「大学無償化の条件」を調べている方が知りたいのは、制度の説明ではなく自分の家が対象になるかどうかでしょう。
条件は4つあります。学校・家計・資産・学業です。この4つは順番に通していくもので、1つでも外れると支援を受けられません。逆に言えば、どこで外れたのかが分かれば、次の手も決まります。
よくある勘違いを先に潰しておきます。
- 「年収600万円まで」だけを見て諦めるのは早い。 判定は年収ではなく住民税の額で行われ、家族構成で大きく変わります
- 多子世帯(きょうだいが3人以上)には収入制限がありません。 ただし「3人いれば必ず対象」でもありません
- 資産の条件がある。 世帯の資産が5,000万円以上あると、年収が低くても対象外です
- 入学後に打ち切られることがある。 しかも場合によっては返還を求められます
制度の正式名称は「高等教育の修学支援新制度」です。授業料・入学金の減免と、返還不要の給付型奨学金の2本立てになっています。制度の全体像や金額の詳しい内訳は高等教育の修学支援新制度とはで扱っているので、この記事では条件の判定だけに絞ります。
第1関門: 進学先が対象校か
最初に確認すべきはここです。この関門で落ちると、他の3つがどれだけ良くても支援は受けられません。
対象になるのは、国が定めた要件を満たすと確認された大学・短期大学・高等専門学校・専門学校です。
- 大学・短期大学・高等専門学校・専門学校が対象校種です
- ただし、すべての学校が対象ではありません。 機関要件を満たしていない学校は対象外です
- 大学院は対象外です
対象校の一覧は文部科学省が公表しています。志望校を決める段階で必ず確認してください。
落ちた場合の次の手
志望校が対象外だった場合、この制度は使えません。ただし次の選択肢が残ります。
- JASSOの貸与型奨学金(第一種=無利子、第二種=有利子)は、対象校の要件が異なる場合があります
- 大学独自の授業料減免・給付奨学金を持つ学校は多くあります
- 地方自治体や民間団体の奨学金
第2関門: 家計の基準を満たすか
ここが最も多くの方が気にするところです。年収は目安にすぎず、実際の判定は住民税の額で行われます。
判定に使うのは「支給額算定基準額」
正確には、あなたと生計維持者の市町村民税所得割の課税標準額等から計算した「支給額算定基準額」で区分が決まります。
| 支援区分 | 支給額算定基準額 | 支援の割合 |
|---|---|---|
| 第1区分 | 100円未満(住民税非課税相当) | 満額 |
| 第2区分 | 100円以上25,600円未満 | 3分の2 |
| 第3区分 | 25,600円以上51,300円未満 | 3分の1 |
| 第4区分 | 51,300円以上154,500円未満 | 4分の1(対象は限定) |
この数値が判定の実体です。 年収は、この基準額を分かりやすく換算した目安にすぎません。
年収の目安
参考までに、給与所得者世帯の年収の目安を挙げます。家族構成によって変わる点に注意してください。
2人世帯(本人・親1名)の場合
- 第1区分 … 約207万円
- 第2区分 … 約298万円
- 第3区分 … 約373万円
- 第4区分 … 約630万円
3人世帯(本人・親1名・中学生)の場合
- 第1区分 … 約221万円
- 第2区分 … 約298万円
- 第3区分 … 約373万円
- 第4区分 … 約630万円
文部科学省のリーフレットでは、年収の目安として約270万円・約300万円・約380万円・約600万円という区切りが示されています。世帯構成が違えば数十万円単位で動くので、自分の家の数字は住民税決定通知書から確認するのが確実です。
自分で計算する方法
毎年6月頃に配られる住民税決定通知書(給与所得者なら勤務先から、それ以外は市区町村から)を用意してください。
- 「市町村民税」の欄にある課税標準額(または課税所得金額)を確認する
- 調整控除の額を確認する
- JASSOが公表している計算式に当てはめる
計算式はJASSOの公式サイトで公開されています。両親がともに働いている場合は、2人分を合算します。
生計維持者が誰かも重要です。原則として父母の2人、父母がいない場合は代わりに生計を維持している人になります。祖父母が学費を出していても、父母がいれば父母が生計維持者です。
落ちた場合の次の手
- 第4区分から外れた場合、多子世帯のルート(第3関門の前に後述)を確認してください
- 家計が急変した場合(失職・病気・災害など)は、年度途中でも申請できる仕組みがあります
- 高校在学中に申し込んで対象外だった場合も、進学後(秋以降)に改めて申し込むと対象になる可能性があります。文部科学省のリーフレットにも明記されています
多子世帯は別ルート(収入制限なし)
令和7年度から、多子世帯の学生は所得制限なく授業料等減免の対象になっています。ここは第2関門とは別の判定です。
多子世帯の定義
きょうだいが3人以上の世帯が対象です。ただし条件があります。
- あなたが生計維持者の住民税上の扶養に入っていること
- かつ、生計維持者の住民税上の扶養する子供の数が3人以上であること
この「扶養の数」が落とし穴です。 きょうだいが3人いても、上の子が就職して扶養から外れていれば、扶養する子供は2人になり、対象外になります。
文部科学省のリーフレットには「子供の数が3人以上いる間、第1子から支援」と書かれています。つまり、上の子が扶養を外れた時点で、下の子の支援も止まります。
多子世帯の支援内容
- 授業料・入学金 … 収入制限なく、一定額を上限に減免されます
- 給付型奨学金 … こちらは収入に応じた額(満額〜4分の1)になります
つまり、多子世帯でも給付型奨学金は収入で判定されます。 「多子世帯なら全部無償」ではない点に注意してください。
第3関門: 資産の基準を満たすか
ここを書いていない記事が多いのですが、実際に落ちる人がいます。
基準は、あなたと生計維持者の資産額の合計が5,000万円未満であることです(生計維持者が1人の場合は別の基準額が設定されています)。
資産に含まれるもの
- 現金・預貯金
- 有価証券(株式・投資信託など)
資産に含まれないもの
- 不動産(土地・建物)
- 保険
- 車
不動産が含まれないため、持ち家があっても資産には数えません。 逆に、退職金を受け取って預金が膨らんでいる世帯は、年収が低くても引っかかる可能性があります。
資産額は申込時の自己申告です。証明書類の提出は原則不要ですが、虚偽の申告は問題になります。
第4関門: 学業の基準を満たすか
学業の条件は、入学前と入学後で見るものが違います。 ここを分けて理解してください。
入学前(申込み時)の基準
高校在学中に申し込む予約採用の場合、次のいずれかを満たす必要があります。
- 高校の評定平均値が3.5以上
- または、将来社会で自立し活躍する意欲を持っていることを、レポートや面談で確認できること
2つ目の道があることが重要です。 評定平均が3.5に届かなくても、学習意欲を示せば対象になり得ます。「成績が足りないから無理」と諦める必要はありません。
進学後に申し込む在学採用の場合は、入学時期や成績・修得単位数などで判定されます。
入学後の基準(ここが本番)
支援が始まった後、毎年「適格認定」が行われます。 ここで基準を下回ると、警告や支援の打ち切りになります。
警告になる場合
- 修得単位数が標準の6割以下
- GPA等の成績が下位4分の1に属する
- 出席率が8割以下など、学習意欲が著しく低いと認められる
警告を連続で受けると、支援が停止・廃止になります。
即座に廃止になり、しかも返還を求められる場合
- 修得単位数が標準の5割以下
- 出席率が5割以下など、学習意欲が著しく低い
- 退学・停学の処分を受けた
支援の打ち切りだけでなく、すでに受け取った給付型奨学金の返還を求められることがあります。 これが大学無償化で最も重い条件です。
「無償化」という言葉からは想像しにくいですが、進学後に単位を落とし続けると、もらったお金を返すことになります。 入学後の学業こそが最大の条件だと考えてください。
落ちた場合の次の手
- 警告を受けた段階なら、次の年度で基準を満たせば回復します
- 病気・災害などやむを得ない事情があれば、学校に相談すれば救済される場合があります。文部科学省も個別の事情を考慮する運用を示しています
4つの関門を1枚にまとめる
| 関門 | 基準 | 落ちたときの次の手 |
|---|---|---|
| 第1 学校 | 国が確認した対象校であること。大学院は対象外 | 貸与型奨学金/大学独自の減免/自治体・民間の奨学金 |
| 第2 家計 | 支給額算定基準額が154,500円未満(第1〜4区分) | 多子世帯ルートを確認/家計急変の申請/進学後に再申込 |
| 第3 資産 | 本人と生計維持者の資産合計が5,000万円未満(不動産は含まない) | 資産を減らす操作はしない。貸与型奨学金へ |
| 第4 学業 | 入学前は評定3.5以上または意欲の確認。入学後は毎年の適格認定 | 警告なら翌年度で回復可能。やむを得ない事情は学校に相談 |
支援額はいくらか(概略)
条件を通過した場合、どのくらいの支援になるかを概略で示します。住民税非課税世帯(第1区分・満額支援)の場合の年額です。
授業料・入学金の減免(年額の上限)
- 国公立大学 … 授業料54万円、入学金28万円
- 私立大学 … 授業料70万円、入学金26万円
給付型奨学金(年額)
- 国公立大学 … 自宅35万円、自宅外80万円
- 私立大学 … 自宅46万円、自宅外91万円
第2区分ならこの3分の2、第3区分なら3分の1、第4区分なら4分の1になります。
金額の詳しい内訳や月額、短大・専門学校・高専の額は高等教育の修学支援新制度とはや大学の給付型奨学金で扱っています。
世帯パターン別に4関門を通してみる
判定の感覚をつかむために、3つの世帯で4つの関門を順に通します。実際の判定は住民税の額で行われるため、以下はあくまで考え方の例です。
パターン1: 父親が会社員・年収520万円、母親はパート年収90万円、きょうだい2人
- 第1関門(学校) … 志望校が国が確認した対象校 → 通過
- 第2関門(家計) … 世帯の合計年収は約610万円。多子世帯ではないので、第4区分(年収の目安約600万円)の境界付近。住民税決定通知書で支給額算定基準額を計算しないと判定できません
- 第3関門(資産) … 預貯金800万円、持ち家あり。不動産は資産に含まれないので800万円で判定 → 通過
- 第4関門(学業) … 高校の評定平均3.8 → 通過
判断のポイントは第2関門だけです。 年収でぎりぎりのラインなので、諦めずに計算してください。仮に第4区分に入れば4分の1の支援が受けられます。私立大学の授業料なら年17.5万円の減免になります。
境界付近では、両親の年収の合計だけでなく、社会保険料控除や扶養控除の状況でも結果が変わります。 同じ年収でも、扶養している家族が多いほど有利になります。
パターン2: 父親が自営業・所得280万円、母親は専業主婦、きょうだい3人(全員扶養内)
- 第1関門(学校) … 通過
- 第2関門(家計) … 給与所得者以外の世帯は「年間所得金額」で判定される別の基準が適用されます。所得280万円なら第2〜3区分に入る可能性
- 多子世帯ルート … 扶養する子供が3人 → 授業料等減免は収入制限なしで対象
- 第3関門(資産) … 事業用の預金を含めて1,200万円 → 通過
- 第4関門(学業) … 評定平均3.2だが、レポートで学習意欲を示した → 通過の可能性
このパターンでは、授業料等減免は多子世帯ルートで確定し、給付型奨学金は収入区分に応じた額という組み合わせになります。「多子世帯だから全部無料」ではないので、給付型奨学金の額は区分に応じて計算してください。
注意すべきは、上の子が就職するタイミングです。扶養する子供が2人になった時点で、多子世帯の支援は止まります。きょうだいの就職時期を把握しておいてください。
パターン3: 母親1人(年収340万円)、きょうだい2人
- 第1関門(学校) … 通過
- 第2関門(家計) … 生計維持者が1人の世帯。3人世帯(本人・親1名・中学生)の目安では第3区分(約373万円)の範囲内 → 3分の1の支援が見込めます
- 第3関門(資産) … 生計維持者が1人の場合は別の基準額が設定されています。JASSOの基準で確認が必要
- 第4関門(学業) … 通過
ひとり親世帯では、生計維持者が1人として判定されます。資産の基準額も2人の場合と異なるため、JASSOの公式サイトで自分に当てはまる基準を確認してください。
このケースで第3区分(3分の1)なら、私立大学の授業料減免が年約23万円、自宅外通学の給付型奨学金が年約30万円です。合計で年50万円強の支援になります。残りは貸与型奨学金やアルバイトで賄うことになります。
申込みのタイミング
条件を満たしていても、申し込まなければ支援は受けられません。
- 予約採用(高校3年生のとき) … 2027年度進学予定者向けの入学前の申請期間は、2026年4月下旬〜7月末です。締切日は学校ごとに違うので、在学する高校に確認してください
- 在学採用(進学後) … 春と秋に募集があります。予約採用で対象外だった方も申し込めます
予約採用で申し込んでおくと、進学後すぐに支援が始まります。 進学後に申請しても4月分から支援を受けられますが、実際に支援が始まるのは申請から数か月後になります。
多子世帯で授業料等減免のみが対象になる方も、申込みは必要です。 自動的には適用されません。
申込みに要るもの
予約採用の申込みは、インターネット(スカラネット)で行い、あわせて書類を提出します。
- マイナンバー(本人分と生計維持者分)。これが最も手間取るところです
- 奨学金確認書兼地方税同意書(JASSOへ郵送)
- 生計維持者が父母でない場合など、事情に応じた証明書類
マイナンバーの提出が判定の前提です。 住民税の情報を役所から取得して家計基準を判定するため、これが揃わないと審査が進みません。生計維持者が離れて暮らしている場合や、連絡が取りにくい場合は、早めに準備を始めてください。
進学先が決まったら、進学届の提出が必要です。これを出さないと、予約採用で採用候補者になっていても支援は始まりません。提出方法は進学先の学校に確認してください。
よくある質問
年収600万円を超えていたら対象外ですか?
一般の世帯では、第4区分(支給額算定基準額154,500円未満)が上限で、年収の目安は約600万円です。ただし判定は年収ではなく住民税の額で行われ、家族構成によって数十万円単位で動きます。また、多子世帯(扶養する子供が3人以上)は収入制限なく授業料等減免の対象になるため、年収が600万円を超えていても対象になる場合があります。
資産の条件はいくらですか?
あなたと生計維持者の資産額の合計が5,000万円未満であることが基準です(生計維持者が1人の場合は別の基準額が設定されています)。資産に含まれるのは現金・預貯金・有価証券で、不動産・保険・車は含まれません。申込時の自己申告です。
成績が悪いと対象外になりますか?
高校在学中の申込みでは、評定平均値3.5以上という基準がありますが、これを満たさない場合でも、将来社会で自立し活躍する意欲を持っていることをレポートや面談で確認できれば対象になり得ます。ただし入学後は毎年の適格認定があり、修得単位数が標準の5割以下などの場合は支援が廃止され、すでに受け取った給付型奨学金の返還を求められることがあります。
きょうだいが3人いれば必ず対象ですか?
いいえ。条件は「生計維持者の住民税上の扶養する子供の数が3人以上」であることです。きょうだいが3人いても、上の子が就職して扶養から外れていれば扶養する子供は2人になり、対象外になります。また、多子世帯でも給付型奨学金は収入に応じた額になるため、全額が無償になるわけではありません。
一度対象外だったら、もう申し込めませんか?
申し込めます。高校在学中に申し込んで対象外だった場合も、進学後(秋以降)に再度申し込むことで支援対象になる可能性があります。文部科学省のリーフレットにも明記されています。また、失職や災害などで家計が急変した場合は、年度途中でも申請できる仕組みがあります。
