ネット販売を始めたい。でも何から手をつければいいのか――多くの小売店が、ここで止まります。実店舗の集客が頭打ちでも、キャッシュレス決済が未対応でも同じです。こうした投資の3分の2(上限の範囲内)を国が補助する制度があります。それが小規模事業者持続化補助金です。
あなたの店では、いくらまで使えるのか。第20回は補助上限250万円(基本額+特例加算)、補助率2/3。申請受付は2026年11月5日に始まり、締切は12月15日17:00。小売店・物販店で何に使えて、いくらもらえて、自分の店が対象になるのか――順番に見ていきましょう。
持続化補助金は小売店の何に使える?
ネット販売の立ち上げ、店頭の見せ方の刷新、決済手段の見直し。小売店の「やりたいこと」を幅広くカバーします。対象になりやすい使い道から見ていきましょう。
対象になる使い道の例
- ECサイト構築・ネット販売: 自社ECサイトの制作、ネットショップの開設、モール型ECへの出店にともなう商品ページ制作
- 店舗改装・陳列什器: 客動線の見直し、陳列棚・什器の入れ替え、テラス・什器の増設
- 販促・集客: チラシ・DMの制作と発送、店頭看板・のぼりの作り直し、SNSと連動した集客ページの制作
- キャッシュレス決済導入: クレジット・電子マネー・QRコード決済端末の導入
- 商品撮影・カタログ制作: EC掲載用・通販用の商品写真撮影、商品カタログの制作
対象にならないものの例と、その理由
- 仕入れ代・家賃・人件費など、日々の営業を回すための「単なる運転資金」——販路開拓の取組みそのものではないため
- パソコン・タブレット・冷蔵庫など、業務以外にも使える汎用品の単なる買い替え——販路開拓と切り離しても使えてしまうため
- 交付決定より前に発注・契約してしまった費用(いわゆる「フライング発注」)——補助が無くても実施したはずの支出とみなされるため
- 販路開拓や生産性向上につながらない、事業計画と関係のない支出
いずれも「その投資が、お店の販路開拓(集客・売上拡大)にどうつながるか」を事業計画で説明できるかどうかが判断のポイントです。
じつは、陳列什器や店内設備の入れ替えは、白黒がはっきりつくものばかりではありません。同じ「棚・什器の入れ替え」でも、それが販路開拓にどう結びつくかを事業計画で示せるかどうかで、結論が変わります(実際に販路開拓につながる取組であることが前提です)。汎用品との組み合わせにも注意が必要です。 たとえば冷蔵ショーケース単体の購入は対象になりにくい一方、陳列棚のリニューアルの一部として計上すれば対象になりやすくなります。線引きに迷う経費は、商工会議所・商工会に相談時点で確認しておきましょう。
いくらもらえる?上限250万円の中身は
「上限250万円」は無条件ではありません。基本額に特例を足して上限が上がる仕組みです。内訳を押さえておきましょう。
| 区分 | 補助上限額 |
|---|---|
| 基本 | 50万円 |
| +インボイス特例 | 100万円(基本50万円+50万円) |
| +賃金引上げ特例 | 200万円(基本50万円+150万円) |
| +両特例併用 | 250万円(最大) |
特例の中身は次のとおりです。
- インボイス特例: 適格請求書発行事業者に新たに登録した免税事業者向けです。仕入先や卸との取引のためにインボイス登録した個人経営の小売店は、対象になりやすくなります。
- 賃金引上げ特例: 事業場内最低賃金を一定額以上引き上げる計画がある場合に使える特例です。
補助率はいくら?
補助率は通常2/3です。賃金引上げ特例を利用する事業者のうち、赤字事業者は3/4に引き上がります。
お店のタイプ別・シミュレーション
同じ「上限」でも、店の規模とやりたいことで使い方は変わります。3つの店で、いくら投資していくら戻るかを見てみましょう。補助額は「対象経費×2/3」を、その枠の上限まで受け取れる、という考え方です。
① 個人経営の雑貨店(基本枠・上限50万円) これまで店頭販売だけだったが、遠方のお客さんにも商品を届けたい。ネットショップの開設と、EC掲載用の商品写真撮影の見積もりは75万円。 → 75万円 × 2/3 = 50万円の補助(基本枠の上限に到達)。自己負担25万円で、店頭に加えてネットでも売れる仕組みが作れます。
② インボイス登録した中規模の食品物販店(インボイス特例・上限100万円) 陳列什器を入れ替えて商品を見やすくレイアウトし、あわせて通りから見える店頭看板も作り直したい。見積もりは150万円(什器の入れ替え・設置費と看板制作費として計上。汎用的な冷蔵庫単体の購入費は対象外になるため注意が必要です)。 → 150万円 × 2/3 = 100万円の補助。 ここがポイントです。基本枠(上限50万円)のままだと、什器の入れ替えだけで枠を使い切ってしまいます。インボイス特例で枠が+50万円に広がると、同じ申請で什器の入れ替えに加えて看板の作り直しまで一度に手が届くのです。
③ 賃上げに取り組む専門店(両特例併用・上限250万円) 実店舗の商品をすべて撮影し直してECサイトを本格構築し、あわせてキャッシュレス決済も導入して会計のストレスをなくしたい。見積もりは375万円。 → 375万円 × 2/3 = 250万円の補助(両特例併用の上限に到達)。 賃金引上げ特例(+150万円)まで使えると、ECサイト構築“だけ”で終わらず、店頭のキャッシュレス化まで同時に実現できます。従業員の賃上げと店の刷新を一度に進めたい店に向いています。
このように、使える特例が増えるほど「一度の申請でできること」が広がります。まずは自分の店が2つの特例(インボイス・賃金引上げ)に当てはまるかを確認してみましょう。
持続化補助金だけで足りないとき:他の補助金との使い分け
小売店が使える補助金は、持続化補助金だけではありません。やりたいことによっては、他の制度のほうが多くもらえたり、条件が合ったりします。
| やりたいこと | 向いている制度 | 目安の上限額 |
|---|---|---|
| EC構築・チラシ・店舗改装など、販路開拓の取組み全般 | 小規模事業者持続化補助金 | 250万円 |
| POSレジや会計ソフトなど、特定のITツールの導入 | デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金) | 450万円(枠により変動) |
| セルフレジ・自動精算機などハード中心の省力化投資 | 中小企業省力化投資補助金 | カタログ注文型1,500万円/一般型1億円 |
| 店舗の新設・大規模改装をともなう新事業展開 | 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 | 9,000万円 |
「レジや什器を入れ替えたい」程度なら持続化補助金、「複数店舗でシステムを一新したい」なら省力化投資補助金や新事業進出枠、というのが大まかな目安です。投資規模が大きくなるほど、他の制度も比較検討する価値があります。
第20回のスケジュール(申請受付開始・締切)
第20回の申請受付は2026年11月5日(木)に始まり、申請締切は2026年12月15日(火)17:00です。採択発表は2027年3月頃、事業の実施期間は交付決定日から2028年3月31日までが予定されています。
補助金は「精算払い」です。着金は実績報告のあと。ECサイト制作費や什器の入れ替え費用は、いったん自己資金や借入で用意する必要があります。資金繰りに不安があるなら、早めに金融機関や商工会議所・商工会へ相談しておきましょう。
承認までの重要なタイミングと必要書類
「何が必要か」よりも「いつ何が必要か」を押さえるほうが、準備のスケジュールを組みやすくなります。着金までの主なタイミングと、その時点で必要になる書類は次のとおりです。
| タイミング | やること | 必要になるもの |
|---|---|---|
| 〜2026年12月4日(金) | 商工会議所・商工会に相談し「事業支援計画書(様式4)」を発行してもらう | 経営計画書・補助事業計画書の下書き(相談時に使う) |
| 〜2026年12月15日(火)17:00 | 電子申請(GビズIDが必要) | 経営計画書、補助事業計画書、見積書、事業支援計画書(様式4) |
| 2027年3月頃 | 採択発表 → 交付決定 | ― |
| 交付決定日〜2028年3月31日 | 事業実施(発注・制作・支払い) | 契約書・請求書・領収書などを保管 |
| 事業終了後 | 実績報告 → 補助金の入金 | 実績報告書、支払いを証明する証憑(領収書・振込明細など) |
特に注意したいのが、事業支援計画書(様式4)の発行締切が申請締切の11日前=2026年12月4日(金)にあること。発行には商工会議所・商工会での相談・手続きが要ります。申請締切ぎりぎりに動くと間に合いません。逆算して早めに窓口へ相談しておきましょう。
複数店舗を展開している場合はどうなるか
チェーン展開している小売店の場合、対象になるかどうかは店舗単位ではなく事業者単位(会社・個人事業主単位)で判定されます。複数店舗を持つ小売業者でも、事業者全体の従業員数が基準を超えていれば対象外です。逆に、従業員数の基準内であれば、複数店舗ぶんの投資をまとめて1つの事業計画として申請することもできます。
フランチャイズ加盟店の場合は注意が必要です。 フランチャイズ本部の規約によっては、店舗の改装・什器の選定に制約がある場合があります。持続化補助金の対象経費であっても、本部の承認が必要なケースがあるため、契約内容を事前に確認しておきましょう。
「うちみたいな個人商店でも対象?」
小売店の従業員要件は次のとおりです。
- 小売店(「商業(卸売業・小売業)」区分): 「常時使用する従業員」5人以下
- 宿泊業・娯楽業、製造業その他: 従業員20人以下
ポイントは、パートやアルバイトを全員数えるわけではないことです。この「常時使用する従業員」には、次の人は含めません。
- 事業主本人(個人事業主)・会社役員
- 同居の親族従業員
- 通常の従業員より勤務時間が短いパート・アルバイト(=短時間労働者)
- 日雇い、2か月以内の短期雇用、季節的な短期雇用の人
これを自分の店に当てはめて数えてみましょう。
例: 店主1人+短時間パート2人の雑貨店(店主は個人事業主) → 店主本人は数に入りません。短時間のパート2人も「常時使用する従業員」に含まれません。数えるのは実質0人。5人以下なので、対象になります。
例: フルタイム社員3人+在庫管理を手伝う業務委託スタッフ・スポットワーカー(タイミー等)を随時活用する食品物販店 → 数えるのはフルタイム社員3人。業務委託は雇用関係にないため、「常時使用する従業員」には含まれない見込みです。繁忙期のスポットワーカーも、日雇い的な働き方なら同様に含まれない可能性が高いです。ただしこの扱いを明記した公式資料は確認できていません。該当するなら商工会議所・商工会に個別に確認してください。この店も3人=対象です。
事業主本人・家族・短時間パートを除くと、人数は思っているより少なくなります。多くの個人商店・小規模な物販店が対象になります。雇用形態の判断は個別事情で変わるので、迷うときは商工会議所・商工会や公募要領で確認してください。
採択率を上げる加点要素
持続化補助金は応募すれば必ず採択されるわけではありません。事業計画の内容に加え、いくつかの加点要素が審査で評価されます。小売店が使いやすい加点要素を紹介します。
- 賃金引上げ加点: 事業場内最低賃金の引き上げを計画している場合に加点されます。補助上限が上がる特例とは別に、審査そのものでも評価対象です
- 経営力向上計画の認定: 中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画(経営force)の認定を受けていると加点されます。認定までに一定の準備期間がかかるため、早めに動くと間に合いやすくなります
- 事業承継加点: 代表者の年齢が60歳以上で、後継者candidateがいる場合などに加点されます
- 災害等加点: 自然災害の被災地域の事業者が対象です
加点要素は複数の組み合わせが可能です。 特に賃金引上げ加点は、補助上限を引き上げる特例(賃金引上げ特例)と別の評価軸なので、両方を満たせば「上限も上がり、採択もされやすくなる」という二重の効果があります。
持続化補助金の対象経費、こんな使い方もできる
これまで紹介した使い道以外にも、小売店が見落としがちな対象経費があります。
- 展示会・見本市への出展費用: 卸売業者や新規取引先の開拓を目的とした出展の、出展料・ブース装飾費
- 新商品の開発費: 自社ブランド商品の開発にかかる材料費・デザイン費(既存商品の単なる仕入れは対象外)
- 多言語対応の費用: インバウンド客向けの多言語メニュー・POP制作費
「販路開拓につながるか」という一点さえ満たせば、対象経費の幅は思っているより広いです。自店の課題に合わせて、商工会議所・商工会に相談しながら経費区分を組み立てるとよいでしょう。
商工会議所・商工会への相談は必須?
申請には、商工会議所・商工会の支援を受けて事業計画を作る工程が組み込まれています。窓口は事業所の所在地が「商工会議所地区」か「商工会地区」かで決まります。同一事業者が両方に申請することはできません。まずは自分の店がどちらの地区かを確認しましょう。
相談枠は申請締切が近づくほど混みます。様式4の発行にも時間がかかります。公募が始まったら、できるだけ早く相談の予約を取っておきましょう。
よくある質問
締切は2026年11月5日ですか?
いいえ。2026年11月5日は申請受付の開始日です。第20回の申請締切は2026年12月15日(火)17:00です。あわせて、事業支援計画書(様式4)の発行締切(2026年12月4日)にも注意してください。
補助上限は本当に250万円ですか?
250万円は、基本額50万円にインボイス特例・賃金引上げ特例を両方併用した場合の最大額です。特例を使わない場合の基本上限は50万円で、無条件で250万円がもらえるわけではありません。
従業員が5人を超える小売店は対象外ですか?
商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)は従業員5人以下が対象要件です。宿泊業・娯楽業は20人以下が要件になります。該当するか判断に迷う場合は商工会議所・商工会にご確認ください。
POSレジを導入したいだけなら、別の補助金の方がいいですか?
POSレジ単体の入れ替えなら、デジタル化・AI導入補助金や中小企業省力化投資補助金のほうが対象になりやすい場合があります。持続化補助金は「レジも含めた店全体の販路開拓の取組み」として位置づけると対象になりえます。何をどこまでやりたいかで、向いている制度が変わります。
開業したばかりの小売店でも申請できますか?
開業して間もない事業者でも、要件を満たせば申請できます。ただし事業計画には、これまでの実績が少ない分、今後どのように新規顧客を獲得していくかをより具体的に示す必要があります。商工会議所・商工会に相談しながら、開業間もない店ならではの計画の立て方を確認しておくとよいでしょう。
陳列什器のリースは対象になりますか?
リース契約は、契約期間中の利用料が対象になる場合と対象外になる場合があり、扱いが複雑です。単純な購入とは補助対象の考え方が異なるため、リースを検討している場合は、申請前に商工会議所・商工会または補助金事務局に個別に確認してください。
ネットショップのモール出店料(月額費用)も対象になりますか?
モール型ECの出店にともなう初期費用や、ページ制作費は対象になりやすい経費です。一方、毎月かかる出店料・月額利用料は「単なる運転資金」に近い扱いになりやすく、対象外と判断されることがあります。初期費用と月額費用を分けて計上し、月額費用をどう扱うかは事前に商工会議所・商工会へ確認しておくと安心です。
複数の商工会議所地区にまたがって店舗がある場合、どちらに相談すればいいですか?
事業計画の申請は、原則として本店(本社所在地)を管轄する商工会議所・商工会が窓口になります。複数店舗が別の地区にまたがっていても、申請自体は本店所在地の窓口で一本化されるのが一般的です。詳しくは本店所在地の商工会議所・商工会に確認してください。
店舗の移転・拡張にともなう工事費も対象になりますか?
移転・拡張にともなう工事費は、新規顧客の獲得や販路開拓につながると説明できれば対象になりやすい経費です。ただし単なる老朽化対応の修繕は対象になりにくいため、移転・拡張の目的を事業計画で明確にしておく必要があります。
POSレジシステムの月額利用料も対象になりますか?
初期導入費用は対象になりやすい一方、契約期間中の月額利用料は「単なる運転資金」に近い扱いになりやすく、対象外と判断されることがあります。初期費用と月額費用を分けて計上し、月額費用の扱いは事前に商工会議所・商工会へ確認しておくと安心です。
採択後、事業を継続しなければいけない期間はありますか?
はい。補助事業完了後も、一定期間の事業継続や状況報告が求められる場合があります。詳細は公募要領で確認できるため、申請前に把握しておくと安心です。
申請にかかる期間はどれくらいですか?
事業計画の準備から申請までは、早くても1か月程度を見ておくと安心です。商工会議所・商工会への相談と様式4の発行に時間がかかるため、締切間際ではなく早めに動き出すことをおすすめします。
見積書は何社分取ればいいですか?
対象経費の内容によっては、相見積もり(複数業者からの見積もり取得)が求められる場合があります。特に高額な設備投資では、1社だけの見積もりでは不十分と判断されることがあるため、早めに複数業者へ声をかけておくと安心です。
