農業者が自分ひとりでこの500万円に申し込めるのでしょうか。申し込めません。国の実施要領は計画区域内の農業者が2者以上であることを条件にしており、申請の窓口は市町村で、規約を持つ団体や協議会としてまとまって出す形です。機械や施設を買う制度でもありません。特産品の売り先を調べて販売戦略と所得確保計画をつくり、動き出すまでを1地区あたり最大500万円(定額)で助成します。
中山間地域所得確保推進事業の要点まとめ
正式名:中山間地域所得確保推進事業(中山間地域所得確保対策)
だれが
- 申請者
- 市町村・県・地域協議会・農業者団体等(規約あり)
- 対象業種
- 農業(中山間地域の農業者)
- 利用目的
- 市場調査・販売戦略の検討・所得確保計画の策定と実践
- 対象地域
- 全国の中山間地域(過疎・振興山村・特別豪雪地帯など指定地域)
- 従業員数
- 規定なし(計画区域内の農業者が2者以上)
いくら
- 補助上限額
- 1地区あたり500万円
- 補助率
- 定額(国の予算の範囲内)
いつ・どこへ
- 申請受付
- 2025年12月16日〜2026年12月1日(jGrants掲載の期間)
- 事業の完了
- 完了報告は、完了した年度の翌年度の4月末まで(団体から市町村長へ)
- 公式サイト
- 農林水産省「中山間地域所得確保対策」
自分たちの地域は対象になるか
次の5つがそろえば、申請できる形です。認定農業者(市町村に農業経営改善計画を認められた農業者)が区域内にいるときは、可能な限り加えることが求められます。
当てはまるものにチェックを入れてください。0 / 5
指定された地域は、過疎地域・特定農山村・振興山村・離島・半島・沖縄・奄美・小笠原・特別豪雪地帯・指定棚田地域・急傾斜地帯・農林統計上の中間農業地域か山間農業地域です。地域別農業振興計画は、別の事業の要綱で定める地域の農業振興の計画です。実施主体は、規約を定めた団体か協議会、または市町村・県です。
傾斜の割合は計画区域内の農用地のうちおおむね25%以上で、北海道はおおむね5%以上です。1/100は、水平100メートルで1メートル上がる傾きです。
次のどれかに当たると対象外です。
- ✕ 農業者1人が個人で単独で申し込む
- ✕ 機械や施設の購入だけが目的
- ✕ 計画区域が農用地区域の外にある
調査と計画づくりを伴わない購入は対象外です。農用地区域の外でも、やむを得ず区域外で実施する場合は除きます。
編集部の見方として、要件の判定は自分たちだけでは難しいため、最初に市町村の農政担当へ「うちの区域は指定地域か」を聞くのが近道です。
いくら助成されるのか
国は予算の範囲内で、1地区あたり500万円以内を実施主体に定額で助成します(実施要領 別紙1 第4)。農業者個人への給付ではなく、地区の取組に対する助成です。
計画には成果目標が必要で、販売額を10%以上増やす(投入コストを考えたうえで所得額が10%以上増える形)か、流通・加工のコストを10%以上減らすかのどちらかを選びます。農水省の事例(熊本県南阿蘇村のそば、令和3年度補正)で水準を見ます。
- 現況値は450万円(4,500千円):450万円 × 1.1 = 495万円が、販売額10%増の目安
- 令和5年度の販売額は1,782万2千円(17,822千円)まで伸びた(農水省の資料では296%増)
- 福岡県糸島市の赤米・黒米:82万円(820千円)が115万円(1,150千円)に増え、40%増
500万円を超えて積算した分や、実際の事業費が500万円に満たない場合の精算の細かい扱いは、実施要領に書かれていませんでした。事業実施計画の積算書をつくる段階で、市町村か県に確認してください。
何に使えるのか
対象にならないものを先に挙げます。
- 会議費(需用費のうち、会議費は助成の対象外)
- 耐用年数が3年を超える備品や資材(備品購入費・資材等購入費は、耐用年数3年以下のものだけ)
- 施設や機械の整備そのもの(水田の汎用化・畜産クラスター・鳥獣被害防止・産地生産基盤パワーアップは、別の「関連事業」として、それぞれの要綱で扱います)
- 計画の策定と実践を伴わない、調査だけの取組
対象になるものは次のとおりです。取組はアからカまであり、アからエは選べて、オ(計画の策定)とカ(計画の実践)は必須です。
- ア マーケット調査(国内市場・海外輸出向けの情報収集)
- イ 消費者動向調査(アンケート、試作品のモニター調査)
- ウ 生産・加工・流通・販売の現状分析
- エ 生産・販売戦略の検討(販売先・顧客・生産品目の設定)
- オ 所得確保計画の策定(必須)
- カ 計画の実践(高収益作物の導入、関係者との協議、販路開拓など。必須)
経費には臨時雇用の事務補助員の人件費・謝金・旅費・消耗品費・印刷製本費・通信運搬費・広告料・調査やコンサルタントの委託料・会場や機械器具の借料・借地料・機械の賃料・実践研修の手当などがあります。外部の人材も活用できます。
勘違いされやすいポイント
これは公募要領のある通常の公募ではありません。 農水省のページに載っているのは、実施要綱・実施要領・交付要綱です。申請書は国に直接ではなく、団体から市町村長と都道府県知事を経て地方農政局長へ上がります。
国が業務を発注する委託事業ではありません。 実施要領は「国は、予算の範囲内において、事業実施主体に助成する」と定め、交付要綱の名称も「中山間地域所得確保事業交付金」です。調査を外部に頼む費用は、助成対象の「委託料」に入ります。
500万円は事業者ごとではなく、1地区ごとの上限です。 団体の構成員が増えても、1地区で出せる額は変わりません。
農水省のページにある「中山間地域等直接支払制度」は、別の制度です。 同じ農村振興の項目に別に並んでおり、この記事の事業とは申請先も内容も違います。
締切の日付は2種類見えます。 jGrantsには受付期間の終わりが2026年12月1日と出ています。一方で要綱は「事業を実施する年度の2月末までに事業実施計画書を提出する」としています。団体から市町村と県を経由するため、実際の提出期日は市町村や県に確認が要ります。農水省のページには日付の記載がありません。また、jGrantsの掲載ページには、同サイトでは申請を受け付けておらず、申請方法は農水省の問い合わせ先へ連絡する形と書かれています。jGrantsから申し込む形ではないので、先に市町村へ聞いてください。
申請の流れ
- 計画区域と仲間を決める(地域の農業者→農業者2者以上で団体をつくる。規約が要ります)
- 市町村に相談する(団体→市町村の農政担当。農業者団体が実施主体のときは、市町村の指導・助言を踏まえて計画をつくる決まりです)
- 事業実施計画と所得確保計画をつくる(団体。見積書などの根拠資料も付ける)
- 市町村長へ提出する(団体の代表者→市町村長。市町村が取りまとめて都道府県知事へ、県が地方農政局長へ出します)
- 採択の通知を受ける(地方農政局→県→市町村→団体)
- 国の交付決定のあとで事業を始める(団体。交付決定とは、国が助成額を正式に決める通知のことで、原則ここより前に着手できません)
- 事業が終わったら完了報告を出す(団体→市町村長。完了した年度の翌年度の4月末まで)
必要な書類
準備できた 0 / 6
様式は農水省ページの実施要領様式で、所得確保計画はExcel、ほかはWordです。採択申請書は団体の代表者から市町村長宛てに出し、チェックシートは別記様式第8号です。
根拠資料は積算書・見積書などで、業者から取る見積書などを自分たちで整えます。規約等には目的・構成員・代表者・意思決定方法・会計の方法などを定めます。
採択されない・もらえなくなるとき
- 計画区域の要件を満たさない:農業者が2者以上いない、指定地域ではない、傾斜の条件に届かない場合は、採択の前提を欠きます。
- 交付決定の前に着手した:原則は交付決定のあとです。やむを得ず先に始める場合は、理由を書いた「交付決定前着手届」を出します。その間に災害などで生じた損失は、実施主体の負担になります。
- 環境負荷低減の取組をしない:計画の提出時に、チェックシートで取組を実施する旨を確認します。エネルギーの節減などは実施が交付要件です。
- 成果目標を達成できない:都道府県知事が改善措置を指導し、改善状況の報告が求められます。返還については、実施要領に記載が見当たりませんでした。
今年度の変更点と、見直し・優先枠
今回の事業は令和7年度補正予算によるもので、実施要綱と実施要領は2025年12月16日に一部改正されています。農水省のページには、令和6年度補正で実施した事業に係る旧版の通知も残っています。旧版の要領は別の事業の根拠なので、読む資料は令和7年度補正の項目のものです。
すでに策定済みの所得確保計画を見直す場合も支援されます。対象は令和4〜6年度補正の推進事業で計画をつくった地区で、成果目標の達成が難しいと認められるときに限ります。実施主体は、見直し前と同じ主体です。
また、水田の汎用化・畜産クラスターなどの関連事業を事業実施計画に位置づけると、国は優先的に採択または配分します。
よくある質問
農業者個人でも申し込めますか?
個人が単独で申し込む形は、要領上できません。計画区域内の受益者が農業者2者以上であることが実施要件で、実施主体は都道府県・市町村・地域協議会・農業者団体等です。農業者団体等とは、目的・構成員・代表者・意思決定方法・会計の方法などを定めた規約等を持つ団体をいいます。個人の農業者はまず地域の仲間と団体をつくるか、すでにある協議会や市町村に相談してください。
申請の締切はいつですか?
jGrantsに掲載された受付期間の終わりは2026年12月1日です。農水省のページと実施要領には、この日付の記載がありません。要綱は事業を実施する年度の2月末までに事業実施計画書を提出するとしています。jGrantsは申請を受け付けておらず、団体から市町村と県へ上がる流れなので、提出の期日は市町村に聞くのが確実です。
500万円は何に使えますか?
調査と計画づくり、その実践にかかる経費に使えます。マーケット調査・消費者アンケート・現状分析・販売戦略の検討・所得確保計画の策定と、計画の初年度の取組(販路開拓や高収益作物の導入など)が対象です。人件費・謝金・旅費・消耗品費・委託料・借料などが経費に入ります。会議費は対象外です。外部人材を使ってもかまいません。
農産物加工の機械や施設は買えますか?
推進事業ではほとんど買えません。備品購入費と資材等購入費は、耐用年数が3年以下のものに限られます。施設の整備は、水田の汎用化・畜産クラスター・鳥獣被害防止・産地生産基盤パワーアップなどの関連事業で扱います。関連事業は別の要綱が根拠で、補助率や条件も別です。事業実施計画に位置づけると優先的に採択・配分されます。
どんな地域が対象ですか?
中山間地域のうち地域別農業振興計画を策定した地域が対象です。過疎地域・特定農山村・振興山村・半島・離島・沖縄・奄美・小笠原・特別豪雪地帯・指定棚田地域・急傾斜地帯・農林統計上の中間・山間農業地域のどれかに当たる必要があります。計画区域は原則として農用地区域の内側で、主傾斜1/100以上の農用地がおおむね25%以上(北海道は5%以上)あることも条件です。
補助率はどうなっていますか?
補助率は定額です。国は予算の範囲内で1地区あたり500万円以内を実施主体に助成します。農水省の資料には「交付率 定額(500万円(上限)/地区)」とあります。かかった費用の何割という形ではありません。ただし実際の事業費の精算の扱いは実施要領に書かれていないため、事業実施計画の積算の段階で市町村に確認してください。
採択されたら何をすることになりますか?
所得確保計画に沿って取組を進め、事業完了後も成果を報告します。計画期間は最大3年で、目標年度は計画完了年度の翌年度です。事業評価は計画完了年度の翌年度まで毎年度自分たちで行い、翌年度の5月末までに市町村長へ報告します。目標は販売額10%以上の増加か、流通・加工コスト10%以上の削減のどちらかです。
交付決定の前に始めてもいいですか?
原則はだめです。推進事業の着手は、国からの交付決定通知を受けてからです。やむを得ない事情があるときだけ、理由を書いた交付決定前着手届を市町村長と都道府県知事を経由して出します。この場合は、交付決定までに天災などで生じた損失を実施主体が負担し、交付額が申請額に達しなくても異議を言えないという条件に同意します。
目標を達成できなかったらどうなりますか?
評価で成果目標が達成されていないと、都道府県知事が事業実施主体に改善措置を指導し、改善状況を報告させます。地方農政局長が県に改善措置を指導することもあります。返還を求められるかどうかは実施要領に書かれていません。気になる場合は、目標の置き方(販売額かコスト削減か)を計画の段階で市町村とよく詰めておくのが無難です。
すでにある所得確保計画を見直せますか?
見直せます。令和4〜6年度補正の推進事業でつくった所得確保計画の計画期間内で、成果目標の達成が困難と認められる場合に限ります。策定や見直しをした年度と同じ年度内の見直しは対象外です。実施主体は、見直し前と同じ主体になります。見直しでも成果目標の見直しができ、計画の実践は見直した年度の取組が対象です。
これは補助金ですか、委託ですか?
国から実施主体への交付金(補助金)で、委託事業ではありません。実施要領は「国は、予算の範囲内において、事業実施主体に助成する」と定めています。助成の対象経費に調査やコンサルタントの委託料が入っているのは、実施主体が外部に調査を頼んだ費用も助成の対象になるという意味です。
問い合わせ先はどこですか?
最初の相談先は計画区域がある市町村の農政担当です。国の窓口は農林水産省農村振興局地域振興課の中山間対策班で、ダイヤルインは03-3501-8359、代表は03-3502-8111(内線5638)です。申請書は市町村と県を経由して地方農政局へ上がるので、市町村から先に聞くと提出の期日や必要な様式を教えてもらえます。
