パート・アルバイトや契約社員に長く活躍してもらいたいけれど、正社員登用の制度がなく踏み出せない。頑張ってくれている非正規のスタッフの給与を上げたいが、原資の確保がネック――。こうした「非正規雇用の従業員を正社員化する」「処遇を改善する」取り組みにかかる費用を、国が後押ししてくれるのがキャリアアップ助成金です。

キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者・パート・派遣労働者などの非正規雇用労働者を対象に、正社員化や賃金アップ等の取り組みをした事業主に支給される制度です。代表的な正社員化コースは、中小企業が重点支援対象者(雇入れから3年以上の有期雇用労働者など)を正社員化した場合、1人あたり最大80万円が支給対象になります。ほかにも、基本給の引き上げに使う「賃金規定等改定コース」、賞与・退職金制度を新設する「賞与・退職金制度導入コース」など、目的別に現行6つのコースが用意されています。自社に合うコースはどれか、いくらもらえるのか、順番に見ていきましょう。

図: キャリアアップ助成金の全体像。詳しくは本文で解説します

キャリアアップ助成金にはどんなコースがある?【現行6コース】

キャリアアップ助成金は、大きく「正社員化支援」と「処遇改善支援」の2グループ・現行6コースに分かれています。

正社員化支援(非正規から正社員へ)

  • 正社員化コース:有期雇用労働者・パート・派遣労働者等を正規雇用労働者等に転換、または派遣労働者を正規雇用労働者等として直接雇用した場合に支給。正規雇用労働者には「多様な正社員(勤務地限定・職務限定・短時間正社員)」も含まれます
  • 障害者正社員化コース:障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換した場合に支給。障害の程度(重度身体障害者・重度知的障害者・精神障害者かどうか)で支給額が変わります

処遇改善支援(給与・制度面の改善)

  • 賃金規定等改定コース:有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、適用させた場合に支給
  • 賃金規定等共通化コース:有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規定等を新たに規定・適用した場合に支給
  • 賞与・退職金制度導入コース:有期雇用労働者等を対象に賞与・退職金制度を導入し、支給または積立を実施した場合に支給
  • 短時間労働者労働時間延長支援コース:短時間労働者の週の所定労働時間を延長した場合等に支給(1年目・2年目の取組に分かれる)

図: 目的別の6コース使い分け。まずは「何をしたいか」から自社に近いコースを確認しましょう

「社会保険適用時処遇改善コース」を探している方へ

かつて存在した「社会保険適用時処遇改善コース」は、2026年3月31日で経過措置が終了し、2026年度(令和8年度)以降は短時間労働者労働時間延長支援コースに一本化されています。社会保険の適用に伴う労働時間延長の取り組みは、現在はこのコースで支給対象になります。

コース選びで迷う場合、あるいは自社の取り組みがどのコースの要件に当てはまるかの実体判断が難しい場合は、専門家に相談すると確実です。どの取り組みをどのコースの計画として位置づけるかという整理のコツは、GRANTOS公式LINEの登録者限定ページでも紹介しています。

いくらもらえる?コース別の支給額

支給額はコースごと・企業規模(中小企業か大企業か)・対象労働者の区分ごとに細かく分かれます。まずは代表的な数値を押さえておきましょう。

コース区分中小企業大企業
正社員化コース(1人あたり)有期→正規(重点支援対象者)80万円60万円
正社員化コース(1人あたり)有期→正規(左記以外)40万円30万円
正社員化コース(1人あたり)無期→正規(重点支援対象者)40万円30万円
正社員化コース(1人あたり)無期→正規(左記以外)20万円15万円
障害者正社員化コース(1人あたり)重度障害者等・有期→正規120万円90万円
障害者正社員化コース(1人あたり)左記以外・有期→正規90万円67.5万円
賃金規定等改定コース(1人あたり)3%以上6%未満(率に応じて4段階)4万円〜6.5万円2.6万円〜4.3万円
賃金規定等改定コース(1人あたり)6%以上7万円4.6万円
賃金規定等共通化コース(1事業所)60万円45万円
賞与・退職金制度導入コース(1事業所)40万円30万円
短時間労働者労働時間延長支援コース(1人あたり・1年目)延長時間・賃金増加の要件別30万円〜50万円15万円〜30万円(中規模企業40万円等、規模により変動)

「重点支援対象者」とは、次のa〜cのいずれかに該当する有期雇用労働者等です

  • a. 雇入れから3年以上の有期雇用労働者
  • b. 雇入れから3年未満で、過去5年間に正規雇用労働者であった期間が1年以下、かつ過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていない者
  • c. 派遣労働者、母子家庭の母等、人材開発支援助成金の特定訓練修了者

正社員化コースには、このほかにも加算措置があります。正社員転換等制度を新たに規定した場合は1事業所あたり20万円(大企業15万円)、勤務地限定・職務限定・短時間正社員のいずれか1つ以上の「多様な正社員制度」を新たに規定した場合は1事業所あたり40万円(大企業30万円)、転換等の情報を自社サイトや職場情報総合サイト(しょくばらぼ)で公表した場合は1事業所あたり20万円(大企業15万円)が加算されます。

業種横断・シミュレーション

同じ「キャリアアップ助成金」でも、業種とやりたいことで使うコースも支給額もまったく変わります。3つの業種を例に見てみましょう。

図: 業種別に見る「どのコースで、何人・いくら支給されるか」のイメージ

① 飲食店(従業員18人・中小企業・正社員化コース) パート・アルバイト3人のうち、2人は雇入れから3年以上(重点支援対象者に該当)、1人は雇入れから日が浅く該当しません。3人とも有期雇用から正規雇用へ転換した場合、2人×80万円+1人×40万円=200万円が支給対象です。あわせて、正社員転換等制度を新たに就業規則に規定していれば、1事業所あたり20万円の加算も対象になります(合計220万円)。まずは対象者ごとに「重点支援対象者に該当するか」を確認するところから始めます。

② 小売業(スーパーマーケット・従業員45人・中小企業・正社員化コース+賃金規定等共通化コース) 契約社員2人を正社員化するのにあわせて、正社員とパート・契約社員で分かれていた賃金規定を統一したい。 → 契約社員2人のうち1人が重点支援対象者に該当すれば、1人×80万円+1人×40万円=120万円(正社員化コース)。あわせて、有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規定を新たに規定・適用すれば、賃金規定等共通化コースで1事業所あたり60万円も支給対象になります(合計180万円)。正社員化と処遇改善を同時に進めると、複数コースを組み合わせられるのがこの助成金の特徴です。

③ 介護事業所(訪問介護・従業員30人・中小企業・賃金規定等改定コース) 正社員化までは踏み込めないが、パート職員5人の基本給を底上げして定着を図りたい。 → 基本給の賃金規定等を5%以上6%未満の範囲で増額改定した場合、1人あたり6.5万円×5人=32.5万円が支給対象です。正社員化を伴わなくても、賃金規定の改定だけで対象になる点は見落とされがちです。

このように、同じ「キャリアアップ助成金」でも、正社員化する人数・企業規模・対象労働者の区分によって支給額は大きく変わります。まずは自社の取り組みがどのコース・どの区分に近いかを確認してみましょう。

コースが多く、自社に合うものが分かりにくいと感じたら、他に使える補助金・助成金がないか探してみるのも有益です。

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対象労働者の該当性判断や、複数コースの組み合わせ方で迷ったら、専門家に無料で相談できます。

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申請のスケジュール感は?「計画届」の提出タイミングが隠れ期限です

キャリアアップ助成金は、他のjGrants補助金のような「年◯回の締切」ではなく、各コースの取組を始めるタイミングごとに動く制度です。ただし、いつ着手しても良いわけではありません。

「キャリアアップ計画」は、各コースの取組の実施日の前日までに作成・提出する必要があります。これが最初の関門です。正社員化支援に関するコースであれば、計画提出→(必要な場合)就業規則等の改定→就業規則等に基づく正社員転換→転換後6か月分の賃金の支払い(転換前6か月と比較して3%以上の賃金増額が必要)という流れで進み、取組後6か月の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内に支給申請を行います。処遇改善支援に関するコースも、取組の実施→取組後6か月分の賃金の支払い→支給申請という同様の流れです。

図: 申請から支給までのスケジュール。「計画をいつ出すか」が最初の分かれ目です

「もう正社員に転換してしまった」「先に賃金を上げてしまった」という状態からでは、原則としてさかのぼって申請することはできません。取り組みを始める前に計画届を出すという順番を守ることが、この助成金でもっとも重要なポイントです。

承認までの重要なタイミングと必要書類

「何が必要か」よりも「いつ何が必要か」を押さえるほうが、準備のスケジュールを組みやすくなります。

タイミングやること必要になるもの
取り組みを始めたいと決めたらすぐどのコースが自社に合うか整理する対象労働者の雇用履歴、現状の就業規則・賃金規定の確認
各コースの取組の実施日の前日までキャリアアップ計画を作成・提出する(労働組合等の意見聴取が必要)キャリアアップ計画書
計画提出後(正社員化支援の場合)就業規則等を改定し、規定に基づいて転換等を実施する改定後の就業規則、転換辞令等
取組実施後取組後6か月分の賃金を支払う(正社員化は転換前比3%以上の増額が必要)賃金台帳、出勤簿等
6か月分の賃金支払い後、翌日から起算して2か月以内支給申請を行う支給申請書、賃金台帳、就業規則等の証明書類

図: いつ・何が必要になるか。計画届の提出が最初の分かれ目です

計画の提出(支給申請も同様)は、窓口への持参・郵送・電子申請のいずれかで行えます。コースによって必要な書類・証明の内容が異なるため、自社の取り組みがどのコースの、どの手続きに当てはまるかを早い段階で確認しておくと慌てずに済みます。

「うちの会社でも対象?」対象事業主・対象労働者の考え方

キャリアアップ助成金は、雇用保険適用事業所の事業主であれば業種を問わず対象になります。支給額は、多くのコースで中小企業か大企業かによって金額が変わるのが特徴です。

雇用関係の助成金で一般的に用いられる中小企業の区分は、業種によって次のように異なります。

業種資本金の額 または常時雇用する労働者数
小売業5,000万円以下50人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
卸売業1億円以下100人以下
その他(製造業等)3億円以下300人以下

対象労働者は、有期雇用労働者・パート・派遣労働者などの非正規雇用労働者です。正社員化コースでは、新規学卒者で雇入れ日から起算して雇用期間が1年未満の者は支給対象外となる点に注意が必要です。

例:従業員20人の学習塾(法人・正社員5人+契約講師10人+パート5人) → 雇用保険適用事業所であれば、中小企業(サービス業区分)として正社員化コースの対象です。雇入れから3年以上の契約講師を正社員化すれば、重点支援対象者として1人あたり80万円が支給対象になります。

自社の取り組みがどのコース・どの区分に該当するかの最終判断や、対象労働者の該当性確認に迷う場合は、専門家に相談すると確実です。

よくある質問

「社会保険適用時処遇改善コース」はもうなくなったのですか?

経過措置が2026年3月31日で終了し、2026年度(令和8年度)以降は短時間労働者労働時間延長支援コースに一本化されています。社会保険の適用に伴う労働時間延長の取り組みは、現在はこのコースで支給対象になります。

正社員化した後、すぐに申請できますか?

できません。正社員化コースでは、転換後6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内に支給申請を行う必要があります。また、そもそも取組を始める前(各コースの実施日の前日まで)にキャリアアップ計画を提出しておくことが前提です。

パートを1人だけ正社員化しても対象になりますか?

対象になります。正社員化コースは1人単位で支給されるため、少人数の転換でも申請できます。ただし、1事業所あたりの支給対象人数・回数には上限が設けられている場合があるため、複数人を予定している場合は事前に確認しておくと安心です。

※支給額・要件・申請スケジュールなどの制度内容は、支給要領の改定により変更される場合があります。申請前に必ず厚生労働省の公式サイトまたは最寄りの労働局・ハローワークで最新情報をご確認ください。

出典(一次情報): キャリアアップ助成金のご案内(令和8年4月8日・厚生労働省リーフレット)キャリアアップ助成金(厚生労働省公式ページ)


支給される計画届には"書き方の型"があります

同じ取り組みでも、キャリアアップ計画や就業規則の改定の仕方ひとつで、対象になるかどうかは変わります。どの取り組みをどのコースに位置づけるかは、一般には出回っていません。

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この助成金の概要(早見表)

検索項目内容
制度名キャリアアップ助成金(正社員化コース/障害者正社員化コース/賃金規定等改定コース/賃金規定等共通化コース/賞与・退職金制度導入コース/短時間労働者労働時間延長支援コース の現行6コース。「社会保険適用時処遇改善コース」は2026年3月末で経過措置終了・短時間労働者労働時間延長支援コースに一本化)
対象業種全業種
利用目的雇用・職場環境を改善したい
対象地域全国
従業員数中小企業事業主が中心(業種により資本金・従業員数の基準あり。一部コースは大企業も対象)
支給上限額コースにより2.6万円〜120万円(正社員化コース最大80万円/人・中小企業、障害者正社員化コース最大120万円/人)
支給率定額(コース・区分ごとに金額が定められる。対象経費への一定率という形ではない)
申請受付通年(各コースの取組の実施日の前日までにキャリアアップ計画の提出が必要)
公式サイトキャリアアップ助成金(厚生労働省公式ページ)

※この表の項目(対象業種・利用目的・対象地域・従業員数)は、GRANTOSの補助金診断の検索軸に対応しています。