「高齢者雇用の補助金」と一口に言っても、実は目的の異なる複数の制度があります。定年を延長したいのか、高齢社員向けの評価制度を整えたいのか、新たに高齢者を雇いたいのか、それとも作業現場の安全対策をしたいのか。目的によって使うべき制度がまったく変わります。
この記事では、高齢者雇用に関わる補助金・助成金を4つの目的別に整理し、それぞれの支給額のイメージと、詳しい要件を解説した個別記事への案内をまとめます。
高齢者雇用の補助金・助成金は4つの目的に分かれる
高齢者雇用に関する国の支援制度は、大きく次の4つに整理できます。
| 目的 | 代表的な制度 | 実施主体 |
|---|---|---|
| 定年延長・継続雇用の仕組みを整える | 65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース) | 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) |
| 高齢者向けの評価・処遇制度を整える | 65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース) | JEED |
| 高齢者を新たに雇用する | 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース) | 厚生労働省(ハローワーク経由) |
| 高齢者が安全に働ける職場環境にする | エイジフレンドリー補助金 | 厚生労働省(中央労働災害防止協会が事務局) |
実施主体が異なる点に注意してください。 65歳超雇用推進助成金・高年齢者無期雇用転換コースはJEED、特定求職者雇用開発助成金はハローワーク、エイジフレンドリー補助金は中央労働災害防止協会が窓口です。申請先を間違えると手続きが進みません。
目的1: 定年延長・継続雇用の仕組みを整えたい
65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)は、定年の引き上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入等に取り組んだ中小企業事業主等に支給されます。
支給額は、実施する制度の内容と、対象となる被保険者数によって変わります。 例えば、定年の定めを廃止した場合で対象被保険者数が10人以上なら最大240万円、定年を70歳以上に引き上げた場合は最大140万円、66〜69歳への引き上げ(5歳以上の引き上げ)は最大135万円が目安です。企業の規模が小さいほど、少ない対象人数でも高い水準の助成を受けられる設計になっています。
もう1つ、有期雇用の高齢者を無期雇用に転換する場合に使えるのが「高年齢者無期雇用転換コース」です。 対象労働者1人あたり40万円(中小企業事業主以外は30万円)が支給され、1支給申請年度・1事業所あたり10人までが上限です。
目的2: 高齢者向けの評価・処遇制度を整えたい
定年延長のような大がかりな制度変更をしなくても使えるのが、65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)です。高年齢者向けの評価制度・賃金処遇制度・研修制度・健康管理制度等を整備すると、中小企業で最大60万円が支給されます。機器等の導入を伴う場合は、経費の60%(上限50万円)が支給される区分もあります。
「定年延長までは考えていないが、今いる高齢社員のモチベーションを上げたい」という会社に向いている制度です。 詳しい支給要件・対象となる制度の例は65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)の記事で解説しています。
目的3: 高齢者を新たに雇用したい
新たに60歳以上の高齢者をハローワーク等の紹介で雇用する場合に使えるのが、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)です。高年齢者(60歳以上)のほか、障害者、母子家庭の母等も対象に含まれる、対象者の幅が広い制度です。
支給額は対象者の区分と企業規模によって変わり、短時間労働者以外(週30時間以上)の高年齢者を雇用した場合、中小企業で1年間・最大60万円が目安です。障害者を雇用した場合はさらに高い水準(重度障害者等で最大240万円・3年間)になります。詳しい支給要件は特定求職者雇用開発助成金の記事で解説しています。
目的4: 高齢者が安全に働ける職場環境にしたい
高齢者雇用の補助金の中で、唯一「雇用」ではなく「労働災害の防止」を目的にしているのがエイジフレンドリー補助金です。実施主体は厚生労働省で、事務局を中央労働災害防止協会が担っています。
高年齢労働者の身体機能の低下を補う設備・装置(例: 段差の解消、照明の増設、滑りにくい床材への変更等)を導入した場合、経費の50%(上限100万円、消費税を除く)が補助されます。専門家によるリスクアセスメント(職場の危険性を洗い出す診断)を実施した場合は、その費用の80%が補助される区分もあります。
この補助金は「高齢者を雇っているかどうか」ではなく「高齢者が働く現場の安全対策をしているか」が問われる制度です。 65歳超雇用推進助成金や特定求職者雇用開発助成金とは目的も窓口も異なるため、混同しないよう注意してください。申請受付期間は例年、春から秋にかけて設定されており、予算がなくなり次第終了します。最新の受付期間は中央労働災害防止協会の公式ページで確認してください。
業種別に見る、高齢者雇用の補助金の使い方
高齢者雇用の課題は業種によって異なります。3つの業種を例に、使うべき制度のイメージを見てみます。
小売業(従業員20人・レジ担当に高齢のパート従業員が多い)の場合
長年勤めているパート従業員の継続雇用を制度化したい場合、まず65歳超継続雇用促進コースで継続雇用制度の導入・拡充を検討します。あわせて、レジ台の高さ調整や滑りにくい床材への変更といった設備投資には、エイジフレンドリー補助金が使える可能性があります。「制度」と「現場の設備」の両面から支援を受けられるのが、この業種の特徴です。
建設業(従業員15人・熟練技能者の高齢化が進んでいる)の場合
熟練の職人が持つ技能を若手に引き継ぐ体制を整えたい場合、高年齢者評価制度等雇用管理改善コースで、技能継承の役割に応じた評価・処遇制度を整備することが対象になり得ます。現場作業の負担軽減のための設備(段差解消、荷重補助機器の導入等)にはエイジフレンドリー補助金が使えます。
介護施設(従業員40人・新たに高齢者を採用したい)の場合
人手不足を補うため、60歳以上の求職者をハローワーク経由で新たに採用する場合は、特定求職者雇用開発助成金の対象になります。あわせて、腰痛対策等の身体的負担を軽減する介護リフト等の導入にはエイジフレンドリー補助金が使える可能性があります。
複数の制度を組み合わせて使えるか
高齢者雇用に関するこれらの制度は、財源や目的が異なるため、要件を満たせば組み合わせて活用できる場合があります。 例えば、定年延長の制度整備(65歳超継続雇用促進コース)と、現場の安全対策(エイジフレンドリー補助金)は別々の予算・審査で動いているため、両方の要件を満たせば両方を申請できる可能性があります。
ただし、同じ設備・同じ取り組みに対して複数の補助金・助成金を重複して受け取ることは、原則としてできません。 対象経費が重複していないか、事前に各制度の窓口(JEED・ハローワーク・中央労働災害防止協会)に確認することをおすすめします。
例えば、エイジフレンドリー補助金で介護リフトを導入する費用の補助を受けた場合、同じ介護リフトの購入費用について、別の設備投資系の補助金(ものづくり補助金等)を重ねて申請することはできません。「同じ経費に複数の財源から補助を受ける」ことを二重取りと呼び、多くの補助金・助成金で禁止されています。 複数の制度を検討する際は、対象経費が重ならないように組み合わせを設計する必要があります。
自治体独自の高齢者雇用支援策もある
国の制度に加えて、都道府県・市区町村が独自に、高齢者雇用に取り組む中小企業向けの補助金を設けている場合があります。 例えば、高齢者向けの職場環境改善費用の一部を補助する制度や、シニア人材の採用にかかる求人広告費を補助する制度などです。
こうした自治体独自の制度は、国の制度と条件が重なる部分もあれば、独自に上乗せされている部分もあります。自社の所在地の商工担当部署に、国の制度とあわせて確認しておくと、見落としを防げます。 自治体独自の制度は、国の制度ほど広く知られていないことが多く、対象となる期間や予算枠も年度ごとに変わるため、毎年度はじめに確認する習慣をつけておくと活用の機会を逃しにくくなります。
なぜ今、高齢者雇用の補助金が増えているのか
高齢者雇用の支援制度が充実している背景には、高年齢者雇用安定法という法律があります。この法律では、事業主に対して65歳までの雇用確保措置(定年の引き上げ・継続雇用制度の導入・定年廃止のいずれか)を義務付けており、さらに70歳までの就業機会確保が努力義務とされています。
義務や努力義務があるからこそ、その実施を後押しする補助金・助成金が整備されているという構造です。65歳超雇用推進助成金は、法律上の努力義務である70歳までの就業機会確保に取り組む企業を支援する制度として位置づけられています。「法律で決まっているなら助成金は要らないのでは」と思うかもしれませんが、努力義務の段階にとどまる部分(66歳以降の雇用確保)を後押しする目的で助成金が用意されている、と理解しておくと制度の位置づけが分かりやすくなります。
65歳超雇用推進助成金の対象になりやすい会社・なりにくい会社
同じ「65歳超雇用推進助成金」でも、会社の現状によって対象になりやすいコースが変わります。
- すでに65歳定年制を導入していて、これを70歳に引き上げたい会社 → 65歳超継続雇用促進コースが有力候補です
- 定年制度自体を見直すつもりはないが、高齢社員の評価・処遇の仕組みを整えたい会社 → 高年齢者評価制度等雇用管理改善コースが向いています
- 有期契約で働いている60歳以上の従業員を無期雇用に切り替えたい会社 → 高年齢者無期雇用転換コースが対象になります
逆に、すでに定年制度がなく、かつ評価制度も整っている会社は、新たに実施する「取り組み」が無いため、いずれのコースも対象にならないことがあります。助成金は「新たな取り組みへの後押し」という性質が強いため、現状維持のままでは支給要件を満たせない点に注意してください。制度を見直す予定がある会社は、実施に踏み切る前に対象コースをよく確認しておくことを強くおすすめします。
エイジフレンドリー補助金の対象になる設備の具体例
エイジフレンドリー補助金でいう「高年齢労働者の身体機能の低下を補う設備・装置」とは、具体的にはどのようなものを指すのでしょうか。公式に示されている代表的な例は次のとおりです。
- 通路の段差の解消、手すりの設置
- 照度不足を補うための照明の増設・LED化
- 滑りやすい床の防滑化(床材の変更、滑り止めシートの設置等)
- 重量物の運搬を補助する機器(介護リフト、パワーアシストスーツ等)の導入
- 熱中症対策のための空調服・スポットクーラー等の導入(熱中症対策コースが設けられている年度もあります)
「高齢者のためだけの設備」である必要はなく、結果的に高齢者の身体的な負担を軽くする設備であれば対象になり得ます。 例えば照明を明るくする工事は、高齢者だけでなく全従業員にとって働きやすい環境改善になりますが、高齢労働者の視力低下を補う目的が明確であれば対象になります。対象になる設備の範囲は年度ごとに見直されるため、検討している設備が対象に含まれるかは、申請前に必ず最新の交付要綱で確認してください。
「うちの会社は中小企業に該当するか」の確認
多くの制度で、中小企業事業主かどうかによって支給額や補助率が変わります。ここでいう中小企業は、中小企業基本法に定める中小企業者の考え方に基づき、業種ごとに資本金額または常時使用する従業員数のいずれかで判定されます(製造業その他は資本金3億円以下または従業員300人以下、卸売業は1億円以下または100人以下、小売業は5,000万円以下または50人以下、サービス業は5,000万円以下または100人以下。いずれかを満たせば該当します)。
従業員数が基準を超えていても、資本金額の基準を満たしていれば中小企業として扱われる場合があるため、両方の基準で確認しておくことが大切です。
申請のタイミングで注意すべきこと
高齢者雇用の補助金・助成金の多くは、「取り組みを実施する前」に手続きが必要です。
- 65歳超雇用推進助成金は、制度導入前に「計画書」の作成・提出が必要な場合があります
- 特定求職者雇用開発助成金は、ハローワーク等の紹介を経て雇用することが条件です。すでに雇用してしまった後では対象になりません
- エイジフレンドリー補助金は、設備の導入前に交付申請を行い、交付決定を受けてから発注・契約する必要があります
特に見落とされがちなのが、特定求職者雇用開発助成金の「ハローワーク等の紹介」という条件です。 すでに知り合いのつてで高齢者を採用してしまった場合、その方をどれだけ長く継続雇用しても、この助成金の対象にはなりません。高齢者の採用を検討し始めた段階で、先にハローワークに求人を出しておくことが、助成金の対象になるための前提条件になります。「良い人が見つかったから採用してから助成金を探す」という順番では間に合わないため、注意してください。民間の人材紹介会社経由で採用した場合も、原則としてこの助成金の対象にはならないため、高齢者の採用ルートを決める段階で、助成金の活用を視野に入れるかどうかをあわせて検討しておく必要があります。
「制度を整えてから、または雇ってから助成金を探す」のでは間に合わないケースが多い点に注意してください。高齢者雇用に関する取り組みを検討し始めた段階で、使えそうな制度を確認しておくことが、支給を受けるための実務上のポイントです。
よくある質問
65歳を超えて雇用していれば自動的に助成金の対象になりますか?
いいえ、自動的にはなりません。65歳超雇用推進助成金は、定年延長や評価制度の整備など「新たな取り組み」を実施した場合に支給される制度です。すでに65歳を超えて雇用しているだけでは、要件を満たしたことにはなりません。
個人事業主でも高齢者雇用の助成金は使えますか?
雇用保険の適用事業所であれば、法人・個人事業主を問わず対象になり得ます。ただし、コースによって従業員数や取り組み内容の要件が異なるため、自社の状況に照らして確認が必要です。
エイジフレンドリー補助金は毎年応募できますか?
年度ごとに予算・要綱が新しく設定され、内容が見直されることがあります。前年度に申請した設備と同じものが翌年度も対象になるとは限らないため、申請を検討する年度の最新の案内を必ず確認してください。
複数のコースを同時に申請できますか?
制度・コースによって異なります。65歳超雇用推進助成金の中でも複数コースを組み合わせられる場合がありますが、同一の取り組み・経費に対して重複して支給を受けることはできません。事前に各制度の窓口に確認することをおすすめします。
定年を引き上げるだけで自動的に助成金がもらえますか?
いいえ、定年の引き上げを実施しただけでは支給されません。65歳超雇用推進助成金では、就業規則の改定内容や、対象となる被保険者数、雇用管理の整備状況など、コースごとに定められた要件をすべて満たしたうえで、期限内に支給申請を行う必要があります。要件を満たしていても、申請の手続きを行わなければ支給されない点に注意してください。
高齢者を再雇用する場合の給与は下げてもよいのですか?
助成金の要件とは別に、再雇用時の給与水準は労働契約・就業規則の見直しに関わる論点です。一般的に、継続雇用にあたって従前より賃金が下がるケースはありますが、業務内容や責任の変化との整合性が問われることがあります。この点は助成金の支給要件そのものではなく、労務管理上の重要な論点になるため、社会保険労務士等の専門家に相談することをおすすめします。
助成金の情報はどこで最新版を確認できますか?
65歳超雇用推進助成金と高年齢者無期雇用転換コースはJEED(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)、特定求職者雇用開発助成金は厚生労働省・ハローワーク、エイジフレンドリー補助金は中央労働災害防止協会が、それぞれ最新の案内を公式サイトで公表しています。年度によって支給額・要件が変わるため、申請前に必ず該当する窓口の最新情報を確認してください。
高齢者を雇うと社会保険料の負担が変わりますか?
雇用保険・社会保険の適用条件は、年齢だけでなく労働時間や雇用契約の形態によって決まります。70歳以上の従業員は厚生年金の被保険者ではなくなりますが、健康保険や雇用保険の適用は年齢だけで一律に外れるわけではありません。この点は助成金の要件とは別の労務管理上の論点になるため、日本年金機構や年金事務所、または社会保険労務士に確認することをおすすめします。
免責事項: 本記事の内容は2026年9月時点で確認できた情報にもとづきます。各制度の支給要件・補助率・上限額・受付期間は年度により変更されるため、申請前に必ず厚生労働省・JEED・中央労働災害防止協会の公式ページで最新の内容をご確認ください。エイジフレンドリー補助金は特に、コース構成や補助率が年度ごとに見直される傾向があるため、前年度の情報のまま準備を進めないよう注意が必要です。
