傷病手当金・退職後の継続給付の要点まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 傷病手当金の資格喪失後の継続給付 |
| 対象者 | 個人(健康保険の被保険者だった方) |
| 対象地域 | 全国 |
| 継続給付を受けられる要件(1) | 退職日(資格喪失日の前日)までに継続して1年以上の被保険者期間があること(任意継続被保険者期間は含まない) |
| 継続給付を受けられる要件(2) | 資格喪失時に、すでに傷病手当金を受給しているか、受給できる状態にあること |
| 退職日に出勤した場合 | 継続給付の対象外(労務不能な状態で退職している必要がある) |
| 支給期間 | 在職中と同じく、支給開始日から通算1年6か月まで(詳しくは「傷病手当金 期間」の記事) |
| 老齢年金との調整 | 老齢厚生年金等を受給している場合、原則として傷病手当金は支給されない(年金額の360分の1が傷病手当金の日額より低い場合は差額支給) |
| 公式サイト | 全国健康保険協会(協会けんぽ)「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」よくあるご質問 |
退職すると健康保険の資格を失うため、原則として傷病手当金も終わります。ただし、一定の要件を満たせば「資格喪失後の継続給付」として、退職後も引き続き受け取れます。この記事では、継続給付の対象になるか・ならないかを場合分けで整理し、老齢年金との調整や任意継続被保険者との関係まで解説します。
支給期間の通算ルール(1年6か月の数え方)は「傷病手当金 期間」の記事、制度の全体像(支給額の計算方法)は「傷病手当金」の記事で詳しく解説しています。
継続給付を受けるための2つの要件
退職後も傷病手当金を受け取るには、次の2つを両方満たす必要があります。
- 被保険者期間の要件:資格喪失日の前日(退職日)までに、継続して1年以上の被保険者期間があること
- 傷病手当金の受給状態の要件:資格喪失時点(退職日の翌日)で、すでに傷病手当金を受給しているか、受給できる状態(待期3日間を満たし、労務不能の状態)にあること
この2つのうち、どちらか一方でも欠けると継続給付は受けられません。 特に見落としやすいのが被保険者期間の数え方です。
被保険者期間「継続1年以上」の数え方の注意点
- 任意継続被保険者として加入していた期間は、この1年に含まれません。 あくまで在職中、事業主の適用を受けて加入していた期間だけがカウントされます
- 転職して別の会社の健康保険に切り替わった場合でも、空白期間なく継続していれば通算されるのが一般的です。転職の間に国民健康保険への加入期間などが挟まると、継続性が途切れる可能性があります
- 1年に1日でも足りないと要件を満たしません。入社して11か月で休職・退職した場合などは対象外になります
退職日に出勤すると対象外になる
退職日に出勤して働くと、その時点で労務不能の状態ではなくなるため、資格喪失後(退職日の翌日以降)の傷病手当金は支給されません。 「最終出社日」のつもりで挨拶回りだけのために出社した場合も、実際に勤務した扱いになると対象外になる可能性があります。継続給付を考えている場合は、退職日当日の過ごし方に注意が必要です。
対象になるか・ならないかの場合分け
| あなたの状況 | 継続給付の対象になるか |
|---|---|
| 退職前に継続1年以上加入しており、退職時点ですでに傷病手当金を受給中だった | 対象になる |
| 退職前に継続1年以上加入しており、退職時点で待期3日間を満たし労務不能の状態だった(申請はこれから) | 対象になる |
| 被保険者期間が継続11か月しかない(1年に満たない) | 対象外 |
| 被保険者期間の一部に任意継続被保険者としての加入期間が含まれ、実質の在職期間が1年未満 | 対象外 |
| 退職日に出勤し、通常どおり勤務した | 対象外(労務不能の状態で退職していないため) |
| 退職後にまったく別の傷病で新たに働けなくなった | 対象外(継続給付は退職時点の傷病に限る) |
| 退職後、いったん回復して働ける状態になった後、同じ傷病が再び悪化した | 対象外(回復後の再発は継続給付の対象にならない) |
「回復後の再発は対象外」という点は特に見落とされがちです。 資格喪失後に一度でも労務可能な状態に戻ると、その後同じ傷病が悪化しても継続給付は受けられません。
任意継続被保険者・国民健康保険との関係
退職後、健康保険の任意継続被保険者になるか、国民健康保険に加入するかを選ぶ方が多いですが、継続給付を受けられるかどうかはこの選択と直接は関係ありません。 継続給付の要件(被保険者期間1年以上・資格喪失時の受給状態)を満たしていれば、退職後に任意継続被保険者や国民健康保険に加入していても、退職前から続く同一の傷病であれば傷病手当金は受け取れます。
ただし、任意継続被保険者として加入していた期間中に新たに発症した傷病については、任意継続被保険者は傷病手当金の対象外です(任意継続被保険者は原則として傷病手当金の給付を受けられません)。継続給付として受け取れるのは、あくまで退職前から引き続いている傷病についてです。
老齢年金を受給している場合の調整
資格喪失後の継続給付を受けている方が、老齢厚生年金等の老齢を支給事由とする年金を受け取れる状態になると、原則として傷病手当金は支給されません。
ただし、次の場合は差額が支給されます。
- 老齢年金の額(360分の1に相当する額)が、傷病手当金の日額より低いとき → その差額が傷病手当金として支給される
退職後に継続給付を受けながら、同時に老齢厚生年金の受給開始年齢を迎えるケースでは、両方を満額で重複して受け取ることはできません。 年金の受給開始時期と傷病手当金の受給状況を、あわせて保険者に確認することをおすすめします。
なお、この調整は在職中の傷病手当金には適用されません。在職中に老齢年金を受け取りながら傷病手当金を受給している場合の扱いは別の考え方になるため、該当する場合は保険者に確認してください。
継続給付の支給期間
継続給付として受け取れる期間は、在職中と同じ考え方(支給開始日から通算1年6か月)です。退職によって新たに期間が延長されたり、リセットされたりすることはありません。すでに在職中に一定期間受給していた場合は、その日数を差し引いた残りの期間が継続給付として受け取れる上限になります。
詳しい通算の数え方(途中で就労できた期間の扱いなど)は「傷病手当金 期間」の記事で解説しています。
具体的な事例で確認する
事例1: 継続給付の対象になるケース
Aさん(38歳、同じ会社に5年勤務、うつ病で休職中に退職)。退職前に継続5年の被保険者期間があり、退職日の時点で傷病手当金をすでに受給していました。退職日は療養のため出勤していません。
→ 被保険者期間(1年以上)を満たし、資格喪失時にすでに受給中のため、継続給付の対象になります。 退職後は本人が保険者に直接申請書を提出する形に切り替わります。
事例2: 対象外になるケース(被保険者期間不足)
Bさん(26歳、入社10か月で体調を崩し、そのまま退職)。退職時点で労務不能の状態にはありましたが、被保険者期間が10か月しかありません。
→ 継続1年以上の被保険者期間を満たさないため、対象外です。 退職後は傷病手当金を受け取れず、生活保障が必要な場合は他の制度(傷病手当・障害年金等)を検討することになります。
事例3: 対象外になるケース(退職日に出勤)
Cさん(45歳、同じ会社に10年勤務、体調不良で休職していたが、最終出社日として退職日に半日だけ顔を出した)。被保険者期間は10年で要件を満たしていますが、退職日に出勤し勤務した実績があるため、労務不能な状態での退職とは扱われません。
→ 退職日に出勤した時点で継続給付の対象外になります。 継続給付を希望する場合、退職日当日は出勤しない(有給休暇や欠勤として扱う)よう、事前に会社と相談しておく必要があります。
退職前に確認しておきたいチェックリスト
継続給付を希望する場合、退職前に次の点を確認しておくとスムーズです。
当てはまるものにチェックを入れてください。0 / 5
退職日に「最後だから」と出社してしまうと、それだけで継続給付の対象から外れてしまいます。 継続給付を考えている場合は、退職前に必ず保険者(協会けんぽ支部・健康保険組合)に自分のケースが要件を満たすか確認しておくことをおすすめします。
回復した場合の失業手当との切り替え
継続給付を受けている間に体調が回復し、働ける状態になった場合は、傷病手当金は終了し、必要に応じて雇用保険の基本手当(失業手当)の受給に切り替えることになります。
- 傷病手当金の受給中は、雇用保険の受給期間の延長(最大3年間)を申し出ておくと、回復後にあらためて基本手当を受け取れます
- 受給期間の延長手続きは、働けなくなった日の翌日から30日を経過した後に行うのが原則です。継続給付を受け始めた早い段階でハローワークに相談しておくとよいでしょう
- 回復後に求職の申込みをすると、そこから基本手当の受給資格の決定・待期期間・給付制限(該当する場合)という通常の流れに入ります
傷病手当金と失業手当を同時に受け取ることはできません。 「働けない状態」と「働けるが職がない状態」は制度上区別されているためです。
申請の流れ(退職後は本人が窓口になる)
在職中は会社(事業主)が申請書の一部を記入・提出をサポートしてくれますが、退職後は本人が保険者に直接申請する形になります。
- 退職前に、被保険者期間・受給状況が継続給付の要件を満たしているか確認する
- 傷病手当金支給申請書を用意する(本人記入欄・医師記入欄がある)
- 医師に労務不能であることの意見を記入してもらう
- 退職後は事業主の証明欄が不要になる場合があるため、様式や記入方法を保険者に確認する
- 保険者(協会けんぽ支部・健康保険組合等)に申請書を提出する
退職後は会社の担当者が間に入らないため、申請書の入手や記入方法を自分で保険者に確認する必要があります。 退職前に一度、加入している健康保険の窓口に継続給付の要件を満たしているか相談しておくと、退職後の手続きがスムーズになります。
障害年金と重なる場合の調整
継続給付を受けている間に、同一の傷病について障害厚生年金・障害手当金を受けられるようになった場合も、老齢年金と同様に調整が行われます。
- 障害厚生年金等を受給できる場合、原則として傷病手当金は支給されません
- 障害厚生年金の額(360分の1に相当する額。障害基礎年金を合わせて受給している場合はその分も含む)が、傷病手当金の日額より低いときは、差額が支給されます
退職後に継続給付を受けながら、同じ傷病で障害年金の申請も検討している場合は、両方の制度の窓口(保険者・年金事務所)にそれぞれ相談し、受給のタイミングを整理しておくことをおすすめします。
再就職先で新たに休職した場合との違い
継続給付とよく混同されるのが、「退職後にいったん再就職し、その後同じ傷病で再び休職した場合」です。この場合は継続給付ではなく、再就職先の健康保険での新規の傷病手当金として扱われます。
- 再就職先で新たに健康保険に加入し、その加入期間・待期期間の要件を満たせば、通常の傷病手当金として申請できます
- ただし「同一の傷病」であることから、支給開始日・通算日数の考え方は、前職での受給実績も踏まえて判断される場合があります
継続給付は「退職後、無職・再就職せずに療養を続ける場合」を想定した制度です。 いったん再就職を挟んだ場合は、状況が変わるため、加入している健康保険の窓口に個別に確認することをおすすめします。
退職前後で変わる「同一の傷病」の判断
継続給付は、資格喪失時点の傷病と同一のものであることが前提です。退職前に別の傷病名で診断されていたものが、退職後に新しい病名に変わった場合、それが「同一の傷病」の範囲内なのか「新たな傷病」なのかは、医学的な判断とあわせて保険者が確認します。
- 同じ疾患群(例:精神疾患)の中で診断名が変わった場合は、社会通念上同一の傷病として扱われることがあります
- まったく別の原因による傷病(例:うつ病の療養中に別の事故でケガをした)は、新たな傷病として扱われ、継続給付の対象にはなりません(新しい支給開始日が必要になるため、被保険者資格がない退職後は新規の傷病手当金自体を申請できません)
退職後に新しい傷病が発生しても、その傷病について傷病手当金を新規に申請することはできません。 継続給付はあくまで「退職時点で既にある傷病」を対象にした制度です。
よくある質問
退職後、健康保険の資格喪失日はいつになりますか?
原則として、退職日の翌日が資格喪失日です。継続給付の要件を判定する際の「退職日までに継続して1年以上」は、この資格喪失日の前日(=退職日)までの期間で数えます。
被保険者期間が1年に1日でも足りない場合、救済措置はありますか?
原則としてありません。継続1年以上という要件は明確な基準のため、わずかでも不足すると対象外になります。転職などで前の会社の被保険者期間を通算できないか、保険者に確認することをおすすめします。
退職後に転職活動をしても継続給付は受けられますか?
労務不能の状態が続いている限り、求職活動をしていても継続給付自体は受けられる可能性があります。ただし、実際に就労可能な状態になった、あるいは別の会社で就労を開始した場合は、その時点で労務不能ではなくなるため支給が止まります。
退職後に健康保険組合から協会けんぽに切り替わった場合、申請先はどちらになりますか?
継続給付は、退職時に加入していた保険者(健康保険組合または協会けんぽ)が引き続き窓口になります。退職後に任意継続や国民健康保険に切り替えても、継続給付の申請先は変わりません。
継続給付を受けている間、失業手当(基本手当)と同時にもらえますか?
原則として、傷病手当金を受けられる状態(働けない状態)にある間は、失業手当の対象にはなりません。失業手当は「働ける状態にあるが職がない」ことが前提のためです。回復後に求職活動を始める場合は、ハローワークで手続きの順序を確認してください。
老齢年金の繰下げ受給をすれば、傷病手当金は満額もらえますか?
老齢年金を「請求せず受け取らない」状態であれば、支給調整の対象にはなりません。ただし繰下げ受給の判断は年金額全体に影響する重要な選択のため、年金事務所や保険者に相談したうえで検討することをおすすめします。
継続給付を受けている間に再就職して働き始めたら、どうなりますか?
再就職して就労を開始すると、その時点で労務不能の状態ではなくなるため、継続給付は終了します。再就職先で新たに健康保険に加入し、その後同じ傷病で再び働けなくなった場合は、新しい加入先での被保険者期間や受給要件を満たすかどうかを、あらためて確認する必要があります。
継続給付の申請を、退職からしばらく経ってから行うことはできますか?
できますが、傷病手当金を受け取る権利には支給対象日の翌日から2年の時効があります。退職後に申請が遅れるほど、古い期間の分から時効にかかっていく可能性があるため、退職後はできるだけ早く保険者に申請することをおすすめします。
継続給付の要件を満たすか自分で判断がつかない場合、どこに相談すればよいですか?
被保険者期間の数え方や退職日の状態の判定は、個別の雇用契約・勤務状況によって細かく変わります。退職前であれば加入している健康保険(協会けんぽ支部・健康保険組合)に、退職後であれば同じ窓口に直接問い合わせて確認するのが確実です。
継続給付を受けている間、扶養に入ることはできますか?
継続給付として受け取る傷病手当金も収入として扱われるため、家族の健康保険の被扶養者になれるかどうかは、受給額を含めた年収の見込みで判定されます。被扶養者の認定基準は保険者ごとに異なるため、扶養に入りたい家族が加入している健康保険に確認してください。
継続給付を受けている間、確定申告は必要ですか?
傷病手当金は非課税所得のため、傷病手当金自体について所得税の確定申告は不要です。ただし退職した年に他の所得(給与所得等)がある場合は、その所得について別途確定申告が必要になることがあるため、税務署または税理士に確認してください。
継続給付を受けている間、国民年金の保険料はどうなりますか?
退職後は原則として国民年金の第1号被保険者への切り替えが必要になり、保険料は自分で納付します。継続給付として受け取る傷病手当金があっても、国民年金保険料の免除にはつながりません。収入が少ない場合は、市区町村の窓口で保険料の免除・猶予制度の対象になるか確認するとよいでしょう。
継続給付の振込先の口座は、在職中と同じでよいですか?
在職中に指定していた口座がそのまま使えることが多いですが、退職後は本人が直接申請する形になるため、申請書に振込先口座を改めて記入する必要があります。口座を変更したい場合は、申請時にあわせて手続きしてください。
退職後に住所が変わった場合、手続きは必要ですか?
申請書の送付先や、保険者からの連絡先が変わるため、住所変更があった場合は加入している健康保険の窓口に届け出ておくことをおすすめします。届け出が遅れると、審査結果の通知や振込の手続きが滞る可能性があります。
継続給付の申請に会社の押印や証明は必要ですか?
在職中の申請書には事業主記入欄がありますが、退職後の継続給付では事業主の証明が不要になる場合が一般的です。申請書の様式や必要な記入欄は保険者によって扱いが異なることがあるため、退職後に申請書を入手する際に確認してください。
