チェックインや精算の対応に手が取られて、清掃や配膳が後回しになる。深夜・早朝は最少人数で回さざるを得ず、予約管理も紙やメモ頼りで抜け漏れが怖い――。そんな宿泊施設の「人手がかかる工程」を自動化する投資の1/2を、国が上限1,500万円まで補助してくれるのが「中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)」です。
この補助金の最大の特徴は、あらかじめ登録された「省力化製品カタログ」の中から製品を選んで導入する仕組みであること。館内専用にオーダーメイドで設計する設備(=別枠の「一般型」の領域)ではなく、カタログに載っている自動チェックイン機やロボットなどの汎用製品を選ぶだけなので、手続きがシンプルで、しかも締切のない通年・随時受付。「繁忙期を過ぎたら申請しよう」「見積もりが揃ったタイミングで出そう」というように、自社のペースで動けるのが強みです。宿泊業・旅館の現場で何に使えて、いくらもらえるのか、順番に見ていきましょう。
図: 省力化投資補助金(カタログ注文型)が宿泊業・旅館でどう使えるかの全体像
カタログ注文型は宿泊業・旅館の何に使える?
対象になるのは、事務局の「省力化製品カタログ」に登録済みの、生産性向上に効果的なIoT・ロボット等の汎用製品です。館内専用に設計する特注設備ではなく、"型番のある既製品"をカタログから選ぶイメージで捉えると分かりやすいです。
対象製品の具体例
- 自動チェックイン機・セルフ精算機:フロント対応や会計を省力化する受付・精算端末
- 清掃ロボット:客室・共用部の清掃を自動化するロボット
- 配膳ロボット:館内の食事処や宴会場での配膳・下膳を自動化するロボット
- 券売機:食事処や入浴施設のチケット発券・会計を自動化する機器
- 自動化厨房機器:調理工程の一部を自動化する厨房機器
- 在庫・予約管理連携機器:客室在庫や予約状況と連動する管理システム機器
これらはあくまで例で、カタログに登録された製品であれば他のIoT・ロボット等も対象になります。製品本体価格(機械装置・専用ソフトウェア等の購入経費)に加えて、設置費・運搬費・動作確認費・導入設定費用といった導入経費も対象です。
図: カタログ注文型で宿泊業・旅館が導入しやすい製品カテゴリの例
「館内専用に作り込んだ設備」はカタログ注文型の対象外
館内の動線や建物の構造に合わせて受付カウンターや配膳ラインを個別に設計・構築するような、現場に合わせたオーダーメイドの設備・システムは、カタログ注文型ではなく別枠の「一般型」の対象です。一般型は事業計画の自由度が高い一方、申請から交付決定までの期間が長く、締切も回次ごとに設定されています。「カタログに載っている既製品で足りるか、館内専用に作り込む必要があるか」が、どちらの型を検討するかの分かれ目です。
いくらもらえる?上限1,500万円の中身
「最大1,500万円」は無条件ではありません。上限額は従業員規模によって段階的に決まり、賃上げに取り組むとさらに引き上がる仕組みです。
| 従業員数 | 補助上限額(通常) | 補助上限額(賃上げ達成時) | 補助率 |
|---|---|---|---|
| 5人以下 | 500万円 | 750万円 | 1/2以下 |
| 6〜20人 | 750万円 | 1,000万円 | 1/2以下 |
| 21人以上 | 1,000万円 | 1,500万円 | 1/2以下 |
※2026年3月19日の制度改定後の数値です。補助率は1/2以下で固定され、事業場内最低賃金を3.0%以上引き上げる等の賃上げ要件を満たすと、補助率ではなく上限額が引き上がります。
宿泊タイプ別シミュレーション
同じ「上限」でも、宿の規模とやりたいことで使い方はまったく変わります。異なる3つの宿泊タイプを例に、いくら投資するといくら補助になるかを見てみましょう。
図: 宿泊タイプ別に見る「いくら投資して、いくら補助されるか」
① 小規模な民宿・ペンション(従業員4人) 夫婦と数名のスタッフで切り盛りしていて、深夜・早朝のチェックイン対応に人手を取られている。自動チェックイン機とセルフ精算機をあわせて導入する見積もりは1,000万円(従業員4人は「5人以下」区分)。 → 1,000万円 × 1/2 = 500万円の補助(上限500万円ぴったり)。 賃上げ要件を満たすと上限額が500万円から750万円に引き上がるため、投資額を1,500万円まで拡大しても750万円の補助を受けられます(新しい上限750万円ぴったり)。増えた500万円の投資枠で、客室在庫と連動する予約管理連携機器まで追加導入できます。
② 中規模旅館(従業員15人) 客室清掃と食事処の配膳に人手がかかり、繁忙期は手が回らない。清掃ロボットと配膳ロボットをあわせて導入する見積もりは1,500万円(従業員15人は「6〜20人」区分)。 → 1,500万円 × 1/2 = 750万円の補助(上限750万円ぴったり)。 賃上げ要件を満たすと上限額が750万円から1,000万円に引き上がるため、投資額を2,000万円まで拡大しても1,000万円の補助を受けられます(新しい上限1,000万円ぴったり)。増えた500万円の投資枠で、食事処の券売機まで追加導入できます。
③ ビジネスホテル(従業員35人) フロント対応の省力化は進めたいが、清掃と客室管理の人手不足が深刻。セルフ精算機と清掃ロボット複数台をあわせて導入する見積もりは2,000万円(従業員35人は「21人以上」区分)。 → 2,000万円 × 1/2 = 1,000万円の補助(上限1,000万円ぴったり)。 賃上げ要件を満たすと上限額が1,000万円から1,500万円に引き上がるため、投資額を3,000万円まで拡大しても1,500万円の補助を受けられます(新しい上限1,500万円ぴったり)。増えた500万円の投資枠で、客室の在庫・予約管理連携機器まで追加導入できます。
このように、宿の規模や自動化したい工程が違っても「投資額の1/2を国が補助する」という考え方は共通です。まずは自社の従業員規模がどの区分に当てはまるかを確認してみましょう。
自社の投資がカタログ注文型・一般型のどちらに合うか、対象製品の選び方や事業計画の書き方に迷う場合は、専門家に相談するのも一つの方法です。 → 専門家に無料相談する
締切はいつ?通年・随時受付という強み
カタログ注文型は、2024年8月9日以降、回次制ではなく随時受付に移行しています。「◯月◯日までに申請しないと」という締切に追われることがなく(システムのメンテナンス期間を除く)、カタログから製品を選び、販売事業者と事業計画を固められたタイミングで申請できるのが実務上のメリットです。繁忙期を避けて閑散期に申請する、といった自社のペースでの動き方も可能です。申請から交付決定までは概ね1〜2か月というスピード感も特徴です。
図: カタログ注文型は「随時受付」。締切を気にせず、準備が整ったタイミングで申請できる
事業実施期間は、交付決定日から原則12か月以内です。補助金は経費を立て替えて支払った後に実績報告を経て交付される仕組みのため、設備の発注前に資金繰りの見通しを立てておくと安心です。
承認までの重要なタイミングと必要書類
「何が必要か」よりも「いつ何が必要か」を押さえるほうが、準備のスケジュールを組みやすくなります。
| タイミング | やること | 必要になるもの |
|---|---|---|
| 導入を決めたらすぐ | GビズIDプライムアカウントを取得する(電子申請に必須) | マイナンバーカードや印鑑証明書等の本人確認書類 |
| 申請前 | 製品カタログから対象製品を選び、その製品の「販売事業者一覧」から販売事業者を選定。販売事業者と共同で事業計画を策定する | 共同事業計画、製品・販売事業者の選定資料 |
| 準備が整い次第・随時 | 販売事業者と共同で電子申請システムから応募・交付申請 | 共同事業計画、見積書等 |
| 申請から概ね1〜2か月後 | 交付決定 | ― |
| 交付決定日〜事業実施期間終了(原則12か月以内) | 事業実施(設備の発注・導入・支払い) | 契約書・見積書・請求書・領収書などを保管 |
| 事業終了後 | 実績報告 → 補助金の入金 | 実績報告書、支払いを証明する証憑(領収書・振込明細など) |
| 事業終了後3年間(毎年度) | 効果報告 | 稼働状況・生産性向上の達成状況に関する報告 |
図: いつ・何が必要になるか。製品選定と販売事業者との共同事業計画づくりが申請前の最初の山場
特に注意したいのが、交付決定より前に設備を発注・契約してしまうと補助対象外になること。販売事業者との共同事業計画の策定は、申請前に済ませておくべきステップです。
「うちの宿でも対象?」対象事業者の考え方
対象になるのは中小企業者、小規模企業者・小規模事業者、特定事業者の一部、特定非営利活動法人、社会福祉法人等です。加えて「人手不足の状態にある中小企業等」という要件も明記されています。
宿泊業が中小企業者にあたるかどうかは、日本標準産業分類上「サービス業」として扱われ、資本金または常時使用する従業員数のいずれかが基準以下であることで判断されます。
- 宿泊業(サービス業扱い):資本金5,000万円以下、または常時使用する従業員数100人以下
例:フルタイム社員10人+パート5人の旅館(法人) → 宿泊業はサービス業の基準「資本金5,000万円以下または従業員100人以下」で判定されます。従業員15人・資本金がこの基準以下であれば中小企業者として対象です。従業員規模の区分は「6〜20人」にあたるため、補助上限額は750万円(賃上げ達成時1,000万円)が当てはまります。
自社が対象に入るかの最終判断に迷う場合は、公式サイトで確認するか、認定経営革新等支援機関に相談すると確実です。
よくある質問
カタログに載っていない館内専用の受付カウンターは対象になりますか?
カタログ注文型の対象は、事務局の製品カタログに登録済みの汎用製品です。館内専用に設計する特注の受付カウンターや配膳ラインは、別枠の「一般型」で検討する対象になります。
締切はいつですか?
カタログ注文型に締切という概念はなく、通年・随時受付です(システムのメンテナンス期間を除く)。製品選定と販売事業者との共同事業計画が整ったタイミングで申請できます。
補助上限は本当に1,500万円ですか?
1,500万円は、従業員21人以上・賃上げ要件を達成した場合の上限です。従業員規模や賃上げ達成の有無によって上限額は異なり、無条件で1,500万円がもらえるわけではありません。
対象になるのは中小企業だけですか?
宿泊業は資本金5,000万円以下または従業員100人以下が中小企業者の基準です。加えて「人手不足の状態にある中小企業等」という要件も明記されています。該当するか判断に迷う場合は認定経営革新等支援機関にご確認ください。
※補助上限額・補助率・締切などの制度内容は、公募要領の改定により変更される場合があります。申請前に必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。
出典(一次情報): 中小企業省力化投資補助金 公式サイト(中小機構)/カタログ注文型・制度概要/カタログ注文型・スケジュール/カタログ注文型・申請の流れ/カタログ注文型・2026年3月19日制度改定
採択される事業計画には“書き方の型”があります
同じ設備投資でも、事業計画の書き方ひとつで採択・不採択は変わります。審査で見られるポイントや、そのまま使える記入例は、一般には出回っていません。
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この補助金の概要(早見表)
| 検索項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型) |
| 対象業種 | 全業種(宿泊業=「宿泊業、飲食サービス業」も対象) |
| 利用目的 | 設備整備・IT導入をしたい |
| 対象地域 | 全国 |
| 従業員数 | 中小企業・小規模事業者(宿泊業は資本金5,000万円以下または従業員100人以下) |
| 補助上限額 | 最大1,500万円(従業員規模・賃上げで変動。内訳は本文表を参照) |
| 補助率 | 1/2以下(固定) |
| 申請受付 | 随時受付中(締切なし) |
| 公式サイト | カタログ注文型 公式サイト |
※この表の項目(対象業種・利用目的・対象地域・従業員数)は、GRANTOSの補助金診断の検索軸に対応しています。

