事業承継・M&A補助金の事例は、単に「継いだ」話では終わりません。承継やM&Aを機に、事業の中身そのものを変えた例が目立ちます。
中小機構の「補助金活用ナビ」には、実在企業のアフターストーリーが公表されています。本記事では、そのうち4事例を取り上げます。架空の事例は扱いません。
公式に公表されている採択事例
事例は、中小機構「補助金活用ナビ」の事業承継・M&A補助金カテゴリに掲載されています。以下で紹介する4事例は、いずれもこのページに実名で公表されている内容です。
4事例はいずれも、令和3〜5年度の「事業承継・引継ぎ補助金」(現行制度の前身)を活用したものです。現行の事業承継・M&A補助金として採択された事例は、公式の事例集ではまだ確認できませんでした。
枠の考え方は引き継がれていますが、当時と現行で補助上限額・要件は同じではありません。金額を比べるときは、必ず現行の公募要領を確認してください。
事例①:老舗旅館の親族内承継(有限会社大和館)
箱根の老舗温泉旅館「大和館」は、親族内承継の事例です。夫の実家の旅館を、女将が引き継ぎました。
- 業種:宿泊業(温泉旅館)
- 使途:遊休スペースを改修し、多目的室と通路を整備
- 計画の中身:セミナーや体験企画(温泉水を使った書道体験)ができる空間づくり
- 効果:事業計画の売上見込みを上回る売上を達成。旅行会社の定宿から、幅広い一般客向けの体験型旅館へ転換
承継後、単に旅館を維持するのではなく、新しい客層向けの体験サービスに踏み出した点が、この事例の核です。
事例②:製造業の後継者による事業転換(奈良食品株式会社)
国産無添加はるさめを製造する奈良食品は、後継者が就任後に事業の軸を広げた事例です。
- 業種:製造業(食品)
- 使途:キッチンの新設、カフェスペース、直売所の整備
- 計画の中身:飲食店・惣菜製造に必要な許可を取得できる環境づくり
- 効果:売上が就任時より約3割増加、利益率は15%改善。直売所は遠方からもファンが訪れる集客拠点に
「作る」だけだった事業に、「届ける」場所を加えたのが、この事例の転換点です。
事例③:M&Aで卸売業から製造業へ転換(株式会社丸繫)
食品卸売業だった丸繫は、M&Aをきっかけに菓子製造業へと事業を転換しました。
- 業種:卸売業 → 菓子製造業
- 使途:譲り受けた施設の改修工事(電気・ガス設備工事、壁面工事など)
- 計画の中身:倉庫だった建物を、製造施設として使えるように転用
- 効果:土産物店へのカバー率が20%から90%まで拡大。OEM商品の受注や新商品開発にも展開
卸売業だけでは超えられなかった「壁」を、M&Aによる業態転換で越えた事例です。
事例④:M&A後の統合投資で新事業(株式会社能作)
鋳物メーカーの能作は、M&A成約後の統合投資で新しいブランドを立ち上げた事例です。活用したのは令和5年度の事業承継・引継ぎ補助金 経営革新枠(M&A類型)です。
- 業種:製造業(鋳物・ジュエリー)
- 使途:試作品の製作費用、ブランド構築のための業務委託費用
- 計画の中身:M&Aで経営統合した企業との技術を組み合わせた新製品開発
- 効果:錫とジュエリーを融合させた新事業を実現。伝統工芸の技術を、新しい顧客体験へつなげた
M&Aは成約して終わりではなく、その後の統合投資までが計画の一部だったことがわかる事例です。
廃業・再チャレンジ枠はどんな使われ方が想定されるか
今回確認できた公式の事例集の範囲では、廃業・再チャレンジ枠を活用した実名の採択事例は見当たりませんでした。
そのため、ここでは実例の代わりに、公募要領で定められている対象経費から、想定される使われ方を整理します。
- 廃業支援費(弁護士・税理士など専門家への相談費用)
- 在庫廃棄費
- 店舗の解体費・原状回復費
- リースの解約費用
これらの費用は、他の3枠(事業承継促進枠・専門家活用枠・PMI推進枠)と併用して申請することもできます。「一部の事業をM&Aで譲り、残りを廃業する」という組み合わせにも対応しています。
事例から見える共通点
4つの事例を並べると、共通点が見えてきます。
- 設備投資そのものが目的ではない:改修や導入の先に、新しい客層・新しい商品・新しい事業領域がある
- 承継・M&Aは通過点:継いだ・買った時点で終わらず、その後の展開まで計画に含まれている
- 業種を問わない:旅館・食品製造・卸売・鋳物と、業種はさまざまです
「何を変えるか」まで具体的に描けている計画が、事例として公表されやすい傾向があります。
よくある質問
この事例集はどこで見られますか?
中小機構「補助金活用ナビ」の事業承継・M&A補助金カテゴリに、実名の活用事例が掲載されています。本記事で紹介した4事例も、このページの内容にもとづいています。
紹介された事例と同じ補助金額がもらえますか?
いいえ。事例は個別の状況にもとづくもので、金額を保証するものではありません。特に本記事の3事例は、当時の事業承継・引継ぎ補助金(現行の前身)を活用したもので、現行の補助上限額とは別です。現行の金額は枠別の一覧記事で確認してください。
廃業・再チャレンジ枠の事例が知りたいのですが
今回確認できた公式の事例集には、実名の廃業・再チャレンジ枠の事例は見当たりませんでした。対象経費(廃業支援費・在庫廃棄費・原状回復費など)から、想定される使われ方を本文でまとめています。
事例に共通する「承継後に何を変えるか」の書き方は、審査で見られる観点そのものです。どう具体的に描けば伝わるかは、GRANTOS公式LINEの登録者限定ページで、記入例とあわせて紹介しています。
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この補助金の概要(早見表)
| 検索項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 事業承継・M&A補助金(事業承継促進枠/専門家活用枠/PMI推進枠/廃業・再チャレンジ枠) |
| 対象業種 | 全業種 |
| 利用目的 | 事業を引き継ぎたい |
| 対象地域 | 全国 |
| 従業員数 | 中小企業・小規模事業者(業種により資本金・従業員数で判定。目安300人以下) |
| 補助上限額 | 最大2,000万円(特例上限。通常は枠により150万円〜1,000万円が中心) |
| 補助率 | 1/2〜2/3(枠・要件で変動) |
| 申請受付 | 第15次公募は2026年7月24日(金)17:00に終了。次回(16次)は公式サイトで随時発表 |
| 公式サイト | 事業承継・M&A補助金 公式サイト |
※この表の項目(対象業種・利用目的・対象地域・従業員数)は、GRANTOSの補助金診断の検索軸に対応しています。
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自社の承継計画をどう事業計画に落とし込むか迷う場合は、専門家に無料相談するのも一つの方法です。
※補助上限額・補助率・公募スケジュールなどの制度内容は、公募要領の改定により変更される場合があります。申請前に必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。
出典(一次情報): 事業承継・M&A補助金 公式サイト/中小機構「補助金活用ナビ」事業承継・M&A補助金 活用事例一覧/有限会社大和館の事例/奈良食品株式会社の事例/株式会社丸繫の事例/株式会社能作の事例
