畑で試せるところまで試作機が仕上がっても、次の壁は、改良と実証にかかる費用です。農業や水産業の現場向けに技術を作っているスタートアップや中小企業なら、東京都のこの制度が選択肢に入ります。
東京都が先に農林水産の課題を13個示し、それを解く製品や技術の開発費の2/3を補助します。上限は1年あたり6,666万円です。申請できるのは、都が示した13の課題のどれかに当てはまる開発だけです。
申請は2026年7月14日から8月20日までで、締め切られました。2026年10月1日には、採択企業7社が発表されました。以下は令和8年度の条件を、申請者が動く順に整理しています。
スタートアップ農林水産課題解決補助金の要点まとめ
正式名:スタートアップ等を活用した農林水産分野の課題解決事業補助金
だれが
- 申請者
- スタートアップ、中小企業者(会社・個人事業者)、中小企業グループ
- 対象業種
- 指定なし(東京の農林水産の課題に合う開発であること)
- 利用目的
- 農林水産分野の製品・技術の開発・改良と実用化
- 対象地域
- 全国(国内に本店か支店があること。課題は東京の農林水産業)
- 従業員数
- 制限なし(中小企業者は業種ごとの基準あり)
いくら
- 補助上限額
- 上限6,666万円/年(対象経費の上限は1億円/年)
- 補助率
- 対象経費の2/3以内
いつ・どこへ
- 申請受付
- 終了(2026年7月14日〜2026年8月20日)
- 事業の完了
- 2027年3月31日まで(最長2028年3月31日)
うちの技術は対象になる?
次の6つにすべて当てはまると、申請の土俵に乗ります。
当てはまるものにチェックを入れてください。0 / 6
スタートアップは、おおむね創業10年未満で、新しい技術やビジネスモデルで急成長を目指す法人です。開発の完了後に法人化を目指す団体も含まれます。中小企業者は、資本金か従業員数のどちらかが次の基準以下で、大企業が実質的に経営に参画していない会社と個人事業者です。
- 製造業・その他の業種:3億円以下または300人以下
- 卸売業:1億円以下または100人以下
- サービス業:5,000万円以下または100人以下
- 旅館業:5,000万円以下または200人以下
- 小売業:5,000万円以下または50人以下
大企業が株式の1/2以上を単独で持つ、または複数の大企業で2/3以上を持つと、実質的に参画しているとみなされます。複数の企業が組む中小企業グループでの共同申請もできます。同じ年度の申請は、1企業につき1件です。事業税などを滞納(分納を含む)していないことも要件です。
次のどれかに当たると対象外です。
- ✕ 研究だけで販売予定がない
- ✕ 開発の大部分を外注する
- ✕ 量産段階か、すでに収益がある
- ✕ 申請時に開発がほぼ終わっている
13の課題のうち、どれに当たる?
開発・改良が、次の課題のどれかに当てはまることが条件です。複数に当てはまっても構いません。
| 課題 | 都が示した例 |
|---|---|
| 肉体的負担の軽減 | 果樹の作業支援ロボット、コマツナ向け除草機械 |
| 東京農業の生産性向上 | 抹茶の製造装置の小型化、土壌の測定装置 |
| 栽培ノウハウによる作業性向上 | 栽培モニタリングアプリ、需要予測システム |
| 自然災害・異常気象での安定生産 | ブドウの着色を促すLED照明装置 |
| 鳥獣害の被害対策 | ヒヨドリ・ムクドリの食害防止、獣害の追い払い技術 |
| 病害虫の被害対策 | 病害虫の生理障害診断、微細害虫の発見機械 |
| 廃棄物処理の負担軽減 | 栽培残渣の活用、家畜糞尿の堆肥化の時間短縮 |
| 飼育状況の管理 | 健康管理デバイス、分娩兆候の判定システム |
| 臭気対策 | 畜舎内のモニタリング、臭気対策技術 |
| 山間部の作業の省力化 | 急峻な地形に対応する追従ロボット |
| 通信環境の整備 | 島しょ地域向けの長距離ネットワーク |
| 水産物の鮮度維持 | 水揚げ直後のマグロの鮮度を非破壊で測る機器 |
| 省エネルギー対策 | 再生可能エネルギーを使った農林水産業向け製品 |
いくら出る?
補助率は、対象経費の2/3以内です。対象経費の上限は1年あたり1億円、補助金の上限は1年あたり6,666万円です。交付要綱の別表には、同じ上限が「66,666千円」と千円単位で載っています。募集要項と東京都の発表は6,666万円なので、資金計画はこちらで組みます。
- 試作機の開発に3,000万円かかった:3,000万円 × 2/3 = 2,000万円
- 対象経費がちょうど上限の1億円だった:1億円 × 2/3 = 約6,667万円 → 上限の6,666万円
- 対象経費が1億2,000万円かかった:上限の1億円までが対象 → 6,666万円
人件費は、時給単価を決まった表から当てはめて計算します。報酬月額は、基本給と諸手当の合計で、賞与は含みません。たとえば報酬月額が29万円以上31万円未満の開発担当は、時給2,520円です。
- 月150時間、開発に直接従事する:2,520円 × 150時間 = 37万8,000円 → × 2/3 = 25万2,000円
- 年間の上限1,800時間まで従事する:2,520円 × 1,800時間 = 453万6,000円 → × 2/3 = 302万4,000円
対象になるのは、設計・試作・テストなど、開発に直接従事した時間だけです。進行管理や会議、資料収集の時間は含まれません。報告のときは、従事した月のうち最も低い報酬月額の単価が使われます。1人1日8時間までで、その月の給与の総支給額が上限です。
交付決定の時点の補助予定額は、あくまで上限です。完了検査のあと、実際に使った経費の2/3で金額が確定し、減ることがあります。
何に使える?
対象にならないもの
- パソコン、タブレット、デジカメなど用途を特定できない汎用品
- 中古品の購入、自家用機械の改良・修繕
- 運用・保守の費用
- 消費税、振込手数料、通信費、光熱費、事務用品費
- 生産・量産用の機械装置や金型
- 親会社・子会社など関連会社との取引、建物附帯設備の工事
対象になるもの
- 原材料・副資材費(構成部品、試験用部品、化学薬品など)
- 機械装置・工具器具費(試作金型、計測機械、サーバ、クラウドサービスなど)
- 委託費(機械加工、設計、試験評価、実証に協力する農家への謝金など)
- 産業財産権の出願・導入費(特許・実用新案・意匠・商標)
- 直接人件費、旅費交通費、展示会の出展小間料
機械装置や委託で税抜100万円以上のものは、原則2社以上の見積書が要ります。購入した機械装置は、申請書に書いた事業実施場所に置き、完了検査で都に見せます。
申請から補助金を受け取るまでの流れ
- GビズIDプライムを取る(事業者。国の審査に時間がかかるので早めに)
- 募集サイトから申請書をダウンロードする(事業者→運営事務局。2026年7月14日から)
- Jグランツで申請する(事業者→Jグランツ。2026年8月20日まで。持参・郵送・メールは不可)
- 書類審査を受ける(東京都。8月下旬に結果の通知)
- プレゼン審査を受ける(役員か従業員のみ。9月上中旬。ヒアリングと現地調査もあり)
- 採択・交付決定を受ける(東京都→事業者。9月下旬。補助予定額は申請額から減ることがある)
- 開発して実績報告を出す(事業者→東京都。事業が終わってから15日以内)
- 完了検査のあと、補助金を受け取る(金額確定と請求書の提出から約1か月後)
事業が2027年3月31日を超えるなら、2027年2月1日までに遂行状況報告書も出します。一次審査を通ると、交付申請に必要な書類を事務局が指定する期限までにそろえます。採択と交付決定は同時に行われます。
必要な書類
準備できた 0 / 9
見積書は、1件が税抜100万円以上の機械装置・委託費のときだけ2社分を出します。確定申告書は、事業開始から2年未満なら直近1期分です。法人は別表(一〜十六)・決算報告書・勘定科目内訳明細書・法人事業概況説明書を、個人は収支内訳書(貸借対照表を含む青色申告決算書でも可)を一式で出します。マイナンバーが載った書類は受け付けられないので、番号の部分を黒塗りします。補足説明資料(企画書・仕様書・図面など)は任意で出せます。申請書のExcelには、達成目標、市場性、先行技術の調査結果(J-PlatPatなどで調べます)、実施体制を書く欄があります。登記簿謄本は発行後3か月以内のものを使います。特許などを根拠にするときは、特許証や公報の写しも付けます。共同申請では、一部の書類を参加企業の全社分そろえます。
もらえなくなるのはどんなとき?
- 成果物が完成しなかった:完了検査で、申請書の達成目標を満たす成果物が認められないと、それまでにかかった全経費が対象外になります。補助金は出ません。
- 補助対象期間の外で動いた:発注・契約・支払いまでの一連の手続きが、補助対象期間内に終わっていない経費は対象外です。
- 開発の大部分を外注した:開発・改良の全部または大部分を外注する事業は、補助対象になりません。
- 同じテーマで他の補助を受けた:国・都・道府県・区市町村などから、同じテーマ・内容で補助を受けると申請要件を満たしません。採択後に受ける場合も同じです。
- 帳票や支払い方法に不備がある:手形・小切手・電子記録債権での支払い、相殺での支払い、ポイントの使用は対象外です。
令和9年度以降と複数年度の計画
事業の期間は、交付決定の日から令和10年3月31日までが最長です。複数年度の計画を出せます。申請のときに、単年度事業(2027年3月31日まで)か、次年度継続事業(2028年3月31日まで)かを選びます。次年度継続事業は、2年目に入る前の令和9年2月に遂行状況報告を出し、都の審査で認められる必要があります。さらに初年度の計画に基づいて再度申請し、交付決定を受けます。
募集要項には、後年度の予算が約束されているものではないとも書かれています。2年目に進めなかった場合に備えて、初年度のうちに達成目標へ届く計画にしておく手があります。
よくある質問
今から申請できますか?
できません。令和8年度の申請は2026年7月14日から8月20日までで、締め切られています。審査は9月に行われ、2026年10月1日に採択企業7社が東京都から発表されました。令和9年度以降の募集は、募集要項で後年度の予算が約束されていないとされています。次の募集を探すなら、東京都のページと運営事務局のサイトを見てください。
東京都以外の事業者でも申請できますか?
申請できます。要件は、国内に登記簿上の本店または支店があることです。実施場所は、自社の事業所や工場で、原則国内であることが条件です。ただし解く課題は、東京の農林水産業の課題に限られます。審査の視点に「東京の農林水産業の活性化への寄与」があります。都外の企業は、都内の農家や関係先とどう関わるかを先に考えておきます。
補助上限額はいくらですか?
1年あたり6,666万円です。対象経費の上限が1億円で、補助率が2/3以内なので、上限に届くのは対象経費が1億円のときです。複数年度の計画では、年度ごとに上限が適用されます。ただし交付決定の補助予定額は上限を示すもので、完了検査のあとに実際の支出で確定し、減ることがあります。
13の課題に当てはまらない技術でも応募できますか?
応募できません。解決を目指す課題が、募集要項に載った13の課題のどれかに当てはまる必要があります。複数に当てはまっても構いません。たとえば獣害の追い払い技術は鳥獣害の被害対策、水揚げ後のマグロの鮮度を測る機器は水産物の鮮度維持に当たります。自社の技術がどの課題に近いかを、先に整理しておきます。
採択されたら、資金提供だけですか?
資金だけではありません。運営事務局が、採択されたスタートアップ等に個別のメンタリングを行います。実証実験の場の提供や、開発した製品・サービスの実装と普及に向けたハンズオン支援もあります。成果報告会も予定されていました。事務局は農林水産分野のスタートアップ支援に慣れた事業者で、一般社団法人アグベンチャーラボが担います。
開発を外注してもいいですか?
部分的な委託はできます。委託費は、自社で直接できない作業(機械加工、設計、試験評価など)を外部に出す経費で、補助対象です。ただし開発・改良の全部または大部分を外注する事業は対象外です。委託先がさらに第三者へ再委託する経費も対象になりません。1件が税抜100万円以上の委託では、2社以上の見積書を取ります。
パソコンやタブレットを経費にできますか?
できません。パソコン、タブレット、デジカメなど、汎用性が高く使い道が補助事業に限られないものは、対象外です。開発に直接使う試作用の計測機械やサーバ、ソフトウェア、クラウドサービスの利用料は、機械装置・工具器具費で対象になります。購入せずリースにするときは、補助対象期間内に契約したものだけが対象です。
個人事業主でも申請できますか?
申請できます。中小企業者には会社と個人事業者の両方が含まれます。個人事業者は、税務署に提出した開業届の控えで、国内の所在地を確認します。ただし個人事業者が自分に払う報酬は、直接人件費の対象外です。開発に直接従事する従業員や役員の人件費は、雇用保険の加入や毎月の給与の支払いなど、決まった条件を満たすと対象になります。
補助金はいつ受け取れますか?
事業が終わってからです。流れは、実績報告書の提出、完了検査、補助金額の確定の順です。確定通知のあとに請求書を出すと、約1か月後に交付されます。補助金が交付されるのは完了検査のあとだけで、中間検査では交付されません。開発の費用は、いったん自社で立て替える前提で資金計画を組みます。
採択されたのはどんな企業ですか?
2026年10月1日の東京都の発表では、7社です。内容は、高速育種によるイチゴの新品種の開発、水産物輸送の鮮度維持システム、養豚の臭気を減らす機能性飼料などでした。自律走行型の運搬車の対応傾斜角の拡大、土壌微生物の分析ツール、バイオ炭、次世代の保水剤も選ばれています。どの課題に近い提案が通るかの手がかりになります。
他の補助金と併用できますか?
同じテーマ・内容では併用できません。都・国・道府県・区市町村などから同一のテーマで補助を受けていないことが、申請の要件です。採択されたあとも、同じテーマで受けてはいけません。また、同じテーマ・内容で、都が実施する別の補助事業へ申請することも認められていません。別のテーマなら、他の制度を検討できます。
問い合わせ先はどこですか?
事業全般は、東京都産業労働局 農林水産部調整課(電話 03-5320-4813)です。補助金の申請に関することは、運営事務局の一般社団法人アグベンチャーラボ(電話 050-1802-1862)に聞きます。審査の経過や結果など、審査に関する問い合わせには応じてもらえません。
