専門実践教育訓練給付金は「受講費用の最大80%、年間上限64万円」と説明されます。この数字は正しいのですが、一括で80%が振り込まれるわけではありません。
実際は3回に分かれます。まず受講中に50%(年間上限40万円)を6か月ごとに受け取り、修了して資格を取得し就職できたら70%までの差額(年間上限56万円)、さらに賃金が5%以上上がったら80%までの差額(年間上限64万円)が追加されます。しかも、3つの給付は申請期限がそれぞれ違います。
つまり、講座に通っている間に手元に入るのは払った額の半分だけです。「80%出ると聞いていたのに」という誤算は、ここで起きます。そして、就職後の追加申請を忘れると、残りの30%は永久に受け取れません。
この記事では、その3段階の構造と申請期限、教育訓練経費に含まれないもの、10年間192万円という通算上限を整理します。一般教育訓練・特定一般教育訓練との違いや、自分がどの区分に当てはまるかは 教育訓練給付制度とは?3種類の給付率の違い にまとめているので、区分選びで迷っている方はそちらを先にご覧ください。
3段階のタイムライン
いつ・何を満たせば・いくら受け取れて・いつまでに申請するのか、を1つの表にまとめます。
| 段階 | 受け取る条件 | 給付率 | 年間上限 | 申請期限 |
|---|---|---|---|---|
| ①受講中 | 講座を受講していること | 教育訓練経費の50% | 40万円 | 受講開始日から6か月ごとの期間(支給単位期間)の末日の翌日から1か月以内。修了日のある期間は修了日の翌日から1か月以内 |
| ②資格取得+就職 | 修了後、資格を取得し、修了日の翌日から原則1年以内に雇用保険の被保険者として就職(または在職のまま資格取得) | 70%までの差額 | 56万円 | 資格取得日または就職日のいずれか遅い日の翌日から起算して1か月以内 |
| ③賃金上昇 | ②を満たしたうえで、訓練修了後の賃金が受講開始前より5%以上上昇 | 80%までの差額 | 64万円 | 資格取得日または就職日のいずれか遅い日から起算して1年以内 |
②の期限が1か月しかないのが最大の落とし穴です。就職して新しい環境に慣れるのに必死な時期に、1か月以内にハローワークへ行かなければなりません。この1か月を逃すと、20%分(年間上限16万円)が受け取れなくなります。
③は1年あるので比較的余裕がありますが、②の手続きを経ていないと③も申請できません。 順番が固定されています。
なお、③の80%が適用されるのは令和6年10月1日以降に開講した講座です。それより前に始まった講座は70%が上限になります。
実際にいくら戻るのか
厚生労働省のパンフレットに載っている例で計算してみます。
訓練期間2年/入学料10万円/6か月ごとの受講料40万円(教育訓練経費の合計170万円)の講座で、修了して資格を取得し就職し、賃金も5%以上上がったケースです。
| 段階 | 計算 | 支給額 |
|---|---|---|
| ①受講中(1年目) | 第1期50万円×50%=25万円/第2期40万円×50%=20万円 → 合計45万円だが年間上限40万円で頭打ち | 40万円 |
| ①受講中(2年目) | 第3期・第4期の合計80万円×50%=40万円(年間上限内) | 40万円 |
| ②資格取得+就職 | 170万円×20%=34万円だが、上限32万円(年間16万円×2年)で頭打ち | 32万円 |
| ③賃金上昇 | 170万円×10%=17万円だが、上限16万円(年間8万円×2年)で頭打ち | 16万円 |
| 合計 | 128万円 |
170万円払って128万円戻る計算です。実質の自己負担は42万円になります。
ここで注目してほしいのは、①の1年目で年間上限40万円に頭打ちされている点です。1年目の教育訓練経費は入学料10万円+受講料80万円で90万円なので、50%なら45万円のはずですが、年間上限があるため40万円までしか出ません。入学料が1年目に集中する講座では、年間上限で削られやすいということです。
そして、受講中の2年間で手元に入るのは80万円だけです。残りの48万円は、就職して賃金が上がった後にようやく入ります。受講中の生活設計は、50%分だけで組む必要があります。
教育訓練経費に含まれないもの
「170万円払った」と思っていても、給付の計算に使われる教育訓練経費はそれより小さいことがよくあります。
含まれるものは、受講者が教育訓練実施者に対して支払った入学料と受講料の合計だけです。
含まれないものを列挙します。
- 検定試験の受講料(資格試験の受験料)
- 受講にあたって必ずしも必要とされない補助教材費
- 教育訓練の補講費
- 教育訓練実施者が行う各種行事の参加費用
- 学債など、将来受講者に現金還付が予定されている費用
- 交通費
- パソコンなどの器材の費用
- クレジット会社に対する手数料
- 支給申請時点で未納の額
さらに、次の2つは金額の計算に直接影響します。
- 会社などから手当が出ている場合、そのうち入学料・受講料に充てられる額は差し引いて申請する必要があります。勤務先が受講料の一部を負担してくれている人は、その分は自分の教育訓練経費になりません
- 割引制度が適用された場合は、割引後の額が教育訓練経費です。早期申込割引などを使った場合、定価ではなく実際に払った額で計算します
また、教育訓練実施者・販売代理店・事業所などから経費の一定額還付が予定されている場合(現金だけでなくパソコンなどの無償提供を含む)は、その還付予定額を差し引いて申告しなければなりません。 後日ハローワークが調査を行うことがあります。
パソコンの費用が対象外なのは、IT系の講座を受ける人が誤解しやすい点です。「講座指定のノートPCを買った」という費用は、講座が必須としていても教育訓練経費には入りません。
受講前にやること(2週間前が期限)
専門実践教育訓練は、受講を始めてから申請すればよいという制度ではありません。受講開始日の2週間前までに手続きを済ませる必要があります。
順序は次のとおりです。
- 講座を選ぶ。 厚生労働大臣が指定した講座であることが必須です。「教育訓練給付金厚生労働大臣指定教育訓練講座検索システム」で確認します
- 訓練前キャリアコンサルティングを受ける。 ハローワークの訓練対応キャリアコンサルタントとの面談です
- ジョブ・カードの交付を受ける。 面談の結果として、就業の目標や職業能力の開発に関する事項を記載したものが作られます
- 受給資格確認の手続きをする。 ジョブ・カードをハローワークへ提出します。受講開始日の2週間前まで(郵送の場合は消印有効)
ジョブ・カードには有効期限があり、訓練前キャリアコンサルティングでの発行から1年以内のものでないと使えません。
「受講開始日」の定義にも注意が必要です。通学制は教育訓練の所定の開講日(本人の出席第1日目とは限りません)、通信制は教材などの発送日で、いずれも指定教育訓練実施者が証明する日です。自分が思っている日と違うことがあるので、申込前に学校に確認してください。
キャリアコンサルティングの予約が取れずに2週間前に間に合わない、というのが最も多い失敗です。 講座の申込みは余裕をもって行ってください。
対象になる講座は7分類・3,485講座
専門実践教育訓練の対象は、厚生労働大臣が指定した講座に限られます。分類は7つです。
- 業務独占資格・名称独占資格の取得を訓練目標とする養成施設の課程(訓練期間は原則1年以上3年以内)。看護師、介護福祉士、美容師、調理師、保育士、歯科衛生士、はり師、社会福祉士、准看護師、柔道整復師、栄養士、精神保健福祉士、助産師、理容師など
- 専門学校の職業実践専門課程およびキャリア形成促進プログラム。企業などとの連携で最新の実務知識を身に付けられるものとして文部科学大臣が認定した課程
- 専門職大学院の専門職学位課程、または外国の大学院の学位を取得するための課程(訓練期間2年以内)
- 職業実践力育成プログラム。大学・大学院・短期大学・高等専門学校の正規課程や履修証明プログラムのうち、文部科学大臣が認定したもの(訓練時間30時間以上・訓練期間2年以内)
- 第四次産業革命スキル習得講座等の課程。高度IT分野など、経済産業大臣が認定した社会人向けの専門的・実践的な教育訓練講座(ITスキル標準レベル3以上)。ITSSレベル3以上の情報通信技術関係資格の取得を目標とする課程を含む
- 専門職大学・専門職短期大学・専門職学科の課程(専門職大学の正規課程は4年以内)
- 上記に準ずるものとして指定された課程
令和8年10月1日時点の給付対象講座は3,485講座です。同日付で新たに指定されたのは138講座で、内訳は業務独占資格等の養成課程63、第四次産業革命スキル習得講座等50、専門学校の職業実践専門課程14、大学等の職業実践力育成プログラム8、専門職大学等の課程2、専門職大学院の課程1でした。
注意点として、必置資格は対象になりません。 必置資格とは、事業所などで管理監督者として有資格者の配置が義務づけられている資格のことですが、資格を持たずに業務を行うことを法律で禁じる規定がない場合、業務独占資格・名称独占資格には該当しないためです。
講座の指定は年2回行われ、次回は令和9年4月1日付けの指定です。その申請受付は10月上旬から11月上旬に実施される予定なので、いま対象でない講座が半年後に対象になる可能性があります。
10年間192万円という通算上限
複数回受講する場合の上限です。
最初に専門実践教育訓練給付金を受給した講座の受講開始日を起点として、10年を経過するまでの間に受講開始した専門実践教育訓練の給付金の合計額は192万円が限度になります。
なお、最初の受給に係る受講開始日が令和6年9月30日以前の場合は、168万円が限度です。
法令上最短4年の課程には上乗せがあります。 専門職大学等や管理栄養士の養成課程を受講している場合、3年目の受講終了時に、192万円(=(40万円+16万円+8万円)×3)へ、4年目受講相当分として上限64万円(40万円+16万円+8万円)が上乗せされます。合計256万円です。
ただし、次のどちらかに当てはまる方は上乗せの対象外になります。
- 法令上最短4年の講座の受講開始日前10年以内に、別の専門実践教育訓練を受講したことがある方
- 3年目が終了した際に、3年目後期の賃金にもとづき算出する賃金日額が、基本手当の賃金日額の50%(3年目後期の支給単位期間の末日に60〜64歳の方は45%)の屈折点における額以上である方(高収入の在職者)
失業中なら「教育訓練支援給付金」も
専門実践教育訓練の給付を受ける方のうち、失業状態で昼間通学制の講座に通っている人には、別枠の生活費支援があります。
教育訓練支援給付金は、雇用保険の基本手当の日額の60%に相当する額が支給される制度です。受講開始時に45歳未満であるなど一定の要件を満たす必要があり、通信制・夜間制は対象外です。
- 支給は2か月ごとで、そのつどハローワークが指定する認定日に失業の認定を受ける必要があります
- 令和8年度末までの暫定措置です
- 令和7年4月1日より前に受講を開始している場合は、基本手当の日額の80%に相当する額になります
給付率が80%から60%へ下がっているため、古い情報を見て生活設計を立てると足りなくなります。基本手当の日額の計算方法は 失業保険はいくらもらえる?金額の目安 を参照してください。
在職のまま休んで通うなら「教育訓練休暇給付金」
2025年10月から始まった新しい制度です。会社を辞めずに、教育訓練のための休暇を取って学ぶ場合の生活費支援で、専門実践教育訓練給付金と組み合わせて使える可能性があります。
- 支給額: 離職した場合に支給される基本手当の額と同じ
- 給付日数: 被保険者であった期間に応じて90日・120日・150日のいずれか
- 支給要件: 原則として休暇開始前2年間に被保険者期間が12か月以上あること。加えて、被保険者期間が5年以上あること
教育訓練支援給付金(基本手当日額の60%)が離職者向けなのに対し、こちらは在職者が休暇を取るケースを想定しています。給付額も基本手当と同額なので、支援給付金より手厚い設計です。
ただし、この給付を受けた期間に対応する被保険者であった期間は、基本手当(失業手当)の受給資格決定に用いる期間から除かれます。つまり、休暇給付金を使った後に離職した場合、失業手当の計算に影響します。長期のキャリア設計として考える必要があります。
制度が始まって間もないため、勤務先に教育訓練休暇の制度があるかどうかがまず前提になります。詳しくはハローワークにご確認ください。
支給されないケース
覚えておくべき除外条件を挙げます。
- 支給額が4千円を超えない場合は支給されません。 教育訓練経費の50%が4千円以下、つまり経費が8千円以下の場合です。専門実践の講座で該当することはまれですが、規定として存在します
- 受講開始日の前日から3年以内に教育訓練給付金を受けたことがあると、支給されません。 一般・特定一般を含めたすべての教育訓練給付金が対象です
- 同時に複数の教育訓練講座について支給申請を行うことはできません
- 不正受給をした場合、受講開始日前の被保険者であった期間はなかったものとみなされます。不正に受給した金額の返還と、返還額の2倍の金額の納付を命じられ、刑罰に処せられることがあります
よくある質問
80%は最初から受け取れますか?
受け取れません。受講中に受け取れるのは教育訓練経費の50%(年間上限40万円)だけです。70%への差額は資格を取得して就職した後、80%への差額はさらに賃金が5%以上上がった後に、それぞれ追加で申請して受け取ります。
就職後の申請を忘れたらどうなりますか?
期限を過ぎると受け取れません。 70%への差額は、資格取得日または就職日のいずれか遅い日の翌日から起算して1か月以内が期限です。80%への差額は1年以内ですが、70%の手続きを経ていないと申請できません。修了したらカレンダーに期限を書き込んでおいてください。
パソコンや教科書代も対象になりますか?
なりません。対象になるのは、教育訓練実施者に支払った入学料と受講料だけです。パソコンなどの器材、必ずしも必要とされない補助教材費、検定試験の受講料、交通費、クレジット会社への手数料はすべて対象外です。勤務先から受講料の補助が出ている場合は、その分も差し引いて申請します。
在職中でも受けられますか?
受けられます。受講開始日に雇用保険の被保険者で、支給要件期間が3年以上(初めて教育訓練給付金を受ける方は2年以上)あれば対象です。在職のまま資格を取得した場合も、70%への追加給付を受けられます。
賃金が5%以上上がったかどうかは、どう判定されますか?
訓練修了後の賃金を、受講開始前の賃金と比較します。判定は雇用保険の記録にもとづいて行われるので、自己申告だけでは足りません。申請期限は資格取得日または就職日のいずれか遅い日から1年以内なので、昇給のタイミングによっては間に合わないことがあります。転職して賃金が上がった場合も対象です。
受講中に離職したら給付はどうなりますか?
受講開始日の時点で受給資格を満たしていれば、受講中に離職しても①の50%は引き続き受け取れます。むしろ、離職して失業状態になり、昼間通学制で受講開始時に45歳未満などの要件を満たすなら、教育訓練支援給付金(基本手当日額の60%)が新たに受けられる可能性があります。ただし②の追加給付は「修了日の翌日から原則1年以内に就職すること」が条件なので、修了後の就職活動の期限は変わりません。状況が変わったらハローワークに届け出てください。
対象講座はどこで探せますか?
厚生労働省の「教育訓練給付金厚生労働大臣指定教育訓練講座検索システム」で検索できます。令和8年10月1日時点で3,485講座が指定されています。講座の指定は年2回(4月1日付・10月1日付)行われるので、いま対象外の講座が次回対象になることもあります。
