2/3 = 50万円の補助(基本枠の上限に到達)。自己負担25万円で、予約の取りこぼしと新規集客の入り口を同時に整えられます。
② スタッフ数名の中規模サロン(インボイス特例・上限100万円) 指名の集中でセット面が埋まり、新規客を断ることが増えてきた。セット面を1台増設し、店頭の看板・外観もリニューアルしたい。見積もりは150万円(セット面増設の内装工事費+看板・外観リニューアル費)。単なる椅子の買い替えではなく、新規客層の取り込みにつながる増設であることがポイントです。 → 150万円 × 2/3 = 100万円の補助。
③ 賃上げに取り組む理容室(両特例併用・上限250万円) シャンプー台と椅子を入れ替えて店内をリニューアル。あわせて在宅の高齢者向けに出張理容サービスを始めたい。見積もりは375万円(シャンプー台・椅子の入れ替え費+出張用の移動式リクライニングチェア・移動式シャンプーユニット導入費+案内チラシ制作費)。 → 375万円 × 2/3 = 250万円の補助(両特例併用の上限に到達)。既存の来店客に加えて、新しい客層への出張サービスを同時に整備できます。
第20回のスケジュール(申請受付開始・締切)
第20回の申請受付開始は2026年11月5日(木)、申請締切は2026年12月15日(火)17:00です。受付開始日と締切日を取り違えないでください。採択発表は2027年3月頃、事業の実施期間は交付決定日から2028年3月31日までの予定です。
補助金は、経費を立て替えて支払った後に交付される「精算払い」です。着金は実績報告のあと。設備投資費用は、いったん自己資金や借入で用意する必要があります。資金繰りに不安があるなら、早い段階で金融機関や商工会議所・商工会に相談してください。改装工事を伴う場合は、業者への支払いスケジュールも見越して資金計画を立てておくと安心です。
承認までの重要なタイミングと必要書類
大事なのは「何が必要か」より「いつ必要か」です。着金までの主なタイミングと、その時点で必要になる書類は次のとおり。
| タイミング | やること | 必要になるもの |
|---|---|---|
| 〜2026年12月4日(金) | 商工会議所・商工会に相談し「事業支援計画書(様式4)」を発行してもらう | 経営計画書・補助事業計画書の下書き(相談時に使う) |
| 〜2026年12月15日(火)17:00 | 電子申請(GビズIDが必要) | 経営計画書、補助事業計画書、見積書、事業支援計画書(様式4) |
| 2027年3月頃 | 採択発表 → 交付決定 | ― |
| 交付決定日〜2028年3月31日 | 事業実施(改装・発注・支払い) | 契約書・請求書・領収書などを保管 |
| 事業終了後 | 実績報告 → 補助金の入金 | 実績報告書、支払いを証明する証憑(領収書・振込明細など) |
注意したいのは、事業支援計画書(様式4)の発行締切が申請締切の11日前=2026年12月4日(金)である点です。発行には商工会議所・商工会での相談・手続きが要ります。申請締切ぎりぎりに動くと間に合いません。逆算して、早めに窓口へ相談してください。
商工会議所・商工会への相談は必須?
必須です。この補助金は、商工会議所・商工会の支援を受けて事業計画を作る仕組みになっています。窓口は事業所の所在地が「商工会議所地区」か「商工会地区」かで分かれ、両方への申請はできません。まず、自分の店がどちらの地区に属するかを確認してください。
相談枠は、申請締切が近づくほど混み合います。事業支援計画書(様式4)の発行にも時間がかかります。公募が始まったら、すぐに相談の予約を取ってください。サロンの営業スケジュールと相談日程の調整も、早めに動くほど余裕を持って進められます。
面貸し・業務委託スタイリストの扱いのように、公式資料に明記がない判断は、この窓口で個別に確認するのが確実です。事業計画の相談とあわせて、従業員数の数え方も一緒に確認しておくと二度手間になりません。複数店舗展開の場合は、申請単位(店舗か法人か)も同じタイミングで確認しておくとよいでしょう。
よくある質問
面貸し・業務委託のスタイリストが多いサロンは対象外ですか?
対象外とは限りません。面貸し・業務委託契約のフリーランス美容師は、雇用関係にないため「常時使用する従業員」に含まれない見込みです。ただしこの扱いを明記した公式資料は確認できていないため、該当する場合は商工会議所・商工会に個別に確認してください。
締切は2026年11月5日ですか?
いいえ。2026年11月5日は申請受付の開始日です。第20回の申請締切は2026年12月15日(火)17:00です。あわせて、事業支援計画書(様式4)の発行締切(2026年12月4日)にも注意してください。
開業のための内装工事費にも使えますか?
いいえ。持続化補助金は既に営業している小規模事業者の販路開拓を支援する制度で、開業資金(物件取得費・内装工事費)は対象外です。開業を検討している場合は、持続化補助金〈創業型〉や自治体の創業助成金を確認してください。
従業員が5人を超える美容室は対象外ですか?
美容室・理容室は商業・サービス業の区分で、常時使用する従業員5人以下が要件です。宿泊業・娯楽業なら20人以下。判断に迷う場合は、商工会議所・商工会にご確認ください。
複数店舗を展開しているサロンでも対象になりますか?
法人全体の従業員数で判定されるため、店舗ごとには5人以下でも、法人全体で5人を超えると対象外になる可能性があります。フランチャイズ加盟店の場合は加盟店単位で判定されるケースもあるため、申請単位がどちらになるかを事前に商工会議所・商工会に確認してください。
出張理容・出張美容サービスの立ち上げは対象になりますか?
既存店舗が、これまでリーチできていなかった新しい客層(在宅高齢者向けなど)に向けて出張サービスを始める場合は、新しい販路の開拓として対象になりやすいケースです。既存客への追加サービスに留まる場合は、販路開拓の要件と噛み合いにくくなります。
