主KW: IT導入補助金 建設業
建設業がIT導入補助金を使うとき、まず知っておくべきことが2つあります。
1つは、制度名が2026年度から「デジタル化・AI導入補助金」に変わったこと。廃止ではなく名称変更ですが、旧名で検索して出てくる締切や要件はそのまま使えません。もう1つは、「最大450万円」には条件があること。ITツールのプロセス数が4つ以上で、なおかつ賃金引上げ計画の策定と従業員への表明が必要です。プロセス数が1〜3なら、上限は150万円未満です。
建設業の事業者規模の枠は広めです。資本金3億円以下または従業員300人以下で、製造業・運輸業と同じ区分。中堅の工務店でも入ります。
この記事では、建設業として判断が分かれるところを扱います。制度全体の枠や申請の流れはデジタル化・AI導入補助金のITツールにまとめています。
建設業は「従業員300人以下」。多くの工務店が入ります
対象になる中小企業・小規模事業者の基準は業種で分かれます。建設業は製造業・運輸業と同じ枠です。
| 業種 | 資本金 | または | 従業員数 |
|---|---|---|---|
| 製造業、建設業、運輸業 | 3億円以下 | または | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | または | 100人以下 |
| サービス業(一部を除く) | 5千万円以下 | または | 100人以下 |
| 小売業 | 5千万円以下 | または | 50人以下 |
「または」なので、どちらか一方を満たせば対象です。 資本金が3億円を超えていても従業員が300人以下なら入りますし、その逆も同じです。
小売業の50人以下やサービス業の100人以下に比べると、建設業の枠はかなり広く取られています。「うちは規模が大きいから対象外だろう」と思っている工務店・建設会社でも、確認する価値があります。
一方で、従業員数に下限はありません。個人事業主も対象に含まれるので、一人親方でも申請できます。ただし一人親方には別の制約があるので、一人親方が使える補助金もあわせてご覧ください。
何を先に入れるか。建設業の業務工程順に見る
上位に出てくる記事の多くは、ITベンダーが自社製品を紹介するものです。「うちの製品が補助金の対象です」という説明は載っていますが、どのツールから入れるべきかという順番は書かれていません。
建設業の業務工程に沿って並べると、次のようになります。
| 工程 | ツールの種類 | 入れると何が変わるか | 優先度の目安 |
|---|---|---|---|
| 受注前 | 積算・見積ソフト | 見積作成の時間が短くなり、対応できる案件数が増える。単価の入力ミスが減る | 高い。受注機会に直結する |
| 設計 | CAD | 図面の作成・修正が速くなる。手描き・汎用CADからの移行効果が大きい | 設計を内製している会社は高い |
| 施工 | 施工管理システム | 写真・工程・日報を現場から入力でき、事務所での転記がなくなる | 現場が複数ある会社は高い |
| 原価管理 | 工事原価管理システム | 工事ごとの利益が見える。赤字工事に途中で気づける | 案件数が多い会社は高い |
| 請求・入金 | 会計・請求ソフト | インボイス対応、消費税処理、入金消込 | インボイス枠なら補助率が高い |
| 全般 | 勤怠・給与 | 現場の労働時間の集計、法定帳簿の作成 | 従業員が多い会社は中程度 |
どこから入れるかは、いまどこで時間が溶けているかで決まります。 見積作成に毎晩2時間かかっているなら積算ソフト、現場写真の整理と日報の転記に事務員が半日使っているなら施工管理システム、というのが素直な順番です。
ただし、これは順番の話であって、1つずつ入れるべきという意味ではありません。 むしろ補助金の設計上は、まとめて入れたほうが有利になります。理由は次の節です。
「最大450万円」に届く条件。プロセス数と賃上げ計画
通常枠の補助上限は、ITツールのプロセス数で2段階に分かれます。
| プロセス数 | 補助額 | 補助率 |
|---|---|---|
| 1〜3つまで | 5万円〜150万円未満 | 1/2以内 |
| 4つ以上 | 150万円〜450万円以下 | 1/2以内 |
プロセスとは、ITツールが担う業務の種類のことです。積算・見積だけを入れれば1プロセス、そこに施工管理・原価管理・会計を足していけばプロセス数が増えます。450万円の帯に乗るには、4つ以上の業務をカバーする組み合わせが要るということです。
そして、ここに条件が付きます。プロセス数が4つ以上の場合、次の賃金引上げ計画が必要です。
事業計画期間において、1人当たり給与支給総額を年平均成長率3%(日本銀行が定める「物価安定の目標」+1%)以上増加させ、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上の水準にする賃金引上げ計画を策定し、従業員に表明していること
「最大450万円」は、4プロセス以上に加えて、給与を年平均3%上げ、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上にする約束をして初めて狙える金額です。金額だけを見て計画を組むと、この条件で止まります。
補助率にも例外があります。原則は1/2以内ですが、令和6年10月から令和7年9月の間で、「当該期間における地域別最低賃金以上〜令和7年度改定の地域別最低賃金未満」で雇用している従業員が全従業員の30%以上である月が3か月以上あることを示した場合は、補助率が2/3以内に上がります。
パソコン・タブレットは買えるのか
建設業でいちばん多い質問です。答えは枠によって違います。
| 枠 | ソフトウェア | PC・タブレット等 | レジ・券売機等 |
|---|---|---|---|
| 通常枠 | 対象(5万〜450万円) | 対象外 | 対象外 |
| インボイス枠(インボイス対応類型) | 対象(1機能〜50万円、2機能以上〜350万円) | 対象(上限10万円) | 対象(上限20万円) |
| インボイス枠(電子取引類型) | 対象(〜350万円) | 対象外 | 対象外 |
| セキュリティ対策推進枠 | サービス利用料(〜150万円) | 対象外 | 対象外 |
通常枠ではパソコンを買えません。 通常枠の対象経費は、ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)、導入関連費(機能拡張・データ連携ツールの導入、セキュリティ対策、導入設定・マニュアル作成・導入研修、保守サポート等)です。ハードウェアは入っていません。
現場用のタブレットが必要なら、インボイス枠(インボイス対応類型)を見てください。ただしこちらは会計ソフト・受発注ソフト・決済ソフトに限られ、上限は10万円、補助率は1/2です。積算ソフトやCADを入れたいのに、タブレットのためだけにインボイス枠を選ぶ、という組み方はできません。
インボイス枠の補助率は帯で変わります。50万円以下の部分は3/4(小規模事業者は4/5)、50万円超〜350万円の部分は2/3、ハードウェア購入費は1/2です。小さめの導入なら、通常枠の1/2より有利になります。
登録されたITツールしか買えない、という制約
これが手続き上いちばん重要な点です。この補助金は、自分でツールを選んで買ってから申請する制度ではありません。
流れはこうです。
- 事務局に登録されたIT導入支援事業者(ITベンダー・サービス事業者等)を探す
- その事業者が事務局に登録したITツールの中から選ぶ
- IT導入支援事業者のサポートを受けながら申請する
- 審査・採択・交付決定を経て、ツールを契約・購入する
- 実績報告 → 補助金の受け取り
つまり、登録されていないツールは、どれだけ良いものでも対象になりません。気に入った建設業向けソフトがあっても、そのベンダーがIT導入支援事業者として登録し、そのツールを登録していなければ使えません。
導入したいツールが決まっているなら、まずそのベンダーに「デジタル化・AI導入補助金の登録はありますか」と聞くのが最短です。建設業向けの主要な積算ソフト・CAD・施工管理システムのベンダーは登録していることが多いのですが、確認は必須です。登録済みのツールは公式サイトのITツール検索で調べられます。
そして、交付決定より前に契約・発注すると対象外になります。ベンダーの営業から「補助金が使えるので今契約を」と言われても、交付決定前の契約は補助されません。ここは順番を絶対に崩さないでください。
建設業でよくある「対象外だった」パターン
- 旧名称の情報で準備していた。 2026年度から「デジタル化・AI導入補助金」です。旧「IT導入補助金」の締切・要件で動くと合いません
- ソフトのないハード単体を買おうとした。 PC・タブレットはインボイス枠でソフトとセットのときだけ、上限10万円です
- 登録されていないツールを選んだ。 ベンダーがIT導入支援事業者でなければ申請自体ができません
- 交付決定前に契約した。 補助されません
- プロセス数を数えずに450万円で計画した。 4プロセス以上でなければ150万円未満の帯です
- 賃上げ計画を織り込んでいなかった。 4プロセス以上には給与3%増と最低賃金+30円の計画・表明が要ります
- クラウド利用料を1年で見積もった。 最大2年分がまとめて対象になるので、2年分で組んだほうが補助額が伸びます
最後の項目は、逆に得をする話です。クラウド型のツールは初期費用が小さく月額が中心なので、1年分だけで見積もると補助額が小さくなります。最大2年分が対象になることを前提に見積もってください。
採択率は枠によって大きく違います
中小企業庁が公表している前身制度の実績です。どの枠を選ぶかで通りやすさが変わります。
| 枠 | 2024年の申請/採択 | 採択率 | 2025年の申請/採択 | 採択率 |
|---|---|---|---|---|
| 通常枠 | 23,672件 / 8,936件 | 約38% | 25,140件 / 16,540件 | 約66% |
| インボイス対応類型 | 56,029件 / 25,900件 | 約46% | 46,394件 / 33,438件 | 約72% |
| セキュリティ対策推進枠 | 730件 / 360件 | 約49% | 225件 / 192件 | 約85% |
| 複数社連携枠 | 8件 / 6件 | 約75% | 7件 / 4件 | 約57% |
| 合計 | 80,439件 / 35,202件 | 約44% | 71,767件 / 50,175件 | 約70% |
2024年から2025年にかけて、通常枠の採択率が38%から66%に上がっています。制度が変わって申請しやすくなったというより、申請件数がほぼ横ばいの中で採択件数が倍近くに増えた形です。
セキュリティ対策推進枠は件数自体が少なく、2025年は225件の申請に対して192件が採択されています。サイバーセキュリティ対策を検討している建設会社にとっては、狙い目の枠と言えます。ただし対象になるのは、IPA(情報処理推進機構)が公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されたサービスのうち、IT導入支援事業者が提供し、事務局に事前登録されたものだけです。補助額は5万円〜150万円以下、補助率は中小企業1/2以内、小規模事業者2/3以内で、サービス利用料の最大2年分が対象になります。
数字はあくまで前身制度の実績で、今回の採択を保証するものではありません。ただ、同じ投資でも枠の選び方で通りやすさが変わることは押さえておいて損はありません。
締切は動きます(2026年9月時点)
公式に公表されているスケジュールは次のとおりです。
| 枠 | 締切 | 交付決定日(予定) |
|---|---|---|
| 通常枠 | 2026年9月29日(火)17:00(1次〜5次締切分) | 2026年11月9日(月) |
| インボイス枠(インボイス対応類型) | 2026年9月29日(火)17:00 | 2026年11月9日(月) |
| インボイス枠(電子取引類型) | 2026年9月29日(火)17:00 | 2026年11月9日(月) |
| セキュリティ対策推進枠 | 2026年9月29日(火)17:00 | 2026年11月9日(月) |
| 複数者連携デジタル化・AI導入枠 | 2026年10月30日(金)17:00 | 2026年12月10日(木) |
事業の実施期間は、交付決定から2027年4月30日または5月31日17:00までです(枠により異なります)。
この日程は締切ごとに更新されます。 解説記事の多くは「1次締切8月25日」で止まっているので、必ず公式サイトの事業スケジュールで最新の回次を確認してください。IT導入支援事業者を探す時間、ツールを選ぶ時間、申請書を作る時間を逆算すると、締切の1か月前には動き始めておきたいところです。
いくら投資すると、いくら返ってくるか
補助率1/2で、規模別に3つ試算します。
個人の内装業(1プロセス・通常枠) 手書きの見積を積算ソフトに移したい。ソフト購入費とクラウド利用料2年分、導入設定で見積は60万円。 → 60万円 × 1/2 = 30万円。自己負担30万円です。1プロセスなので、上限は150万円未満の帯になります。
社員8人の工務店(3プロセス・通常枠) 積算・施工管理・工事原価管理をまとめて入れ、現場からの日報入力に切り替えたい。3年分ではなくクラウド利用料2年分で組み、導入研修も入れて見積は280万円。 → 280万円 × 1/2 = 140万円。3プロセスなので150万円未満の帯に収まります。 ここに会計ソフトを足して4プロセスにすると150万円以上の帯に移れますが、そのときは賃金引上げ計画の策定と表明が必要になります。
社員40人の総合建設会社(4プロセス以上・通常枠) 積算・CAD・施工管理・原価管理・勤怠を一括で入れ替える。給与を年平均3%上げ、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上にする計画を策定し、従業員に表明する。見積は900万円。 → 900万円 × 1/2 = 450万円。通常枠の上限に届きます。
3つめまで行くと投資額が900万円になります。補助率が1/2なので、450万円を受け取るには900万円の投資が要るという関係です。持続化補助金の2/3と比べると自己負担の割合が大きいので、資金計画は先に立てておいてください。
補助金は精算払いです。交付決定後に契約・支払いをして、実績報告を出し、確認が終わってから入金されます。900万円の案件なら、900万円をいったん自分で用意する必要があります。
持続化補助金とどちらを使うか
建設業の事業者からよく出る質問です。使い分けの軸は、買いたいものがソフトか、機械かです。
| デジタル化・AI導入補助金 | 小規模事業者持続化補助金 | |
|---|---|---|
| 対象規模 | 従業員300人以下(建設業) | 従業員20人以下(建設業) |
| 主な対象 | ソフトウェア、クラウド利用料 | 機械装置、広報、展示会出展など8費目 |
| ソフトの購入 | 中心的な対象 | ウェブサイト関連費で上限30万円 |
| 重機・機械 | 対象外 | 自走式作業用機械設備なら対象 |
| パソコン | インボイス枠のみ上限10万円 | 対象外 |
| 補助率 | 1/2(条件で2/3、インボイス枠は最大4/5) | 2/3(赤字の賃上げ特例は3/4) |
| 商工会議所の相談 | 不要 | 必須(様式4) |
積算ソフトや施工管理システムを入れるならデジタル化・AI導入補助金、重機や作業用機械を買うなら持続化補助金、という切り分けが基本です。従業員が20人以下なら両方の選択肢があります。
なお、同じ経費に2つの補助金を重ねて受けることはできません。別々の経費であれば、それぞれの制度に申請すること自体は可能ですが、事業計画の整合性を求められます。詳しくは各制度の公募要領でご確認ください。
よくある質問
IT導入補助金という名前はなくなったのですか?
2026年度(令和7年度補正予算事業)から「デジタル化・AI導入補助金2026」に名称が変わりました。廃止ではなく名称変更ですが、旧名で検索して出てくる締切・補助額・要件は現行と一致しないことがあります。公式サイトは中小機構のit-shien.smrj.go.jpです。
建設業でも本当に対象になりますか?
なります。建設業は資本金3億円以下または従業員300人以下が基準で、製造業・運輸業と同じ区分です。小売業やサービス業より枠が広く設定されています。個人事業主も対象で、従業員数の下限はありません。
現場用のタブレットは買えますか?
通常枠では買えません。ハードウェアが対象になるのはインボイス枠(インボイス対応類型)だけで、PC・タブレット等は上限10万円、レジ・券売機等は上限20万円、補助率は1/2です。ただしインボイス枠のソフトウェアは会計・受発注・決済ソフトに限られるため、積算ソフトやCADと組み合わせることはできません。
450万円もらうには何が必要ですか?
ITツールのプロセス数が4つ以上であることに加えて、事業計画期間において1人あたり給与支給総額を年平均3%以上増加させ、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上にする賃金引上げ計画を策定し、従業員に表明していることが必要です。プロセス数が1〜3の場合の上限は150万円未満です。
使いたいソフトが決まっている場合、どう進めればいいですか?
まずそのベンダーに「デジタル化・AI導入補助金のIT導入支援事業者として登録しているか」「そのツールは登録済みか」を確認してください。登録がなければ、その製品はこの補助金では買えません。登録があれば、そのベンダーのサポートを受けながら申請します。契約は交付決定を待ってから行ってください。
