後継者がいないまま廃業する。身内や従業員に継がせ、設備も一新する。同業他社を譲り受けて事業を大きくする。事業承継の形は、経営者の数だけあります。
こうした承継やM&Aの専門家費用・設備投資・廃業費用を支援するのが、事業承継・M&A補助金です。申請枠は4つ(事業承継促進枠/専門家活用枠/PMI推進枠/廃業・再チャレンジ枠)(PMIとは、M&Aの成約後に組織・業務・システムを統合していく取組のことです)。立場によって対象経費が違います。
「最大2,000万円」という数字が独り歩きしがちですが、これは特定の要件を満たした場合の特例上限です。通常の補助上限は、枠によって150万円〜1,000万円が中心です。まずは自分の状況が、どの枠に近いかを確認してみましょう。
事業承継・M&A補助金の要点まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 事業承継・M&A補助金(事業承継促進枠/専門家活用枠[買い手支援・売り手支援・小規模売り手支援]/PMI推進枠[PMI専門家活用・事業統合投資]/廃業・再チャレンジ枠の4枠6類型) |
| 対象業種 | 全業種 |
| 利用目的 | 事業を引き継ぎたい |
| 対象地域 | 全国 |
| 従業員数 | 中小企業・小規模事業者(業種により資本金額・従業員数で判定。目安300人以下) |
| 補助上限額 | 最大2,000万円(特例上限。通常は枠により150万円〜1,000万円が中心。内訳は本文表を参照) |
| 補助率 | 1/2〜2/3(枠・要件で変動) |
| 申請受付 | 直近の第15次公募は2026年6月19日(金)〜2026年7月24日(金)17:00で終了。次回(16次)は公式サイトで随時発表 |
| 公式サイト | 事業承継・M&A補助金 公式サイト |
図: 事業承継・M&A補助金の全体像。詳しくは本文で解説します
事業承継・M&A補助金は何に使える?【4つの申請枠】
まずは4つの枠それぞれで、誰が・何に使えるのかを押さえましょう。
事業承継促進枠(親族内・従業員承継後の設備投資など)
親族内承継や従業員承継で会社を引き継いだ後継者が、新しい設備投資や経営革新に取り組む場合の枠です。対象経費は設備費・産業財産権等関連経費・謝金・旅費・外注費・委託費など。
承継後の取組が「経営革新」に資することの確認書を、認定経営革新等支援機関から取得する必要があります。
専門家活用枠(買い手支援類型・売り手支援類型・小規模売り手支援類型)
M&Aで会社を譲り受ける(買い手)・譲り渡す(売り手)双方が使える枠で、3つの類型があります。
- 買い手支援類型:M&A仲介手数料・FA(ファイナンシャルアドバイザー)費用・デューデリジェンス(買収監査)費用などが対象
- 売り手支援類型:譲渡側の仲介手数料・FA費用などが対象。デューデリジェンス費用の上乗せや、廃業・再チャレンジ枠との併用でさらに補助額が加算される仕組みもあります
- 小規模売り手支援類型(第15次公募で新設):小規模事業者(後述)が売り手となるM&A向けの類型。個人事業主の店舗売却なども対象になります
いずれの類型も、事務局の「M&A支援機関登録制度」に登録された仲介業者・FAを利用することが必須です(未登録の業者に支払った費用は対象外)。
PMI推進枠(M&A成約後の統合作業)
M&A成約後、買収した会社との統合作業(PMI=Post Merger Integration)を進めるための枠です。2類型あります。PMI専門家へのコンサルティング費用が対象の「PMI専門家活用類型」と、統合後の設備投資・システム統合が対象の「事業統合投資類型」です。
廃業・再チャレンジ枠(廃業費用・再チャレンジ)
事業承継やM&Aに伴って既存事業を廃業する場合の枠です。対象は廃業支援費(弁護士・税理士など専門家への相談費用)、在庫廃棄費、店舗の解体費・原状回復費、リースの解約費用など。
他の3枠と併用できます。「一部の事業をM&Aで譲り、残りを廃業する」というケースにも対応できます。
図: 各枠・各類型で対象になりやすい費用の例
対象にならないものの例
- 事務局の「M&A支援機関登録制度」に登録されていない仲介業者・FAへの支払い
- 公的資金の使途として社会通念上不適切と判断される事業(風俗営業等)
- 国の他の補助金・助成金と重複する同一経費
- 交付決定より前に契約・発注してしまった費用(フライング発注)
じつは、事業承継促進枠で求められる「経営革新に資する取組かどうか」は、はっきり白黒つけられる基準が用意されているわけではなく、投資内容によって判断が分かれうる実体判断です。単に古い設備を同じものに置き換えるだけなのか、新しい商品・サービス・生産方式に踏み込む投資なのかで、経営革新への該当性は変わってきます。
いくらもらえる?枠別の補助上限額
「最大2,000万円」は、あくまで一部の枠・一部の要件(後述)を満たした場合の上限です。まずは枠・類型ごとの内訳を正確に押さえておきましょう。
| 枠 | 類型 | 補助上限額の目安 | 補助率 |
|---|---|---|---|
| 事業承継促進枠 | ― | 800万円(賃上げ要件を満たすと1,000万円) | 1/2以内(小規模事業者は2/3以内) |
| 専門家活用枠 | 買い手支援類型 | 600万円〜800万円(「100億企業宣言」特例で最大2,000万円) | 1/2〜2/3以内() |
| 専門家活用枠 | 売り手支援類型 | 600万円〜800万円(デューデリジェンス費用や廃業費との併用で加算あり) | 1/2以内(赤字または営業利益率が低下している場合2/3以内) |
| 専門家活用枠 | 小規模売り手支援類型 | 450万円 | 2/3以内 |
| PMI推進枠 | PMI専門家活用類型 | 150万円 | 1/2以内 |
| PMI推進枠 | 事業統合投資類型 | 800万円(賃上げ要件を満たすと1,000万円、「100億企業宣言」特例で最大2,000万円) | 1/2以内(要件により2/3以内) |
| 廃業・再チャレンジ枠 | ― | 150万円(他枠との併用申請で上乗せされる場合あり) | 1/2以内(要件により2/3以内) |
補助率はいくら?
- 小規模事業者(後述の基準に該当する場合)は、多くの枠で補助率が2/3に引き上がります
- 専門家活用枠(売り手支援類型)は、赤字または営業利益率が低下している事業者の場合、補助率が2/3に引き上がります
- 「100億企業宣言」の特例を満たすと、専門家活用枠(買い手支援類型)とPMI推進枠(事業統合投資類型)の上限が最大2,000万円まで上がります。ただし多くの中小企業・小規模事業者の「通常の上限」は、表のとおり150万円〜1,000万円が中心です
業種横断・シミュレーション
同じ補助金でも、承継の形やタイミングによって使い方はまったく変わります。3つの状況を例に、いくら投資すると補助がいくらになるかを見てみましょう。
図: 状況別に見る「いくら投資して、いくら補助されるか」
① 金属部品加工業(従業員45人・後継者不在で第三者承継=M&A買い手側) 後継者が見つからないまま長年営んできた同業の会社を、M&A仲介会社を通じて譲り受けることになった。M&A仲介手数料・デューデリジェンス費用の見積もりは720万円(専門家活用枠・買い手支援類型)。 → 720万円 × 1/2 = 360万円の補助(通常上限600万円〜800万円の範囲内)。 もっと大型のM&Aでも、「100億企業宣言」の特例要件を満たせば上限2,000万円まで対応できます。
② 食堂(従業員8人・親族内承継+厨房設備とPOSレジの更新) 子どもが後を継ぐことになり、老朽化した厨房設備とPOSレジ、空調を一新したい。見積もりは300万円(事業承継促進枠)。 → 300万円 × 1/2 = 150万円の補助(上限800万円の範囲内)。 同じ設備更新でも、新メニューの開発や非対面決済の導入をあわせて計画に盛り込むと、経営革新の要件を満たしやすくなります。
③ 雑貨小売店(従業員3人・後継者不在で廃業・再チャレンジ) 後継者がおらず、諸事情により長年営んできた店を畳む決断をした。在庫の処分費、店舗の原状回復費・解体費の見積もりは200万円(廃業・再チャレンジ枠)。従業員3人は小規模事業者(商業・サービス業は5人以下)に該当するため、補助率は2/3。 → 200万円 × 2/3 = 約133万円の補助(上限150万円の範囲内)。 廃業は終わりではなく、次の挑戦への区切りでもあります。再チャレンジ計画をあわせて示すことで、この枠の趣旨に沿った申請になります。
承継後の設備投資、M&Aの専門家費用、廃業に伴う費用。どの立場でも使える枠があります。まずは自分の状況がどの枠に近いかを確認してみましょう。
設備投資や販路開拓で使える補助金がないかも、あわせて探してみてください。
締切はいつ?直近(15次)公募の状況
事業承継・M&A補助金は単発ではありません。11次から15次まで繰り返し公募が行われてきた「回次制」です。今回に間に合わなくても、次の回を狙えます。
直近の第15次公募(公募要領公開日:2026年5月22日)の申請受付期間は、2026年6月19日(金)〜2026年7月24日(金)17:00です(本稿は締切当日に公開しており、この日の17:00をもって第15次の申請受付は終了します)。
次回(16次)公募のスケジュールは、本稿執筆時点(2026年7月24日)で公表されていません。過去の実績では、11次以降は数か月おきに新しい回が始まっています。ただし開始時期が確定しているわけではないので、公式サイトで最新の公募情報を確認してください。
図: これまでの公募回の実績。次回の開始時期は公式サイトで随時発表されます
承認までの重要なタイミングと必要書類
「何が必要か」よりも「いつ何が必要か」を押さえるほうが、準備のスケジュールを組みやすくなります。着金までの主なタイミングと、その時点で必要になるものは次のとおりです。
| タイミング | やること | 必要になるもの |
|---|---|---|
| 承継・M&Aの検討を始めたらすぐ | GビズIDプライムアカウントを取得する(電子申請にはこのIDが必須。発行までおおむね2〜3週間) | マイナンバーカードや印鑑証明書等の本人確認書類 |
| 申請する枠が決まったら | 専門家活用枠なら「M&A支援機関登録制度」に登録された仲介業者・FAを選ぶ/事業承継促進枠なら認定経営革新等支援機関に相談し、確認書の発行を依頼する | 承継・M&Aの状況整理、経営革新の取組内容の整理 |
| 公募期間中 | 電子申請システム(Jグランツ)で申請 | 事業計画書、決算書、枠に応じた添付書類(M&A契約関連資料、確認書等) |
| 採択発表後 | 交付決定 | ― |
| 交付決定日〜事業実施期間終了まで | 事業実施(契約・設備導入・専門家費用の支払いなど) | 契約書・見積書・請求書・領収書などを保管 |
| 事業終了後 | 実績報告 → 補助金の入金 | 実績報告書、支払いを証明する証憑(領収書・振込明細など) |
図: いつ・何が必要になるか。GビズIDプライムの取得は、どの枠で申請する場合でも早めに済ませておきたい手続きです
申請は電子申請システム(Jグランツ)のみ。紙の申請はできません。GビズIDプライムの発行には2〜3週間かかります。承継・M&Aを検討し始めた段階で取得しておいてください。
「うちの会社でも対象?」対象事業者の考え方
対象になるのは、資本金または常時使用する従業員数のいずれかが、業種ごとの基準以下の中小企業・小規模事業者等です。
| 業種 | 資本金の基準 | 従業員数の基準 |
|---|---|---|
| 製造業・建設業・運輸業 | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業(ソフトウェア業を除く) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
このほか「小規模事業者」の区分があります。常時使用する従業員が、商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)で5人以下、それ以外の業種で20人以下。ここに入ると小規模売り手支援類型が使え、他の枠でも補助率が高くなる場合があります。
例:従業員3人の雑貨小売店(個人事業主)が店舗を譲渡する場合 → 小売業の小規模事業者基準は「従業員5人以下」(商業・サービス業の基準)。従業員3人であればこの基準に該当し、専門家活用枠の「小規模売り手支援類型」(補助上限450万円・補助率2/3)を検討できます。
自社が中小企業・小規模事業者のどちらにあたるか、どの枠が使えるかの最終判断に迷う場合は、各枠の相談窓口やM&A支援機関登録制度に登録された専門家に相談すると確実です。
よくある質問
本当に最大2,000万円もらえるのですか?
いいえ、無条件ではありません。2,000万円は、専門家活用枠(買い手支援類型)とPMI推進枠(事業統合投資類型)で「100億企業宣言」の特例要件を満たした場合の上限です。通常の補助上限は枠により150万円〜1,000万円が中心です。
今から申請しても間に合いますか?
直近の第15次公募の申請受付は2026年7月24日(金)17:00までで、本稿の公開日は締切当日です。これから書類を揃えて申請するのは、現実的に間に合わない可能性が高いでしょう。次回(16次)のスケジュールは未発表のため、公式サイトで確認してください。
M&A仲介会社はどこでも使えますか?
いいえ。専門家活用枠を利用する場合、事務局の「M&A支援機関登録制度」に登録された仲介業者・FAを利用することが必須です。未登録の業者に支払った費用は補助対象になりません。
事業を畳む(廃業する)だけでも補助金は使えますか?
はい。廃業・再チャレンジ枠は、事業承継やM&Aに伴って既存事業を廃業する場合の費用(廃業支援費・在庫廃棄費・原状回復費など)を対象としています。他の枠と併用して申請することも可能です。
