再就職手当をもらって新しい会社で働き始めたものの、前の会社より給料が下がってしまった。このようなときに追加で受け取れるのが就業促進定着手当です。再就職手当とセットで語られることが多い給付ですが、対象になる人・計算方法はまったく別物です。この記事では、就業促進定着手当だけに焦点を絞って解説します。
就業促進定着手当は「再就職手当を受け取った人」限定
まず前提として、就業促進定着手当は再就職手当の支給を受けた人だけが対象です。再就職手当そのものの支給要件(支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あることなど)を満たしていない場合は、就業促進定着手当も対象外になります。再就職手当の条件をまだ確認していない場合は、先に別記事「再就職手当の条件を8つ全部満たせるか確認する方法」で確認してください。
「賃金が下がった」の判定はどの時点の賃金と比べるか
就業促進定着手当の計算では、「離職前の賃金日額」と「再就職後6か月間の賃金の1日分」を比較します。ここでいう「離職前の賃金日額」は、基本手当(失業手当)の計算に使われた賃金日額と同じもので、離職前6か月間の賃金総額をもとに算出されたものです。つまり、単純に「前職の月給」と「今の月給」を比較するのではなく、雇用保険上ですでに確定している「賃金日額」同士を比較するという点を理解しておく必要があります。この賃金日額は、離職時に交付される雇用保険受給資格者証に記載されています。
再就職先の給与体系が変わった場合の注意点
再就職先が前職と異なる給与体系(月給制から日給制、あるいは年俸制から月給制など)を採用している場合、賃金の比較がやや複雑になります。再就職後6か月間の賃金の1日分の額は、月給制なら6か月間の賃金の合計額÷180で出します。日給制・時給制なら、「合計額÷180」と「合計額÷賃金支払いの基礎になった日数×70%」のうち金額の高いほうを使います(厚生労働省のリーフレットによる)。給与明細だけでは判断が難しい場合は、ハローワークに相談してください。
支給要件
- 再就職手当の支給を受けていること
- 再就職先に6か月以上雇用されていること
- 再就職先での6か月間の賃金(1日分に換算した額)が、離職前の賃金日額より低いこと
つまり、再就職後6か月間働き続け、その間の給料が前職より下がっていた場合に、低下した賃金の6か月分が、上限の範囲で支給される仕組みです。給料が下がっていない、あるいは上がっている場合は、そもそも支給対象になりません。
計算式
就業促進定着手当の額は、次の式で計算されます。
(離職前の賃金日額 − 再就職後6か月間の賃金の1日分の額)× 再就職後6か月間の賃金の支払基礎となった日数
賃金日額は、64歳以下の基本手当を計算するときに使う賃金日額と同じ考え方です。詳しい賃金日額の算出方法は、別記事「失業手当はいくら?総額の計算シミュレーション3例」で解説しています。
「支払基礎日数」の数え方
計算式の中の「支払基礎日数」は、再就職後6か月間のうち、実際に賃金の支払い対象となった日数を指します。月給制の場合はおおむね暦日数(30日や31日など)がそのまま支払基礎日数として扱われるのが一般的ですが、日給制・時給制の場合は実際に勤務した日数が支払基礎日数になることがあります。雇用形態によって日数の数え方が変わるため、同じ賃金水準でも支給額が変わります。月給制は暦日数、日給月給制はその基礎となる日数、日給制・時給制は労働日数が基本です。数え方に迷うときは、申請前にハローワークの給付窓口で確認してください。
上限額(2025年4月改正)
就業促進定着手当には上限があります。2025年4月1日以降に再就職して再就職手当を受けた人は、「基本手当日額×支給残日数×20%」が上限額です。計算結果がこの上限額を超える場合は、上限額が支給額になります。
この上限は制度改正で見直されており、2025年3月31日以前に再就職して再就職手当を受けた人には、改正前の割合(再就職手当の支給率が60%だった人は40%、70%だった人は30%)が適用されます。再就職した日が2025年3月31日以前か4月1日以降かで、上限の計算式が変わります。
計算シミュレーション(賃金が下がった場合)
具体的な金額感をつかむために、2つのケースで試算します。いずれも2025年4月1日以降に再就職したケースとし、上限額は「基本手当日額×支給残日数×20%」で計算します。
ケース1: 月給28万円→再就職後24万円に下がった場合
- 離職前の賃金日額: 28万円×6か月÷180日 ≒ 9,333円
- 再就職後の賃金日額: 24万円×6か月÷180日 ≒ 8,000円
- 差額: 9,333円−8,000円=1,333円
- 支払基礎日数180日として計算: 1,333円×180日=239,940円
- 基本手当日額(仮に6,000円)×支給残日数(仮に90日)×20%=108,000円が上限
- 上限額を超えるため、支給額は108,000円
ケース2: 月給35万円→再就職後30万円に下がった場合
- 離職前の賃金日額: 35万円×6か月÷180日 ≒ 11,667円
- 再就職後の賃金日額: 30万円×6か月÷180日 ≒ 10,000円
- 差額: 11,667円−10,000円=1,667円
- 支払基礎日数180日として計算: 1,667円×180日=300,060円
- 基本手当日額(仮に6,745円・60歳未満の上限額)×支給残日数(仮に120日)×20%=161,880円が上限
- 上限額を超えるため、支給額は161,880円
※賃金日額・支給残日数は説明のための仮の数値です。実際の金額は雇用保険受給資格者証に記載の基本手当日額・支給残日数と、再就職後の実際の給与明細をもとに計算されます。
いずれのケースも、差額をそのまま6か月分積み上げた金額より、実際の支給額は上限で頭打ちになることが分かります。給料の下がり幅が大きいほど上限に達しやすくなる点は事前に理解しておくとよいでしょう。
申請期限(タイミングを逃すと受け取れない)
就業促進定着手当の申請には期限があります。再就職した日から6か月経過した日の翌日から2か月以内に、再就職手当を申請したハローワークへ申請書類を提出する必要があります(郵送も可)。末日がハローワークの閉庁日に当たるときは、翌開庁日までが期限です。
- 再就職先での勤務開始(ここから6か月間の賃金実績を積み上げる)
- 6か月経過後、申請書類を準備(出勤簿の写しと給与明細または賃金台帳の写しを、勤務先に頼んで用意する)
- 再就職した日から6か月経過した日の翌日から2か月以内に申請
この2か月の期限を過ぎると、たとえ給料が下がっていても就業促進定着手当を受け取れなくなります。 再就職から6か月が近づいたら、勤務先の給与担当に出勤簿や給与明細の写しを早めに頼んでおくと間に合います。申請書は再就職手当の支給決定通知書と一緒にハローワークから郵送されます。
就業促進定着手当を受け取った後、さらに賃金が上がった場合
就業促進定着手当は、あくまで再就職後6か月間の賃金実績にもとづいて1回だけ支給される一時金です。その後7か月目以降に賃金が上がっても、すでに確定した支給額が変わることはありません。 逆に、7か月目以降にさらに賃金が下がった場合も、追加の給付は発生しません。就業促進定着手当は、あくまで「再就職後6か月間」という一時点の状況を基準にした制度である点を理解しておいてください。
支給残日数によって上限額が変わる
就業促進定着手当の上限額は「基本手当日額×支給残日数×20%」で決まるため、再就職手当をもらったときの支給残日数が多いほど、就業促進定着手当の上限額も高くなります。 つまり、早期に再就職して残日数を多く残せば残すほど、再就職手当自体の支給率も高くなり(3分の2以上残せば70%)、就業促進定着手当の上限額も高くなるという関係になっています。
| 支給残日数 | 基本手当日額6,000円の場合の上限額 | 基本手当日額6,745円(60歳未満の上限額)の場合の上限額 |
|---|---|---|
| 60日 | 72,000円 | 80,940円 |
| 90日 | 108,000円 | 121,410円 |
| 120日 | 144,000円 | 161,880円 |
| 150日 | 180,000円 | 202,350円 |
基本手当日額にも年齢別の上限があり、離職時の年齢が60歳未満なら6,745円、60歳以上65歳未満なら5,454円です(厚生労働省のリーフレットの額。毎年8月1日に改定されるため、最新の額はハローワークで確認してください)。就業促進定着手当の上限額を計算するときの基本手当日額も、この上限の範囲内で計算されます。
賃金以外の労働条件が変わった場合はどうなるか
就業促進定着手当は、あくまで「賃金」が下がったかどうかで判定される制度です。勤務時間や勤務地、雇用形態(正社員からパートへの変更など)が変わったこと自体は直接の判定基準にはなりませんが、これらの変化が結果として賃金の低下につながっていれば、支給要件を満たす可能性があります。逆に、勤務時間が短くなっても時給が上がるなどして賃金総額が下がっていなければ、支給対象にはなりません。
六か月間の賃金に含まれるもの・含まれないもの
計算に使う「再就職後6か月間の賃金」は、税金や雇用保険料が引かれる前の総支給額です。通勤手当や皆勤手当なども含みます。ただし、夏冬の賞与のように3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は含みません(厚生労働省のリーフレットによる)。
必要書類
申請書類は次の4点です。
・就業促進定着手当支給申請書(再就職手当の支給決定通知書と一緒に郵送されます) ・雇用保険受給資格者証 ・就職日から6か月間の出勤簿の写し ・就職日から6か月間の給与明細または賃金台帳の写し
就職日が賃金締切日の翌日でないときは、就職後最初の賃金締切日の後の6か月分が必要です。申請先は、再就職手当を申請したハローワークです。
常用就職支度手当を受けた場合はどうなるか
再就職手当ではなく「常用就職支度手当」(就職困難な方などが対象になる別の給付)を受けた場合、就業促進定着手当の対象にはなりません。就業促進定着手当は再就職手当の支給を受けた人が対象です。自分がどちらの手当を受けたかは、ハローワークから交付される支給決定通知書で確認できます。
申請を忘れた場合、後から追加で申請できるか
就業促進定着手当の申請期限(再就職した日から6か月経過した日の翌日から2か月以内)を過ぎてしまうと、原則として申請を受け付けてもらえません。期限は再就職した日を起点に決まるため、再就職手当の支給決定を待たずに、6か月後の日付を控えておくと安心です。
就業促進定着手当を受け取った後の税金・社会保険料の扱い
雇用保険から支給される給付金は、原則として所得税が非課税とされています。就業促進定着手当も同様に、受け取った金額に所得税がかかることはありません。また、雇用保険の給付は社会保険料(健康保険・厚生年金保険料)の算定基礎にも含まれません。ただし、再就職先で実際に受け取っている給与そのものには通常どおり税金・社会保険料がかかるため、混同しないよう注意してください。
よくある質問
再就職先で6か月経つ前に転職してしまった場合はどうなりますか?
就業促進定着手当は「再就職先に6か月以上雇用されていること」が要件のため、6か月未満で転職した場合は対象外になります。6か月間は同じ再就職先で継続して雇用されている必要があります。
賞与(ボーナス)は就業促進定着手当の計算に含まれますか?
賞与は含まれません。夏冬の賞与のように3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は、計算に使う賃金に入らないと厚生労働省のリーフレットに書かれています。通勤手当などは含まれます。
再就職手当は70%の支給率でもらいましたが、就業促進定着手当の上限額の計算に支給率は関係しますか?
2025年4月1日以降に再就職した人については、支給率にかかわらず「基本手当日額×支給残日数×20%」が上限額になります。2025年3月31日以前に再就職した人は、支給率60%なら40%、70%なら30%という異なる割合が適用されます。
就業促進定着手当の申請はオンラインでできますか?
ハローワークインターネットサービスの申請書ページに、電子申請による届出も可能と書かれています。郵送でも申請できます。利用方法は再就職手当を申請したハローワークに確認してください。
再就職先の会社が申請書の記入や書類の用意に協力してくれない場合はどうすればよいですか?
申請書には事業主が記入する欄があり、出勤簿と給与明細または賃金台帳の写しも必要です。会社側の協力が得られない場合は、早めにハローワークに相談してください。
就業促進定着手当を受け取ることを再就職先に伝える必要はありますか?
申請書の事業主記載欄の記入と、出勤簿・給与明細の写しの用意を会社に頼む必要があります。制度の概要を簡単に説明して依頼すると、手続きが進めやすくなります。
就業促進定着手当は何回でも受け取れますか?
再就職手当を受け取るたびに、その都度の要件を満たせば就業促進定着手当を受け取れる可能性があります。ただし、再就職手当自体に「就職日前3年以内に再就職手当を受けていないこと」という要件があるため、短期間で転職を繰り返す場合は、そもそも再就職手当自体が対象外になり、結果として就業促進定着手当も対象外になる点に注意してください。
