高校の授業料は無償化されたのに、教科書代も、制服も、修学旅行費も、部活の遠征費も、現金で出ていく。そこを埋めるための制度が「高校生等奨学給付金」です。授業料以外の教育費に充てる、返還不要の給付金です。
そして令和8年度(2026年度)、この制度は大きく変わりました。
- 対象が年収約270万円未満から、約490万円未満まで広がりました
- 予算が152億円から322億円へ倍増しました
- 国の補助割合が3分の1から2分の1に変わりました
つまり、去年は対象外だった中所得の世帯が、今年から対象になっています。 「うちは非課税世帯ではないから関係ない」と思って調べていない方が、いま最も取りこぼしている制度です。
注意点も先に書きます。文部科学省の「高校生等奨学給付金」のページには、令和7年度までの支給額表しか載っていません。 令和8年度の金額は別資料にあり、たどり着きにくくなっています。この記事では、その資料から金額を整理しました。
なお、授業料そのものを支援する「高等学校等就学支援金」は別の制度です。両方を同時に受けられます。 授業料側については高校無償化の所得制限などで扱っています。
令和8年度の支給額(年額)
文部科学省が令和8年1月に示した資料にもとづく、令和8年度予算案の給付額です。
| 世帯区分(年収目安) | 国公立・全日制等 | 私立・全日制等 | 国公立・通信制 | 私立・通信制 |
|---|---|---|---|---|
| 生活保護(生業扶助)受給世帯 | 32,300円 | 52,600円 | 32,300円 | 52,600円 |
| 住民税非課税世帯(〜約270万円) | 143,700円 | 152,000円 | 50,500円 | 52,100円 |
| 年収約270〜380万円(非課税世帯の1/3) | 47,900円 | 50,670円 | 16,830円 | 17,370円 |
| 年収約380〜490万円(非課税世帯の1/4) | 35,930円 | 38,000円 | 12,630円 | 13,030円 |
太字にした下2行が、令和8年度に新しく加わった区分です。
年収の目安は、両親のうちどちらか一方が働き、高校生1人(16歳以上)・中学生1人の4人世帯を前提にした数字です。家族構成が違えば変わります。
専攻科の場合
高等学校の専攻科に在学している場合は、別の区分になります。
- 住民税非課税世帯 … 50,500円
- 年収約270〜380万円 … 16,830円
- 年収約380〜600万円(多子世帯のみ) … 12,630円
専攻科は多子世帯の枠が別に設けられており、年収600万円までが対象になります。
何が変わったのか
令和7年10月の三党合意(自由民主党・公明党・日本維新の会)を踏まえた見直しで、次の2点が変わりました。
1. 対象範囲の拡充
これまで対象は年収約270万円未満(生活保護世帯・住民税非課税世帯)だけでした。
令和8年度からは、ここに2つの区分が加わります。
- 年収約270〜380万円 … 住民税非課税世帯の3分の1
- 年収約380〜490万円 … 住民税非課税世帯の4分の1
国公立の全日制で見ると、非課税世帯の143,700円に対して、47,900円と35,930円という金額です。満額ではありませんが、教科書代や制服代の一部は確実に賄えます。
2. 国の補助割合の変更
これまで国が3分の1、都道府県が3分の2を負担していましたが、国1/2・都道府県1/2に変わりました。
これは読者の手続きには影響しませんが、都道府県の財政負担が軽くなったことで、制度が安定して続く見通しになったという意味があります。
自分が対象かどうかを判定する
年収はあくまで目安です。 実際の判定は、保護者等の住民税所得割額で行われます。
判定に使う数字
判定に使うのは、保護者等(親権者全員)の道府県民税所得割額と市町村民税所得割額の合算額です。
沖縄県の令和8年度の案内では、次のように示されています。
- 年収約490万円未満(一般) … 所得割額の合算が182,500円未満
- 年収約380万円未満(専攻科) … 合算が105,500円未満
- 年収約380〜600万円未満(多子世帯・専攻科) … 合算が105,500円以上264,500円未満
この金額が判定の実体です。 年収は換算の目安にすぎません。
住民税決定通知書のどこを見るか
毎年6月頃に配られる住民税決定通知書(給与所得者なら勤務先経由、それ以外は市区町村から郵送)を用意してください。
- 「市町村民税」の欄にある所得割額を確認する
- 「道府県民税」の欄にある所得割額を確認する
- この2つを足す
- 両親がともに働いている場合は、2人分をすべて合算する
たとえば、父の市町村民税所得割が82,000円・道府県民税所得割が55,000円、母がパートで所得割0円なら、合計137,000円です。182,500円未満なので対象になります。
「所得割額」であって「均等割額」ではありません。 均等割は定額(多くの自治体で年5,000円前後)なので、そちらを見ると全く違う数字になります。
判定でつまずきやすい点
- 年収ではなく所得割額で見る。 同じ年収でも、扶養する家族が多いほど所得割額は下がります。子どもが3人いる世帯は有利になります
- 親権者全員の合算。 父母がともに親権者なら2人分を足します。片方が働いていなくても、その方の分(0円)も含めて数えます
- 住んでいる都道府県への申請。 保護者が都道府県内に在住していることが条件です。子どもが県外の高校に通っている場合は、保護者が住む都道府県に申請します
いくら使えるお金なのか
「授業料以外の教育費」とは、具体的に次のようなものです。
- 教科書費
- 教材費
- 学用品費
- 通学用品費
- 入学学用品費
- 教科外活動費(部活動の費用など)
- 通信費
使い道の報告は求められません。 現金給付なので、上記の費目に充てる前提で支給されますが、領収書の提出などは不要です。
国公立の全日制で非課税世帯なら年143,700円。制服一式と教科書代でほぼ消える額ですが、その分だけ家計から出ていく現金が減ります。
新しく対象になった年収380〜490万円の区分で35,930円。教科書代の1年分程度です。金額としては大きくありませんが、申請しなければ0円です。
いつもらえるのか
ここが制度の分かりにくいところで、都道府県ごとに違います。
申請から支給までのおおまかな流れは次のとおりです。
- 6〜7月頃 … 学校を通じて案内が配られる(または都道府県のサイトで公開)
- 7〜11月頃 … 申請期間。都道府県によって幅があります
- 年内〜年度末 … 審査を経て支給
沖縄県の令和8年度の例では、県外の高校に通う生徒向けの申請期間が令和8年7月1日(水)〜令和8年11月30日(月)、家計急変の場合は令和9年1月29日(金)までと示されています。
京都府では、4〜6月に前倒しで支給する仕組みもあります。ただしこれは市町村民税が0円の世帯や生活保護受給世帯に限られ、6月30日が締切とされています。
つまり「いつもらえるか」の答えは、住んでいる都道府県によって違います。 一般的には、申請の締切から2〜4か月後に指定口座へ振り込まれると考えておけばよいでしょう。
正確な時期は、在学する高校または都道府県の教育委員会に確認してください。
申請の手順
- 案内を受け取る … 多くの都道府県では学校を通じて配布されます。私立高校の場合も学校経由が一般的です
- 申請書に記入する … 保護者が記入します
- 必要書類を揃える
- 生徒の在学証明書(学校が発行)
- 保護者全員の住民税課税証明書(またはマイナンバーの提出で代替できる自治体もあります)
- 生活保護受給証明書(生活保護世帯の場合)
- 振込先口座の通帳の写し
- 世帯の状況に応じた書類(ひとり親、扶養の状況など)
- 学校または都道府県に提出
- 審査
- 指定口座に振込
課税証明書は市区町村の窓口で取得します。 発行手数料がかかること、郵送請求だと日数がかかることを見込んで、締切の2〜3週間前には動き始めてください。
マイナンバーの提出で課税証明書を省略できる自治体が増えています。 案内を確認してください。
申請を忘れるとどうなるか
その年度分は受け取れません。 遡って申請することは原則できません。
これが最も惜しいケースです。年間で最大152,000円、新しい区分でも38,000円が、書類1枚を出さなかったために消えます。
特に注意が必要なのは次の方です。
- 今年から対象になった世帯(年収270〜490万円)。制度の変更を知らないまま、案内を見過ごす可能性があります
- 私立高校に通う生徒の保護者。私立の案内は学校ごとに配布のタイミングが違います
- 県外の高校に通う生徒の保護者。学校からではなく、住んでいる都道府県から案内が来る場合があります
高校から書類が配られたら、中身を確認する前に日付だけは見てください。 締切を過ぎてから気づくのが一番多い失敗です。
家計が急変した場合
年度の途中で、失職・倒産・災害・保護者の死亡などにより家計が急変した場合は、通常の申請期間を過ぎていても申請できる仕組みがあります。
沖縄県の例では、家計急変の申請が令和9年1月29日(金)まで受け付けられています。
判定は、急変後の見込み収入で行われます。前年の所得割額では対象外だった世帯も、急変後の状況で対象になり得ます。
該当する可能性がある場合は、すぐに在学する高校または都道府県の教育委員会に相談してください。
世帯パターン別に判定してみる
年収と所得割額の関係が分かりにくいので、4つの世帯で判定の流れを追います。所得割額は同じ年収でも扶養の人数や控除の状況で変わるため、以下は考え方の例です。
パターン1: 父・年収420万円、母・パート年収100万円、公立高校の子1人と中学生1人
世帯の合計年収は約520万円ですが、判定は所得割額の合算です。
父の所得割額(市町村民税+道府県民税)が仮に約145,000円、母はパート年収100万円で所得割0円。合算145,000円で182,500円未満 → 対象。
公立の全日制なので、年収約380〜490万円の区分に相当すれば35,930円。 ※年収の目安と所得割額はズレることがあるため、通知書での確認が必要です。
このパターンが「令和7年度までは対象外だったが、令和8年度から対象になる」典型例です。 世帯年収500万円台でも、扶養する子が2人いることで所得割額が下がり、基準内に収まっています。
パターン2: 母1人・年収280万円、私立高校の子1人
ひとり親世帯です。ひとり親控除が効くため、所得割額はかなり低くなります。
仮に所得割額が約48,000円なら、年収約270〜380万円の区分に相当。私立の全日制で50,670円。
ひとり親世帯は、都道府県や市区町村が独自の給付を上乗せしていることも多くあります。奨学給付金の申請と一緒に、ひとり親家庭向けの支援も確認してください。
パターン3: 父・年収650万円、母・専業主婦、私立高校の子1人と大学生1人
所得割額が仮に約230,000円。182,500円を超える → 対象外。
年収650万円は今回の拡充ラインの外です。ただし、この世帯でも高等学校等就学支援金(授業料)は所得制限撤廃により受けられます。 授業料は支援され、教材費などは自己負担という形になります。
なお、大学生の子については高等教育の修学支援新制度の多子世帯ルートを確認する価値があります。扶養する子が3人以上なら、収入制限なく授業料等減免の対象になり得ます。
パターン4: 生活保護(生業扶助)を受給中、公立高校の子1人
生活保護の生業扶助を受けている世帯は、独立した区分になります。公立で32,300円、私立で52,600円です。
非課税世帯の143,700円より低く見えますが、これは生活保護の生業扶助から教育費の一部がすでに支給されているためです。重複を避ける設計になっています。
申請書でつまずきやすい欄
実際に書類を前にしたときに手が止まりやすいところを挙げます。
「保護者等」に誰を書くか
親権者全員です。父母がともに親権者なら2人とも書きます。離婚していても、親権を共同で持っていれば両方です。単独親権なら親権者1人です。
親権者がいない場合は、未成年後見人、それもいない場合は主たる生計維持者を書きます。
「生計を一にする」の判定
単身赴任などで別居していても、生活費を送っているなら生計を一にしていると扱われます。住民票が別でも、実態で判断されます。
複数の子が高校に通っている場合
子ども1人ごとに申請します。 きょうだいで2人が高校生なら、2人分の申請が必要です。金額もそれぞれに支給されます。
年度の途中で転校・転居した場合
都道府県をまたいで転居すると、申請先が変わります。転居先の都道府県に確認してください。 二重に受給することはできません。
就学支援金(授業料)との違い
混同されやすいので整理します。この2つは別の制度で、両方を同時に受けられます。
| 高等学校等就学支援金 | 高校生等奨学給付金 | |
|---|---|---|
| 何に使うか | 授業料 | 授業料以外(教科書・教材・制服・部活など) |
| 受け取り方 | 学校に直接支払われる(授業料と相殺) | 保護者の口座に現金で振込 |
| 令和8年度の所得制限 | 撤廃 | 年収約490万円未満 |
| 申請先 | 学校 | 都道府県(学校経由が多い) |
就学支援金は令和8年度から所得制限が撤廃されました。 授業料の支援は世帯の収入に関係なく受けられます。
一方、奨学給付金には所得の条件が残っています。授業料は無償になったけれど、教材費や制服代はまだ家計から出ているという状態を埋めるのが、この給付金の役割です。
外国籍の生徒の扱い
文部科学省の資料では、対象者の国籍要件が明示されています。
日本国内に住所を有する者のうち、次のいずれかに該当する方が対象です。
- 日本国籍を有する者
- 特別永住者
- 永住者
- 日本人の配偶者等
- 永住者の配偶者等
- 定住者のうち将来永住する意思があると認められた者
- 家族滞在のうち、日本で出生または小学校卒業までに来日し、小学校および中学校を卒業した者であって、高校等卒業後に日本で就労して定着する意思があると認められた者
就学支援金の新制度の対象外となる外国籍の生徒については、生活保護世帯・住民税非課税世帯への支援のみが対象になります。つまり、令和8年度に拡充された年収270〜490万円の区分は適用されません。
対象になる学校
高等学校、中等教育学校(後期課程)、高等専門学校(1〜3年)、専修学校高等課程、専修学校一般課程および各種学校のうち国家資格者養成課程(中学校卒業者を入所資格とするもの)を置くもの、海上技術学校が対象です。
全日制・定時制・通信制のいずれも対象になります。ただし支給額が課程によって違うことは、冒頭の表のとおりです。
よくある質問
高校生等奨学給付金は令和8年度からいくらもらえますか?
住民税非課税世帯で国公立の全日制なら年143,700円、私立の全日制なら年152,000円です。令和8年度から新たに対象になった年収約270〜380万円の区分は国公立47,900円・私立50,670円、年収約380〜490万円の区分は国公立35,930円・私立38,000円です。生活保護受給世帯は国公立32,300円・私立52,600円です。
年収いくらまでが対象ですか?
令和8年度から年収約490万円未満まで拡大されました。ただし判定は年収ではなく、保護者等(親権者全員)の道府県民税所得割額と市町村民税所得割額の合算額で行われ、合算が182,500円未満であることが基準です。年収の目安は、両親のうちどちらか一方が働き、高校生1人・中学生1人の4人世帯を前提にした数字なので、家族構成が違えば変わります。
いつ振り込まれますか?
都道府県によって違います。一般的には7〜11月頃に申請し、審査を経て年内から年度末にかけて指定口座に振り込まれます。沖縄県の令和8年度の例では申請期間が7月1日〜11月30日、京都府では市町村民税が0円の世帯などに4〜6月の前倒し支給の仕組みがあります。正確な時期は在学する高校または都道府県の教育委員会にご確認ください。
高校無償化と両方もらえますか?
もらえます。高等学校等就学支援金は授業料を対象にした制度で、令和8年度から所得制限が撤廃されました。高校生等奨学給付金は授業料以外の教育費(教科書・教材・制服・部活動費など)を対象にした別の制度です。両方を同時に受けられます。
申請を忘れたら後から申請できますか?
原則として、その年度分は受け取れません。遡っての申請はできないため、案内が配られたら締切を必ず確認してください。ただし、年度の途中で失職・災害などにより家計が急変した場合は、通常の申請期間を過ぎていても申請できる仕組みがあります。該当する可能性がある場合は、在学する高校または都道府県の教育委員会に相談してください。
