大学に進学させたいが学費が用意できない。そう考える家庭を後押しするために作られたのが、返済が要らない「給付型奨学金」です。正式名称は「高等教育の修学支援新制度」といい、日本学生支援機構(JASSO)の給付奨学金と、大学等の授業料・入学金減免をセットで受けられる仕組みになっています。「給付型か貸与型か」という制度の入口の判断は奨学金の給付とは?で扱っているので、ここでは給付型に絞って、金額の細部と継続の条件まで深掘りします。
令和8年度からは、子どもを3人以上扶養する多子世帯であれば、所得にかかわらず授業料等が原則無償になりました。制度が始まった当初は住民税非課税世帯を中心とした低所得層向けの支援でしたが、少子化対策の一環として対象が広がった経緯があります。まずはご自身の世帯がどの区分に当てはまるかを、順を追って確認していきます。
制度の成り立ち(なぜ「給付型」が生まれたのか)
給付型奨学金は、実は歴史の浅い制度です。 JASSOの奨学金は長らく「貸与型(返済が必要)」だけで、返済不要の給付型が本格的に始まったのは2020年度(令和2年度)からでした。それまでは、家計が苦しい家庭ほど「借金をして進学する」という構造になっており、進学をためらう理由になっていました。
制度開始からの変遷を追うと、対象がどう広がってきたかが見えてきます。
- 2020年度(令和2年度): 「高等教育の修学支援新制度」として制度創設。住民税非課税世帯とその近傍(第I〜III区分)が対象
- 2024年度(令和6年度): 第IV区分(多子世帯・私立理工農系)を新設し、中間所得層まで対象を拡大
- 2025年度(令和7年度): 多子世帯(扶養する子ども3人以上)の授業料等減免について、所得制限を撤廃
- 2026年度(令和8年度): 多子世帯の判定方法を見直し、年収160万円以下の学生本人のきょうだいも扶養人数にカウント可能に
当初は「低所得世帯の進学支援」という色合いが強い制度でしたが、少子化対策の文脈で「子どもが多い世帯への支援」という性格が加わってきた、という流れです。この2つの目的が併存しているため、「所得が低いから受けられる支援」と「子どもが多いから受けられる支援」を分けて理解する必要があります。制度が毎年のように変わっているため、1年前の情報のまま「うちは対象外」と決めつけるのは危険です。
対象になる人・ならない人
給付型奨学金の対象になるには、次の3つの基準をすべて満たす必要があります。
- 学力基準: 高校の成績が5段階評価で平均3.5以上、または学修意欲がレポート・面談等で確認できる
- 家計基準: 本人および生計維持者(原則父母)の所得・資産が基準以下(下記の表を参照)
- 資産基準: 生計維持者と本人の資産の合計が2,000万円未満(生計維持者が1人の場合は1,250万円未満)
学力基準は「厳しすぎる足切り」ではありません。 高校の評定平均が3.5未満でも、学修意欲や進学の目的を確認するレポート・面談で意欲が認められれば対象になり得ます。ここで「うちの子は成績が良くないから無理」と早々にあきらめる必要はありません。
対象校種は、大学・短期大学・高等専門学校(4〜5年生)・専門学校です。国公私立を問わず、文部科学省が「対象校」として確認した学校に限られます。確認を受けていない学校に進学すると対象外になるため、進学先が対象校かどうかは事前にJASSOの公式サイトで確認しておくと安心です。
いくら受け取れるか(区分別の金額)
給付奨学金の月額は、世帯の所得水準によって決まる「第I区分〜第IV区分」の4段階で変わります。所得が低いほど区分の数字が小さくなり、支給額が高くなるという関係です。
| 区分 | 国公立・自宅 | 国公立・自宅外 | 私立・自宅 | 私立・自宅外 |
|---|---|---|---|---|
| 第I区分 | 月額2万9,200円 | 月額6万6,700円 | 月額3万8,300円 | 月額7万5,800円 |
| 第II区分 | 月額1万9,500円 | 月額4万4,500円 | 月額2万5,600円 | 月額5万600円 |
| 第III区分 | 月額9,800円 | 月額2万2,300円 | 月額1万2,800円 | 月額2万5,300円 |
| 第IV区分(多子世帯) | 月額7,300円 | 月額1万6,700円 | 月額9,600円 | 月額1万9,000円 |
第IV区分は令和6年度に新設された、中間所得層まで対象を広げるための区分です。「非課税世帯でなければゼロ」だった従来の設計を見直し、少し所得がある世帯にも薄く支援が届くようにしたという経緯があります。
上の表は大学・短期大学・専修学校の金額です。高等専門学校は別の金額表になっており、大学より低く設定されています。
| 学校の種類(第I区分の場合) | 国公立・自宅 | 国公立・自宅外 | 私立・自宅 | 私立・自宅外 |
|---|---|---|---|---|
| 大学・短期大学・専修学校 | 月額2万9,200円 | 月額6万6,700円 | 月額3万8,300円 | 月額7万5,800円 |
| 高等専門学校 | 月額1万7,500円 | 月額3万4,200円 | 月額2万6,700円 | 月額4万3,300円 |
高等専門学校の金額が低いのは、高専の1〜3年生が高校相当として高等学校等就学支援金の対象になり、給付奨学金の対象は4〜5年生(および専攻科)だからです。学費の水準そのものが大学と異なる点も反映されています。
通信教育課程は月額ではなく年額で支給されます。 第I区分は年5万1,000円、第II区分は年3万4,000円、第III区分は年1万7,000円、第IV区分(多子世帯に限る)は年1万2,800円です。通学課程と桁が大きく違うので、通信制での進学を検討している場合はこの額を前提に資金計画を立ててください。
なお、生活保護を受けている世帯で自宅から通う学生と、児童養護施設等の出身者には、上の表より高い金額が適用されます。 該当する可能性がある場合は、日本学生支援機構の支給額のページで括弧書きの金額をご確認ください。
4人世帯(本人・両親・中学生1人、給与所得者のモデルケース)での年収の目安は次のとおりです。
| 区分 | 年収の目安 |
|---|---|
| 第I区分(住民税非課税世帯) | 約271万円まで |
| 第II区分 | 約303万円まで |
| 第III区分 | 約378万円まで |
| 第IV区分(多子世帯対象の中間層) | 約635万円まで |
この年収はあくまで目安です。 実際の判定は課税証明書に基づく所得額で行われ、扶養親族の人数・障害の有無・社会保険料控除などで前後します。正確な金額は、JASSOの「進学資金シミュレーター」で試算することをおすすめします。
多子世帯の授業料等無償化(令和8年度からの変更点)
ここが今回の制度改正でいちばん大きく変わった点です。 扶養する子どもが本人を含めて3人以上いる世帯(多子世帯)は、所得にかかわらず、大学等の授業料・入学金の減免を受けられるようになりました。
- 子どもの人数の数え方は「生計維持者が申告した扶養親族のうち子どもに該当する人数」と「住民税情報上の扶養親族数」のいずれか小さい方で判定します
- 令和8年度からの判定では、年収160万円以下の学生本人のきょうだいも扶養人数としてカウントできるようになりました
- 授業料等減免の上限額は学校種別で決まっており、大学の場合は国公立で入学金28万円・授業料年54万円、私立で入学金26万円・授業料年70万円です
- 多子世帯であっても、給付奨学金(月々のお金の支給)は別枠です。 資産が5,000万円以上3億円未満の場合、給付奨学金は0円になります。授業料等減免と給付奨学金は連動していない点に注意してください
つまり「多子世帯だから何もかも無料」ではなく、授業料等減免は所得の壁を越えて無償化されたが、給付奨学金(生活費相当のお金)は別の資産基準で決まるという、2段構えの制度になっています。ここを混同すると「思ったより振り込まれる額が少ない」と感じることになるため、両者を分けて理解しておくことが大切です。授業料等減免と給付奨学金を合わせた「大学に通う場合の総支援額」を具体的に計算したい場合は、大学の給付型奨学金で試算しています。
どれに当てはまるか(世帯パターン別シミュレーション)
同じ「奨学金がほしい」という相談でも、世帯の状況によって使える制度が変わります。
| 世帯の状況 | 当てはまる可能性が高い区分・制度 |
|---|---|
| 住民税非課税世帯、子どもは1人 | 第I区分(満額)+授業料等減免(満額) |
| 年収400万円台、子どもは1人 | 第III区分または対象外(世帯構成により変動) |
| 年収600万円台、子どもが3人以上(大学生を含む) | 給付奨学金は第IV区分の可能性。授業料等減免は多子世帯の枠で所得制限なしに対象になり得る |
| 年収900万円台、子どもは1人 | 給付型奨学金・授業料等減免ともに対象外の可能性が高い(貸与型奨学金の検討対象) |
多子世帯の年収600万円台のケースが分かりにくいポイントです。 授業料は多子世帯の枠で無償になっても、給付奨学金(月々の生活費相当額)は別の家計基準で判定されるため、区分が低く(支給額が少なく)なることがあります。「授業料はタダになったのに奨学金は数千円だった」という声が出やすいのはこのためです。
申請の流れ
申請のタイミングは大きく分けて2つあります。高校在学中に申し込む「予約採用」と、進学後に申し込む「在学採用」です。
- 予約採用: 高校3年生の春〜夏ごろ、在学する高校を通じて「スカラネット」で申し込む
- マイナンバーの提出により、生計維持者の課税情報をJASSOが確認する
- 家計基準・学力基準の審査を経て、進学前に「採用候補者」として決定される
- 進学後、入学した学校を通じて「進学届」を提出し、正式に採用が確定する
- 在学採用: 予約採用を利用しなかった学生は、進学後に春または秋の募集期間に大学等を通じて申し込む
- 採用が決定すると、給付奨学金は毎月、指定口座に振り込まれる。授業料等減免は学校に直接適用される
予約採用は「高校を通じて」申し込む点が重要です。 高校からの案内を見落とすと、進学後の在学採用まで待つことになり、その間の支給を受けられません。高校3年生の担任・進路指導の先生からの案内は必ず確認してください。
支給が止まる・打ち切りになる要因
給付型奨学金は「一度採用されたら卒業まで安泰」ではありません。毎年の適格認定で、家計・学業の状況が確認されます。
- 家計急変: 逆に家計が急に悪化した場合は、区分が上がる(支給額が増える)こともあります。年に1度(毎年10月頃)、前年の課税情報にもとづいて区分が見直されます
- 家計の好転: 保護者の収入が増え、基準を超えると、区分が下がる、または対象外になることがあります
- 学業成績の不振: 毎年度の「適格認定(学業)」で学業状況が確認され、基準に届かないと警告・停止・廃止のいずれかの処置を受けます(具体的な基準は下記)
- 退学・停学: 退学・除籍になった場合はその時点で支給が終了します。停学の場合も、停学期間中は支給が止まります
- 虚偽の申告: 家計や学業状況について虚偽の申告があった場合、支給の取り消しと返還を求められることがあります
適格認定(学業)の基準と、返還を求められる場合
ここが給付型奨学金でもっとも見落とされやすい部分です。 返済不要の制度ですが、学業状況によっては支給済みの奨学金の返還を求められることがあります。
日本学生支援機構は、適格認定(学業)の基準を次のように定めています。
| 処置 | 該当する状況 | どうなるか |
|---|---|---|
| 警告 | ①修得単位数の合計数が標準単位数の7割以下/②GPA(平均成績)等が下位4分の1/③出席率8割以下など、学修意欲が低いと学校が判断した場合 | 支給は継続する。ただし連続して該当すると廃止になる |
| 廃止 | ①修業年限で卒業できないこと(卒業延期)が確定/②修得単位数の合計数が標準単位数の6割以下/③出席率6割以下など学習意欲が著しく低いと学校が判断/④連続して「警告」に該当した場合 | 支給が打ち切られる |
| 停止 | 卒業年次の学生等について、判定が確定するまで支給を一時止める扱い | 次の適格認定で「警告」「廃止」に該当しなければ、次の学年から支給が再開される |
警告は1回では打ち切りになりませんが、2回連続すると廃止になります。 廃止のうち「学業成績が著しく不良で、やむを得ない事由がない場合」は、支給済みの給付奨学金の返還まで求められます。「返済不要」という言葉だけを覚えていると、この一文を見落とします。
なぜここまで学業状況を厳しく見るのか。給付型奨学金は税金を原資にした制度だからです。 貸与型は「学生本人が返す」ことで原資が循環しますが、給付型は返済されない分、進学の意欲と実態が伴っているかを継続的に確認する仕組みが必要になります。「対象になった後は自由」ではなく「支援に見合う学修を続けているか」を毎年問われる、という制度の作りだと理解しておくと、警告の意味が腑に落ちます。
一方で、逃げ道も用意されています。災害・傷病その他のやむを得ない事由がある場合には、基準に当てはまっても「廃止」「警告」とならないことがあります。 病気や事故で単位が取れなかった場合は、自己判断であきらめず、必ず在学する学校の奨学金担当窓口に事情を申し出てください。事情を伝えていないと、単に成績不振として扱われます。
GPAが下位4分の1という基準は、相対評価である点に注意が必要です。 自分の成績が去年と同じでも、周囲の成績が上がれば下位4分の1に入り得ます。ただし、2回連続の警告のうち2回目の理由が「GPAが下位4分の1」のみである場合(3回連続で警告となった場合を除く)には、扱いが異なる規定があります。判定の詳細は日本学生支援機構の公式ページと在学校の窓口でご確認ください。
授業料等減免の仕組み(学校ごとに上限額が違う理由)
給付奨学金の月額表とは別に、授業料等減免にも学校種別ごとの上限額があります。この上限額は、国公立か私立か、大学か短期大学かで細かく分かれています。
| 学校種別 | 入学金の上限(初年度のみ) | 授業料の上限(年額) |
|---|---|---|
| 国公立大学 | 28万円 | 54万円 |
| 私立大学 | 26万円 | 70万円 |
| 私立短期大学 | 25万円 | 62万円 |
| 私立専門学校 | 16万円 | 59万円 |
私立大学のほうが国公立より上限額が高く設定されているのは、私立と国公立の授業料水準の差を埋めるためです。 国公立大学の授業料は全国一律に近い水準で決まっているのに対し、私立大学は学校ごとにばらつきがあるため、実際にかかる費用に近づけるよう上限額に差がつけられています。
なお、この上限額は第II区分・第III区分・第IV区分では、上限額に対する割合(3分の2、3分の1など)に減額されます。 満額(10割)を受けられるのは第I区分(住民税非課税世帯)のみで、区分が上がるほど減免の割合も下がる仕組みです。
休学・留年した場合の扱い
進学後、体調不良や留学などで休学・留年をする学生も少なくありません。この場合、給付奨学金・授業料等減免の扱いがどうなるかは、状況によって異なります。
- 休学: 原則として、休学期間中は給付奨学金の支給が停止されます。復学後、改めて手続きをすれば支給が再開されます
- 留年(原級留置): 修業年限を超える在学については、原則として給付奨学金・授業料等減免の対象外になります。ただし、傷病等のやむを得ない事情がある場合は、一定期間、支給が継続されることがあります
- 休学・留年の理由: 病気療養・留学・出産育児等のやむを得ない事情であれば、大学等の学生支援窓口に相談することで、支給継続の可否について個別に判断してもらえる場合があります
「留年したら即座に打ち切り」と決めつけず、理由によっては継続できる余地がある点を知っておいてください。 判断は在学する学校の奨学金担当窓口が窓口になります。
よくある質問
兄弟姉妹がいると必ず有利になりますか?
子どもが3人以上いる「多子世帯」に該当すれば、授業料等減免は所得制限なしで対象になります。ただし給付奨学金(月々の支給額)は別の家計基準・資産基準で判定されるため、多子世帯であることが給付奨学金の増額に直結するとは限りません。
私立の専門学校でも対象になりますか?
対象になります。ただし、その専門学校が文部科学省の確認を受けた「対象校」であることが条件です。すべての専門学校が対象校になっているわけではないため、進学を検討している学校が対象校かどうか、事前にJASSOまたは学校の窓口で確認してください。
一度不採用になったら、その後もずっと対象外ですか?
必ずしもそうではありません。家計基準は毎年の所得・住民税額にもとづいて判定されるため、家計状況が変われば翌年度以降に対象になる可能性があります。在学採用の募集は年に複数回あるため、状況が変わったタイミングで改めて申し込むことができます。
大学院生も対象になりますか?
高等教育の修学支援新制度(給付型奨学金・授業料等減免)は、大学・短期大学・高等専門学校・専門学校の学生が対象で、大学院は対象に含まれません。大学院生が利用できる経済支援は、貸与型奨学金や各大学独自の授業料免除制度が中心になります。
途中で家計が急変した場合、年度の途中でも区分は見直されますか?
失業や倒産、災害などで家計が急変した場合は、通常の年1回の見直しを待たずに随時申請ができる「家計急変採用」という枠があります。事情が生じたら、在学する学校の奨学金担当窓口に早めに相談することをおすすめします。
成績が下がって「警告」を受けたら、次に何をすればよいですか?
まず、警告の理由(修得単位数・GPA・出席率のどれか)を学校の奨学金担当窓口で確認してください。次の適格認定までに基準を上回れば支給は続きます。2回連続で警告に該当すると廃止になるため、次の1年が分かれ目です。病気・けが・介護など、やむを得ない事情で単位が取れなかった場合は、その事情を必ず学校に申し出てください。事情が認められれば警告・廃止とならない場合があります。
支給された給付奨学金を、返さなければならなくなることはありますか?
あります。廃止の処置のうち、学業成績が著しく不良で、やむを得ない事由がない場合には、支給済みの給付奨学金の返還を求められます。また、家計や学業状況について虚偽の申告があった場合も、支給の取り消しと返還の対象になります。「給付型だから絶対に返さなくてよい」わけではない点は、申し込む前に理解しておいてください。
大学入学後に一人暮らしを始めた場合、自宅外の金額に変わりますか?
自宅通学から自宅外通学に変わった場合は、学校を通じて手続きをすることで自宅外の月額に変更できます。手続きには賃貸借契約書の写しなど、自宅外から通学していることを確認できる書類が必要です。手続きが遅れるとその分だけ自宅の金額のまま支給されるため、引っ越したら早めに学校の窓口へ申し出てください。
