出産手当金の基本式はシンプルです。「標準報酬日額×3分の2×休業した日数」。 ここまではどの解説記事にも書かれています。
ただ、実際に計算しようとすると、多くの人がここで止まります。標準報酬日額って、給与明細のどこを見ればいいのか。 入社して12か月に満たない場合はどう出すのか。予定日より出産が遅れたら、休業日数はどう変わるのか。
この記事では、基本式の先にあるこの3つのつまずきどころを、協会けんぽの資料にもとづいて具体的に計算します。制度の概要(対象者・出産育児一時金との違い)は出産の補助金・給付金まとめ、産休後の育児休業給付金は育児休業給付金はいくら?計算式と月収別の早見表にまとめています。
計算に必要な3つの数字
出産手当金の金額は、次の3つが分かれば計算できます。先に全体像を示します。
| 必要な数字 | 何を見るか | 単胎の目安 |
|---|---|---|
| ①標準報酬日額 | 支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均 ÷ 30 | 給与明細または勤務先に確認 |
| ②給付率 | 標準報酬日額に対する割合 | 3分の2(固定) |
| ③休業日数 | 産前42日(多胎98日)+産後56日のうち、実際に休業した日数 | 予定日とのズレで変動 |
支給額 = ①×②×③。 3つとも人によって変わる数字なので、以下で1つずつ具体的に計算していきます。
基本式:標準報酬日額の出し方
まず、支給額の元になる標準報酬日額を出します。協会けんぽが示す計算式は次のとおりです。
標準報酬日額 = 支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均 ÷ 30
(10円未満の端数は四捨五入)
1日あたりの支給額 = 標準報酬日額 × 2/3
(1円未満の端数は四捨五入)
標準報酬月額は、給与そのものではありません。 健康保険料・厚生年金保険料を計算する基礎になる金額で、給与明細に「標準報酬月額」として記載されているか、勤務先の総務・人事に確認すれば分かります。額面月収とほぼ近い金額になりますが、通勤手当なども含めた金額で区分されているため、完全に一致するとは限りません。
具体例:標準報酬月額の平均が36万円の場合
- 標準報酬日額: 360,000円 ÷ 30 = 12,000円
- 1日あたりの支給額: 12,000円 × 2/3 = 8,000円
産前42日・産後56日の合計98日を休業した場合、8,000円 × 98日 = 78万4,000円が支給総額になります。
支給開始日以前の期間が12か月に満たない場合
入社して間もない方は、支給開始日以前12か月分の標準報酬月額がそろっていません。この場合、協会けんぽは次のいずれか低いほうを使うとしています。
- 支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均
- 標準報酬月額の平均額(協会けんぽ等が公表する、全被保険者の平均的な標準報酬月額)
なぜ低いほうを採用するのか。 在籍期間が短い人は、たまたま在籍していた数か月の給与水準が高め・低めに偏っている可能性があります。全被保険者の平均額という「ものさし」を用意しておくことで、極端に高い金額で計算されてしまう事態を防ぐ仕組みです。
具体例:入社4か月目で出産する場合
在籍4か月分の標準報酬月額の平均が32万円、協会けんぽが公表する全被保険者の平均が30万円だった場合、低いほうの30万円を使って計算します。
- 標準報酬日額: 300,000円 ÷ 30 = 10,000円
- 1日あたりの支給額: 10,000円 × 2/3 = 約6,667円
実際に受け取っている給与水準より、計算に使う金額のほうが低くなるケースがあり得るということです。
支給される期間 — 出産予定日とのズレで日数が変わる
支給対象になる期間は、出産日(実際の出産が予定日より後になったときは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から、出産の翌日以後56日目までの範囲で、会社を休んだ期間です。
ここで重要なのは、出産が予定日より遅れた場合、その遅れた期間も支給対象に含まれるという点です。
具体例:予定日より5日遅れて出産した場合
出産予定日を基準に産前42日から休業を始めていた場合、実際の出産がそこから5日遅れると、その5日分も出産手当金の対象期間に加算されます。 産前の休業期間が42日ではなく47日相当になる計算です。産後の56日はそのまま変わりません。
| ケース | 産前の対象日数 | 産後の対象日数 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 予定日どおりに出産 | 42日 | 56日 | 98日 |
| 予定日より5日遅れて出産 | 47日(42日+5日) | 56日 | 103日 |
| 予定日より5日早く出産 | 実際に休業した日数分(最大42日) | 56日 | 実際の休業日数に応じて変動 |
逆に予定日より早く出産した場合は、産前の休業期間がその分短くなります。出産手当金は「実際に会社を休んだ日」に対して支給される制度なので、早く生まれた分、産前の対象日数も短くなる仕組みです。
多胎妊娠は産前が98日になる
双子以上の多胎妊娠の場合、産前の対象期間は42日ではなく98日です。産後の56日は単胎と同じです。
具体例:標準報酬日額12,000円・多胎妊娠で98日+56日休業した場合
- 1日あたりの支給額: 12,000円 × 2/3 = 8,000円
- 休業日数: 98日(産前)+ 56日(産後)= 154日
- 支給総額: 8,000円 × 154日 = 123万2,000円
単胎の98日分(78万4,000円)と比べて、44万8,000円ほど多くなる計算です。
給与の一部を受け取っている場合は「差額」だけが支給される
産休中に会社から給与が一部支給される場合(有給休暇の消化や、会社独自の休業手当など)、扱いが変わります。
協会けんぽは「給与を受け取った期間は支給されない」としつつ、「給与の日額が出産手当金の日額より少ない場合は、差額が支給される」としています。 つまり、まったくもらえなくなるわけではなく、不足分を出産手当金が補う仕組みです。
具体例:出産手当金日額8,000円、会社からの給与が日額5,000円の場合
- 出産手当金の日額: 8,000円
- 会社からの給与: 5,000円
- 実際に支給される出産手当金: 8,000円 − 5,000円 = 3,000円(差額分)
会社からの給与のほうが出産手当金より多い日は、出産手当金は支給されません。 逆に給与がまったく支払われない日は、出産手当金の全額(8,000円)がそのまま支給されます。
退職・転職の時期による計算への影響
出産のタイミングで退職・転職を考えている方は、標準報酬日額の計算に影響が出る場合があるため、注意が必要です。
- 産休中に退職する場合: 退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があり、資格喪失時に出産手当金の支給を受けている(または受けられる状態にある)場合、退職後も引き続き出産手当金を受け取れる仕組みがあります。ただし任意継続被保険者となった場合は対象外になるなど、細かい条件があるため、退職前に加入している健康保険に確認することをおすすめします
- 転職した直後に出産する場合: 標準報酬日額は「支給開始日以前12か月間」の平均で計算するため、転職前後で標準報酬月額が変わっていると、その変動も反映されます。転職直後で12か月に満たない場合は、前述の「在籍期間の平均と全被保険者平均の低いほう」が適用されます
- 育児休業給付金の受給資格と混同しない: 出産手当金は健康保険(在職中の被保険者資格)にもとづく給付、育児休業給付金は雇用保険にもとづく給付です。退職すると雇用保険の被保険者資格も失うため、育児休業給付金は原則として受けられなくなります
「退職すれば両方とも自動的に受けられなくなる」わけではなく、出産手当金は条件を満たせば退職後も継続して受け取れる場合があるという点は、産休のタイミングで働き方を見直す方にとって、押さえておく価値のあるポイントです。
傷病手当金との重複はできない
出産手当金と同時期に傷病手当金(病気やけがで働けないときの給付)の受給資格がある場合、両方を満額受け取ることはできません。 協会けんぽの取り扱いでは、出産手当金が優先して支給され、傷病手当金の日額のほうが出産手当金の日額より多い場合に限り、その差額が傷病手当金として支給されます。 ゼロになるわけではなく、差額調整という形で処理される点がポイントです。
具体例:傷病手当金の日額が9,000円、出産手当金の日額が8,000円の場合
- 出産手当金として支給される額: 8,000円
- 差額として傷病手当金から支給される額: 9,000円 − 8,000円 = 1,000円
- 合計の受取額: 8,000円 + 1,000円 = 9,000円(傷病手当金の日額と同額)
つわりや切迫早産などで先に傷病手当金を受けていた方が出産手当金の対象期間に入った場合、この重複調整が起こり得ます。両方の受給資格がある場合は、勤務先の健康保険担当者に金額を確認することをおすすめします。
賞与を多くもらっている人ほど有利にならない理由
出産手当金の計算に賞与(ボーナス)が含まれないことは、月給が高く賞与の割合が大きい方にとって見落としがちなポイントです。
標準報酬月額は、毎月の給与(月例給与)にもとづいて決まる区分です。 賞与にかかる保険料は「標準賞与額」という別の枠で計算され、こちらは出産手当金の日額の計算には使われません。
たとえば、月給が同じ25万円の2人がいて、片方は年2回の賞与で年収が420万円、もう片方は賞与がなく年収300万円だとします。この2人の出産手当金の日額は、標準報酬月額が同じであればほぼ同じになります。年収の差は賞与部分の差であり、出産手当金の計算には反映されないためです。
「年収が高いのだから出産手当金も多いはず」という直感的な期待とはズレることがあるので、自分の標準報酬月額(月例給与ベースの区分)を基準に考えるのが正確です。手取りベースでの生活設計をする際は、賞与を含めた年収ではなく、月々の標準報酬月額をもとにした金額で見積もっておくと、実際の入金額とのギャップが生じにくくなります。
計算をまとめる — 3ステップ
- 標準報酬日額を出す: 支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均 ÷ 30(12か月に満たない場合は、在籍期間の平均と全被保険者平均の低いほう)
- 1日あたりの支給額を出す: 標準報酬日額 × 2/3
- 休業日数をかける: 産前(42日、多胎は98日、予定日超過分を加算)+ 産後56日の実際に休業した日数
会社から給与が一部支給されている期間は、出産手当金の日額との差額のみが支給される点も忘れずに計算に入れてください。
世帯パターン別のシミュレーション
標準報酬月額と休業日数の組み合わせで、実際にどれくらいの金額になるかを4パターンで確認します。前提として、給与は産休中に一切支給されないものとします。
パターン1: 標準報酬月額24万円・単胎・産前産後98日休業
- 標準報酬日額: 240,000円 ÷ 30 = 8,000円
- 1日あたりの支給額: 8,000円 × 2/3 = 約5,333円
- 支給総額: 5,333円 × 98日 = 約52万2,600円
パターン2: 標準報酬月額30万円・単胎・産前産後98日休業
- 標準報酬日額: 300,000円 ÷ 30 = 10,000円
- 1日あたりの支給額: 10,000円 × 2/3 = 約6,667円
- 支給総額: 6,667円 × 98日 = 約65万3,600円
パターン3: 標準報酬月額45万円・単胎・出産予定日より7日遅れて出産(産前49日+産後56日=105日)
- 標準報酬日額: 450,000円 ÷ 30 = 15,000円
- 1日あたりの支給額: 15,000円 × 2/3 = 10,000円
- 支給総額: 10,000円 × 105日 = 105万円
予定日どおりに出産していれば98日分(98万円)でしたが、7日遅れたことで7万円多く支給される計算になります。出産のタイミングは自分でコントロールできないため、「予定日ベースで計算した金額」はあくまで目安であり、「実際に支給される金額」は出産後にしか確定しないことを念頭に置いておくとよいでしょう。
パターン4: 標準報酬月額28万円・多胎(双子)・産前産後154日休業
- 標準報酬日額: 280,000円 ÷ 30 = 約9,333円
- 1日あたりの支給額: 9,333円 × 2/3 = 約6,222円
- 支給総額: 6,222円 × 154日 = 約95万8,200円
単胎の同じ標準報酬月額と比べて、多胎は産前の対象日数が56日多い分、支給総額も大きく変わります。多胎妊娠は入院期間が長くなりやすく、支出も増える傾向があるため、この差を事前に把握しておくと資金計画が立てやすくなります。
支給申請の実務 — いつ・どこに出すか
計算した金額を実際に受け取るには、申請の手続きが必要です。協会けんぽ・健康保険組合共通のおおまかな流れを確認します。
- 産休に入る前に、勤務先の健康保険担当者に出産手当金の申請予定を伝える
- 出産後、医師・助産師の証明を受けた「出産手当金支給申請書」を用意する(出産前の休業分と出産後の休業分で、証明を分けて申請することもできます)
- 勤務先が「給与の支払い状況」を証明する欄に記入する(給与を一部支給した日がある場合、その金額も記載されます)
- 申請書を協会けんぽ・健康保険組合に提出する
- 審査を経て、指定した口座に振り込まれる
出産前と出産後で、まとめて1回だけ申請することも、産前・産後で分けて申請することもできます。 分けて申請すれば産前分だけでも早めに受け取れますが、その分、証明書の準備や提出の手間は2回に増えます。まとまった金額を早めに受け取りたいか、手続きの回数を減らしたいかで選び方が変わります。
育児休業給付金の計算とどう違うか
出産手当金と育児休業給付金は、どちらも「休業中の所得補償」という点で似ていますが、計算の元になる基準や給付率が違います。
| 出産手当金 | 育児休業給付金 | |
|---|---|---|
| 財源 | 健康保険 | 雇用保険 |
| 計算の基礎 | 標準報酬日額(支給開始日以前12か月の平均) | 休業開始時賃金日額(休業開始前6か月の賃金) |
| 給付率 | 3分の2(約67%) | 67%(180日超は50%) |
| 対象期間 | 産前42日〜産後56日 | 原則1歳まで(延長あり) |
給付率がどちらも67%前後で近いため、産休から育休へ切り替わっても、受け取る金額の水準は大きく変わりにくい設計になっています。ただし計算の基礎になる期間(出産手当金は12か月、育児休業給付金は6か月)が違うため、直近半年で急に給与が上がった・下がったという方は、両者の金額にズレが出ることがあります。育休に入る前に、それぞれの計算期間がいつからいつまでかを確認しておくと、産休から育休にかけての手取りの見通しが立てやすくなります。育児休業給付金の詳しい計算式は育児休業給付金はいくら?計算式と月収別の早見表で解説しています。
見落としやすい・計算がずれる要因
- 標準報酬月額を額面月収と同じだと思い込む: 標準報酬月額は保険料計算用の区分額で、通勤手当等を含む場合があり、額面月収と一致しないことがあります
- 予定日より出産が遅れたのに、産前の休業日数を42日で計算してしまう: 遅れた日数分は加算されるため、実際の対象日数を確認する必要があります
- 有給休暇を使った日を「無給」として計算してしまう: 有給消化中は給与が支払われているため、その日は出産手当金と給与の差額調整の対象になります
- 傷病手当金を同時に受けている場合、両方が満額もらえると思い込む: いずれか高い額のみが支給されるため、単純な合算にはなりません
- 支給開始日以前12か月に育児休業等で標準報酬がない月が含まれている: 平均の算出方法が変わることがあるため、勤務先の健康保険担当者や協会けんぽに個別に確認したほうが確実です
よくある質問
標準報酬日額はどこで確認できますか?
給与明細に「標準報酬月額」の記載がある場合は、その金額を30で割った額が目安になります。正確な金額は、勤務先の健康保険担当者、または加入している健康保険組合・協会けんぽの各都道府県支部に確認するのが確実です。
入社してすぐ産休に入る場合、支給額は少なくなりますか?
在籍期間の標準報酬月額の平均と、協会けんぽ等が公表する全被保険者の平均額の低いほうを使って計算されるため、在籍期間が短い場合は、実際の給与水準より低い金額で計算されることがあります。
予定日より早く生まれた場合、産前の手当は減りますか?
出産手当金は実際に休業した日数に対して支給されるため、予定日より早く出産した場合は、産前の休業日数もその分短くなり、支給額も少なくなります。
育休中の給付金(育児休業給付金)と出産手当金は同時にもらえますか?
出産手当金は産前産後休業(産前42日〜産後56日)が対象期間で、育児休業給付金はその後の育児休業期間が対象です。期間が重ならないよう設計されているため、時期がずれて連続して受け取る形になります。
ボーナス(賞与)は標準報酬日額の計算に含まれますか?
出産手当金の計算に使う標準報酬月額は、月々の給与に基づく標準報酬月額であり、賞与(標準賞与額)はこの計算には含まれません。賞与にかかる保険料は別に計算されますが、出産手当金の日額には反映されません。
産休中に退職した場合、出産手当金はどうなりますか?
退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があり、退職時点で出産手当金の支給を受けている、または受けられる状態にある場合は、退職後も引き続き支給を受けられる仕組みがあります。ただし任意継続被保険者になった場合は対象外になるなど条件があるため、退職前に加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)に確認することをおすすめします。
産前と産後で申請を分けたほうがよいですか?
まとめて1回で申請することも、産前・産後で分けて申請することもできます。分けて申請すれば産前分だけ早めに受け取れますが、その分証明書の準備や提出の手間が増えます。まとまった金額を早く受け取りたいか、手続きの回数を減らしたいかで選び方が変わります。
標準報酬月額はいつの時点のものが使われますか?
支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均です。支給開始日とは、実際に出産手当金の支給対象となる休業を開始した日を指します。産休に入る直前だけでなく、その前1年間の給与水準がまとめて反映される点に注意してください。昇給や異動などで給与が変わった直後の方は、平均を出す前に自分の標準報酬月額の推移を確認しておくと安心です。
