先に、誤解されやすい点を伝えます。デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)で対象になるのは、動画編集ソフトなどの「ツール導入費」だけです。制作会社に依頼する撮影・編集の外注費(コンテンツ費)は、この補助金の対象に含まれません。動画制作の外注費を補助金でまかないたい場合は、別の制度を探す必要があります。
私は飲食店を経営していたとき、商品紹介の動画を制作会社に頼んだことがあります。「IT導入補助金が使える」と聞いて調べたら、ソフト代しか対象にならないと分かり、計画を立て直しました。 この記事では、動画制作の外注費まで対象になる制度を中心に整理します。
なお、ウェブサイト制作の補助金はホームページ制作の補助金で別に解説しています。動画をサイトに組み込む場合、経費区分が異なる点に注意してください。
動画制作の補助金でまず知っておきたい前提
動画制作で使える制度は、目的別に3つに整理できます。
- 小規模事業者持続化補助金:商品・サービスのPR動画を「広報費」として制作する場合が対象
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金〈グローバル枠〉:海外向けのPR動画・会社紹介動画が対象
- 自治体の観光・インバウンド向け動画制作補助金:観光地・宿泊業向けのPR動画制作を独自に支援する自治体がある
デジタル化・AI導入補助金は、この3つのどれにも当てはまらない「ツール費のみ」の話として切り分けてください。
デジタル化・AI導入補助金で対象になる範囲
デジタル化・AI導入補助金インボイス枠では、Adobe Premiere Pro・Adobe Creative Cloudなど、IT導入支援事業者に登録された動画編集ソフトの導入費が対象です。
- 対象になる:動画編集ソフトのライセンス費用(登録ツールに限る)
- 対象にならない:動画制作会社への撮影・編集の外注費、出演料、機材レンタル費
「動画を作りたい」ではなく「動画編集ソフトを導入したい」場合にのみ使える制度だと理解しておくと、混同を避けられます。
小規模事業者持続化補助金での動画制作
商品・サービスの魅力を伝えるPR動画の制作費は、「広報費」として持続化補助金の対象経費に含まれます。 ホームページ制作の「ウェブサイト関連費」とは別の区分で、動画単体でも申請しやすいのが特徴です。
補助率2/3、通常枠の上限は50万円、特例を組み合わせると最大250万円まで広がります。制作会社への外注費・撮影費・出演料も含めて計画できます。制度全体の内容は小規模事業者持続化補助金の内容と申請のコツにまとめています。
ウェブサイト関連費だけの計画は申請できないというルールと同様、広報費(動画)だけの単独計画も認められにくいため、チラシ・展示会出展などと組み合わせて計画を作るのが基本です。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金〈グローバル枠〉
海外市場開拓(輸出)に向けて、海外バイヤー向けの会社紹介動画・製品PR動画を制作する場合は、グローバル枠が候補になります。この枠は海外旅費・通訳翻訳費まで対象経費に含まれるのが特徴で、動画制作費もその一環として計画できます。
補助上限額は従業員規模で最大7,000万円(賃上げ特例時9,000万円)、補助率2/3です。動画単体の投資としては大きすぎる枠なので、海外展開の計画全体の一部として動画制作費を組み込む形になります。制度全体の内容はものづくり補助金の内容と申請のコツにまとめています。
自治体の観光・インバウンド向け動画制作補助金
宿泊業・観光関連の事業者向けに、都道府県・市区町村が独自にPR動画の制作費を補助する制度があります。国の制度より上限額は小さい代わりに、観光・インバウンド分野に特化した使いやすい設計になっていることが多いのが特徴です。「〇〇市 観光 PR動画 補助金」「〇〇県 インバウンド 動画制作 補助」で検索し、事業所のある自治体の制度を確認してください。
制度は年度ごとに変わる。申請前に必ず最新情報を確認する
補助金は年度ごと、公募回ごとに内容が見直されます。この記事に書かれている対象経費・補助率も、公募回が変われば変わる可能性があります。 特に次のような変化が起きやすい点に注意してください。
- デジタル化・AI導入補助金の登録ツール一覧(対象ソフトが追加・削除されることがあります)
- 小規模事業者持続化補助金の広報費の対象範囲・上限額
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金〈グローバル枠〉の補助上限額
- 自治体の観光・インバウンド向け動画制作補助金の予算枠(年度途中で終了することがあります)
「去年は使えたのに今年は違う」ということも珍しくありません。 申請を検討し始めた段階で、各制度の公式サイトや商工会・商工会議所に最新情報を確認することをおすすめします。
相談先に迷ったらどこに聞けばよいか
動画制作の補助金は制度が複数にまたがるため、どこに相談すればよいか迷う事業者も多くいます。目的別に相談先を整理しておきます。
- 持続化補助金として計画できるか:認定経営革新等支援機関(商工会議所・金融機関・税理士等)に事業計画の相談をする
- 海外展開のグローバル枠として計画できるか:新事業進出・ものづくり商業サービス補助金のサポートセンターに問い合わせる
- 観光・インバウンド向けの補助金があるか:自治体の観光振興担当窓口に確認する
- IT導入補助金の対象ツールかどうか:登録済みのIT導入支援事業者に確認する
動画制作は用途によって相談先がまったく異なるため、まず「誰に見せたい動画か」を整理してから窓口を選ぶとスムーズです。
動画制作を検討するタイミングをどう見極めるか
補助金の有無にかかわらず、動画制作のタイミングは経営判断として重要です。次のような場面で検討する事業者が多くいます。
- 新商品・新サービスの発売にあわせて訴求したいとき
- SNSでの反応が写真だけでは伸び悩んでいるとき
- 海外展示会・商談会への出展が決まったとき
- 既存のホームページ・パンフレットが古く、刷新のタイミングと重なっているとき
「なんとなく動画があったほうがよさそう」ではなく、具体的な発売・出展のタイミングに合わせて計画すると、補助金の公募スケジュールとも合わせやすくなります。
審査で評価されやすい書き方
動画制作の事業計画では、「動画があったほうがよい」という理由だけでなく、次のような要素を数字で示すと審査での説明力が増します。
- 公開予定のプラットフォームと想定視聴者数(自社SNSのフォロワー数、想定インプレッション数など)
- 動画公開後の目標(問い合わせ件数・来店数・海外バイヤーとの商談件数など)
- 既存の広報施策との比較(チラシ・写真のみの訴求と比べて動画がどう優れているか)
- 多言語対応の有無(海外展開の場合、字幕・ナレーションの言語数)
「動画があったほうが伝わりやすい」ではなく「これだけの視聴者に届き、これだけの問い合わせ増加が見込める」という説明に組み立て直すことで、審査担当者にとって判断しやすい事業計画になります。
動画制作の補助金でよくある勘違い
動画制作の補助金を調べる過程で、次のような勘違いが起きやすいので整理しておきます。
- 「IT導入補助金でプロに動画を作ってもらえる」という勘違い:対象は動画編集ソフトなどのツール導入費のみで、制作会社への外注費(コンテンツ費)は対象外です
- 「動画さえあれば持続化補助金は通る」という勘違い:動画制作費だけの単独計画は認められにくく、他の販路開拓施策と組み合わせる必要があります
- 「海外向けなら何でもグローバル枠の対象」という勘違い:グローバル枠は海外市場開拓(輸出)に向けた投資計画の一部として動画制作費を組み込む形が前提で、動画単体の投資としては使えません
- 「公開すれば効果が出る」という前提だけでは弱い説明:審査では、動画をどう活用して販路開拓につなげるかという具体策まで求められます
動画の用途で変わる補助金の選び方
動画制作は用途によって性質が大きく異なり、使う制度も変わります。
| 動画の用途 | 使いやすい制度 |
|---|---|
| 商品・メニューの紹介動画(国内向け) | 小規模事業者持続化補助金(広報費) |
| 会社紹介・採用向け動画 | 小規模事業者持続化補助金(対象になるか公募要領で要確認) |
| 海外バイヤー・海外消費者向けPR動画 | 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金〈グローバル枠〉 |
| 観光・インバウンド向けPR動画 | 自治体独自の観光振興補助金 |
| 社内研修・マニュアル動画 | 補助金の対象になりにくい(販路開拓・海外展開に該当しないため) |
社内向けの研修・マニュアル動画は、多くの補助金で対象になりにくい点は正直にお伝えします。補助金はあくまで「外部への訴求・販路開拓」を後押しする制度が中心で、社内利用にとどまる動画は対象になじみません。
補助金がおりるまでの資金繰りも考えておく
動画制作の補助金も、経費を立て替えて支払った後に交付される精算払いの仕組みです。制作会社への発注から補助金が実際に振り込まれるまで、半年前後かかることも珍しくありません。 展示会・キャンペーンの時期に合わせて動画を仕上げたい場合、この資金繰りを見込んだスケジュールを組む必要があります。
- 制作会社への支払いを、着手金・納品時払いなど分割にできるか相談しておくと資金繰りが楽になります
- 採択されなかった場合に備えて、動画制作自体は補助金なしでも実施できる予算感かどうかも考えておくと安心です
- 海外展開に伴う大型のグローバル枠を使う場合は、着金までの期間が長くなる傾向があるため、資金計画は長めに見積もってください
動画制作の内訳で対象・対象外を分ける
動画制作の見積もりには、複数の工程が含まれます。制度によって対象になる工程が異なるため、内訳を分けて確認しておくと安心です。
- 企画・構成費:多くの制度で対象経費に含まれます
- 撮影費(人件費・機材レンタル・ロケ費):持続化補助金の広報費に含まれます
- 編集費:同上
- 出演料(モデル・ナレーター等):制度によって対象・対象外が分かれるため、公募要領で確認が必要です
- 公開後の広告出稿費(YouTube広告等):動画制作費とは別の経費区分として扱われることが多く、対象外になる場合があります
見積書に工程ごとの内訳を明記してもらうことで、どこまでが補助対象か判断しやすくなります。
動画の活用方法まで事業計画に含める
補助金の審査では、動画を「作ること」自体ではなく、「作った動画をどう活用して販路開拓につなげるか」が問われます。
- ホームページ・ECサイトへの掲載予定(ホームページ制作の補助金も参照)
- SNS・動画共有サイトでの公開予定と、想定される視聴者層
- 展示会・商談会での上映予定
- 海外バイヤー向けの場合、多言語字幕・ナレーションの有無
「動画を作って終わり」ではなく、公開後にどう活用するかまで具体的に書くことで、審査での説得力が増します。
業種別のシミュレーション
飲食店(商品紹介動画)
看板メニューの調理風景を紹介する動画を制作会社に依頼するケース。撮影・編集費の見積もりは40万円です。小規模事業者持続化補助金(通常枠・上限50万円)なら、40万円×2/3=約26.7万円が補助されます。自己負担は約13.3万円です。
旅館(インバウンド向けPR動画)
海外の旅行者向けに、多言語字幕付きの施設紹介動画を制作するケース。制作費150万円のうち、自治体の観光PR動画制作補助金(補助率1/2・上限75万円)を使えば、75万円が補助されます(上限に到達)。自己負担は75万円です。
製造業(海外向け会社紹介動画)
海外展示会への出展にあわせて、多言語対応の会社紹介動画を制作するケース。動画制作費200万円を含む海外展開計画全体(通訳翻訳費・海外旅費含め1,500万円)に対し、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金〈グローバル枠〉(補助率2/3・従業員21〜50人の基本上限4,000万円)なら、1,500万円×2/3=1,000万円が補助されます。動画単体でなく、海外展開計画全体として組み込んだ例です。
美容室(新メニューのSNS訴求動画)
新しく始めたヘッドスパメニューをSNSで訴求するため、短尺動画を複数本セットで制作会社に依頼するケース。制作費30万円のうち、小規模事業者持続化補助金(通常枠・上限50万円)を使えば、30万円×2/3=20万円が補助されます。自己負担は10万円です。他の販路開拓施策(チラシ・ホームページ更新)と組み合わせて計画したことで、単独計画にはならずに申請できた例です。
動画制作で補助金の対象外にしないための注意点
- 「IT導入補助金で動画を作れる」という誤解のまま計画を立てない(対象はツール費のみ)
- 動画制作費だけの単独計画にせず、他の販路開拓施策と組み合わせる
- 海外向け動画は、海外展開計画全体の一部として位置づける
- 交付決定前に制作会社へ発注・契約しない
申請の流れとタイミング
- 「ツール導入」か「制作会社への外注」かを整理する
- 使う制度を決め、制作会社から見積もりを取得する
- GビズIDプライムを取得する
- 電子申請システムから申請し、審査結果を待つ
- 採択・交付決定の通知を受け取ってから、制作会社に発注する
- 動画完成後、実績報告を提出する
- 実績報告の確認後、補助金が振り込まれる
交付決定前に制作会社へ発注・契約すると、その費用は補助対象外になります。 展示会やキャンペーンの時期に合わせて急ぎたくなりますが、通知を待ってから契約するようにしてください。
よくある質問
IT導入補助金で動画制作の外注費はまかなえますか?
まかなえません。対象になるのは動画編集ソフトなどのツール導入費のみで、制作会社への撮影・編集の外注費は対象外です。外注費を補助金でまかないたい場合は、小規模事業者持続化補助金などを検討してください。
動画制作費だけで持続化補助金を申請できますか?
原則として、広報費(動画)だけの単独計画は認められにくいです。チラシ・展示会出展など、他の販路開拓施策と組み合わせて計画を作る必要があります。
YouTube広告の運用費も補助金の対象になりますか?
制度によります。動画の制作費と、公開後の広告出稿費は別の経費区分として扱われることが多いため、申請前に対象経費の範囲を各制度の公募要領で確認してください。
動画制作の補助金は、公開後の効果測定まで求められますか?
制度によります。実績報告では、動画を公開した事実(URLやスクリーンショット等)の提出が求められることが一般的です。その後の視聴回数・問い合わせ増加数などの効果測定までは必須でない制度が多いですが、次回の申請や別の補助金を検討する際の材料として、自主的に記録しておくことをおすすめします。 視聴回数や問い合わせ増加数のデータは、次に別の販促施策を検討する際の判断材料としても役立ちます。定期的に効果を振り返る習慣をつけておくと、動画制作にかける予算配分の判断もしやすくなり、次回の企画にも活かせます。SNSの分析機能やアクセス解析ツールを併用すると、より具体的な数字で効果を把握でき、次の企画の説得材料としても活用できます。制作会社によっては公開後の効果測定までサポートしてくれる場合があるため、契約前に確認しておくとよいでしょう。継続的な動画発信を検討している場合は、定期的な制作契約についても早めに相談してみることを強くおすすめします。動画は一度作って終わりではなく、育てていくコンテンツだと捉えておくとよいでしょう。
動画に出演する従業員・経営者本人の出演料は補助金の対象になりますか?
対象になりにくい場合が多いです。従業員・経営者本人が出演する場合、追加の人件費が発生していないとみなされ、出演料としての計上が認められないことがあります。 外部のモデル・ナレーターに依頼する場合の出演料は対象経費に含まれる制度が多いため、公募要領で確認してください。経営者自身が出演することで親近感を演出できる効果もあるため、補助金の対象外でも検討する価値はあります。
個人事業主でも動画制作の補助金は使えますか?
使えます。小規模事業者持続化補助金は個人事業主を対象に含んでいます。開業間もない場合は、動画がどう販路開拓につながるかを具体的に説明することが重要です。
自社スタッフが撮影・編集する場合、機材購入費は補助金の対象になりますか?
制度によります。撮影機材(カメラ・照明・マイク等)の購入費は、小規模事業者持続化補助金の対象経費に含まれる場合がありますが、汎用性の高い機材(スマートフォン等)は対象外になりやすい傾向があります。導入前に公募要領で確認してください。
動画の長さによって補助金の対象になりやすさは変わりますか?
長さそのものよりも、用途に見合った内容かどうかが重要です。 短尺のSNS向け動画も、数分の商品紹介動画も、事業計画で示す活用方法が具体的であれば対象になり得ます。用途に対して過剰に凝った長尺動画を企画すると、費用対効果の説明が難しくなることがあります。
複数の制作会社から見積もりを取るべきですか?
おすすめします。制作会社によって企画力・撮影技術・編集の質が異なるため、複数社から見積もりを取ることで、価格の妥当性と品質の両方を比較検討できます。 過去の制作実績(ポートフォリオ)も確認しておくと、仕上がりのイメージがつかみやすくなります。
動画制作会社を選ぶ際、補助金の観点で確認すべきことはありますか?
見積書を「企画・撮影・編集・出演料・広告出稿費」など工程ごとに分けて発行してもらえるかを確認してください。工程が一括の見積もりだと、どこまでが補助対象か判断しにくくなります。
