「うちは人手不足です」と申請書に一言書けば、それだけで対象になるのか。なりません。 中小企業省力化投資補助金〈一般型〉が見ているのは、人手不足の"訴え"ではなく、客観的な事実として人手不足の状態にあるかどうかです。ここを取り違えると、事業計画書を出しても審査で弾かれます。
求人を出しても応募が来ない。今いる人数で回すには限界がある。そう感じている事業者は多いはずです。ただ、その実感を事業計画にどう落とし込むかで、審査の通りやすさは大きく変わります。
制度名は中小企業省力化投資補助金〈一般型〉。対象は事業者(法人・個人事業主)で業種は問わず、全国どこでも申請できます。補助上限は最大1億円(従業員規模・大幅賃上げ特例で変動)、補助率は1/2(大幅賃上げ特例で2/3。小規模企業者は基本2/3)です。現行の第8回は、公募要領が2026年8月18日に公開され、受付は2026年9月中旬開始〜10月中旬締切の予定です。この記事では、人手不足という要件を軸に、対象になる/ならないの線引きを、実例とともに見ていきます。
「人手不足」はどうやって示すのか
事業計画書に「人手不足に困っている」と一文書くだけでは、審査を通過しません。求められているのは、残業時間の増加、求人への応募状況、離職率といった、客観的なデータで人手不足の状態を示すことです。
- 対象になりやすい示し方:直近1〜2年の月別残業時間の推移(増加傾向にあることを示すグラフ)、求人媒体への掲載期間と応募数(長期間掲載しても応募が集まっていない実績)、退職者数と採用者数の差(採用が追いついていない実態など)
- 対象になりにくい示し方:「人手不足だと感じている」という主観的な記述だけ、業界全体の人手不足の統計を引用するだけで自社固有のデータが無い、といったケースです
「人手不足の状態にある中小企業等」という要件は、自己申告ではなく、自社の数字で裏付けることが前提です。日頃から勤怠データや採用活動の記録を残しているかどうかが、申請の準備段階で差になります。申請を思い立ってから慌てて集めようとしても、過去1〜2年分のデータが手元に無ければ、裏付けとしての説得力は下がります。
一般型とカタログ注文型、どちらが自社に合うか
省力化投資補助金には「一般型」と「カタログ注文型」の2つがあります。この2つは対象になる設備の性質がまったく違います。
| 一般型 | カタログ注文型 | |
|---|---|---|
| 対象設備 | 自社専用に設計・構築するオーダーメイド設備 | 事務局の製品カタログに登録済みの汎用製品 |
| 計画の自由度 | 高い(自社の工程に合わせて自由に設計) | 低い(カタログの製品から選ぶだけ) |
| 締切 | 回次ごとに設定される | 通年・随時受付(締切なし) |
| 交付決定までの期間 | 長い(審査に数か月) | 短い(概ね1〜2か月) |
- 手作業に頼っていた溶接・組立工程を自動化する専用ライン、自社の倉庫レイアウトに合わせた搬送・仕分けシステム(AGV等)など、「うちの現場専用に作り込む必要がある投資」→一般型
- カタログに載っている既製の配膳ロボット・清掃ロボット・IoTセンサーなどで足りる投資→カタログ注文型(違いの詳細はこちら)
迷うケースもあります。区分は実際にオーダーメイド性があるかどうかという実体で決まります。書き方だけで変えられるものではありません。迷ったら認定経営革新等支援機関(国が認定した支援機関。商工会議所・金融機関・税理士など)か事務局の窓口へ早めに相談することをおすすめします。
対象になる投資・ならない投資
一般型の対象経費は、機械装置・システム構築費(必須)のほか、技術導入費・専門家経費・運搬費・クラウドサービス利用費・外注費・知的財産権等関連経費も含まれます。
対象になりやすい
- 手作業に頼っていた溶接・組立工程を自動化する専用ライン
- 自社の倉庫レイアウトに合わせた搬送・仕分けシステム(AGV等)
- 検査・計測を自動化する専用装置
- 受発注・在庫管理を自社の業務フローに合わせて構築するシステム一式
対象にならない
- 交付決定より前に発注・契約した設備(フライング発注)。交付決定とは、採択の後に届く「補助金を出します」という正式な通知のこと
- 販路開拓・新規出店など、省力化と直接関係のない投資
- 人手不足の解消に結びつかない、単なる性能向上のための入れ替え・更新
「性能向上のための入れ替え」と「省力化のための入れ替え」は、見た目が似ていても評価が変わります。同じ設備の入れ替えでも、それが何人分・何時間分の作業を代替するのかを、事業計画で数値化できるかどうかが分かれ目です。単に「新しくなって性能が上がった」だけでは、人手不足の解消という目的とは結びつきません。
いくら戻る?従業員規模別の補助上限額
「最大1億円」は無条件ではありません。上限額は従業員規模で5段階に分かれています。
| 従業員数 | 補助上限額(通常) | 大幅賃上げ特例時 | 補助率 |
|---|---|---|---|
| 5人以下 | 750万円 | 1,000万円 | 1/2(小規模企業者は2/3) |
| 6〜20人 | 1,500万円 | 2,000万円 | 1/2(小規模企業者は2/3) |
| 21〜50人 | 3,000万円 | 4,000万円 | 1/2(賃上げ特例達成で2/3) |
| 51〜100人 | 5,000万円 | 6,500万円 | 1/2(賃上げ特例達成で2/3) |
| 101人以上 | 8,000万円 | 1億円 | 1/2(賃上げ特例達成で2/3) |
シミュレーション:食品加工業(従業員12人・小規模企業者)
手作業の充填・パック詰め工程を自動化する専用ラインの見積もりは2,250万円。従業員12人は小規模企業者に該当し、基本要件を満たせば補助率は基本2/3。
→ 2,250万円 × 2/3 = 1,500万円の補助(上限1,500万円ぴったり)。自己負担750万円で、充填ラインの自動化に着手できます。
この事業者が人手不足を示すなら、たとえば「充填・パック詰めに毎日3人×2時間かかっていた作業が自動化で消える」「求人を3か月出し続けても応募が2件しかなかった」といった実績を、事業計画に添えることになります。
基本要件の数字も、現場に置き換えておきます。労働生産性の年平均成長率+4.0%以上は、3年で約1.12倍(1.04の3乗)(労働生産性は(営業利益+人件費+減価償却費)÷年間総労働時間で計算します)。従業員12人のまま、充填・パック詰めの6時間分を出荷量に回せば届く水準です。給与支給総額の年平均成長率+3.5%以上は、月給25万円の従業員なら月8,750円の昇給に相当します。
基本要件の全項目や、業種別のさらに詳しいシミュレーションはこちらの記事にまとめています。
シミュレーション:運送業(従業員35人・21〜50人区分)
配車・積み込み計画を経験豊富なベテラン担当者の頭の中だけで組んでいたが、その担当者が退職を控えており、業務が回らなくなる懸念がある。配車・積み込み計画を自動最適化するシステムを構築する見積もりは4,000万円(従業員35人は「21〜50人」区分)。
→ 賃上げ特例を満たさない場合、4,000万円 × 1/2 = 2,000万円(上限3,000万円の範囲内)。大幅賃上げ特例を満たすと補助率が2/3に上がり、4,000万円 × 2/3 = 2,667万円の補助(新しい上限4,000万円の範囲内)。
この事業者が人手不足を示すなら、「配車計画をこなせる担当者が1人しかおらず、後任の採用に1年以上苦戦している」「退職時に業務が止まるリスクがある」といった、属人化のリスクを含めた説明が説得力を持ちます。単なる人数不足だけでなく、特定の人にしかできない業務が原因の人手不足というパターンもあることを押さえておきます。求人数の不足だけを人手不足の根拠にせず、業務の属人化という角度からも自社の状況を見直してみてください。
似ている制度との違い:ものづくり補助金・IT導入補助金との使い分け
人手不足対策で検索すると、省力化投資補助金以外にも、ものづくり補助金やIT導入補助金が候補に挙がります。3つの制度は対象とする投資の性質が異なります。
- 省力化投資補助金〈一般型〉:人手不足の解消を主目的にした、オーダーメイドの省力化設備・システムが対象。「人手不足である」ことの証明が必須
- ものづくり補助金:新商品・新サービスの開発や、生産プロセスの改善が対象。人手不足の証明は必須要件ではなく、革新的な取組であることが問われる
- IT導入補助金(デジタル化・AI導入補助金):クラウド会計・CRM・電子契約などのITツール(ソフトウェア)が対象。ハードウェアを含む大規模な設備投資には向かない
同じ「省人化につながる投資」でも、狙いが人手不足の解消そのものなら省力化投資補助金、新商品開発を伴うならものづくり補助金、ソフトウェアの導入だけならIT導入補助金、という住み分けです。複数の制度に当てはまりそうな投資計画は、どの制度がいちばん自社の実態に近いかを整理してから申請先を決めることをおすすめします。迷ったら、複数の制度を同時に検討している旨を認定経営革新等支援機関に伝えて相談するのも手です。
よく誤解されるポイント:人手不足=求人を出しているだけでは足りない
「求人を出しているのに人が来ない」というのは、多くの事業者に共通する悩みです。しかし審査では、求人を出している事実だけでなく、その人手不足が事業運営にどう影響しているかまで問われます。
- ✗ 「求人を出しているが応募が少ない」だけの記述
- ○ 「求人を出しているが応募が少ないため、既存従業員の残業時間が月◯時間増加している。この投資によって、その◯時間分の作業を自動化し、残業を解消する」
「人手不足である」ことと「人手不足がどう困っているか」は別の情報です。審査で説得力を持つのは後者です。困っている実態と、それを解消する投資の因果関係を、具体的な数字でつなげて書く必要があります。
「うちの会社は対象?」対象事業者の考え方
対象は中小企業者、小規模企業者・小規模事業者などです。業種は問いません。中小企業者にあたるかは、資本金か常時使用する従業員数のどちらかが業種ごとの基準以下であれば足ります。まずここを確認してから、人手不足要件の準備に進みます。
| 業種 | 資本金の基準 | 従業員数の基準 |
|---|---|---|
| 製造業・建設業・運輸業 | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業(ソフトウェア業を除く) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
さらに要件があります。「人手不足の状態にある中小企業等」という条件は、中小企業・小規模事業者であることに加えて満たす必要があります。この2つは別の要件で、どちらか一方だけでは対象になりません。
例:フルタイム社員10人+パート5人の金属加工業(法人) → 製造業の基準は「資本金3億円以下または従業員300人以下」。従業員15人・資本金がこの基準以下であれば中小企業者として対象です。加えて、残業時間の増加や求人への応募状況などで人手不足の状態を示せれば、両方の要件を満たします。
自社が対象に入るかの最終判断に迷う場合は、公式サイトで確認するか、認定経営革新等支援機関に相談すると確実です。業種の判定と人手不足要件の両方をクリアして初めてスタートラインに立てる、と考えておくと準備の抜け漏れを防げます。
よく誤解されるポイント:補助率2/3は誰でも使えるわけではない
「補助率1/2(大幅賃上げ特例で2/3。小規模企業者は基本2/3)」という記載を見て、「うちも2/3で計算していいはずだ」と思い込むケースがあります。ここは条件を整理しておく必要があります。
- 小規模企業者(従業員5人以下、商業・サービス業を除く業種は20人以下):基本要件を満たせば、補助率は最初から2/3
- 小規模企業者に該当しない中小企業者:基本の補助率は1/2。大幅賃上げ特例(事業場内最低賃金の大幅な引き上げ等)を満たした場合のみ、2/3に引き上がる
従業員規模が小規模企業者の基準を超えている会社は、賃上げ特例を満たさない限り補助率2/3にはなりません。「最大2/3」という表記だけを見て、自社の投資計画を2/3で試算してしまうと、実際の補助額とズレが生じます。
申請までの順番、ここでつまずく
- 現場のどの工程に人手が取られているか洗い出す(溶接・搬送・検査など)
- その工程の人手不足を裏付けるデータを集める(残業時間・求人応募状況・離職率など)
- その工程を代替・省力化できる設備やシステムを検討する
- 労働生産性がどれだけ向上するか、事業計画として数値化する
- GビズIDプライムを取得し、電子申請システムから申請する
交付決定より前に設備を発注・契約してしまうと、補助対象外になります。「見積もりが取れたから」と先に発注してしまう事業者は少なくありません。相見積もり(原則2者以上・同一条件)は採択後の交付申請時に必要です。ただし発注そのものは、交付決定を待ってから。
審査の通過を焦るあまり、事業計画に人手不足の裏付けデータを添えずに提出してしまうケースが後を絶ちません。順番を守るだけでなく、各ステップで求められる材料をあらかじめ揃えておくことが、通過率を左右します。
GビズIDプライムの取得には、発行申請から2〜3週間かかります。データ集めや設備の見積もり取得と並行して、早い段階でIDだけは取得しておくと、公募開始のタイミングで出遅れずに済みます。「事業計画がまだ固まっていないから」とID取得まで後回しにする事業者は多いですが、ID発行の待ち時間と計画作成の期間は同時並行で進められる作業です。
採択後も終わりではない。効果報告という宿題
採択・交付決定を受けて設備を導入したら終わり、ではありません。事業終了後も、複数年度にわたって効果報告が求められます。 稼働状況や労働生産性の向上が、事業計画で示した水準に届いているかを、毎年報告する義務があります。
計画段階で「人手不足がこれだけ解消される」と説明した内容は、採択後も自社にとっての約束になります。申請時の数値を、後から検証されても説明できる形で残しておくことが、交付決定後の運用でも重要になります。勤怠データや生産実績を継続して記録しておくと、効果報告の作成もスムーズになり、余計な手戻りを避けられます。
締切はいつ?第8回のスケジュール
現行の第8回は、公募要領が2026年8月18日に公開されました。申請受付は2026年9月中旬に始まり、締切は2026年10月中旬予定、採択発表は2027年2月上旬予定です。準備は早く始めるに越したことはありません。
第8回では、労働生産性や1人当たり給与支給総額を算定する際の「基準年度」が変更されているほか、補助事業の完了を待たずに行う「足下の賃上げ」が審査項目として明記されました。前回の公募要領のまま準備を進めると、基準年度の解釈がずれる可能性があります。必ず第8回の最新の公募要領で確認してください。
「足下の賃上げ」が明記されたことで、補助事業が完了する前の段階から賃上げに着手しているかどうかも見られるようになっています。設備投資と賃上げを別々に考えず、両方を同じ事業計画の中でセットとして設計する視点が、第8回ではより重要になっています。
第8回の締切に間に合わない場合でも、カタログ掲載製品で足りる投資であれば、締切のない随時受付の「カタログ注文型」を検討するという選択肢があります。焦らず、自社に合う枠を見極めてください。
よくある質問
「人手不足です」と書くだけで対象になりますか?
なりません。残業時間の増加、求人への応募状況、離職率といった客観的なデータで、人手不足の状態を裏付ける必要があります。主観的な記述だけでは審査を通過しにくくなります。
交付決定前に設備を発注してもいいですか?
原則、交付決定前の発注・契約は補助対象外です。必ず交付決定通知を受けてから発注する必要があります。
どんな設備でも一般型の対象になりますか?
いいえ。自社の現場・工程に合わせて個別に設計・構築する必要がある投資が対象です。既製品を組み合わせるだけで足りる投資は、カタログ注文型を検討する選択肢もあります。
第8回の締切に間に合わない場合はどうすればいいですか?
次回(第9回)の日程は本記事作成時点で未定です。締切のないカタログ注文型を検討する方法もあります。公式サイトで確定次第の情報を確認できます。
ものづくり補助金やIT導入補助金との違いは何ですか?
省力化投資補助金は人手不足の解消を主目的にしたオーダーメイド設備が対象で、人手不足の証明が必須です。ものづくり補助金は新商品・新サービス開発や生産プロセス改善が対象で人手不足の証明は必須ではなく、IT導入補助金はソフトウェア中心という違いがあります。自社の投資計画がどの制度の趣旨にいちばん近いかで選ぶのが基本です。
制度の全体像(一般型とカタログ注文型の違い)をもう一段深く知りたい方はこちら。
一般型の基本要件・タイミング・業種別シミュレーションを網羅的に確認したい方はこちら。
