新しい技術やブランドを生み出しても、権利として守らなければ模倣されかねません。ただ、出願や登録には相応の費用がかかり、専門家に依頼すればさらに負担が増えます。千代田区の「産業財産権取得支援事業」は、この費用の壁を軽くする制度です。
対象になるのは、特許・実用新案・意匠・商標を新たに取得する区内の中小企業者等です。補助率は出願費用の2分の1、上限20万円です。
この補助金は、出願前の事前申請を受け付けていません。支払った経費に対する事後申請のみという設計です。まず自己負担で費用を立て替え、あとから補助を受ける流れです。この点は、他の多くの補助金と違うところです。
千代田区産業財産権取得支援事業とは
この補助金は、千代田区内の中小企業者などが特許権・実用新案権・意匠権・商標権のいずれかを新規に取得する際にかかった費用の一部を補助する制度です。すでに保有している権利の更新や、権利の譲渡・移転にかかる費用は対象になりません。
対象になる事業者の要件は次のとおりです。
- 法人の場合: 区内に本店(1年以上、登記上の本店所在地と営業実態があること)を有し、法人事業税・法人都民税を滞納していないこと
- 個人事業主の場合: 区内に主たる事業所を有し、個人事業税・特別区民税・都民税を滞納していないこと
- 常時使用する従業員が10人以下であること(代表者・役員・同居の親族従業員は人数に含めない)
- 区内で継続して1年以上事業を営んでいること
- 会社法上の子会社ではないこと
- 産業財産権の出願人本人であること
- バーチャルオフィスのみでの登記は対象外(実態のある事業所が必要)
業種別団体や商店会も対象になり得ますが、その場合は「区内に本部もしくは支部を有し、継続して1年以上活動していること」が条件です。一方、医療法人・学校法人・宗教法人・社会福祉法人・NPO法人・公益法人は対象外と明記されています。
補助率と上限額は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助率 | 補助対象経費の2分の1 |
| 補助上限額 | 20万円(補助対象経費の1/2と20万円のいずれか低い額) |
| 申請回数 | 同一年度内に1回限り |
| 対象権利 | 特許権・実用新案権・意匠権・商標権の新規取得 |
重要なのは、補助対象経費の1/2と20万円のいずれか低い方が適用される点です。つまり出願費用の合計が40万円を超えても、補助額は20万円で頭打ちになります。
対象になる経費・ならない経費:出願費用の内訳を分解する
特許・商標の出願費用は「特許庁に支払う法定費用(印紙代)」と「弁理士・弁護士に支払う手数料」の2つで構成されています。この補助金でどこまでが対象になるかを整理すると、次のとおりです。
| 費目 | 対象/対象外 | 補足 |
|---|---|---|
| 出願料 | 対象 | 特許庁への出願時の法定費用 |
| 審査請求料 | 対象 | 特許の実体審査を求める際の法定費用 |
| 技術評価請求料 | 対象 | 実用新案技術評価書の請求費用 |
| 特許料・登録料 | 対象 | 権利設定時の法定費用 |
| 図面作成費 | 対象 | 出願書類に添付する図面の作成費用 |
| 弁理士・弁護士への支払費用 | 対象 | 出願手続きの依頼にかかる報酬 |
| 電子化料金 | 対象 | 書面出願を電子化する際の料金 |
| 更新・譲渡・移転等の経費 | 対象外 | 新規取得のみが対象 |
| 外国出願に係る経費 | 対象外 | 国内出願のみが対象。外国出願は別途、特許庁の「外国出願支援事業」が使える場合がある |
| 通信運搬費・振込手数料 | 対象外 | — |
| 消費税 | 対象外 | — |
特許庁に支払う法定費用(印紙代)の相場は、権利の種類によって次のように変わります()。
- 特許: 出願料14,000円+審査請求料138,000円+(請求項の数×4,000円)+特許料(登録後1〜3年目は年額4,300円+請求項の数×300円)
- 商標: 出願料3,400円+(8,600円×区分数)+登録料(32,900円×区分数、10年分一括の場合)
これに加えて弁理士・弁護士に手続きを依頼する場合は別途報酬が発生します。日本弁理士会のFAQでも、弁理士報酬は自由化されており事務所ごとに金額が異なるため、依頼前に見積もりを確認するよう案内されています。一般的な目安としては、標準的な特許出願(明細書15ページ・請求項5前後)で弁理士への出願時手数料が25万〜35万円程度、中間対応まで含めた総額では40万〜90万円程度になるケースが紹介されています。商標出願は特許ほど手間がかからない分、報酬は事務所によって幅がありますが、複数の事務所から見積もりを取って比較するのが安全です。
外国出願にかかる費用はこの補助金の対象外という点は見落としやすいポイントです。海外展開を見据えて外国出願も検討している場合は、特許庁が実施する外国出願支援事業など、別制度を併用する前提で予算を組む必要があります。
補助額のシミュレーション:出願パターン別に見る
実際にどのくらい補助されるのか、3つのパターンで試算してみます(弁理士費用は上記の一般的な目安を用いた概算例です)。
| パターン | 対象経費の内訳 | 対象経費合計 | 補助額(1/2、上限20万円) |
|---|---|---|---|
| 商標を自分で出願(1区分) | 出願料12,000円+登録料32,900円 | 44,900円 | 約22,450円 |
| 商標を弁理士に依頼(1区分) | 出願料12,000円+登録料32,900円+弁理士費用10万円 | 144,900円 | 約72,450円 |
| 特許を弁理士に依頼(出願〜登録まで) | 出願料14,000円+審査請求料142,000円(基本額138,000円+請求項1つ分4,000円)+特許料3年分13,800円+図面作成費5万円+弁理士費用35万円 | 569,800円 | 20万円(上限) |
このシミュレーションからわかるとおり、商標1件程度の出願では補助額は数万円規模にとどまりますが、弁理士に依頼して特許を出願する場合は対象経費が40万円を超えやすく、上限の20万円に達するケースが多くなります。同一年度内の申請は1回限りなので、同じ年度に複数の権利を出願する予定がある場合は、経費をまとめて1回で申請できるよう、支払い時期を年度内に揃えておくと申請がスムーズです。
申請のタイミング:事後申請のみ・支払いから1年以内の経費が対象
この補助金は千代田区の展示会出展補助と同様、事前申請ではなく事後申請のみです。出願前に交付決定を受ける仕組みではなく、申請日の時点から遡って1年以内に実際に支払った経費が対象になります。つまり実務の流れは次のようになります。
- 出願・登録手続きを進め、費用を支払う(一旦自己負担で立て替える)
- 必要書類を揃える
- 支払日から1年以内に事業者ポータルサイトから交付申請を行う
- 区が審査し、交付可否を決定・通知
- 交付決定後、区が指定口座へ入金(交付決定から約1か月後が目安)
申請にあたって必要な書類は次のとおりです。
- 産業財産権取得支援補助金交付申請書兼口座振替依頼書(事業者ポータルサイトで直接入力)
- 補助対象経費内訳書
- 納税証明書(最新年度分)の写し
- 区内で1年以上事業を営んでいることを確認できる書類(商業登記簿謄本、確定申告書等)
- 特許庁への提出書類・特許庁からの交付書類の写し
- 団体規約・会員名簿(業種別団体・商店会として申請する場合)
- 弁理士・弁護士との委託契約書の写し(依頼した場合)
- 請求書・領収書・振込明細書の写し
- 従業員数を確認できる資料(労働保険申告書、健康保険適用事業所確認書、法人事業概況説明書、所得税徴収高計算書のいずれか)
令和8年4月1日からは事業者ポータルサイトからのオンライン申請に一本化され、GビズID(プライムまたはメンバー)アカウントが必要になります。不足書類がある場合は受け付けてもらえないため、特許庁からの交付書類や領収書類は捨てずに保管しておくことが重要です。また、同一案件で以前にこの補助金の交付を受けている場合は対象外になる点にも注意してください。
他制度との組み合わせ
出願費用そのものではなく、販路開拓や設備投資など事業全体の取組を支援する国の補助金と組み合わせられる場合もあります。あわせてこちらの記事で解説しています。
国の補助金もあわせて検討したい方は、こちらの記事で解説しています。
産業財産権の取得は、新商品・新サービスのブランディングや模倣品対策の一環として販路開拓計画に位置づけられる場合があり、国の補助金の対象経費に含められる可能性もあります(併用可否は必ず両制度の最新の公募要領・窓口で確認してください)。
特許・商標の取得以外にも自社が対象になる補助金・助成金がないか気になる方は、他にももらえる補助金がないか、3分でできる補助金診断で確認してみてください。
対象経費の該当有無や、弁理士費用を含めた申請額の組み立て方など実務の進め方に迷う場合は、専門家に相談するのも一つの手です。
よくある質問
外国出願にかかった費用も対象になりますか?
対象外です。この補助金は国内での産業財産権の新規取得にかかる経費のみが対象で、外国出願に係る経費は明確に対象外とされています。海外展開のために外国出願を検討している場合は、特許庁が実施している外国出願支援事業など、別制度の利用を検討してください。
出願する前に申請しておく必要はありますか?
いいえ、この補助金は事後申請のみです。出願前の交付決定を前提とする制度ではなく、申請日から遡って1年以内に支払った経費について、支払い後に申請する流れになります。出願前に区へ事前相談する義務はありませんが、必要書類(特許庁からの交付書類や領収書等)は支払い時から保管しておく必要があります。
個人事業主でも申請できますか?
申請できます。要件は「区内に主たる事業所があり、個人事業税・特別区民税・都民税を滞納していない」ことと、「常時使用する従業員が10人以下」であることです。ただし法人・個人を問わず、バーチャルオフィスのみでの登記は対象外になる点に注意してください。
免責事項: 本記事の内容は2026年7月時点で確認できた情報にもとづきます。補助率・上限額・対象経費・申請要件・予算状況は変更される場合があるため、申請前に必ず千代田区の公式ページで最新の内容をご確認ください。特許庁の手数料も改定される場合があるため、最新の金額は特許庁公式サイトでご確認ください。
出典:
