東京都内で高齢者向けの補聴器購入費助成を探すと、「東京都」に直接申請する窓口は存在しないことに気づきます。実際に申請するのは、住んでいる区市町村です。北区は上限7万円、文京区は上限72,450円、八王子市は上限3万円というように、同じ東京都内でも助成額は区市町村ごとにばらばらです。
なぜこうなるのか。東京都は「高齢者聞こえのコミュニケーション支援事業」という仕組みで、区市町村が実施する補聴器助成の費用を2分の1補助しています。 つまり都は財源の出し手であって、対象者や金額を決めているのは各区市町村です。この2階建ての構造を知らないと、「東京都のホームページを見ても申請方法が分からない」という状態になり、時間を無駄にしてしまいます。
この記事では、東京都内の代表的な区市町村の助成額を一次情報で確認し、比較します。62の区市町村すべてを網羅するのではなく、申請の仕組みと金額のばらつきの実態を理解することを目的にしています。
補聴器は機種によって価格差が大きく、自己負担が大きな負担になることがあります。東京都は、加齢性難聴の高齢者のコミュニケーションの機会を確保し、介護予防につなげることを、この補助事業の目的に挙げています。
東京都の補助事業の中身(令和8年度)
東京都福祉局の令和8年度事業の紹介ページによると、「高齢者聞こえのコミュニケーション支援事業」で都が補助する対象は次の3つです。
- 適正な補聴器支給(補助率1/2)
- 加齢性難聴に係る普及啓発(補助率10/10)
- 加齢性難聴に係る聴覚検診(補助率10/10。自治体内に補聴器相談医が在籍する医療機関がない区市町村に限り加算対象)
補助を受けるには、区市町村が1と2の両方を実施する(または、1を翌年度に実施する想定で2だけを先行して実施する)必要があります。補聴器の支給に対する都の補助率が1/2で、残りは区市町村が負担します。
東京都の補聴器助成は「都1つ」ではなく「区市町村ごと」
高齢者向けの補聴器購入費助成は、東京都内の多くの区市町村で実施されています。実施していない区市町村もあり、制度としては市区町村ごとの独自事業です。対象年齢・所得要件・助成上限額・申請方法がすべて自治体ごとに異なります。
- 財源: 都が区市町村の補聴器支給に対する補助率1/2で補助(区市町村が制度を持たなければ都の補助も出ない)
- 申請窓口: 各区市町村の高齢福祉担当課
- 制度の有無・内容: 区市町村ごとの条例・要綱で決まる
「東京都 補聴器 補助金」と検索して都のページにたどり着いても、申請書はそこにありません。 住んでいる区市町村のページを個別に確認する必要があります。都の事業紹介ページは区市町村向けの補助の説明で、個人が記入する申請書式は区市町村ごとに用意されています。
区市町村ごとの助成額を比較する
一次情報で確認できた代表的な区市町村の助成内容を比較します。
| 自治体 | 年齢要件 | 所得要件 | 助成上限額 |
|---|---|---|---|
| 北区 | 65歳以上 | 住民税非課税または均等割のみ課税、生活保護受給者等 | 7万円(購入額が下回れば実費、1,000円未満切捨て) |
| 文京区 | 65歳以上(申請年度に65歳になる64歳を含む) | 記載なし | 72,450円(片耳・両耳同額) |
| 江東区 | 65歳以上 | 記載なし | 72,450円(現物支給か購入費助成のいずれかを選択) |
| 港区 | 60歳以上、または区の高齢者聴力検査対象者 | 非課税者・課税者で助成率が異なる | 非課税者は上限144,900円(全額)、課税者は購入額の1/2(上限72,450円) |
| 八王子市 | 65歳以上 | 記載なし | 3万円(購入価格5万円超の場合、超過分を上限3万円まで) |
| 世田谷区 | 65歳以上 | 前年度の住民税が非課税 | 5万円(購入額が下回れば実費、1,000円未満切捨て) |
| 府中市(多摩地域) | 65歳以上 | 前年の合計所得金額が210万円未満 | 補聴器本体購入費の1/2、上限4万円 |
同じ「65歳以上」という年齢要件でも、助成の上限額は3万円〜144,900円までの開きがあります。 港区のように課税・非課税で助成率が変わる(非課税者は全額、課税者は半額)自治体もあれば、北区・文京区・世田谷区のように所得にかかわらず(または非課税を条件に)定額の自治体もあります。
府中市のように上限4万円・補助率1/2という設計だと、購入した補聴器が8万円未満であれば上限に届かず、実際の助成額は購入額の半分にとどまります。定額型(北区・文京区・世田谷区等)と定率型(港区・府中市等)のどちらの設計かによって、高額な補聴器を選んだときの自己負担の増え方が変わってきます。
「聴力レベル」の条件にも差がある
多くの自治体で、身体障害者手帳の交付対象になるほどの重度難聴ではなく、中等度難聴(身体障害者手帳の対象外)の高齢者を支援対象としています。
- 北区: 両耳の聴力レベルが40dB以上70dB未満、耳鼻咽喉科医が補聴器の使用が望ましいと判定していること
- 八王子市: 両耳の聴力レベルが40dB以上で身体障害者手帳の交付要件を満たさず、補聴器の効果が期待できると医師が判断していること
- 世田谷区: 聴力レベルが40dB以上(片耳が高度以上の難聴の方も対象)
- 府中市: 両耳とも40dB以上、または片耳が70dB以上
- 共通する前提: 聴覚障害による身体障害者手帳を持っていないこと(手帳がある場合は障害者総合支援法の補装具費の対象になるため、対象が重複しないよう線引きされている)
「身体障害者手帳を持っていない中等度難聴の高齢者」という制度設計は、多くの区市町村で共通しています。 ただし具体的な聴力レベルの基準値や、医師の意見書のフォーマットは自治体ごとに違うため、耳鼻咽喉科を受診する前に自分の区市町村の要綱を確認しておくと二度手間になりません。
身体障害者手帳の交付対象になる高度・重度難聴の場合は、障害者総合支援法にもとづく補装具費支給制度で補聴器の費用が支援される仕組みがあります。区市町村の補聴器助成は、手帳の対象にならない中等度難聴の高齢者を想定した制度として設けられています。
聴力レベルの測定は、耳鼻咽喉科で行う純音聴力検査によって「dB(デシベル)」の数値で示されます。この数値が自治体の定める基準(40dB以上等)に届いているかどうかを、医師が申請書の意見欄に記入する自治体があります(世田谷区・文京区・江東区は耳鼻咽喉科の医師の証明や意見が必要です)。まず耳鼻咽喉科を受診し、自分の聴力レベルを数値で把握しておくと、助成の対象になるかどうかを判断しやすくなります。
定額型と定率型で自己負担がどう変わるか(シミュレーション)
同じ8万円の補聴器を購入した場合で比較すると、設計の違いがはっきり見えます。
ケース1: 世田谷区(定額型、上限5万円)に住む場合
8万円(購入額) − 5万円(助成上限) = 3万円(自己負担)
ケース2: 府中市(定率型、購入額の1/2・上限4万円)に住む場合
8万円(購入額) × 1/2 = 4万円(助成額。上限4万円ちょうど)
8万円 − 4万円 = 4万円(自己負担)
同じ8万円の補聴器でも、自己負担額は1万円違います。 さらに安価な補聴器(例えば5万円)を選んだ場合は、定率型のほうが助成額が2万5,000円にとどまり、定額型(世田谷区なら実費の5万円まで全額)のほうが有利になる場合もあります。どちらの自治体の制度が有利かは、選ぶ補聴器の価格帯によって変わるという点を押さえておくと、購入前の資金計画が立てやすくなります。
「現物支給」と「購入費助成」の違い
江東区のように、支給方式を選択できる自治体があります。
| 方式 | 内容 | 費用 |
|---|---|---|
| 現物支給 | 自治体指定の耳掛け型補聴器1台を支給 | 無料 |
| 購入費助成 | 自分で選んだ補聴器の購入費を助成 | 上限額まで(超過分は自己負担) |
現物支給と購入費助成は同時に利用できず、申請時にどちらか一方を選ぶ必要があります。 現物支給は費用がかからない代わりに機種を選べず、購入費助成は自分で機種を選べる代わりに上限を超えた分は自己負担になります。「安く済ませたいか、自分に合った機種を選びたいか」で選択が変わります。
申請の流れ(多くの区市町村に共通するパターン)
- 高齢福祉担当課の窓口またはウェブサイトで、制度の有無・要件を確認する
- 耳鼻咽喉科を受診し、医師の意見書(申請書兼意見書)に記入してもらう
- 意見書を役所に提出し、交付決定通知を受け取る
- 交付決定後に登録販売店等で補聴器を購入する
- 領収書・保証書等を提出し、助成金の振込を受ける
多くの自治体で「交付決定より前に購入した補聴器は対象外」というルールになっています。 先に補聴器を買ってしまってから申請しても間に合わないため、購入前の相談が必須です。八王子市のようにオンラインフォーム申請かつ「市が登録する販売店以外で購入した場合は対象外」という条件がある自治体もあり、事前確認の重要性は共通しています。
世田谷区は、認定補聴器技能者が在籍する販売店で相談と試聴を行い、見積書を取ってから申請する流れです。 助成の交付決定を受けてから購入する流れのため、交付決定前に購入すると助成対象外になります。
購入までの期限と予算の上限
手続きには、自治体ごとの期限があります。
- 北区・文京区: 交付決定通知の日から6か月以内に補聴器を購入し、領収書等を提出する
- 世田谷区: 申請書の医師意見欄の作成日から6か月以内に申請する
- 八王子市: 予算の上限に達し次第、受付が終了する。交付決定を受けた人は、通知に記された期限までに購入する
急に必要になったからといって即日交付されるものではないため、聞こえにくさを感じ始めたら、早めに耳鼻咽喉科を受診し、自分の区市町村の期限と受付状況を確かめてください。
補聴器の購入費は医療費控除の対象になるか
補聴器そのものの購入費は、原則として医療費控除の対象にはなりません。ただし、耳鼻咽喉科の医師が「治療のために必要である」と判断し、一定の様式(「補聴器適合に関する診療情報提供書」)を発行した場合に限り、医療費控除の対象になるという特例があります。
- 対象になる可能性がある: 補聴器相談医が診療情報提供書で、補聴器が診療に直接必要であると証明した場合
- 対象になりにくい: 医師の診療情報提供書なしに、販売店で直接購入した場合
区市町村の補聴器助成と医療費控除は、要件が異なる別の制度です。区市町村の助成を受けたうえで、自己負担分について医療費控除の対象になるかどうかは別途確認が必要で、自動的に両方が適用されるわけではありません。
障害者総合支援法の補装具費支給制度との違い
身体障害者手帳の交付対象になる高度・重度難聴の場合は、区市町村の高齢者向け補聴器助成ではなく、障害者総合支援法にもとづく補装具費支給制度が適用されます。
| 項目 | 区市町村の高齢者向け補聴器助成 | 障害者総合支援法の補装具費支給制度 |
|---|---|---|
| 対象者 | 身体障害者手帳を持たない中等度難聴の高齢者 | 聴覚障害による身体障害者手帳の交付対象者 |
| 助成の性格 | 各区市町村の独自事業(東京都が財源の半分を補助) | 全国共通の制度(国・都道府県・市区町村が費用を分担) |
| 助成額の決まり方 | 区市町村ごとに上限額が異なる | 補装具の基準額にもとづき、原則1割の自己負担(所得に応じた上限あり) |
「聴力レベルが重いほど有利」というわけではなく、どちらの制度も対象者の範囲が明確に分かれているため、まず自分がどちらの制度の対象になるかを耳鼻咽喉科の診断で確認することが最初のステップになります。
補装具費支給制度の対象になる場合、身体障害者手帳の交付を受けたうえで、指定自立支援医療機関等の意見にもとづき補聴器の種目・基準額が決まります。申請の窓口や必要書類は、お住まいの区市町村の障害福祉の担当課に確認してください。
よくある質問
東京都に直接申請できますか?
できません。都は区市町村の実施費用の半分を補助する立場で、申請窓口は住んでいる区市町村の高齢福祉担当課です。都のホームページを探しても申請フォームは見つかりません。
住んでいる区市町村に制度が無い場合はどうすればいいですか?
補聴器助成を実施していない区市町村もあります。その場合は、身体障害者手帳の交付対象になるレベルの難聴であれば障害者総合支援法の補装具費支給制度が使える可能性があるため、福祉担当課に相談してください。
過去に助成を受けたことがあっても、また申請できますか?
多くの自治体で「過去5年以内に助成を受けていないこと」を条件にしています。前回の助成から5年以上経っていれば再度申請できる自治体が一般的ですが、年数の基準は自治体ごとに確認が必要です。
住民税が非課税かどうかはどこで確認できますか?
毎年6月頃に送付される「住民税課税(非課税)証明書」や納税通知書で確認できます。世田谷区・北区のように非課税を条件にしている自治体では、この証明書の提出を求められることが一般的です。前年の所得状況によって毎年判定が変わるため、今年は非課税でも来年は課税世帯になる(またはその逆)ことがある点に注意してください。
補聴器の価格帯はどのくらいですか?
片耳あたり数万円の機種から、両耳分で数十万円になる高機能な機種まで幅があります。助成の上限額(3万円〜144,900円)は、いずれの自治体でも補聴器の価格全体をカバーするものではなく、あくまで一部を補うものであると理解しておくと、購入時の予算感がつかみやすくなります。
両耳分の補聴器を購入した場合、助成は2台分もらえますか?
自治体によります。文京区のように「片耳・両耳を問わず同額」と定めている自治体もあれば、片耳1台分に限定している自治体もあります。両耳での購入を検討している場合は、申請前に対象台数を確認しておくとよいでしょう。
認定補聴器技能者のいる店で買わないといけませんか?
自治体によっては必須です。 世田谷区は認定補聴器技能者が在籍する販売店での購入を対象機器の条件にし、府中市は認定補聴器専門店か認定補聴器技能者が在籍する販売店を対象としています。八王子市は「市が登録する販売店」、港区はテクノエイド協会の補聴器販売店検索システムに掲載された店舗に限っています。事前に販売店の条件を確認してください。
引っ越しをした場合、助成はどうなりますか?
助成は住んでいる区市町村の制度のため、引っ越し先の区市町村で改めて申請する必要があります。 転居前の自治体で助成を受けていても、転居先の自治体で「過去5年以内の助成歴」がどう扱われるかは自治体ごとの規定によります。転居予定がある場合は、転居前・転居後どちらの自治体で申請するのが有利かを事前に比較しておくとよいでしょう。
家族が代理で申請できますか?
自治体によって扱いが異なります。北区は代理での相談・申請を認めていますが、必要書類は自治体ごとに違うため、事前に高齢福祉担当課へ電話等で確認してから手続きを進めてください。
まとめ: まず自分の区市町村の要綱を確認する
ここまで見てきたとおり、東京都内の高齢者向け補聴器助成は「制度があること」自体はほぼ共通していても、金額・所得要件・聴力レベルの基準・現物支給か購入費助成かという方式まで、区市町村ごとにばらばらです。 「隣の区は7万円だから自分の区も同じはず」という思い込みは通用しません。まずはお住まいの区市町村の高齢福祉担当課のページ、または電話での問い合わせで、要綱を直接確認することが、遠回りのようで一番確実な進め方です。あわせて、対象になりそうな聴力レベルかどうかを耳鼻咽喉科で確認しておけば、実際に申請するかどうかの判断がスムーズになります。
免責事項: 本記事の内容は2026年10月時点で各区市町村と東京都の公式ページで確認できた情報にもとづきます。助成額・対象要件は区市町村ごとに異なり、予算状況により変更される場合があるため、申請前に必ずお住まいの区市町村の公式ページでご確認ください。
