主KW: 事業承継補助金 経営者交代型
「経営者交代型」という枠名は、現行の事業承継・M&A補助金にはありません。これは旧・事業承継・引継ぎ補助金の「経営革新事業」にあった3類型のうちのⅡ型で、現在は事業承継促進枠に統合されています。
ただし、名前が変わっただけではありません。いちばん大きく変わったのは、申請のタイミングです。 現行の事業承継促進枠は、公募申請期日から5年後までに承継を完了する予定の事業者を対象とする、承継の前に申請する制度になっています。旧制度の感覚で「承継が済んだので申請しよう」と動くと、要件から外れます。
厄介なことに、旧制度の公式ページ(jsh.go.jp)は今も残っていて、検索すると上位に出てきます。そこに書かれている要件と金額は、現行では使えません。
この記事では、旧制度と現行制度の対応関係と、古い情報の見分け方を整理します。現行制度の要件を詳しく知りたい方は、親子の事業承継で補助金は使える?をご覧ください。
「経営者交代型」は現行制度にありません
旧・事業承継・引継ぎ補助金には、「経営革新事業」という区分があり、その中に3つの類型がありました。
| 旧制度の類型 | 対象だった承継の形 |
|---|---|
| Ⅰ型 創業支援型 | 廃業予定者から株式譲渡・事業譲渡等で経営資源を引き継ぎ、新規に法人設立・個人開業する |
| Ⅱ型 経営者交代型 | 親族内承継や従業員承継等 |
| Ⅲ型 M&A型 | M&Aによる事業再編・統合 |
現行の事業承継・M&A補助金では、この「経営革新事業」という区分そのものが無くなり、目的別の4つの枠に整理されました。
| 旧制度の類型 | 現行での対応先 |
|---|---|
| 経営革新事業 Ⅱ型 経営者交代型 | 事業承継促進枠 |
| 経営革新事業 Ⅰ型 創業支援型 | 事業承継促進枠(類型の区分は廃止) |
| 経営革新事業 Ⅲ型 M&A型 | 専門家活用枠・PMI推進枠に再編 |
| 専門家活用型 | 専門家活用枠(名称は継続) |
| 廃業・再チャレンジ型 | 廃業・再チャレンジ枠(名称は継続) |
親族内承継・従業員承継の後継者向けという位置づけは、事業承継促進枠に引き継がれています。ただし中身は同じではありません。
いちばん大きな変更は、申請のタイミングです
ここが本題です。現行の事業承継促進枠の公募要領(16次公募)には、こう書かれています。
16次公募の事業承継対象期間は、公募申請の受付終了の日(以下、「公募申請期日」という。)である2026年11月6日から5年後の2031年11月5日までとなるため、申請にあたっては、対象となる事業承継が当該期間に実施する予定であるかを確認すること。
補助の対象になるのは、事業承継対象期間中に実施予定の事業承継に際して、承継予定者を中心に実施される生産性向上等に係る取組です。
つまり、承継が終わってから申請する制度ではなく、これから承継する会社が、承継に向けた取組のために申請する制度です。
しかも、承継を完了できなかった場合の扱いまで決まっています。公募要領は「補助事業期間終了後の事業化状況報告において計画の未達(事業承継対象期間での承継未完了)が判明した際は交付した補助金を返還すること」としています(事業者の責めに帰することができない事由がある場合を除く)。
旧制度の解説記事を読んで「承継が済んだから設備投資に使おう」と考えていた方は、ここで計画を組み直すことになります。順番が逆になっています。
旧Ⅱ型と現行・事業承継促進枠を要件ごとに突き合わせる
名称の対応だけでは、何を準備し直せばよいか分かりません。要件ごとに並べます。
| 論点 | 旧・経営者交代型(Ⅱ型) | 現行・事業承継促進枠(16次公募) |
|---|---|---|
| 申請のタイミング | 承継の実施が中心 | 公募申請期日から5年以内に承継を完了する予定(=承継の前) |
| 承継予定者の経験 | 特定創業支援事業を受けた者等、経営に関する一定の実績や知識を有していること | 親族なら年数要件なし(代表経験が無い者に限る)。親族以外の役員・従業員は3年以上の経験 |
| 親族の範囲 | ― | 民法第725条の六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族 |
| 会社の年数 | ― | 法人は3期分の決算・申告が完了。個人事業主は開業届・青色申告承認申請から5年経過 |
| 経営権と所有権 | ― | いずれも移転が必要。 代表者交代のみは対象外 |
| 支援機関の関与 | ― | 認定経営革新等支援機関の確認書が必須(事業承継の蓋然性を確認) |
| 補助下限額 | ― | 100万円(下回る申請は受け付けない) |
| 補助上限額 | 当時の要領による | 800万円(賃上げ要件で1,000万円) |
| 補助率 | 当時の要領による | 小規模事業者等2/3以内、それ以外1/2以内 |
「―」は、旧制度のページからは確認できなかった項目です。当時の公募要領に記載があった可能性はありますが、現行の要件はすべて現行の公募要領で確認してください。旧ページの記載を根拠に準備すると外します。
現行で新しく効いてくるのは、補助下限額100万円と経営権・所有権の両方の移転です。この2つは、旧制度の解説記事にはまず載っていません。
旧制度の補助上限額は使えません
金額も変わっています。現行の事業承継促進枠は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助率 | 補助対象経費の2/3以内(小規模事業者等)または1/2以内 |
| 補助下限額 | 100万円 |
| 補助上限額 | 800万円(賃上げ要件を満たすと1,000万円) |
| 併用申請(廃業費) | +300万円 |
補助下限額があるので、逆算すると補助率2/3なら対象経費150万円以上、1/2なら200万円以上の投資が必要です。小さな設備投資では申請そのものができません。
上限を1,000万円にする賃上げ要件は、補助事業が完了した日を含む事業年度(基準年度)と、その翌年度を比べて、従業員1人あたりの給与支給総額の上昇率が3%以上になることです。公募申請時までに、全ての従業員または従業員代表者、役員に表明する必要があります。
注意点が2つあります。800万円を超えて1,000万円以下の部分の補助率は1/2以内になること(小規模事業者でも2/3にはなりません)。そして達成できなければ返還で、事業化状況報告の時点で3%以上を達成できていなければ、引き上げ額(最大200万円)の返還を求められます。
創業支援型(Ⅰ型)・M&A型(Ⅲ型)は今どこに行ったか
経営者交代型と同じ「経営革新事業」にあった他の2類型も、場所が変わっています。
Ⅰ型 創業支援型 廃業予定者から経営資源を引き継いで新規に開業する形も、現行では事業承継促進枠に統合されています。類型の区分自体が無くなったためです。
Ⅲ型 M&A型 M&Aは、費目ごとに分かれました。
- M&Aの専門家費用(仲介手数料、デューデリジェンス費用等)→ 専門家活用枠
- M&A成約後の統合作業(PMI)→ PMI推進枠
現行の4つの枠と補助上限額は次のとおりです。
| 枠 | 補助上限額 | 補助率 |
|---|---|---|
| 事業承継促進枠 | 800万〜1,000万円 | 2/3・1/2 |
| 専門家活用枠(買い手支援類型) | 600万〜800万円(100億企業要件で2,000万円) | 1/3〜2/3 |
| 専門家活用枠(売り手支援類型) | 600万〜800万円 | 1/2〜2/3 |
| 専門家活用枠(小規模売り手支援類型) | 450万円 | 2/3 |
| PMI推進枠(PMI専門家活用類型) | 150万円 | 1/2 |
| PMI推進枠(事業統合投資類型) | 800万〜1,000万円 | 1/2(小規模事業者2/3) |
| 廃業・再チャレンジ枠 | 150万円 | 1/2・2/3 |
「経営革新事業」という大きな区分がなくなり、目的別に整理し直されたというのが、この改定の実態です。自分がやろうとしていることが「承継の準備」なのか「M&Aの手続き」なのか「統合後の投資」なのかで、見る枠が変わります。枠ごとの詳しい金額とシミュレーションは事業承継・M&A補助金にまとめています。
今の自分は、どの枠を見ればいいか
旧・経営革新事業の3類型のどれに近かったかで、見るべき現行の枠が変わります。
| やろうとしていること | 見る枠 |
|---|---|
| 親族・従業員に会社を継がせる準備として、後継者主導で設備投資や新しい取組をしたい | 事業承継促進枠 |
| 廃業予定の人から経営資源を引き継いで開業したい | 事業承継促進枠(旧Ⅰ型もここに統合) |
| 会社を買う/売る。その仲介手数料や調査費用が必要 | 専門家活用枠 |
| 売り手側で、規模が小さい | 専門家活用枠(小規模売り手支援類型・上限450万円・補助率2/3) |
| M&A成約後、システムや組織の統合を進めたい | PMI推進枠 |
| 事業を畳みたい | 廃業・再チャレンジ枠 |
廃業・再チャレンジ枠は、他の枠と併用できます。 単独なら上限150万円ですが、事業承継促進枠・専門家活用枠・PMI推進枠の事業統合投資類型と併用する場合は、それぞれの補助上限に加算されます。事業承継促進枠と併用する場合の廃業費は300万円です。補助率は、併用する事業の補助率に従います。
一部の事業だけを継いで、残りは畳むというケースでは、この併用が使えます。廃業費として対象になるのは、廃業支援費(登記手続きに伴う司法書士への費用)、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リースの解約費、土壌汚染調査費、移転・移設費です。
現行制度で新しく効く条件
旧制度の記事を読んでいた方が見落としやすい条件を、あらためて整理します。
1. 補助下限額100万円 交付申請時に、対象経費に補助率を掛けた金額が100万円を下回る申請は受け付けられません。補助率2/3なら対象経費150万円以上、1/2なら200万円以上が必要です。
2. 経営権と所有権の両方を移すこと 公募要領は「経営権と所有権(株式、持分等)のいずれも被承継者から承継者へ譲渡されること」を要件とし、「いずれもの移転を伴わない代表者交代」は実質的な事業承継とみなさないとしています。株を先代が持ったまま社長だけ交代する形は対象外です。
このほか、実質的な事業承継とみなされない例として、グループ内の事業再編、物品・不動産等のみを保有する事業の承継、フランチャイズ契約(実質的にそうみなされる場合を含む)、従業員等へののれん分け、休眠会社や事業の実態がない会社における代表者交代、設立間もない法人における代表者交代などが挙げられています。これらに該当すると事務局が判断した場合、交付決定の前後を問わず補助対象外になります。
3. 会社の年数 法人は公募申請時点で3期分の決算・申告が完了していること。個人事業主は開業届と青色申告承認申請書を提出した日付から5年が経過していることが必要です。
4. 承継後に複数代表となる場合は対象外 先代と後継者の共同代表にする形は認められません。
5. 親に払う費用は対象外 事業承継に際して被承継者に支払う譲受費用(土地、資産購入費用等)をはじめ、被承継者に対して支払う費用は原則として補助対象外です。
読んでいる記事が古いかどうかの見分け方
検索で出てくるページが現行のものか旧制度のものかは、次で判別できます。
旧制度のページである可能性が高い印
- ドメインが jsh.go.jp(旧・事業承継・引継ぎ補助金の事務局)
- URLに r3h r5h r6h などが入っている(令和3年度・5年度・6年度)
- 「事業承継・引継ぎ補助金」という名称を使っている
- 「経営革新事業」「Ⅰ型」「Ⅱ型」「Ⅲ型」という語がある
- 「経営資源引継ぎ補助金」(さらに前の名称)
現行制度のページである印
- ドメインが shoukei-mahojokin.go.jp
- 「事業承継・M&A補助金」という名称
- 「事業承継促進枠」「専門家活用枠」「PMI推進枠」「廃業・再チャレンジ枠」という枠名
制度の名称は、次の順で変わってきました。
- 経営資源引継ぎ補助金(令和2年度第1次補正予算)
- 事業承継・引継ぎ補助金(令和3〜5年度補正予算)※この時期に「経営者交代型」が存在
- 事業承継・M&A補助金(令和6年度以降・現行)
旧名で検索して出てくる補助上限額・応募要件・提出書類は、現行制度には引き継がれていません。必ず現行名で最新の公募要領を確認してください。
現行制度で今から動くなら
16次公募のスケジュールです。
| 項目 | 日程 |
|---|---|
| 公募要領の開示 | 2026年9月4日(金) |
| 申請受付期間 | 2026年10月2日(金)〜11月6日(金)17:00 |
| 事業承継対象期間 | 2026年11月6日から2031年11月5日まで |
| 申請方法 | Jグランツによる電子申請 |
締切時刻は厳守で、過ぎてからの申請は受け付けられません。
準備で時間がかかるのは2つです。
1つめは認定経営革新等支援機関の確認書。事業承継の蓋然性について確認を受けた計画書が必要で、税理士・会計士・金融機関・商工会議所などが発行元になります。複数回のやり取りが必要になることが多く、締切間際の依頼では間に合いません。
2つめはGビズIDプライム。Jグランツでの電子申請に必要で、発行に2〜3週間かかることがあります。まだ持っていないなら、今すぐ申請してください。
公募時に提出する共通書類は、公募申請書(別紙)、認定経営革新等支援機関の確認書、事業承継計画表(事業承継計画書(骨子)と、承継予定者の主導により取り組むことが確認できる補助事業の実施体制を含む)です。
旧制度で採択された事業者が気をつけること
現行の公募要領には、過去の受給者に関する条件があります。
過去の「経営資源引継ぎ補助金」又は「事業承継・引継ぎ補助金」の補助金受給者においては、期日までに事業化状況報告を適切に実施していること(事業化状況報告の実施義務が生じているにも関わらず、当該報告を提出しなかった者は対象外とする)。
旧制度で採択されて補助金を受け取ったことがある場合、事業化状況報告を出していないと、現行制度に申請できません。心当たりがあるなら、まず過去の報告状況を確認してください。
また、公募申請時点から過去18か月の間に中小企業庁が所管する補助金へ申請していて、賃上げ加点の要件等が未達成のままになっている場合、正当な理由が認められない限り大幅に減点されます。対象になる補助金には、ものづくり補助金、デジタル化・AI導入補助金、小規模事業者持続化補助金、事業再構築補助金、新事業進出補助金、中小企業省力化投資補助事業などが含まれます。
現行制度の要件が重いと感じたら
現行の事業承継促進枠は、補助下限額100万円、認定経営革新等支援機関の確認書、経営権と所有権の両方の移転と、旧制度より確認事項が増えています。承継の規模がそれほど大きくない場合は、他の制度のほうが合うことがあります。
- 都道府県・市区町村の事業承継補助金:神奈川県事業承継補助金(上限100万円・中小企業1/2以内、小規模事業者2/3以内)、栃木県事業承継支援補助金(上限50万円・1/2以内)など。金額は小さいものの、要件が緩く動きやすい制度です
- 小規模事業者持続化補助金:承継そのものを支援する制度ではありませんが、承継を機にした販路開拓の取組であれば対象になります。補助率2/3・上限50万円(特例で最大250万円)で、補助下限額の定めがありません。詳しくは小規模事業者持続化補助金をご覧ください
最寄りの事業承継・引継ぎ支援センター(各都道府県に設置)でも、承継の進め方と使える制度の相談ができます。
よくある質問
「経営者交代型」で今も申請できますか?
できません。この枠名は現行の事業承継・M&A補助金にはなく、事業承継促進枠に統合されています。申請する際は、現行の枠名で公募要領をご確認ください。
昔の記事に書いてあった補助上限額は使えますか?
使えません。現行の事業承継促進枠は補助上限額800万円(賃上げ要件を満たすと1,000万円)、補助下限額100万円、補助率は小規模事業者等が2/3以内、それ以外が1/2以内です。補助下限額は旧制度の記事にはまず載っていない条件なので、特にご注意ください。
すでに承継を済ませています。現行制度で申請できますか?
事業承継促進枠は、公募申請期日から5年後までに事業承継を完了する予定の事業者を対象とする枠です。承継がすでに完了している場合、この枠の要件には当てはまりません。ご自身の状況が該当するかは、認定経営革新等支援機関または事務局にご確認ください。
なぜ類型の区分がなくなったのですか?
現行制度では経営革新事業という大きな区分を廃止し、目的別の4つの枠に再編しています。公表資料から確認できるのは、この再編が行われたという事実までです。区分をなくした理由についての詳細な説明は、公表されている資料からは確認できませんでした。
旧制度で補助金を受け取ったことがあります。また申請できますか?
事業化状況報告を期日までに適切に実施していることが条件です。報告の実施義務が生じているにもかかわらず提出していない場合は対象外になります。まず過去の報告状況をご確認ください。
