経費を払った分、あとで一部が戻ってくる。補助金と聞くと、そう考える人が多いんです。
奈良市の「ふるさと起業家支援事業」は、この順番が逆です。まず市の審査で認定を受け、そこからふるさと納税型クラウドファンディングで全国に資金を募るところから始まります。
対象は市内で創業後10年未満の事業者。集まる資金は100万〜400万円規模で、目標に届かなくても集まった寄附金はほぼそのまま奨励金になります。応募締切は令和8年8月3日、検討しているなら早めの準備が必要です。
一般的な補助金と何が違うのか
多くの補助金は「事業者が経費を支出し、その一部を市や国から補填してもらう」仕組みです。しかし、この制度は流れが逆です。まず奈良市の審査で「認定事業者」に選ばれ、その事業計画が「ふるさとチョイス」に掲載され、全国の寄附者から資金を募るところから資金調達が始まります。
寄附額が目標に届いてもいなくても、集まった資金は原則そのまま奨励金として交付されるのが最大の特徴です(奈良市の返礼品を使った場合のみ、返礼品相当額の30%が差し引かれます)。つまり「採択されて終わり」ではなく、「採択されたあとに自分で資金を集める広報活動」が本番になる制度です。地域資源を生かした新商品開発や、体験コンテンツの企画など、寄附者に共感してもらえるストーリーを描ける事業者ほど資金を集めやすいという設計になっています。
過去には、平安時代の古典を題材にした音声ドラマを制作した企業や、奈良漬を使ったロールケーキを開発した企業が、いずれも目標額150万円を達成して奨励金を受け取っています。
対象になる事業者・2つの枠
対象になるのは、次のすべてを満たす起業家(事業者)です。
- 創業後10年未満であること(開業前の創業予定者は対象外)
- 奈良市内に住所を有する個人事業主、または市内に事業所を有する法人であること
- 観光・環境・教育・福祉等の地域課題解決、地域資源の活用、地域の活性化や雇用創出のいずれかに資する新規事業を行うこと
- 市税等の滞納がないこと
重要なのは、あくまで「創業後」の事業者が対象で、これから開業する人はこの制度単体では申請できない点です。枠は次の2種類があり、どちらか一方のみ申請できます(同時申請不可)。
| 枠 | 目標金額 | 対象になる事業 |
|---|---|---|
| 一般枠 | 100万円〜150万円 | 新規事業に挑戦し事業拡大を目指す起業家 |
| 成長投資枠 | 300万円〜400万円 | 上記のうち、店舗整備または設備導入等を伴う事業を行う者 |
成長投資枠でいう「店舗整備又は設備導入等」は、新規事業の実施に必要な店舗の改修工事や固定資産の取得を指し、単なる備品購入などは含みません。目標金額は採択後に奈良市と相談のうえで決めます。
返礼品を使うと交付額はどう変わるか
寄附者への返礼品には、認定事業者オリジナルの返礼品と、奈良市の既存返礼品の2種類を使えます。どちらを使うかで、実際に手元に交付される金額が変わります。
| 集まった寄附金額 | 返礼品の内訳 | 交付金額 |
|---|---|---|
| 100万円 | すべて認定事業者オリジナルの返礼品 | 100万円 |
| 100万円 | すべて奈良市の既存返礼品 | 70万円 |
| 100万円 | オリジナル返礼品40万円分+既存返礼品60万円分 | 82万円 |
奈良市の既存返礼品を使った寄附分は、その30%が差し引かれる計算です。自社商品や体験コンテンツを返礼品として用意できるかどうかで、実質的な手取り額が最大30%変わるため、事業計画の段階から返礼品の設計まで考えておくと有利です。なお、掲載サイト「ふるさとチョイス」への掲載手数料は全額奈良市が負担するため、事業者側の持ち出しにはなりません。
応募から奨励金交付までの流れ
令和8年度の募集は、次のスケジュールで進みます。
- プレエントリー〜応募締切(令和8年7月1日〜8月3日): 専用フォームからプレエントリー後、事業計画書(A4・10ページ以内)等の応募書類一式を提出
- 書類審査・プレゼンテーション審査(8月27日午後予定): 奈良市起業家支援事業審査委員会が、外部有識者を交えて審査
- 認定・不認定の通知: 選定結果にかかわらず、申請時のメールアドレス宛に通知書を送付。選定事業者は市ホームページ等で公表
- クラウドファンディング開始(令和8年11月2日開始予定・年度内90日間): 「ふるさとチョイス」に事業計画を掲載し、全国から寄附を募集
- 奨励金の受領・事業報告(受領から1年以内): 奨励金を受け取った日から1年以内、または対象事業完了時のいずれか早いタイミングで事業状況を報告
重要なのは、「認定通知書」を受け取る前に始めた事業の費用は対象経費にならないという点です。認定前にすでに動き出してしまった取り組みには奨励金を充てられないため、事業のスタートは認定通知を受け取ってからにする必要があります。また、奨励金は受領から1年以内に事業報告を行うまでに全額を使い切る必要があり、貯蓄はできません。
令和8年度は募集事業者数が一般枠・成長投資枠それぞれ1事業者ずつ、合計2事業者という狭き門です。応募締切は8月3日と近いため、応募を検討している場合は早めに事業計画書の準備を始めることをおすすめします。
必要書類(提出時点で揃えるもの)
応募時に提出する主な書類は次のとおりです。
- 対象事業認定申請書(第1号様式)
- 事業計画書(第2号様式、A4・10ページ以内)
- 直近1か年の決算書の写し(個人事業主は確定申告書の写し。決算前なら直近3か月の売上資料でも可)
- 定款及び履歴事項全部証明書の写し(個人事業主は開業届出書及び住民票の写し)
- 誓約書兼同意書(第3号様式)
- 役員等名簿(第4号様式・個人事業主は不要)
- 市税の納税証明書(前年度分・法人で創業後1年未満の場合は不要)
- 店舗整備または設備導入等の内容がわかる資料(成長投資枠のみ。建物パースや導入予定機材のカタログ等)
書類提出後の差し替え・追加は認められないため、事業計画書は10ページ以内という制約の中で、寄附者に事業への共感を持ってもらえる内容に仕上げておくことが重要です。
開業後は国の補助金も使えます。あわせてこちらの記事で解説しています。
奈良市にはこのほか、特定創業支援等事業として税の軽減や融資の優遇を受けられる制度もあります。ふるさと起業家支援事業と組み合わせられるかどうかは、奈良市産業政策課 創業支援係に確認するのが確実です。
自分の事業が対象になる補助金・助成金が他にもないか気になる方は、3分でできる補助金診断も活用してみてください。
一般枠・成長投資枠のどちらを選ぶべきか、事業計画書の作り込みに迷う場合は専門家に相談するのも一つの手です。
よくある質問
開業前でも申請できますか?
申請できません。対象者は創業後10年未満の個人事業主・法人に限られ、これから開業する創業予定者はこの制度の対象外です。開業前の方は、奈良市の特定創業支援等事業(税の軽減・融資等)など他の制度をあわせて確認するとよいでしょう。
寄附金が目標額に届かなかったら奨励金はもらえませんか?
もらえます。この制度は目標金額の達成・未達成にかかわらず、集まった寄附金全額が奨励金として交付されます(奈良市の既存返礼品を使った分のみ30%が差し引かれます)。目標に届かなかったからといって、それまで集まった資金がゼロになるわけではありません。
一般枠と成長投資枠はどちらを選べばいいですか?
新しい店舗の改修や設備導入を伴う事業であれば成長投資枠(目標300万〜400万円)、それ以外の新規事業への挑戦であれば一般枠(目標100万〜150万円)が対象です。両枠への同時申請はできないため、自社の事業内容がどちらの定義に当てはまるか、募集要項の「対象事業者」要件を確認したうえで選ぶ必要があります。
免責事項: 本記事の内容は2026年7月時点で確認できた令和8年度募集要項にもとづきます。募集期間・支援額・対象要件は年度により変更されるため、申請前に必ず奈良市の公式ページおよび最新の募集要項でご確認ください。採択・締切は変更されうる点にもご留意ください。
出典:
