厨房機器の入れ替えで補助金を使えるかどうかは、「単なる更新」か「省人化・販路開拓につながる投資」かで決まります。 古くなったガスコンロを同じものに交換するだけでは対象になりにくく、食器洗浄機で洗い場の人手を減らす、製麺機を自動化して仕込み時間を短縮する、といった変化を説明できると対象になりやすくなります。
私は飲食店を経営していたとき、洗い場のパートが1人辞めた月、食器洗浄機の導入を真剣に検討しました。「機械を入れる」ことより「その機械で何が変わるか」を先に決めてから機種を選ぶ。この順番を覚えておくと、補助金選びも早く進みます。
厨房機器の補助金でまず知っておきたい前提
厨房機器で使える制度は主に3つあります。
- 小規模事業者持続化補助金:販路開拓・業務効率化につながる厨房機器全般が対象になり得る
- 中小企業省力化投資補助金〈カタログ注文型〉:食器洗浄機・製麺機など、カタログに登録された省人化製品が対象
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金:セントラルキッチンの新設など、新事業・大型投資が対象
なお、レジ・券売機の補助金は別記事で解説しています。POSレジの補助金・券売機の補助金もあわせてご覧ください。
対象になりやすい厨房機器・なりにくい厨房機器
補助金の審査では、次のような線引きになります。
| 厨房機器の例 | 対象になりやすいか |
|---|---|
| 業務用食器洗浄機(省人化目的) | なりやすい(洗い場の人手削減を数字で説明しやすい) |
| 自動製麺機・自動炊飯システム | なりやすい(仕込み時間の短縮を説明しやすい) |
| セントラルキッチン向けの大型調理設備一式 | なりやすい(新事業進出として計画できる場合) |
| 単純な入れ替え(同型のガスコンロ・冷蔵庫への交換) | なりにくい(生産性向上との関連が薄いと判断されやすい) |
| 家庭用と兼用できる小型調理器具 | なりにくい(汎用品として対象外になりやすい) |
判断の分かれ目は、その機器を入れることで「作業時間がどう減るか」「新しいメニューがどう増えるか」を具体的に説明できるかどうかです。
小規模事業者持続化補助金での厨房機器
小規模事業者持続化補助金は、補助率2/3、通常枠の上限は50万円、特例を組み合わせると最大250万円まで広がります。厨房機器は「業務効率化」の対象経費として扱われます。
「洗い場の人手が足りず、営業時間を短縮せざるを得なかった」「新メニューを出したいが、今の設備では調理時間が足りない」といった課題と、導入する機器を結びつけて事業計画を書くことが重要です。制度全体の内容は小規模事業者持続化補助金の内容と申請のコツにまとめています。
中小企業省力化投資補助金〈カタログ注文型〉での厨房機器
この補助金は、事務局の製品カタログに登録された汎用製品を選んで導入する仕組みです。食器洗浄機・自動製麺機・自動計量システムなど、人手不足の解消に直結する厨房機器がカタログに登録されている場合、対象になります。
補助上限額は従業員規模で変わります。
| 従業員数 | 通常の上限額 | 賃上げ達成時の上限額 |
|---|---|---|
| 5人以下 | 200万円 | 300万円 |
| 6〜20人 | 500万円 | 750万円 |
| 21人以上 | 1,000万円 | 1,500万円 |
補助率は1/2以内です。カタログに載っていない機種は、どれだけ省人化に役立っても対象外になります。導入前に事務局の製品カタログで機種を検索してください。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金でのセントラルキッチン
複数店舗の仕込みを一括で行うセントラルキッチンを新設し、惣菜製造・卸売という新しい事業に進出する場合は、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の新事業進出枠が候補になります。この枠は建物費または機械装置費のいずれかが必須経費で、店舗・工場の新設・改修を伴う大型投資に向いています。
補助上限額は従業員規模で最大7,000万円(賃上げ特例時9,000万円)、補助率1/2〜2/3です。単純な厨房設備の入れ替えではなく、新しい事業として位置づけられるかが審査の分かれ目になります。制度全体の内容はものづくり補助金の内容と申請のコツにまとめています。
補助金がおりるまでの資金繰りも考えておく
厨房機器の補助金も、経費を立て替えて支払った後に交付される精算払いの仕組みです。発注から補助金が実際に振り込まれるまで、半年前後かかることも珍しくありません。 セントラルキッチンのような大型投資では、この間の資金繰りが特に重要になります。
- 日本政策金融公庫の設備資金融資を、つなぎ融資として活用する事業者が多くいます
- 厨房機器メーカー・販売店によっては、独自の分割払いプランを用意している場合があります
- 故障による緊急交換は補助金の交付決定を待てないため、その場合は補助金を使わずに導入し、次の投資計画で改めて検討するのが現実的です
「補助金が出るから」と全額を借入なしで賄おうとすると、入金までの期間に資金繰りが厳しくなることがあります。 早めに金融機関へ相談しておくと安心です。
制度は年度ごとに変わる。申請前に必ず最新情報を確認する
補助金は年度ごと、公募回ごとに内容が見直されます。この記事に書かれている補助上限額・補助率も、公募回が変われば変わる可能性があります。 特に次のような変化が起きやすい点に注意してください。
- 中小企業省力化投資補助金の補助上限額・賃上げ特例の基準(2026年3月19日の改定のように、年度途中で変わることもあります)
- カタログに登録される厨房機器の種類・機種の追加
- 小規模事業者持続化補助金の補助率・上限額・特例の内容
「以前調べたときはカタログに載っていなかった」という機種も、最新のカタログで改めて確認する価値があります。 申請を検討し始めた段階で、各事務局の公式サイトを確認するか、商工会・商工会議所に相談することをおすすめします。
相談先に迷ったらどこに聞けばよいか
厨房機器の補助金は制度が複数にまたがるため、どこに相談すればよいか迷う事業者も多くいます。目的別に相談先を整理しておきます。
- カタログ注文型の対象機種かどうか:事務局の製品カタログを直接検索するか、機種の販売店に確認する
- 持続化補助金として計画できるか:認定経営革新等支援機関(商工会議所・金融機関・税理士等)に事業計画の相談をする
- セントラルキッチン新設など大型投資の相談:新事業進出・ものづくり商業サービス補助金のサポートセンターに問い合わせる
- 資金繰り全般の相談:日本政策金融公庫や取引金融機関に、補助金と融資を組み合わせた資金計画を相談する
1か所だけに相談して終わらせず、複数の窓口を回ることで、より自社に合った制度が見つかることがあります。 特に商工会議所は、複数の補助金を横断的に比較してアドバイスしてくれることが多く、最初の相談先として有効です。
厨房機器更新のタイミングをどう見極めるか
補助金の有無にかかわらず、厨房機器の更新タイミングは経営判断として重要です。次のような兆候が出てきたら、更新を検討する時期といえます。
- 修理を繰り返しており、部品の調達に時間がかかるようになってきた
- 洗浄・調理の仕上がりにムラが出るようになってきた
- 保健所の衛生基準(食品衛生法に基づく営業許可の設備基準等)を満たしにくくなってきた
- スタッフの負担が増え、離職につながる兆候がある
「まだ使えるから」で更新を先延ばしにすると、繁忙期の故障で営業に支障が出ることがあります。 兆候が出た段階で、補助金の公募スケジュールと照らし合わせながら計画的に更新時期を決めることをおすすめします。
審査で評価されやすい書き方
厨房機器の導入計画では、「便利になるから」という理由だけでなく、次のような要素を数字で示すと審査での説明力が増します。
- 現状の作業時間と、導入後の見込み削減時間(洗い場の作業に1日何時間かかっているか、導入後どう変わるか)
- 削減できる人件費(時給×削減時間で試算する)
- 新メニュー展開による売上増加の見込み(自動製麺機で麺の種類を増やす場合など)
- 食品ロス・廃棄率の変化(自動計量システムで盛り付け量が安定する場合など)
「新しい機械が欲しい」ではなく「これだけ作業時間が減り、これだけ売上が増える見込み」という説明に組み立て直すことで、審査担当者にとって判断しやすい事業計画になります。
厨房機器の補助金でよくある勘違い
厨房機器の補助金を調べる過程で、次のような勘違いが起きやすいので整理しておきます。
- 「厨房機器なら何でもカタログ注文型の対象」という勘違い:カタログに登録された省人化製品に限られます。単純な業務用コンロ・冷蔵庫の更新は対象になりにくい傾向があります
- 「持続化補助金はどんな厨房機器にも使える」という勘違い:販路開拓・業務効率化との関連を説明できることが条件です。老朽化しただけの単純な入れ替えは対象になりにくいです
- 「セントラルキッチンの新設は簡単に採択される」という勘違い:新事業進出枠は投資額も大きく審査も厳格です。周辺への影響(既存の給食室や取引先との関係等)まで含めた事業計画が求められます
- 「家庭用の調理器具でも業務用として申請できる」という勘違い:家庭用と業務用の線引きが曖昧な機器は、業務用としての仕様(能力・耐久性・連続稼働時間等)を見積書に明記してもらう必要があります
厨房機器のリース・レンタルの扱い
厨房機器は高額なものが多く、リース契約で導入する事業者も少なくありません。補助金との関係を整理しておきます。
- 中小企業省力化投資補助金〈カタログ注文型〉は、原則として購入が前提です。リース契約は対象外となる場合が多いため、導入前に事務局へ確認してください
- 小規模事業者持続化補助金も、購入費用が基本の対象経費です。リース料そのものを対象経費にできるかは、公募要領の年度ごとの記載を確認する必要があります
- 中古の厨房機器(業務用調理器具の中古市場は一定の需要があります)は、多くの制度で対象外です。新品の購入が前提になります
「初期費用を抑えたいからリースにしたい」という場合、補助金を使えないケースがある点は事前に把握しておくべきです。 購入とリースの総支払額を比較したうえで、補助金の活用可否も含めて検討してください。
厨房機器の導入で見落としがちな運用面の変化
厨房機器を新しくすると、機器そのものの性能だけでなく、厨房内の作業動線・スタッフの役割分担も変わります。
- 食器洗浄機を導入すると、洗い場担当の作業内容が「手洗い」から「予洗い+機械投入」に変わり、必要なスキルが変わります
- 自動製麺機を導入すると、職人による手打ちのノウハウをどう継承するか(メニューの一部を手打ちに残す等)を検討する事業者もいます
- 大型設備の導入は、電気・ガス・給排水の設備工事を伴う場合があり、この付帯工事費も見積もりに含めて計画する必要があります
「機器を入れ替えれば自動的に効率化される」わけではなく、運用の変化まで見込んで事業計画を書くと、審査での説明力が増します。
複数の厨房機器をまとめて導入する場合
厨房機器は単体ではなく、複数の設備をまとめて刷新することも多くあります。
- 中小企業省力化投資補助金〈カタログ注文型〉は、従業員規模に応じた上限額の範囲内であれば、複数の厨房機器をまとめて1回の申請に含められます(例:食器洗浄機+自動計量システム+在庫管理用の冷蔵庫)
- 小規模事業者持続化補助金も、厨房機器と看板・チラシなど他の販路開拓施策を組み合わせて1つの計画にできます
- 複数店舗を展開している場合、店舗ごとに導入時期をずらすと、補助金の予算枠を分けて計画しやすくなります
業種別のシミュレーション
個人経営の食堂(従業員3名)
洗い場のパート人員が確保できず、業務用食器洗浄機(本体・設置費込みで180万円)を導入するケース。中小企業省力化投資補助金〈カタログ注文型〉(5人以下区分・上限200万円)なら、1/2補助の90万円が補助されます。自己負担は90万円まで下がり、洗い場に人を張り付ける必要がなくなります。
ラーメン店(従業員6名・新メニュー展開)
手作業だった製麺工程を自動製麺機(本体280万円)に置き換え、麺の種類を増やして新メニューを展開するケース。小規模事業者持続化補助金(インボイス特例・上限100万円)なら、280万円のうち上限まで2/3補助の100万円が補助されます。自己負担は180万円です。
学校給食センター運営会社(従業員40名・新事業進出)
複数の小規模給食室を統合し、大型のセントラルキッチンを新設して周辺自治体への給食提供事業に進出するケース。建物改修と厨房設備一式の見積もりは1億2,000万円です。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(新事業進出枠・従業員21〜50人・補助率1/2)なら、基本上限4,000万円まで4,000万円が補助されます。賃上げ特例を使えば上限は5,000万円に広がり、追加の配送設備まで計画に含められます。
居酒屋チェーン(従業員22名・複数店舗の厨房刷新)
各店舗でバラバラだった仕込み作業を標準化するため、複数店舗の厨房に自動計量システムと業務用食器洗浄機をまとめて導入するケース。設備投資額は800万円です。中小企業省力化投資補助金〈カタログ注文型〉(従業員21人以上区分・上限1,000万円)なら、1/2補助の400万円が補助されます。複数店舗分をまとめて1回の申請にできるため、店舗ごとに個別申請するより手間を抑えられます。
厨房機器選びで補助金の対象外にしないための注意点
- カタログ注文型を使う場合は、機種が事務局のカタログに登録されているか確認する
- 「なぜこの機器が必要か」を作業時間・人件費の変化で説明できるよう準備する
- 家庭用と業務用の線引きが曖昧な機器は、業務用としての仕様(能力・耐久性)を見積書に明記してもらう
- 交付決定前に発注・契約しない
申請の流れとタイミング
- 「単なる更新」か「省人化・新事業につながる投資」かを整理する
- 使う制度を決め、カタログ注文型なら機種がカタログに載っているか確認する
- GビズIDプライムを取得する
- 電子申請システムから申請し、審査結果を待つ
- 採択・交付決定の通知を受け取ってから発注する
- 導入後、実績報告を提出する
- 実績報告の確認後、補助金が振り込まれる
交付決定前の発注は、どの制度でも補助対象外になります。 厨房機器は故障すると営業に直結するため急ぎたくなりますが、緊急交換は補助金を使わずに行い、次の投資計画で改めて検討するのが現実的です。
よくある質問
老朽化した厨房機器の単純な入れ替えは補助金の対象になりませんか?
なりにくいです。「壊れたから同じものに交換する」だけでは、生産性向上・販路開拓との関連を説明しにくいためです。能力アップや省人化を伴う機種への入れ替えとして計画すると対象になりやすくなります。
中古の厨房機器を購入する場合も補助金は使えますか?
多くの制度で新品の購入が前提です。中古品は対象外になる場合が多いため、導入前に各制度の事務局に確認してください。
個人事業主でも厨房機器の補助金は使えますか?
使えます。小規模事業者持続化補助金・中小企業省力化投資補助金のどちらも個人事業主を対象に含んでいます。
厨房機器と一緒にレジ・券売機も導入したい場合はどうすればよいですか?
同じ制度の中でまとめて申請できる場合があります。中小企業省力化投資補助金〈カタログ注文型〉は、厨房機器とレジ・券売機を組み合わせて計画を作ることも可能です。詳しくは券売機の補助金もあわせてご覧ください。
厨房機器のリース契約でも補助金は使えますか?
制度によります。中小企業省力化投資補助金〈カタログ注文型〉は原則として購入が前提で、リースは対象外となる場合が多くあります。導入前に各事務局に確認してください。
厨房機器を複数のメーカーから比較して選ぶべきですか?
おすすめします。メーカーによって省人化の効果・保守体制・保証内容が異なるため、複数社から見積もりを取ることで、事業計画の説得力と価格の妥当性の両方を高められます。 可能であれば2〜3社から見積もりを取り、性能・価格・アフターサービスを比較したうえで機種を決定してください。既存店舗での導入事例があれば、実際の運用状況を確認させてもらうのも有効です。
厨房機器の設置に伴う電気・ガス・給排水工事も補助金の対象になりますか?
制度によります。機器の設置に直接必要な付帯工事(電源増設・配管接続等)は対象経費に含められる場合が多くありますが、店舗全体の電気容量を増やすような大規模な工事は対象外になることがあります。見積もりの段階で内訳を分けてもらい、事務局に確認してください。導入前に、電気・ガス・給排水設備の容量が新しい機器に対応できるかも業者に確認しておくと安心です。
厨房機器と一緒に空調設備も更新したい場合はどうすればよいですか?
同じ制度の中でまとめて申請できる場合があります。中小企業省力化投資補助金〈カタログ注文型〉は、厨房機器と省エネ型の空調設備をまとめて計画に含められる場合があります。事務局のカタログで対象製品を確認してください。空調設備の更新は電気代の削減効果も見込めるため、厨房機器とあわせて計画すると事業計画全体の説得力が増すことがあります。
厨房機器の導入と一緒に、店舗の内装工事も行う場合はどうなりますか?
厨房機器の導入費と内装工事費は、それぞれ別の経費区分として扱われることが多いですが、同じ小規模事業者持続化補助金の中でまとめて申請できます。詳しくは内装工事の補助金もあわせてご覧ください。
