レジ横の混雑を早く捌きたくて券売機を入れたい。でも、そのぶんパートさんの時給も上げてあげたい。工場の溶接工程を自動化して人手不足を解消したい。でも、その原資で従業員の給料も引き上げたい――。「賃上げ」と「設備投資」、本当はどちらも進めたいのに、両方同時にはお金が回らない。そんな悩みに直球で応えるのが業務改善助成金です。

事業場内で最も低い時給(事業場内最低賃金)を50円・70円・90円のいずれかのコースで引き上げ、あわせて生産性向上につながる設備投資を行うと、その費用の3/4〜4/5(上限は最大600万円)を国が助成してくれます。令和8年度の申請受付は2026年9月1日から始まります。何に使えて、いくらもらえて、いつまでに動けばいいのか、順番に見ていきましょう。

図: 業務改善助成金の全体像。詳しくは本文で解説します

業務改善助成金は何に使える?【賃上げと設備投資が一体の制度】

業務改善助成金は、単に設備投資を助成する制度ではありません。「事業場内最低賃金の引上げ計画」と「設備投資等の計画」をセットで申請し、交付決定後にその計画どおりに賃上げと設備導入を実施・報告することで、設備投資等にかかった費用の一部が助成される仕組みです。申請は工場・事務所など労働者がいる事業場ごとに行います(複数の事業場がある場合は、それぞれ別々に申請)。

対象経費の例

  • 機器・設備の導入(例:POSレジシステムの導入による在庫管理の時間短縮、リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮)
  • 経営コンサルティング(例:国家資格者による、顧客回転率の向上を目的とした業務フロー見直し)
  • その他(例:顧客管理情報のシステム化)

図: 業務改善助成金で使える経費の例

対象にならないものの例

  • 通常は、パソコン・スマートフォン・タブレット等の端末・周辺機器の新規導入(原則対象外)
  • 交付決定より前に導入・支払いを済ませてしまった設備投資(フライング導入)
  • 特殊用途自動車を除く自動車の購入

なお、原材料費の高騰など外的要因で利益率が大きく落ち込んでいる事業者(「特例事業者」の一部)に限り、通常は対象外のパソコン等の新規導入も助成対象に加えられます。自社がこれに当てはまるかどうかは利益率の算定次第で変わるため、判断に迷う場合は早めに労働局や専門家に確認しておくと安心です。

いくらもらえる?コース別の助成上限額(最大600万円)

「最大600万円」という数字だけでは実態が見えません。助成上限額はコース(賃金引上げ額)×引き上げる労働者数×事業場規模の組み合わせで決まります。

コース区分事業場内最低賃金の引上げ額引き上げる労働者数助成上限額事業場規模30人未満の場合
50円コース50円以上1人30万円40万円
50円コース50円以上2〜3人40万円70万円
50円コース50円以上4〜5人70万円70万円
50円コース50円以上6〜7人90万円90万円
50円コース50円以上8人以上110万円110万円
50円コース50円以上10人以上※130万円130万円
70円コース70円以上1人40万円50万円
70円コース70円以上2〜3人50万円100万円
70円コース70円以上4〜5人130万円130万円
70円コース70円以上6〜7人180万円180万円
70円コース70円以上8人以上230万円230万円
70円コース70円以上10人以上※300万円300万円
90円コース90円以上1人90万円100万円
90円コース90円以上2〜3人150万円240万円
90円コース90円以上4〜5人270万円270万円
90円コース90円以上6〜7人360万円360万円
90円コース90円以上8人以上450万円450万円
90円コース90円以上10人以上※600万円600万円

※10人以上の区分は「特例事業者」が10人以上の労働者の賃金を引き上げる場合のみ対象です。600万円という最大額は、90円コース・引き上げ対象10人以上・特例事業者という条件がそろって初めて到達します。

助成率はいくら?

助成される金額は、「設備投資等の費用×助成率」と「上の表の助成上限額」を比べて、低い方の金額が支給されます。助成率は、賃上げ前の事業場内最低賃金の水準で決まります。

  • 事業場内最低賃金が1,050円未満の事業者:助成率4/5
  • 事業場内最低賃金が1,050円以上の事業者:助成率3/4

特例事業者だと上限が上がる

次のいずれかに当てはまる事業者は「特例事業者」として扱われます。

  1. 賃金要件:申請事業場の事業場内最低賃金が1,050円未満である
  2. 物価高騰等要件:原材料費の高騰など外的要因により、申請前6か月平均の利益率が前年度比3%ポイント以上低下している

特例事業者は、上の表の「10人以上」区分(コースごとの最上位額)を使えるようになります。さらに②物価高騰等要件に該当する場合は、通常は対象外のパソコン等の新規導入も助成対象に加わります。

業種別・シミュレーション

賃上げの原資と、設備投資でできることは業種によってまったく違います。3つの業種を例に、どのコース・上限額に当てはまるかを見てみましょう。

図: 業種別に見る「どのコースで、いくら助成されるか」

① 個人経営の定食店(従業員4人・事業場規模30人未満・70円コース) 事業場内最低賃金1,020円のスタッフ4人を70円引き上げて1,090円に。券売機(120万円)と食洗機(50万円)をあわせて導入し、見積もりは170万円。 → 賃上げ前が1,050円未満なので助成率4/5。170万円×4/5=136万円。ただし4〜5人区分の上限は130万円なので、支給額は130万円(上限額が適用されるケース)。

② 金属部品加工業(従業員8人分を引上げ・90円コース) 事業場内最低賃金1,060円の労働者8人を90円引き上げて1,150円に。溶接工程を自動化するロボット設備を導入し、見積もりは600万円。 → 賃上げ前が1,050円以上なので助成率3/4。600万円×3/4=450万円。8人以上区分の上限も450万円なので、支給額は450万円

③ 雑貨小売店(従業員2人・事業場規模30人未満・50円コース) 事業場内最低賃金1,015円のパート2人を50円引き上げて1,065円に。POSレジとセルフレジを導入し、見積もりは80万円。 → 賃上げ前が1,050円未満なので助成率4/5。80万円×4/5=64万円。2〜3人区分(30人未満)の上限は70万円なので、支給額は見積もり通りの64万円。もし対象を6〜7人まで広げて賃上げできれば、上限は180万円まで広がります。

このように、「何円コースで、何人分の賃上げをするか」で使える上限額が大きく変わるのが業務改善助成金の特徴です。まずは自社の事業場内最低賃金と、賃上げしたい人数を確認してみましょう。

自社が何人分・どのコースで申請できるか、特例事業者に該当するかの判断に迷ったら、専門家に相談するのも一つの方法です。専門家に無料相談する

申請期限はいつ?令和8年度のスケジュール

業務改善助成金は、全国一律の締切日がある制度ではありません。令和8年度の申請期間は2026年9月1日から始まり、締切は「申請事業所の都道府県に適用される地域別最低賃金の発効日の前日」または「同年11月30日」のいずれか早い日です。地域別最低賃金は都道府県ごとに毎年10月前後に改定されるため、締切の実際の日付も都道府県によって異なります。

賃金引上げの実施期間も同じく2026年9月1日〜地域別最低賃金発効日の前日までで、事業完了期限は交付決定年度の1月31日です。予算の範囲内で交付されるため、申請期間内であっても募集が早期に終了する場合があります。

図: 申請から支給までのスケジュール。締切が都道府県ごとに異なる点に注意

承認までの重要なタイミングと必要書類

「何が必要か」よりも「いつ何が必要か」を押さえるほうが、準備を進めやすくなります。

タイミングやること必要になるもの
検討を始めたらすぐ事業場内最低賃金と、引き上げたい労働者数・コースを整理する現在の賃金台帳、就業規則
申請前都道府県労働局(雇用環境・均等部(室))に交付申請書・事業実施計画書等を提出交付申請書、事業実施計画書、賃金引上げ計画、設備投資等の見積もり
交付決定後計画どおりに賃金引上げ・設備の導入・代金の支払いを実施(交付決定"前"の実施は対象外契約書・発注書・請求書・領収書などを保管
賃上げ実施時就業規則等に、引上げ後の事業場内最低賃金額を定める改定後の就業規則
事業完了期限(交付決定年度の1月31日)まで事業実績報告書と助成金支給申請書を労働局に提出実績報告書、支払いを証明する証憑(領収書・振込明細など)
審査後交付額の確定・助成金の支払い

図: いつ・何が必要になるか。交付決定より前に設備を導入・支払いしてしまうと対象外になる点に注意

特に注意したいのが、賃金の引上げも設備の導入・支払いも、交付決定を受けたあとの「事業の実施」段階で行うという順番です。「先に設備を入れて、あとから賃上げして申請する」という進め方はできません。事業の流れに沿って、計画→交付申請→交付決定→実施の順番を守ることが大切です。

「うちの会社でも対象?」対象事業者の考え方

業務改善助成金の対象になるのは、次の3つをすべて満たす事業者です。

  1. 中小企業・小規模事業者であること(大企業と密接な関係を有する「みなし大企業」でないこと)
  2. 事業場内最低賃金が、令和8年度の地域別最低賃金未満であること
  3. 解雇・賃金引下げなどの不交付事由がないこと

引き上げる対象労働者は、雇用保険被保険者で、週の所定労働時間が20時間以上、かつ雇入れ後6か月を経過した人です。

例:個人経営の飲食店(フルタイム1人+パート3人) → 事業場内で最も低い時給(事業場内最低賃金)が地域別最低賃金未満であれば、この4人のうち対象条件を満たす人数分の賃上げを計画できます。事業場規模が30人未満にあたるため、表の「事業場規模30人未満の場合」の上限額が適用される見込みです。

なお、申請の単位は事業場ごとで、同一事業主が複数の事業場を持つ場合はそれぞれ別々に申請します。同一事業所の申請は年度内1回までで、過去にこの助成金を利用したことがある事業者も対象になります。

よくある質問

助成率は9/10って聞いたのですが本当ですか?

令和8年度の公式情報で確認できる助成率は**4/5(事業場内最低賃金1,050円未満)または3/4(1,050円以上)**の2区分です。9/10という助成率は、今回確認した令和8年度の公式リーフレットには記載がありませんでした。制度は年度ごとに要綱が改定されるため、古い年度の情報と混同しないよう注意してください。

先に賃上げしてから申請してもいいですか?

いいえ。賃金の引上げも設備の導入・支払いも、交付決定を受けたあとの「事業の実施」段階で行う流れになっています。先に賃上げや設備導入をしてから申請する進め方はできません。

締切は11月30日で全国共通ですか?

いいえ。締切は「申請事業所の都道府県に適用される地域別最低賃金の発効日の前日」または「11月30日」のいずれか早い日です。地域別最低賃金の発効日は都道府県によって異なるため、11月30日より前に締め切られる都道府県もあります。自社が該当する都道府県の発効日を早めに確認しておきましょう。

従業員が1人しかいない個人事業主でも対象になりますか?

対象になりえます。雇用保険被保険者を1人でも雇用していれば、その1人分の賃上げから申請できます(1人区分の上限額は表を参照)。ただし、労働者が全くいない個人事業主は対象外です。

※助成上限額・助成率・申請期限などの制度内容は、交付要綱・要領の改定により変更される場合があります。申請前に必ず公式サイト・管轄の都道府県労働局で最新情報をご確認ください。

出典(一次情報): 業務改善助成金|厚生労働省令和8年度業務改善助成金のご案内(公式リーフレットPDF)


支給される計画には"書き方の型"があります

同じ設備投資・賃上げ計画でも、事業実施計画書の書き方ひとつで審査の通りやすさは変わります。労働者数の数え方や特例事業者の該当判定など、見落としやすいポイントは一般には出回っていません。

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この補助金の概要(早見表)

検索項目内容
制度名業務改善助成金(令和8年度・50円/70円/90円の3コース)
対象業種全業種
利用目的設備整備・IT導入をしたい/雇用・職場環境を改善したい
対象地域全国
従業員数中小企業・小規模事業者(労働者を雇用している事業場が対象)
補助上限額最大600万円(コース・引き上げる労働者数・事業場規模で変動。内訳は本文表を参照)
補助率3/4〜4/5(事業場内最低賃金の水準で変動)
申請受付2026年9月1日(火)〜(締切は都道府県の地域別最低賃金発効日の前日または同年11月30日のいずれか早い日)
公式サイト業務改善助成金|厚生労働省

※この表の項目(対象業種・利用目的・対象地域・従業員数)は、GRANTOSの補助金診断の検索軸に対応しています。