「採用の補助金」を調べる方の多くは、「求人を出す前」「採用が決まった時」「採用した後」のどこで使える補助金があるのかを知りたいはずです。採用に関する国の助成金は、実は"採用した"という事実だけでは支給されず、雇用の形態や対象者の属性、その後の定着状況によって、使えるかどうかが変わります。
この記事では、採用にまつわる補助金・助成金を「採用前」「採用時」「採用後」の3つの場面に分けて整理し、それぞれの代表的な制度と支給額のイメージを紹介します。
採用の補助金は3つの場面に分かれる
採用に関する補助金・助成金は、タイミングで整理すると理解しやすくなります。
| 場面 | 代表的な制度 | 実施主体 |
|---|---|---|
| 採用活動そのもの(求人広告・人材紹介費用) | 自治体独自の採用活動費補助 | 都道府県・市区町村 |
| 試行的に雇用してみる段階 | トライアル雇用助成金 | 厚生労働省(ハローワーク) |
| 特定の求職者を継続雇用する段階 | 特定求職者雇用開発助成金 | 厚生労働省(ハローワーク) |
| 採用後に正社員化・処遇改善する段階 | キャリアアップ助成金 | 厚生労働省 |
国の助成金(雇用保険財源)と自治体の補助金は、財源も審査の性質も異なります。 国の助成金は要件を満たせば支給される仕組みが中心ですが、自治体の補助金は予算の範囲内で審査・採択される競争的な性格を持つものもあります。
場面1: 採用活動そのものにかかる費用を補助してほしい
求人広告費、人材紹介会社への手数料、採用パンフレットの制作費等、採用活動そのものにかかる費用を補助する制度は、国の統一的な助成金としては一般的ではなく、都道府県・市区町村が独自に実施している場合があります。
- 求人広告の掲載費用の一部を補助する制度
- 人材紹介会社への成功報酬の一部を補助する制度
- 就職説明会・合同企業説明会への出展費用を補助する制度
こうした制度は自治体によって有無・内容が大きく異なり、予算がなくなり次第終了するものも多いため、自社の所在地の商工担当部署に確認することが必要です。実施していない自治体も多い一方、人手不足が深刻な地域では独自の採用支援策を手厚くしている例もあります。
場面2: 試行的に雇用してみたい → トライアル雇用助成金
「すぐに正社員として採用するのは不安だが、まずは試しに働いてもらいたい」という場合に使えるのがトライアル雇用助成金(一般トライアルコース)です。
対象は、職業経験の不足などから就職が困難な求職者で、次のいずれかに該当する必要があります。
- 過去2年以内に2回以上、離職・転職を繰り返している
- 1年を超えて失業している
- 妊娠・出産・育児を理由に1年を超えて離職している
- ハローワークが個別支援の対象としている等、特別な配慮を要する
支給額は、対象労働者1人につき月額4万円(ひとり親家庭の場合は5万円)で、原則3か月間を上限に支給されます。実際に就労した日数の割合によって、月ごとの支給額が調整される仕組みです。
トライアル雇用は、原則3か月間の試行雇用を経て、常用雇用への移行を目指す制度です。「とりあえず試してみたい」という採用ニーズに合致する場合、まずハローワークに求人を出す段階から検討する価値があります。
場面3: 特定の求職者を継続雇用したい → 特定求職者雇用開発助成金
高年齢者(60歳以上)、障害者、母子家庭の母等、就職が特に困難とされる方をハローワーク等の紹介で継続雇用する場合に使えるのが特定求職者雇用開発助成金です。
支給額は対象者の区分と企業規模によって変わり、短時間労働者以外(週30時間以上)の高年齢者・母子家庭の母等を雇用した場合、中小企業で1年間・最大60万円が目安です。障害者を雇用した場合はさらに高い水準(重度障害者等で最大240万円・3年間)になります。詳しくは特定求職者雇用開発助成金の記事で解説しています。
この助成金の最大の注意点は「ハローワーク等の紹介を経て雇用すること」が条件になっている点です。 知人の紹介や自社での直接応募で採用した場合は、対象者の属性が当てはまっていても対象になりません。採用ルートを決める段階で、この助成金の活用を視野に入れるかどうかを検討する必要があります。
場面4: 採用後に正社員化・処遇改善したい → キャリアアップ助成金
有期雇用・パート・派遣で採用した人材を、その後、正社員に転換したり、処遇を改善したりする場合に使えるのがキャリアアップ助成金です。
代表的な正社員化コースでは、重点支援対象者(雇用期間が3年以上の有期雇用労働者等)を正社員化した場合、中小企業で1人あたり最大80万円が支給されます(令和8年度)。「まずは有期雇用で採用し、様子を見てから正社員化する」という採用戦略を取る企業にとって、活用しやすい制度です。詳しい支給要件・全6コースの内容はキャリアアップ助成金の記事で解説しています。
業種別に見る、採用の補助金の使い方
同じ「採用」でも、業種によって使うべき制度の組み合わせは変わります。3つの業種を例に、具体的なイメージを見てみます。
飲食店(従業員10人・パートを新規採用したい)の場合
まずパート・アルバイトとして採用し、一定期間の勤務実績を見て正社員に転換したい場合は、キャリアアップ助成金の正社員化コースが候補になります。採用時点では特に条件を満たす必要はありませんが、正社員化のタイミングで重点支援対象者に該当するかどうかを確認しておくと、支給額が変わってきます。
建設業(従業員15人・未経験者を試行雇用したい)の場合
未経験者や離職期間が長い求職者を、まず試しに雇ってみたい場合は、ハローワークの紹介でトライアル雇用助成金の対象者に該当するかを確認します。3か月の試行期間を経て、適性を見極めてから常用雇用に移行する採用戦略に向いています。
介護施設(従業員40人・高齢者や母子家庭の母を採用したい)の場合
人手不足が深刻な介護分野では、ハローワーク経由で高年齢者や母子家庭の母を積極的に採用する企業もあります。特定求職者雇用開発助成金の対象になる可能性があり、対象者の属性と採用ルートの両方が要件を満たしているかを事前に確認することが重要です。
「採用すれば必ずもらえる」わけではない
採用の補助金・助成金を検討する際、共通して押さえておくべき注意点があります。
- 雇用保険の適用事業所であることが前提です。 雇用保険に加入していない場合、多くの助成金は対象になりません
- 離職率等の要件があるコースもあります。 直近で解雇や大量離職を行っている事業所は、一部の助成金で対象外になることがあります
- 採用してから助成金を探しても、要件を満たせないことがあります。 特にトライアル雇用助成金や特定求職者雇用開発助成金は、ハローワークの紹介を経ることが条件になっているため、採用ルートを決める前に確認しておく必要があります
「採用が決まってから助成金を探す」のではなく、採用活動を始める前に、使えそうな制度を洗い出しておくことが、活用のための最も重要なポイントです。
中小企業とそれ以外で支給額が変わる
多くの採用関連の助成金は、中小企業事業主かどうかによって支給額が変わります。 中小企業基本法に定める中小企業者の考え方に基づき、業種ごとに資本金額または常時使用する従業員数のいずれかで判定されます(製造業その他は資本金3億円以下または従業員300人以下、卸売業は1億円以下または100人以下、小売業は5,000万円以下または50人以下、サービス業は5,000万円以下または100人以下。いずれかを満たせば該当します)。
従業員数が基準を超えていても、資本金額の基準を満たしていれば中小企業として扱われる場合があるため、両方の基準で確認しておくことが大切です。
申請のタイミングで注意すべきこと
採用関連の助成金の多くは、「採用する前」または「採用してすぐ」に手続きが必要な設計になっています。
- トライアル雇用助成金は、雇入れの日から2週間以内に「トライアル雇用実施計画書」を提出する必要があります
- 特定求職者雇用開発助成金は、ハローワーク等の紹介を経て雇用することが前提で、事後的な申請はできません
- キャリアアップ助成金の正社員化コースは、事前に「キャリアアップ計画」を提出しておく必要があります
採用が決まってから慌てて助成金の手続きを調べ始めると、期限に間に合わないケースがあります。 採用活動を始める段階で、あらかじめ利用したい制度の手続きスケジュールを確認しておくことをおすすめします。
通年採用と新卒採用で使える制度は変わるか
採用関連の助成金の多くは、中途採用・通年採用を主な対象に設計されています。 新卒採用(学校卒業見込者等)については、要件の考え方が異なる場合があります。
- トライアル雇用助成金は、就職が困難な求職者を対象にした制度であり、新卒者は原則として対象になりにくい傾向があります
- キャリアアップ助成金の正社員化コースは、有期雇用等からの転換が前提のため、新卒で正社員として直接採用した場合は対象になりません
- 新卒者の採用活動費用については、国の助成金よりも自治体独自の採用支援策(就職説明会出展費補助等)の対象になる可能性があります
「新卒を採用したから何か助成金がもらえるはず」と考えるのではなく、新卒採用は多くの助成金の対象範囲の外にあることを前提に、他の採用ルートとあわせて検討することが必要です。
障害者雇用に特化した採用支援もある
障害者を新たに採用する場合は、特定求職者雇用開発助成金に加えて、障害者を対象にした専用の支援制度が複数用意されています。
- 障害者トライアル雇用助成金(障害者を試行的に雇用する場合の助成)
- 障害者初回雇用コース(障害者雇用の経験がない中小企業が初めて障害者を雇用した場合の助成)
- 職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援制度
障害者雇用は、法定雇用率の達成義務とも関わる分野であり、採用の助成金だけでなく、雇用後の定着支援まで含めて検討する企業が多い分野です。詳しい制度は、ハローワークや地域の障害者職業センターに相談することをおすすめします。
採用の失敗を防ぐには、助成金だけに頼らない視点も必要
助成金を活用できるかどうかは、採用の成否そのものとは別の論点です。助成金の要件を満たすことを目的化してしまうと、自社に合わない人材を無理に採用してしまうリスクがあります。
- 助成金の対象になるかどうかだけで採用の可否を判断しない
- 助成金はあくまで採用・定着にかかるコストの一部を補うものであり、採用活動そのものの質(求人票の内容、面接の設計等)が土台になる
- 定着率が低いまま採用を繰り返すと、助成金の要件(離職率等)を満たせなくなることがある
採用の補助金・助成金は、あくまで「良い採用活動」を後押しする制度であり、それ自体が採用の目的になってはいけません。 自社にとって本当に必要な人材像を明確にしたうえで、活用できる制度を組み合わせていくという順序を意識することが重要です。
求人票の書き方と助成金の要件は別物
求人を出す段階で、助成金の対象になりやすい書き方を意識しすぎると、実態と異なる求人票になってしまうことがあります。 例えば、トライアル雇用の対象者を集めたいからといって、労働条件を実態と異なる形で表示することは、労働基準法や職業安定法上の問題につながります。
求人票は、あくまで実際の労働条件を正確に記載することが大前提です。 その上で、対象になり得る求職者にハローワークを通じて情報が届くよう、ハローワークの窓口担当者に相談しながら進めることが、適正な形で助成金を活用する近道になります。実態と異なる求人票を出すことは、助成金の返還だけでなく、会社の信用そのものを損なうリスクにもつながります。
人材不足の業種ほど、複数の制度を組み合わせやすい
介護・建設・運輸・宿泊業など、慢性的な人材不足が指摘される業種では、採用から定着まで一連の流れで複数の助成金を組み合わせられる可能性が高い傾向があります。
例えば、まずトライアル雇用で試行的に雇用し、適性を確認した上で常用雇用に移行、さらに一定期間後に正社員化コースで処遇を改善する、という流れを描く企業もあります。この場合、それぞれの段階で異なる助成金の要件を満たす必要があるため、採用から定着までの全体スケジュールを事前に描いておくことが有効です。
一方で、特定の業種を優遇する専用の助成金というものは少なく、多くの制度は業種を問わず利用できる設計になっています。業種特有の課題(人手不足の深刻さ、離職率の高さ等)に対応するための制度としては、人材確保等支援助成金のように「職場定着」を目的にしたコースが用意されている場合があるため、あわせて確認するとよいでしょう。
採用計画を立てる段階でのチェックリスト
採用活動を始める前に、次の点を確認しておくと、活用できる助成金を見落としにくくなります。
- 自社は雇用保険の適用事業所か(未加入の場合、多くの制度が対象外)
- 採用予定の人材は、どのルート(ハローワーク・人材紹介・自社応募)で募集するか
- 採用時点でどの雇用形態(正社員・契約社員・パート)にするか、将来的に転換する予定があるか
- 直近で解雇・大量離職等、助成金の対象外になり得る事情がないか
- 自社の所在地の自治体に、独自の採用支援策があるかどうかを確認したか
これらを採用活動の前に整理しておくことで、「採用してから助成金が使えないと気づく」という事態を避けやすくなります。 チェックリストを人事担当者だけでなく経営層とも共有しておくと、採用計画そのものの精度も上がりやすくなります。
よくある質問
正社員を新規採用しただけで使える助成金はありますか?
正社員を新規に採用したという事実だけで支給される助成金は限定的です。多くの制度は、対象者の属性(高年齢者・障害者等)や採用ルート(ハローワークの紹介)、その後の雇用形態の転換等、具体的な条件を満たす必要があります。
個人事業主でも採用の助成金は使えますか?
雇用保険の適用事業所であれば、法人・個人事業主を問わず対象になり得ます。ただし、コースによって従業員数や取り組み内容の要件が異なるため、自社の状況に照らして確認が必要です。
人材紹介会社を使って採用した場合、助成金は使えませんか?
制度によります。特定求職者雇用開発助成金のようにハローワーク等の紹介を条件にする制度では、民間の人材紹介会社経由の採用は対象外になることが一般的です。一方、キャリアアップ助成金のように採用ルートを問わない制度もあるため、活用したい制度の要件を個別に確認する必要があります。
複数の採用関連助成金を同時に使えますか?
制度・コースによって異なります。例えば、トライアル雇用からの移行後にキャリアアップ助成金の正社員化コースを使うなど、段階的に組み合わせられる場合もあります。同一の取り組み・経費に対して重複して支給を受けることはできないため、事前に各制度の窓口に確認することをおすすめします。
採用してすぐに辞めてしまった場合、助成金はどうなりますか?
多くの制度は、一定期間の雇用継続を支給要件に含んでいます。採用後すぐに離職してしまった場合、支給要件を満たせず、助成金を受け取れない、あるいは既に受け取った分の返還を求められることがあります。制度ごとに定められた継続雇用の期間を、事前に確認しておくことが重要です。
アルバイト・パートの採用でも助成金は使えますか?
雇用形態にかかわらず、雇用保険の被保険者であれば対象になり得る制度があります。ただし、週の所定労働時間等の要件がコースごとに設けられている場合があるため、短時間労働者を採用する場合は、対象になる労働時間の基準を個別に確認する必要があります。
助成金の情報は誰に相談すればよいですか?
制度全般の相談は、最寄りのハローワークや都道府県労働局が窓口です。就業規則の整備や複雑な要件確認については、社会保険労務士など各分野の専門家に無料相談することもできます。自治体独自の採用支援策については、商工担当部署への確認が必要です。
求人サイトの利用料そのものを補助する国の制度はありますか?
求人サイトの掲載料や有料オプションの利用料そのものを直接補助する国の統一的な制度は、一般的ではありません。こちらも自治体独自の採用支援策の対象になる場合があるため、求人媒体の利用を検討する段階で、自治体の補助金の有無をあわせて確認しておくとよいでしょう。
採用面接や説明会の会場費用にも助成金は使えますか?
面接や説明会の会場費用そのものを対象にした国の統一的な助成金は一般的ではありません。一部の自治体が就職説明会・合同企業説明会への出展費用を補助する制度を設けている場合があるため、大規模な採用イベントへの参加を検討している場合は、自治体の商工担当部署にあわせて確認してみるとよいでしょう。
助成金の対象になる採用と、ならない採用の見分け方はありますか?
一律の見分け方はありませんが、対象者の属性(高年齢者・障害者・就職困難者等)、採用ルート(ハローワークの紹介の有無)、雇用形態(有期か無期か、正社員転換の予定はあるか)の3つを整理すると、該当しそうな制度の見当がつきやすくなります。最終的には、個別の状況を必ずハローワークや労働局に確認することが確実です。
免責事項: 本記事の内容は2026年9月時点で確認できた情報にもとづきます。各制度の支給要件・支給額・受付状況は年度により変更されるため、申請前に必ず厚生労働省・お近くのハローワーク・自治体の公式ページで最新の内容をご確認ください。自治体独自の採用支援策は特に予算が限られていることが多く、年度の早い時期に予算上限に達して終了することもあるため、検討している場合は早めに問い合わせることをおすすめします。
