主KW: 事業承継補助金 親子
親から子への事業承継は、事業承継・M&A補助金の事業承継促進枠の対象です。親族への承継は排除されるどころか、この枠が想定している中心的なケースです。
ただし、多くの解説記事が書いていない重要な点があります。この枠は、承継が終わってからでは使えません。 16次公募の公募要領は、公募申請期日である2026年11月6日から5年後の2031年11月5日までに事業承継を完了する予定の事業者を対象としています。つまり、承継の前に申請して、承継に向けた取組を支援してもらう制度です。すでに代表者が交代し終わっている会社が、後から使えるものではありません。
この記事では、親子承継に固有の要件と、外しやすい条件を扱います。旧制度の「経営者交代型」という枠名から調べている方は、事業承継補助金の経営者交代型は今どうなった?もあわせてご覧ください。
この補助金は、承継が終わってからでは使えません
16次公募の公募要領には、こう書かれています。
16次公募の事業承継対象期間は、公募申請の受付終了の日(以下、「公募申請期日」という。)である2026年11月6日から5年後の2031年11月5日までとなるため、申請にあたっては、対象となる事業承継が当該期間に実施する予定であるかを確認すること。
補助の対象になるのは、事業承継対象期間中に実施予定の事業承継に際して、承継予定者を中心に実施される生産性向上等に係る取組です。承継が済んだ後の投資ではなく、承継に向けて後継者が主導する取組が対象になります。
順番はこうです。
- 後継者(子)を決める
- 認定経営革新等支援機関に相談し、承継の蓋然性について確認を受けた計画書を作る
- 補助金に申請する
- 採択 → 交付決定 → 後継者主導の取組を実施
- 2031年11月5日までに承継を完了する
承継を完了できなかった場合は、交付された補助金の返還を求められます。公募要領には「補助事業期間終了後の事業化状況報告において計画の未達(事業承継対象期間での承継未完了)が判明した際は交付した補助金を返還すること」とあります。ただし、事業者の責めに帰することができない事由がある場合は除かれます。
「親が引退を考え始めた」段階が、この補助金を検討するタイミングです。
親子なら「3年ルール」が要りません
承継予定者(後継者)になれる人には要件があります。ここが親子承継のいちばん有利な点です。
法人の場合
| 承継予定者のパターン | 必要な経験 |
|---|---|
| 会社法上の役員 | 3年以上の経験 |
| 従業員 | 対象会社に継続して3年以上雇用され業務に従事した経験 |
| 役員と従業員の両方を経験 | 通算3年以上 |
| 被承継者の親族 | 年数の要件なし(ただし対象会社の代表経験が無い者に限る) |
個人事業主の場合
| 承継予定者のパターン | 必要な経験 |
|---|---|
| 従業員 | 個人事業に継続して3年以上雇用され業務に従事した経験 |
| 被承継者の親族 | 年数の要件なし(ただし過去に承継対象事業の代表経験が無い者に限る) |
親族であれば、3年の在籍・役員経験は必要ありません。従業員に承継する場合は3年以上その会社にいる必要がありますが、子が外の会社に勤めていて戻ってくるようなケースでも、親族であればこの要件で止まりません。
ここでいう「親族」は、民法第725条に定める六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族です。親子はもちろん、孫、甥姪、いとこ、配偶者の親族まで、かなり広い範囲が入ります。
ただし条件が1つ付きます。対象会社の代表経験が無い者であることです。過去に一度その会社の代表を務めたことがある人は、承継予定者になれません。
社長だけ交代しても対象外。株も渡す必要があります
親子承継でいちばん起きやすい落とし穴です。公募要領は、事業承継の要件として次を挙げています。
経営権と所有権(株式、持分等)のいずれも被承継者から承継者へ譲渡されること。
そして、実質的な事業承継が行われたとみなされない例として、「経営権と所有権(株式、持分等)のいずれもの移転を伴わない代表者交代」を明記しています。
つまり、株は親が持ったまま、社長の肩書きだけを子に渡す形は対象外です。中小企業では珍しくない形ですが、この補助金では認められません。
対象外とされる例は、ほかにもあります。
- グループ内の事業再編
- 物品・不動産等のみを保有する事業の承継
- フランチャイズ契約、または実質的にフランチャイズ契約とみなされる場合
- 従業員等へののれん分け、または実質的にのれん分けとみなされる場合
- 休眠会社や、事業の実態がない状態の会社における代表者交代等
- 設立間もない法人における代表者交代、開業直後の事業主からの事業譲渡等で、その正当性が確認できない場合
- 合同会社の社員間における代表社員交代で、事業を承継するための経営者交代とみなされない場合
これらに該当すると事務局が判断した場合、交付決定の前後を問わず補助対象外になります。交付決定の後でも取り消されるということです。
また、承継後に複数代表となる場合は対象になりません。親子で共同代表にする形は対象外です。
会社の年数にも条件があります
意外と見落とされるのが、これです。
| 対象 | 条件 |
|---|---|
| 法人 | 公募申請時点で3期分の決算及び申告が完了していること |
| 個人事業主 | 公募申請時点で、「個人事業の開業届出書」と「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出した日付から5年が経過していること |
法人については例外があります。開業してから法人成りをして3年が経過していない場合は、開業からの通算年数が5年以上経過していれば要件を満たしたものとみなされます。
親が最近法人化した会社では、この年数が足りないことがあります。承継の話が出た段階で、決算の期数を確認しておいてください。
なお、被承継者(親)が中小企業者等であることも要件です。個人事業主の場合は青色申告者である必要があります。
100万円という補助の下限。小さい投資では申請できません
補助上限額ばかりが注目されますが、下限もあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助率 | 補助対象経費の2/3以内(小規模事業者等)または1/2以内(それ以外) |
| 補助下限額 | 100万円 |
| 補助上限額 | 800万円(賃上げ要件を満たすと1,000万円) |
| 併用申請(廃業費) | +300万円 |
公募要領は「交付申請時に補助下限額を下回る申請(補助対象経費に2/3または1/2をかけた金額が100万円を下回る申請)は受け付けない」としています。
逆算すると、必要な投資額はこうなります。
- 補助率2/3(小規模事業者等)の場合 → 対象経費150万円以上が必要
- 補助率1/2(それ以外)の場合 → 対象経費200万円以上が必要
数十万円の設備投資では、そもそも申請できません。「親から店を継ぐので、厨房機器を1台入れ替えたい」という規模では届きません。その場合は小規模事業者持続化補助金のほうが現実的です。
いくら戻るか。800万円と1,000万円の分かれ目
補助率は事業規模で決まります。小規模事業者等に該当すれば2/3、しなければ1/2です。承継の相手が親族かどうかでは変わりません。
上限を800万円から1,000万円に引き上げるには、賃上げ要件を満たす必要があります。
補助事業が完了した日を含む事業年度(基準年度)の「従業員(非常勤含む)1人当たりの給与支給総額」と比較した、基準年度の翌年度の「従業員1人当たりの給与支給総額」の上昇率が、3%以上となる賃上げを達成すること
公募申請時までに、3%以上の賃上げを行うことを全ての従業員または従業員代表者、役員に表明する必要があります。
注意点が2つあります。1つは、800万円を超えて1,000万円以下の部分の補助率は1/2以内になること。小規模事業者でも、この部分だけは2/3ではありません。もう1つは、達成できなかった場合の返還です。事業化状況報告の時点で3%以上の賃上げを達成できていなければ、引き上げ額(最大200万円)の返還を求められます。事業計画期間中の各事業年度末に水準を維持できていない場合も同様です。
試算してみます。
食堂(親から子へ承継予定・小規模事業者・補助率2/3) 子が戻って店を継ぐことになり、承継を機に厨房設備を刷新して新メニューを開発し、非対面決済も導入する。対象経費は450万円。 → 450万円 × 2/3 = 300万円。下限100万円を超えており、上限800万円の範囲内です。
工務店(親族内承継・従業員15人・補助率1/2) 先代から息子へ承継する計画で、紙の図面管理から施工管理システムへ切り替え、新しい工法の研修も行う。対象経費は900万円。 → 900万円 × 1/2 = 450万円。賃上げ要件を満たせば上限は1,000万円まで広がります。
親に払うお金は、対象になりません
親子承継で特に注意が要る点です。公募要領は、補助対象経費についてこう書いています。
事業承継に際して被承継者に支払う譲受費用(土地、資産購入費用等)は補助対象経費とならない。上記をはじめ被承継者に対して支払う費用は原則補助対象外であるため留意すること。
親から土地や設備を買い取る費用は、この補助金では見てもらえません。親子承継では、事業用の不動産や機械を親個人が持っていて、それを子が買い取る形になることがあります。その買取代金は対象外です。
対象になるのは、次の経費区分です。
| 経費区分 | 内容 |
|---|---|
| 設備費 | 国内の店舗・事務所等の工事、国内で使用する機械器具等の調達費用 |
| 産業財産権等関連経費 | 特許権等の取得に要する弁理士費用 |
| 謝金 | 補助対象事業のために依頼した専門家等に支払う経費 |
| 旅費 | 販路開拓等を目的とした国内外出張の交通費・宿泊費 |
| 外注費 | 業務の一部を第三者に外注(請負)するための経費 |
| 委託費 | 業務の一部を第三者に委託(委任)するための経費 |
対象経費として認められるには、次の3つをすべて満たす必要があります。
- 使用目的が補助対象事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費
- 補助事業期間内に契約・発注を行い支払った経費
- 実績報告で提出する証拠書類等によって金額・支払い等が確認できる経費
そして、契約・発注が交付決定日以降であり、支払いまでが補助事業期間内に完了していることが条件です。交付決定より前に発注したものは対象になりません。
なお、売上原価に相当すると事務局が判断する経費も対象外です。仕入れや材料費は見てもらえません。
廃業を伴う場合は300万円が上乗せできます
親が複数の事業をしていて、子が一部だけを継ぎ、残りは畳むというケースがあります。この場合、廃業・再チャレンジ申請と併用することで、廃業費として300万円を上乗せできます。
廃業費の対象になるのは次のとおりです。
- 廃業支援費(廃業の登記申請手続きに伴う司法書士への作成経費)
- 在庫廃棄費(既存事業の商品在庫を専門業者に依頼して処分した経費)
- 解体費(既存事業の廃止に伴う建物・設備等の解体費)
- 原状回復費(借りていた設備等を返却する際に義務となっていた原状回復費用)
- リースの解約費(解約金・違約金)
- 土壌汚染調査費
- 移転・移設費(効率化のため設備等を移転・移設するための経費)
ただし条件があります。商品在庫等を売却して対価を得る場合の処分費は対象外です。また、ファイナンスリース取引の解約に伴う解約金・違約金と、リース資産の売買に係る費用も対象外になります。
廃業費の補助率は、事業費の補助率(2/3以内または1/2以内)に従います。少なくとも1つの事業所または事業の廃業・廃止を伴うことが必要で、一部の事業を承継した後に親が残りの事業を廃業するケースも含まれます。
承継予定者が主導する、という要件の意味
対象になるのは「承継予定者を中心に実施される生産性向上等に係る取組」です。公募要領は、補助事業計画から次を確認できることを求めています。
- 承継予定者が主導して取り組む事業であること
- 承継予定の中小企業者等における事業であること
つまり、親が主導して進める設備投資は対象になりません。子が計画を作り、子が中心になって進める形が必要です。申請時には「承継予定者の主導により取り組むことが確認できる、補助事業の実施体制」を含む事業承継計画表を提出します。
親子承継では、実務上は親がまだ現役で、判断も親がしていることが多いはずです。しかしこの補助金では、後継者が何をするのかを、後継者の言葉で計画に落とすことが求められます。書類の作り方の問題ではなく、事業の進め方そのものが見られる要件です。
認定経営革新等支援機関の確認書がないと出せません
申請には、認定経営革新等支援機関の確認書が必須です。認定経営革新等支援機関とは、中小企業支援の知識・経験があるとして国が認定した機関で、税理士・会計士・金融機関・商工会議所・コンサルティング会社などが該当します。
確認を受けるのは、事業承継の蓋然性についてです。公募要領は「認定経営革新等支援機関より、事業承継の蓋然性につき確認を受けた計画書に限る」としています。5年以内に本当に承継が完了する見込みがあるのか、という点を第三者が確認する仕組みです。
公募時に提出する書類は、すべての申請者に共通して次のとおりです。
- 公募申請書(別紙)
- 認定経営革新等支援機関の確認書
- 事業承継計画表(事業承継計画書(骨子)、承継予定者の主導により取り組むことが確認できる補助事業の実施体制を含む)
申請はJグランツを使った電子申請で行います。GビズIDプライムの発行に2〜3週間かかるので、持っていない場合は早めに手続きしてください。
確認書の取得には、支援機関との複数回のやり取りが必要になることが多くあります。締切間際に依頼しても間に合いません。
16次公募のスケジュール
| 項目 | 日程 |
|---|---|
| 公募要領の開示 | 2026年9月4日(金) |
| 申請受付期間 | 2026年10月2日(金)〜11月6日(金)17:00 |
| 事業承継対象期間 | 2026年11月6日から2031年11月5日まで |
| 申請方法 | Jグランツによる電子申請 |
締切時刻は厳守で、過ぎてからの申請は受け付けられません。
税金・相続の話は、この補助金の範囲外です
親子承継では、株式の贈与・相続や、事業承継税制(納税猶予)が必ず論点になります。これらは補助金とは別の制度です。
この補助金が見ているのは、承継に向けて後継者が主導する取組の中身と、承継の蓋然性です。株式をどう移すか、税負担をどう抑えるかは、税理士に相談する領域になります。事業承継税制には別の要件と手続きがあり、この補助金の採択とは連動しません。
ただし、株式を移すこと自体は補助金の要件でもあります(経営権と所有権の両方の移転)。税務の進め方と補助事業の計画は、時期の面では連動させておく必要があります。
規模が小さいなら、他の制度も見てください
補助下限額100万円のハードルは、小さな事業者には高いものです。承継を機に数十万円の投資をしたいという規模なら、次の制度のほうが現実的です。
- 小規模事業者持続化補助金:補助率2/3、上限50万円(特例で最大250万円)。下限の定めがなく、販路開拓の取組が対象です。詳しくは小規模事業者持続化補助金をご覧ください
- 都道府県・市区町村の事業承継補助金:神奈川県事業承継補助金(上限100万円・中小企業1/2以内、小規模事業者2/3以内)、栃木県事業承継支援補助金(上限50万円・1/2以内)など、自治体が独自に設けているものがあります。国の制度より金額は小さいものの、要件が緩く、認定経営革新等支援機関の確認書が不要な場合もあります
お住まいの都道府県・市区町村の商工担当課、または事業承継・引継ぎ支援センターに問い合わせると、地域で使える制度を教えてもらえます。
よくある質問
親子間の承継だと補助率は下がりますか?
下がりません。補助率は承継の相手が親族かどうかではなく、事業規模で決まります。小規模事業者等に該当すれば2/3以内、該当しなければ1/2以内です。
すでに社長を交代しています。今から申請できますか?
事業承継促進枠は、公募申請期日から5年後までに事業承継を完了する予定の事業者を対象とする枠です。承継がすでに完了している場合、この枠の要件には当てはまりません。ご自身の状況が該当するかは、認定経営革新等支援機関または事務局にご確認ください。
株は渡さず、代表者だけ交代する予定です。使えますか?
使えません。公募要領は経営権と所有権(株式、持分等)のいずれも被承継者から承継者へ譲渡されることを要件とし、「いずれもの移転を伴わない代表者交代」を実質的な事業承継とみなされない例に挙げています。この場合、交付決定の前後を問わず補助対象外になります。
息子は他社に勤めていて、当社での勤務経験がありません。対象になりますか?
なります。3年以上の在籍・役員経験が必要なのは、親族以外の従業員が承継する場合です。被承継者の親族(民法第725条に定める六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族)であれば、年数の要件はありません。ただし、対象会社の代表経験が無い者であることが条件です。
100万円くらいの設備投資でも申請できますか?
できません。補助下限額が100万円に設定されており、対象経費に補助率を掛けた金額が100万円を下回る申請は受け付けられません。補助率2/3なら対象経費150万円以上、1/2なら200万円以上が必要です。
