「奨学金」と聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは「借りて、あとで返すもの」でしょう。給付型奨学金は、その前提を覆す制度です。 返済の義務がなく、卒業後に返す必要がありません。
なぜ返さなくてよい奨学金が存在するのか。そこには、貸与型奨学金とはそもそも設計思想が違う、という背景があります。 ここでは給付型奨学金のしくみと、対象になる条件を、貸与型との違いを踏まえて整理します。具体的な金額・区分ごとの表・成績不振で返還を求められるケースまで詳しく知りたい方は、給付型奨学金で深掘りしています。
なぜ「給付型」と「貸与型」で仕組みが違うのか
日本学生支援機構(JASSO)の奨学金には、大きく分けて「給付型」と「貸与型」の2種類があります。
- 貸与型奨学金: 学生に学費・生活費を「貸す」制度です。無利子の第一種、有利子の第二種があり、卒業後に返還する義務があります
- 給付型奨学金: 「支給する」制度です。返還義務がなく、家計基準を満たせば卒業まで継続して受け取れます
この2つは、単に金額や条件が違うだけでなく、制度としての位置づけがまったく異なります。 貸与型は「進学の機会を広げるための融資」、給付型は「経済的な事情で進学をあきらめさせないための給付」という、目的そのものが違う制度です。「奨学金=借金」というイメージだけで進学をためらっている場合、給付型の対象になるかどうかを先に確認する価値があります。
給付型奨学金は、2020年度に始まった「高等教育の修学支援新制度」の一部として設けられました。授業料等減免(大学等に納める授業料・入学金の免除または減額)とセットで運用されており、給付型奨学金だけを単独で申し込む制度ではありません。 なぜセットになっているのか。JASSOが現金を渡す「給付奨学金」は学生本人の生活費の負担を軽くするため、大学が学費を安くする「授業料等減免」は学費そのものの負担を軽くするためのもので、支給する主体が違うだけで、目的は同じ「進学の経済的負担を減らすこと」だからです。
給付型奨学金はいくらもらえるか(月額の目安)
給付奨学金の月額は、通学先が国公立か私立か、自宅通学か自宅外通学か、そして家計の所得区分(第I〜III区分、多子世帯等は第IV区分)によって決まります。もっとも支給額が高いのは私立・自宅外通学・第I区分(住民税非課税世帯相当)で、月7万5,800円です。区分が上がる(世帯の所得水準が上がる)につれて、支給額は段階的に下がります。
「対象か対象外か」で線引きするのではなく、「どこまで支援が必要か」を段階的に判定することで、所得が基準のすぐ上にある世帯が急に支援を失うことを避ける設計になっています。区分ごとの具体的な金額表、高等専門学校・通信教育課程の別、多子世帯向け第IV区分の詳細は給付型奨学金にまとめています。
これとは別に、大学等に納める授業料・入学金の減免(授業料等減免)が受けられます。減免額は学校の種類(国公立・私立)と設置形態によって上限が定められており、給付奨学金の月額とあわせて総合的な支援額になります。大学に絞って、給付奨学金と授業料等減免を合計した支援額を知りたい場合は大学の給付型奨学金で試算しています。
対象になる条件(家計・学力の2つの基準)
給付奨学金の対象になるには、大きく分けて次の2つの基準を満たす必要があります。
- 家計基準: 世帯の所得水準が、第I〜III区分のいずれかに該当すること。目安となる年収は世帯構成(扶養人数・共働きかどうか)によって変わるため、JASSOが提供する「進学資金シミュレーター」で個別に確認するのが確実です
- 学力・資産基準: 高校の成績や学習意欲を確認する基準(レポート提出等の代替手段もあります)に加え、世帯の資産が一定額を超えていないことも条件になります
「年収がいくらまでなら対象になるか」を一律の数字で断定することはできません。 扶養人数、共働きかどうか、他に扶養している家族がいるかで、同じ年収でも区分が変わるためです。「うちは年収が高いから対象外」と思い込む前に、一度シミュレーターで確認することをおすすめします。
2024年度に加わった「第IV区分」(多子世帯・理工農系)
2024年度からは、住民税非課税世帯・準ずる世帯(第I〜III区分)に加えて、多子世帯(扶養する子どもが3人以上)または私立の理工農系学部に進学する学生を対象にした「第IV区分」が新設されました。従来の3区分よりも対象となる年収の幅が広がっています。「所得が高いから最初から対象外」と決めつけず、多子世帯や理工農系の進学を検討している場合はあわせて確認してください。
貸与型が長く主流だった理由
なぜ日本では長らく「奨学金=借りて返すもの」が当たり前だったのでしょうか。JASSOの前身にあたる組織は、戦後の学生への奨学金貸与を目的に発足した経緯があり、限られた予算をより多くの学生に循環させるには、貸与型のほうが仕組みとして続けやすかったという事情があります。返済されたお金が、また次の学生への貸与に回る仕組みだからです。
給付型は、貸与とは違って原資が一方通行で出ていくため、税金による裏付けがなければ制度として維持できません。2020年度に給付型が本格的に始まったのは、少子化・低所得世帯の進学率の課題が政策として重視されるようになり、税財源を投じる判断がなされたためです。長く貸与型だけだった歴史を知っておくと、「なぜ今になって返さなくてよい奨学金ができたのか」という制度の背景が見えてきます。
いつ、どうやって申し込むか
給付奨学金の申し込みには、進学前と進学後の2つのタイミングがあります。
- 予約採用(高校在学中): 高校3年生の春から夏にかけて、在学する高校を通じて申し込みます。進学前に採用が決まるため、進学先を選ぶ段階で支援の見込みを立てられます
- 在学採用(進学後): 大学・専門学校等に進学したあと、進学先の学校を通じて申し込みます。予約採用の申込みに間に合わなかった場合や、進学後に家計状況が判明した場合に利用します
- 家計急変採用(随時): 在学中に保護者の失業・倒産・離婚・災害などで家計が急変した場合、年度の途中でも随時申し込めます
採用後は、原則として卒業予定時期まで毎月支給が続きます。 ただし、成績不振や出席状況によっては「警告」を経て支給が打ち切られる場合があるため、採用後も学業への取り組みは要件として残ります。「一度採用されれば自動的に卒業まで安泰」というわけではない点に注意してください。打ち切りの具体的な基準・返還を求められるケースは給付型奨学金で詳しく解説しています。
給付型奨学金の注意点
- 住民票の異動や家計状況の変化は必ず届け出る: 世帯の状況が変わると区分が見直され、支給額が変更・停止になることがあります
- 毎年の在籍報告・家計の確認がある: 継続のためには、毎年の手続きが必要です。案内を見落とすと支給が止まる場合があります
- 大学によって対象校かどうかが決まっている: 高等教育の修学支援新制度の対象として国が確認した学校でなければ、給付奨学金・授業料等減免の対象になりません。進学先が対象校かどうかは、JASSOの公表リストか進学先の学校に確認してください
給付型と貸与型は併用できるか
給付型奨学金だけで学費・生活費のすべてを賄えるとは限りません。 給付奨学金の対象になったうえで、不足分を貸与型奨学金(無利子の第一種、有利子の第二種)で補う、という組み合わせ方をしている学生も多くいます。
- 給付型と第一種(無利子貸与型)を併用する場合、給付型を受けている分、第一種の貸与月額の上限が調整されることがあります
- 第二種(有利子貸与型)は、給付型と重複して満額を借りられる場合があります
どちらをどう組み合わせるべきかは、世帯の状況によって最適解が変わります。 進学先の学費と、給付奨学金の見込み額を先に確認したうえで、不足分をどう埋めるかを検討する順番がおすすめです。
給付型奨学金は「対象になるかどうか」が制度全体の入口です。区分ごとの詳しい金額や、学業不振で返還を求められるケースまで踏み込んで確認したい場合は、給付型奨学金に進んでください。大学の学費と合わせた総支援額を試算したい場合は、大学の給付型奨学金が具体的です。
なぜ「自宅通学」と「自宅外通学」で金額が違うのか
支給額を見ると、同じ所得区分でも自宅外通学のほうが自宅通学より支給額が高く設定されています。これは、自宅を離れて進学する場合、家賃・光熱費など生活費そのものの負担が増えることを踏まえた設計です。
- 自宅から通学できる場合は、学費以外の生活費負担が比較的小さいと想定されます
- 自宅外(下宿・寮生活等)の場合は、学費に加えて住居費・生活費が新たに発生します
「進学先が遠方だから自宅を出る」という選択をする学生ほど、支援額が手厚くなる仕組みになっています。進学先を検討する段階で、自宅通学・自宅外通学のどちらになるかによって、受け取れる支援額に数万円単位の差が出る点は押さえておくとよいでしょう。
高校生等奨学給付金との違い(混同しやすい制度)
「奨学金」という言葉が共通しているため、高校生向けの「高校生等奨学給付金」と混同されることがあります。この2つは対象になる学校段階も、支給の目的もまったく違う制度です。
- 給付奨学金(JASSO): 大学・短大・高専・専門学校が対象。学費・生活費への支援で、授業料等減免とセットで運用されます
- 高校生等奨学給付金(文部科学省): 高校が対象。授業料以外の教材費・修学旅行費等の負担軽減が目的で、生活保護受給世帯・住民税非課税世帯を中心に支給されます
高校生の間に対象になるのは奨学給付金で、大学等に進学したあとに対象になりうるのが給付奨学金です。 「奨学金がもらえるらしい」という情報だけで動くと、時期や対象校を取り違えることがあるため、自分が今どちらの制度を調べているのかを最初に確認してください。
「奨学金 給付」と検索する人が本当に知りたいこと
このKWで検索する人の状況は、大きく2パターンに分かれます。「奨学金という言葉自体は知っているが、借金なのか給付なのか区別がついていない」人と、「給付型があることは知っていて、自分が対象になるか確認したい」人です。
前者の場合、まず押さえるべきは「JASSOの奨学金には給付型と貸与型がある」という枠組みそのものです。ニュースやSNSで「奨学金地獄」という言葉を見聞きしたことがある人ほど、奨学金全般に対する警戒心が強く、給付型の存在自体を知らずに検討の選択肢から外してしまっていることがあります。まず「返さなくてよい奨学金が存在する」という事実を知ることが、進学先を検討するうえでの最初の一歩です。
後者の場合は、家計基準・学力基準のどちらで不安があるかによって、次に確認すべきことが変わります。家計基準が不安なら「進学資金シミュレーター」で概算を、学力基準が不安なら「レポート提出等の代替手段」の存在を、それぞれ先に確認しておくと、進学先選びの段階で余計な不安を抱え込まずに済みます。
給付型奨学金を受けながら進学先を選ぶときの考え方
給付型奨学金は「対象になれば進学先の学費すべてが賄える」制度ではありません。 実際の学費と支給見込み額を先に比べておくと、進学後の資金計画が立てやすくなります。
- 私立大学など学費が高い進学先ほど、給付奨学金だけでは不足が生じやすくなります。授業料等減免と合わせても、入学金や施設費が別途かかる学校があります
- 家計基準で対象外・区分が低くなりそうな場合でも、大学独自の奨学金制度や、都道府県・市区町村が設けている奨学金制度を別途調べる価値があります
- 給付型奨学金の対象校リストは学校によって異なるため、志望校が対象校かどうかを早めに確認しておくと、出願校を検討する段階で選択肢を絞りやすくなります
「まず給付型奨学金の対象になるかを確認し、不足分をどう埋めるかを後から考える」という順番で検討すると、進学先選びの段階での資金的な不安を減らせます。
民間・大学独自の給付型奨学金との違い
「給付型奨学金」という言葉は、JASSOの制度以外にも使われます。民間団体や大学が独自に設けている給付型奨学金と混同しないよう、性質の違いを押さえておく必要があります。
- JASSOの給付奨学金: 家計基準・学力基準を満たせば、全国どこの対象校に進学しても利用できます。授業料等減免とセットで運用される、国の制度です
- 大学独自の給付型奨学金: 大学ごとに基準・金額が異なり、成績優秀者向け、特定分野の学生向けなど、条件が多岐にわたります
- 民間団体の給付型奨学金: 財団や企業が設けており、募集人数が限られる、特定の学部・地域の学生が対象になるなど、条件がさらに個別化しています
JASSOの給付奨学金は「対象になれば全国一律の基準で支給される」制度ですが、大学独自・民間の制度は「学校や団体ごとに条件がまったく違う」点が大きな違いです。JASSOの給付奨学金だけで学費が足りない場合、この2つを別々に調べる価値があります。併願・重複利用が可能かどうかは制度ごとに異なるため、利用を検討する段階で各制度の規定を確認してください。
申込みの前に用意しておきたい書類
給付奨学金の申込みには、家計状況を確認するための書類が必要です。直前になって慌てないよう、あらかじめ準備しておくとよいものがあります。
- 保護者(生計維持者)のマイナンバー: 課税情報の確認に用いられます
- 住民票の写し: 世帯構成の確認に必要になる場合があります
- 課税証明書等: マイナンバーによる情報連携がうまくいかない場合の代替書類として求められることがあります
予約採用は高校在学中に手続きが始まるため、書類の準備も高校側の案内に沿って進めることになります。 案内が来てから書類を探し始めると時間がかかることがあるため、進学を検討し始めた時点で、必要書類の一覧に目を通しておくと安心です。
在学採用・家計急変採用でも、基本的に求められる書類の種類は大きく変わりません。進学後や家計急変時にあらためて慌てないよう、家計状況の証明に使える書類がどこにあるかを、家族内で把握しておくと手続きが早く進みます。
よくある質問
給付型奨学金は本当に返さなくてよいのですか?
はい。給付奨学金は返還義務のない制度です。ただし、虚偽の申告があった場合や、学業成績が著しく不振で支給が打ち切られた場合など、一部のケースでは返還を求められることがあります。詳しい基準は給付型奨学金で扱っています。
給付型奨学金はいくらもらえますか?
通学先(国公立・私立)、通学形態(自宅・自宅外)、家計の所得区分(第I〜III区分)によって決まります。もっとも支給額が高い私立・自宅外・第I区分の場合、月7万5,800円です。これとは別に授業料等減免も受けられます。区分ごとの金額表は給付型奨学金にまとめています。
年収がいくらまでなら給付型奨学金の対象になりますか?
世帯構成(扶養人数・共働きかどうか)によって目安となる年収が変わるため、一律の金額では答えられません。JASSOの「進学資金シミュレーター」で、世帯の状況を入力して確認することをおすすめします。
給付型奨学金と貸与型奨学金は同時に利用できますか?
併用は可能です。ただし給付型と無利子の第一種貸与型を同時に利用する場合、貸与月額の上限が調整されることがあります。有利子の第二種は給付型と重複して満額利用できる場合があります。
高校生でも給付型奨学金はもらえますか?
JASSOの給付奨学金は大学・短大・高専・専門学校が対象で、高校生は対象外です。高校生向けには、授業料を支援する高等学校等就学支援金や、教材費等を支援する高校生等奨学給付金という別の制度があります。
給付型奨学金の対象校かどうかはどこで確認できますか?
高等教育の修学支援新制度の対象として国が確認した学校のリストが公表されています。進学を検討している大学・短大・専門学校が対象校かどうかは、JASSOの公表リストか、進学先の学校の窓口に確認してください。
大学独自の給付型奨学金とJASSOの給付奨学金は併用できますか?
制度ごとに規定が異なります。併願・重複利用が可能かどうかは、大学独自・民間団体それぞれの募集要項に定められているため、利用を検討する段階で各制度の規定を個別に確認してください。
予約採用に間に合わなかった場合はどうすればよいですか?
進学後に手続きする「在学採用」を利用できます。進学先の学校を通じて申し込む点は予約採用と同じで、必要書類も大きくは変わりません。案内の時期を進学先の学校に確認してください。
「奨学金 給付」と「給付型奨学金」は同じ制度ですか?
同じ制度を指しています。検索する言葉が違うだけで、いずれも日本学生支援機構(JASSO)の「給付奨学金」を指すのが一般的です。本記事では制度の入口を、給付型奨学金では区分別の金額や継続要件を、それぞれ詳しく扱っています。
