高齢者を雇う会社が使える助成金は、国の制度に限ってコース別に数えると5つあります。60歳以上を新しく雇うなら特定求職者雇用開発助成金で、令和8年度は中小企業で1人60万円です。定年を引き上げたり継続雇用を延ばしたりするなら65歳超雇用推進助成金で、額は15万円から240万円までと取り組みの中身で大きく変わります。現場の安全対策にはエイジフレンドリー補助金があります。
高齢者雇用助成金とは、高年齢者の雇用を増やしたり安定させたりする事業主の取り組みに、国が費用を出す制度の総称です。高齢者雇用に関する助成金はどれも事業主に出る制度です。「高齢者雇用 補助金」と調べた人も、探しているのはこの助成金の一覧だと思います。従業員本人に出るお金としては60歳以降の賃下がりを埋める高年齢雇用継続給付があり、本文の最後で触れています。
この記事は先に5つの制度の違いと金額の決まり方を整理し、そのあとに代表的な制度の金額表、締切の暦、共通の注意点、都道府県ごとの一覧を載せました。検索で上位に出る解説記事のなかには、廃止された制度や古い上限額を載せているものがあります。この記事の金額と条件は、厚生労働省と高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の令和8年度のページで確かめたものです。
高齢者雇用の助成金の概要
国の高齢者雇用の助成金は、お金の出どころと窓口が3つに分かれます。65歳超雇用推進助成金はJEEDの都道府県支部、特定求職者雇用開発助成金は労働局とハローワーク、エイジフレンドリー補助金は厚生労働省から委託を受けた補助事業者が窓口です。窓口を間違えると手続きが進まないので、制度を選ぶときに窓口もあわせて決めます。
助成金と補助金の違い
雇用関係の助成金は決められた取り組みを事業主が行い、その結果を書類で申請して審査を受ける仕組みです。要件を満たせば原則として支給され、公募で順位をつけて選ぶ補助金とは性格が違います。ただしJEEDの各コースのページには「国の予算の範囲内」「受付を停止する場合があります」とあり、無制限に受け付けるわけではありません。
エイジフレンドリー補助金は名前のとおり補助金で、交付申請をして審査を受け、交付決定が出てから発注する流れです。この記事では助成金と補助金をまとめて「助成金」と呼び、補助金の流れが違う箇所は分けて書きます。
5つの制度の使い分け
最初に決めるのは新しく人を雇うのか、いまいる社員の働き方を整えるのか、現場の設備を直すのかです。目的ごとの制度は次のとおりです。
| 目的 | 制度 | 窓口 |
|---|---|---|
| 60歳以上を新しく雇う | 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース) | 労働局・ハローワーク |
| 定年を引き上げる、継続雇用を延ばす | 65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース) | JEED 都道府県支部 |
| 高齢社員の評価・賃金・健康管理の制度を整える | 65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース) | JEED 都道府県支部 |
| 50歳以上の有期契約社員を無期雇用に転換する | 65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース) | JEED 都道府県支部 |
| 高齢社員の転倒・腰痛などの労働災害を防ぐ設備を入れる | エイジフレンドリー補助金 | 補助事業者(厚生労働省が公表) |
編集部の見立てでは迷うのは「採用が先か、制度が先か」です。60歳以上の採用を決める前に先にハローワークへ求人を出しておくこと、定年や継続雇用を変える前に就業規則の改定日と申請の窓口を確かめることが、どちらも支給の前提になります。順番を間違えると後から取り戻せません。
60歳以上を雇うと出る額(特定求職者雇用開発助成金)
特定求職者雇用開発助成金は高年齢者(60歳以上)、障害者、母子家庭の母などの就職が難しい人をハローワークなどの紹介で雇い入れて継続して雇う事業主に出る助成金です。厚生労働省のページに載る令和8年度の支給額のうち、60歳以上の分は次のとおりです。
| 対象労働者 | 中小企業事業主 | 中小企業事業主以外 |
|---|---|---|
| 60歳以上(週30時間以上) | 60万円(1年、30万円×2期) | 50万円(1年、25万円×2期) |
| 60歳以上(週20時間以上30時間未満) | 40万円(1年、20万円×2期) | 30万円(1年、15万円×2期) |
支給額は半年ごとの支給対象期に分けて払われ、その期に対象労働者へ払った賃金の額が上限です。障害者を雇う場合は額が大きく、重度障害者などで最大240万円(3年)になります。
受給するには次の条件がそろう必要があります。
- ハローワークか、届出をした民間の職業紹介事業者などの紹介で雇い入れること。
- 雇用保険の一般被保険者か高年齢被保険者として雇い、継続して雇用することが確実と認められること。
2つ目の「継続して雇用」は対象労働者が65歳以上に達するまで続け、かつ雇用期間が継続して2年以上であることと厚生労働省のページに書かれています。紹介を受けずに知り合いの紹介で採用してしまうと対象になりません。
令和8年5月1日以降は、ハローワークなどで就労に向けた個別支援を受けている60歳以上の人が対象労働者になります。 厚生労働省は、「特定求職者雇用開発助成金の対象労働者であること」を明示した職業紹介を行った場合に限って支給申請ができると案内しています。個別支援の具体的な基準(どの窓口のどの支援が該当するか)は、厚生労働省のページに書かれていませんでした。求人を出す前にハローワークの窓口で確かめます。
詳しい条件と申請の流れは特定求職者雇用開発助成金の記事に書いています。
定年の引き上げ・継続雇用でもらえる額(65歳超継続雇用促進コース)
65歳超継続雇用促進コースは就業規則などで次のいずれかの制度を実施し、就業規則を労働基準監督署に届け出た事業主に出ます。
- 旧定年を上回る65歳以上への定年引き上げ
- 定年の定めの廃止
- 旧定年と旧継続雇用年齢を上回る66歳以上の継続雇用制度の導入
- 他社による継続雇用制度の導入
額は対象になる被保険者の人数と、実施した内容で決まります。JEEDの令和8年度の表から、定年引き上げと定年の廃止の分を並べます。
| 対象被保険者数 | 65歳への定年引き上げ | 66〜69歳(5歳未満の引き上げ) | 66〜69歳(5歳以上の引き上げ) | 70歳以上への定年引き上げ | 定年の定めの廃止 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1〜3人 | 15万円 | 25万円 | 40万円 | 45万円 | 60万円 |
| 4〜6人 | 20万円 | 32万円 | 65万円 | 70万円 | 120万円 |
| 7〜9人 | 25万円 | 39万円 | 110万円 | 115万円 | 180万円 |
| 10人以上 | 30万円 | 46万円 | 135万円 | 140万円 | 240万円 |
66歳以上まで雇う継続雇用制度を入れる場合は、希望者全員を対象にするか、対象者の基準を設けるかで額が分かれます。
| 対象被保険者数 | 66〜69歳(希望者全員) | 66〜69歳(基準あり) | 70歳以上(希望者全員) | 70歳以上(基準あり) |
|---|---|---|---|---|
| 1〜3人 | 22万円 | 20万円 | 40万円 | 36万円 |
| 4〜6人 | 37万円 | 32万円 | 65万円 | 60万円 |
| 7〜9人 | 60万円 | 50万円 | 105万円 | 95万円 |
| 10人以上 | 90万円 | 75万円 | 130万円 | 120万円 |
定年の引き上げと継続雇用制度の導入を両方実施しても、支給されるのはどちらか高い額だけです。他社による継続雇用制度を入れた場合の額は別の表になっていて、10人以上で最大105万円です。
主な受給要件には、前提となる条件が複数あります。ここでは見落としやすい3つを挙げます。
- 高年齢者雇用等推進者を選任し、高年齢者雇用管理に関する措置(教育訓練、作業施設の改善、健康管理、職域の拡大、賃金体系の見直しなど7つのうち1つ以上)を実施していること
- 支給申請日の前日の時点で、1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること
- 制度を実施した日の6か月前から支給申請日の前日までのあいだに、高年齢者雇用安定法の定めと異なる定めをしていないこと
申請期間は、制度を実施した日の属する月の翌月から数えて4か月以内の各月の月初から15日までです。15日が土日祝日なら翌開庁日になります。期間を過ぎた申請書は、天災などのやむを得ない場合を除いて受け付けられません。詳しい流れは65歳超雇用推進助成金の記事で確かめられます。
評価制度や賃金の仕組みを整えたときの額(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)
定年を延ばさなくても、高齢社員の働き方の制度を整えると使えるコースです。厚生労働省は令和8年4月8日に支給要領を改正し、助成額を定率から定額に変えました。JEEDのページの令和8年度の額は次のとおりです。
| 実施した措置 | 中小企業事業主 | 中小企業事業主以外 |
|---|---|---|
| 高年齢者の職業能力を評価する仕組みを活用した賃金・人事処遇制度の導入または改善 | 60万円 | 45万円 |
| 労働時間制度、在宅勤務制度、研修制度の導入または改善、健康管理制度の導入など | 30万円 | 23万円 |
措置に伴って機器などを導入したときは導入に要した経費に中小企業事業主なら60%、それ以外なら45%をかけた額が上乗せされます。上乗せの上限は50万円です。
この改正で、制度の導入や見直しに必要な専門家への委託の要件がなくなりました。前の年度の解説記事に専門家への委託が必要と書かれていても、令和8年度では要件ではありません。支給を受けるには雇用管理整備計画を作ってJEED理事長の認定を受け、計画の期間内に措置を実施し、計画終了の翌日から6か月間の運用状況の書類を整える必要があります。計画書は、計画の開始日の6か月前から3か月前までに出します。高年齢者評価制度等雇用管理改善コースの記事に詳しく書いています。
有期の社員を無期雇用に転換したときの額(高年齢者無期雇用転換コース)
50歳以上で定年年齢に達していない有期契約の社員を、無期雇用に転換した事業主に出るコースです。対象労働者1人あたり40万円(中小企業事業主以外は30万円)で、1支給申請年度・1適用事業所あたり10人までなので、中小企業の上限は年度ごとに400万円です。
転換する前に無期雇用転換計画を作ってJEEDの認定を受けることが条件です。転換できるのは実施時期が明示され、有期契約の通算期間が5年以内の人に限られます。令和8年4月8日の支給要領の改正で、転換日までの有期契約労働者としての雇用期間が通算1年以上あることも対象労働者の条件になりました。計画書の提出は、計画の開始日の6か月前から3か月前までです。無期雇用転換の助成金の記事で詳しく確かめられます。
高齢社員の労働災害を防ぐ設備の補助(エイジフレンドリー補助金)
エイジフレンドリー補助金は雇用の補助ではなく、高年齢労働者が働く現場の労働災害を防ぐための補助金です。中央労働災害防止協会は、令和8年度の専門家総合対策コースの内容を次のように説明しています。
- 労働安全衛生の専門家によるリスクアセスメントの経費の80%
- 高年齢労働者の身体機能の低下を補う設備や装置の導入などの経費の50%
- 上限額は消費税を除いて100万円(専門家のリスクアセスメントと設備導入などの合計)
交付申請をして審査を受け、交付決定が出てから実施する流れです。交付決定を受ける前の発注が対象になるかは、申請先に確かめます。契約の日付は記録しておきます。厚生労働省のリーフレットによると、令和8年度は専門家のリスクアセスメントを受ける第1段階の申請期間が9月30日までで、それ以降は設備導入などの第2段階から申請します。自社の安全衛生担当者がリスクアセスメントをする場合は、第2段階から申請できます。受付期間は5月20日から11月20日までで、予算額に達した場合は期間の途中でも受け付けを終えることがあると注意されています。申請できるのは1年以上事業を続けていて、労災保険が適用される60歳以上の労働者が常時1人以上いる中小企業で、複数のコースは同時に申請できません。設備の例や申請のコツはエイジフレンドリー補助金の記事にあります。
廃止された制度と、名前の紛らわしい制度
高年齢労働者処遇改善促進助成金は、令和7年3月31日で廃止されています。60歳から64歳の賃金規定を増額改定した事業主に出る制度でしたが、厚生労働省のページに廃止と明記されています。令和6年度以前の記事には現行制度として載っているため、見かけても申請できません。
名前が似ていて混同されやすいものが、ほかにもあります。
- 雇用調整助成金は景気の悪化などで休業や教育訓練をさせた事業主を支える別の制度で、高齢者の雇用とは関係がありません。
- 「高齢者雇用安定助成金」「高齢者雇用開発助成金」という名前の制度は、厚生労働省の雇用関係助成金の一覧に載っていません。高年齢者向けの欄にあるのは、特定求職者雇用開発助成金と65歳超雇用推進助成金の3コースです。
制度名で検索するときは、厚生労働省かJEEDの公式ページにある正式名称で確かめます。
70歳までの就業確保と、助成金の関係
65歳までの雇用の確保は、高年齢者雇用安定法で事業主の義務です。JEEDは、改正前の経過措置が令和7年3月31日で終わったことを案内しています。65歳から70歳までの就業機会の確保(定年の引き上げ、継続雇用、業務委託契約の導入など)は努力義務です。
JEEDの支給申請の手引きには70歳までの高年齢者就業確保措置は努力義務なので、継続雇用制度の対象者に基準を設けることができるとあります。助成金の表で「基準あり」と「希望者全員」に額の差があるのは、この考え方が背景です。65歳超継続雇用促進コースは、義務の範囲を超えて66歳以上へ踏み出す事業主を後押しする設計になっています。
この仕組みから、すでに65歳までの雇用確保をしているだけでは、助成の対象になりません。助成の対象になるのは、旧定年や旧継続雇用年齢を上回る新しい取り組みです。
従業員本人に出る給付(高年齢雇用継続給付)
ここまでは事業主の制度です。従業員本人に出る給付として、高年齢雇用継続給付があります。厚生労働省のハローワークインターネットサービスによると、被保険者であった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の一般被保険者で、各月の賃金が60歳時点の賃金の75%未満に下がったときに出ます。
賃金が60歳時点の64%以下に下がったときの額は、各月の賃金の10%です。64%を超えて75%未満のときは、低下率に応じて10%未満の額になります。令和7年3月31日以前に60歳に達した人は、この率が15%と61%に当たり、扱いが違います。事業主は、この給付の申請を事業所を管轄するハローワークに出します。給付は賃金の下がった従業員に出るもので、雇用する側の助成金とは別の手続きです。
高齢者雇用の代表的な助成金の金額
国の制度と、上限の大きい都道府県の制度を上限額で比べた表です(制度名を押すと下の全国一覧のその制度へ移ります)。表の特定求職者雇用開発助成金の上限240万円は重度障害者などを雇う場合の額で、60歳以上は中小企業で1人60万円です。評価制度コースの上限60万円には、機器導入の上乗せ(最大50万円)が別に付きます。
