人間ドックの費用補助は、加入している健康保険や住んでいる市区町村から受けられることがあります。 協会けんぽは2026年度(令和8年度)から人間ドック健診に最高25,000円を補助(35〜74歳の被保険者・年度内1回)。健保組合・共済組合は組合ごとに独自の補助、国民健康保険は自治体によって実施・廃止が分かれます(千葉市は実施、横浜市は廃止)。医療費控除は原則対象外ですが、重大な疾病が発見され治療に入った場合は対象になります。公式情報は全国健康保険協会「健診について(被保険者)」で確認できます。
人間ドックは、施設や検査項目にもよりますが3万〜7万円ほどかかります。全額を自己負担すると大きな出費ですが、加入している健康保険や、住んでいる市区町村から費用の補助を受けられることがあります。
ただし、ここが分かりにくい理由があります。補助の内容が、加入している保険によってまったく違うからです。会社員(協会けんぽ)、大企業の社員(健保組合)、公務員(共済組合)、自営業や退職後(国民健康保険)、75歳以上(後期高齢者医療)で、それぞれ別の仕組みが動いています。
この記事では、自分がどの保険に入っているかから逆引きできる形で整理します。あわせて、人間ドックの費用が医療費控除の対象になるのか、会社が負担した場合に給与として課税されるのかという税の扱いも扱います。
まず自分がどの保険に入っているか
保険証(またはマイナ保険証で確認できる資格情報)の「保険者名称」を見てください。それによって、どこに補助を求めるかが決まります。
| 保険者 | 主に誰が入っているか | 補助の窓口 |
|---|---|---|
| 全国健康保険協会(協会けんぽ) | 中小企業の会社員とその家族 | 協会けんぽ(申込不要・健診機関に予約) |
| ○○健康保険組合 | 大企業とそのグループの社員 | その健保組合 |
| ○○共済組合 | 公務員・私学教職員 | その共済組合 |
| ○○市(区・町・村) | 自営業、フリーランス、退職後、無職の方 | お住まいの市区町村 |
| ○○後期高齢者医療広域連合 | 原則75歳以上 | 広域連合または市区町村 |
同じ「会社員」でも、協会けんぽと健保組合では制度が違います。 勤務先が健保組合を持っているかどうかで補助の内容が変わるので、まず保険者名を確認してください。
【協会けんぽ】2026年度から人間ドックへの補助が始まった
中小企業にお勤めの方が加入する協会けんぽでは、令和8年度(2026年度)から人間ドック健診に対する補助が始まりました。 これは従来の生活習慣病予防健診とは別のメニューです。
協会けんぽの公式ページには、こう案内されています。
令和8年度から、健診がさらに充実しました。 「人間ドック健診」が受診できるようになりました。
人間ドック健診の内容
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 35歳〜74歳の被保険者(本人)。75歳の誕生日前日まで毎年受診できます |
| 補助額 | 協会けんぽが最高25,000円を補助 |
| 回数 | 年度内にお一人様につき1回 |
| 申込 | 協会けんぽへの申込み手続きは不要。健診機関に直接予約します |
検査項目は、生活習慣病予防健診(一般健診)の項目に加えて、次のものが必須で入ります。
- 血液検査(MCV、MCHなど)
- 尿沈渣顕微鏡検査
- 眼圧検査、眼底検査
- 呼吸機能の検査(1秒量、1秒率など)
- 腹部超音波検査
- 医師による結果説明
- 保健指導
さらにオプション検査として、上部消化管内視鏡(胃部エックス線検査といずれかを選択)、乳がん検診、子宮頸がん検診、前立腺検査(PSA)、肝炎ウイルス検査(HCV)を選べます。
医師による結果説明が必須項目に入っているのが、一般健診との大きな違いです。結果の紙だけ受け取って終わりにならず、その場で説明を受けられます。
なお、費用の総額は健診機関によって異なります。協会けんぽも「金額も含め詳細は健診機関へお問い合わせください」と案内しています。25,000円は補助の上限であって、自己負担額が決まっているわけではありません。 健診機関の料金から25,000円が引かれる形になります。
対象になるのは被保険者(本人)だけ
ここは押さえておく必要があります。人間ドック健診の対象は被保険者、つまり本人です。 扶養に入っている家族(被扶養者)は対象外です。
被扶養者には別のメニューが用意されています。
| 対象 | メニュー | 補助 |
|---|---|---|
| 被保険者(本人)35〜74歳 | 人間ドック健診 | 最高25,000円を補助 |
| 被扶養者 40〜74歳 | 特定健診 | 最高7,150円を補助 |
協会けんぽの公式ページには、令和9年度から被扶養者も対象が拡大される予定である旨の案内があります。今後の情報は協会けんぽの公式ページでご確認ください。
協会けんぽの健診メニューと自己負担額(令和8年度)
人間ドック健診以外にも複数のメニューがあります。自己負担額は次のとおりです。
| メニュー | 対象 | 自己負担額 |
|---|---|---|
| 一般健診(35歳以上) | 35〜74歳の被保険者 | 最高5,500円 |
| 人間ドック健診 | 35〜74歳の被保険者 | 協会けんぽが最高25,000円を補助 |
| 一般健診(若年) | 20歳・25歳・30歳の被保険者 | 最高2,500円 |
| 節目健診 | 40・45・50・55・60・65・70歳の被保険者 | 最高8,280円 |
| 乳がん検診 | 一般健診・節目健診を受診する40〜74歳の偶数年齢の女性被保険者 | 最高1,700円 |
| 子宮頸がん検診(単独) | 20〜38歳の偶数年齢の女性被保険者 | 最高990円 |
| 子宮頸がん検診 | 一般健診・節目健診を受診する36〜74歳の偶数年齢の女性被保険者 | 最高990円 |
| 骨粗しょう症検診 | 一般健診・節目健診を受診する40〜74歳の偶数年齢の女性被保険者 | 最高1,390円 |
| 肝炎ウイルス検査 | 一般健診・節目健診を受診する方のうち、過去にC型肝炎ウイルス検査を受けたことがない方 | 最高540円 |
| 特定健診 | 40〜74歳の被扶養者 | 最高7,150円を補助 |
令和8年度からは、20歳・25歳・30歳の若年層向けの一般健診と、40歳以上の女性向けの骨粗しょう症検診も新しく加わりました。従来は35歳以上が対象だったので、20代の方も対象になったのは大きな変更です。
受診の流れ
協会けんぽの人間ドック健診は、手続きが簡単です。
- 健診機関に予約する。 協会けんぽが契約している健診機関を、公式サイトの健診機関検索から探して予約します。協会けんぽへの申込み手続きは不要です
- 案内に従って準備する。 健診機関から指示がある場合、問診票への回答や検尿・検便の自己採取を行います
- 当日受診する。 マイナ保険証等を必ず持参します
会社の事業所に送られる案内に同封される対象者一覧に名前が印字されていなくても、受診対象に該当する被保険者であれば受診できます。年齢は協会けんぽの年齢早見表で確認できます。
【健保組合・共済組合】規約ごとに違う
大企業や業界団体が運営する健康保険組合、公務員や私学教職員が加入する共済組合では、組合ごとに独自の補助制度を持っています。
内容は組合の規約で決まるため、一律の説明ができません。確認する項目は次のとおりです。
| 確認する項目 | 見るところ |
|---|---|
| 補助の有無と金額 | 組合のホームページの「健診」「人間ドック」ページ |
| 対象年齢 | 同上。30歳以上・35歳以上など組合により異なります |
| 被扶養者が使えるか | 同上。本人限定の組合と、家族も使える組合があります |
| 指定の健診機関 | 契約医療機関の一覧。指定外だと補助が出ないことがあります |
| 申込の要否 | 事前申込が必要な組合と、直接予約でよい組合があります |
| 年度内の回数 | ほとんどが年度内1回 |
指定の健診機関以外で受けると補助が出ないケースが多いので、予約する前に必ず契約医療機関を確認してください。予約してから気づくと、日程を取り直すことになります。
組合によっては、補助額が協会けんぽより手厚いこともあれば、逆に人間ドックへの補助を持たない組合もあります。「大企業のほうが手厚い」とは限りません。
【国民健康保険】自治体によって実施・廃止が分かれる
自営業やフリーランスの方、退職後に国民健康保険へ移った方は、お住まいの市区町村が実施主体です。
ここが最も注意が必要な部分です。人間ドックへの助成をしている自治体と、していない自治体があります。
実施している例:千葉市
千葉市は、国民健康保険被保険者および後期高齢者医療被保険者を対象に「一日人間ドック費用助成」と「脳ドック費用助成」を実施しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 国民健康保険被保険者・後期高齢者医療被保険者 |
| 一日人間ドックの費用と自己負担 | 基本検査項目 検診費用36,800円 → 自己負担18,400円 |
| (胃部レントゲンを内視鏡に変更) | 検診費用39,550円 → 自己負担19,800円 |
| 脳ドックの助成金額 | 各医療機関の検診費用の5割(限度額10,000円) |
| 受診できる場所 | 市内の協力医療機関に限る |
| 条件 | 申込時の保険料(延滞金含む)に未納がないこと、検診結果を市に提供することに同意すること |
| 定員 | あり。応募多数の場合は抽選 |
定員があり、応募多数の場合は抽選になる点が、健康保険組合の補助と大きく違います。また、令和8年度の申し込み受付はすでに終了しています。来年度の受付時期は千葉市の公式ページでご確認ください。
さらに、千葉市には手続きの順番に関する注意があります。40歳以上の国保被保険者は「特定健康診査」と「人間ドック」を必ず同日に同一医療機関で受診する必要があり、特定健康診査を先に受診してしまうと人間ドックの費用助成が受けられません。受診券シールが先に届くので、間違えやすい部分です。
廃止している例:横浜市
一方、横浜市の国民健康保険では、人間ドックへの補助はありません。横浜市の公式ページのよくある質問に、次の記載があります。
Q 人間ドック費用の補助事業はありますか。 A 横浜市国保で実施していた人間ドック費用の補助事業は、平成20年度から、特定健康診査・特定保健指導が実施されたことから廃止になりました。今後は特定健康診査・特定保健指導をぜひご活用ください。
横浜市国保の特定健康診査は、窓口での自己負担が無料です。人間ドックの補助はない代わりに、特定健診が無料で受けられる仕組みになっています。
「国保だから補助がある」とは限りません。お住まいの市区町村の公式ページで、人間ドック助成の有無を必ず確認してください。 窓口の名称は「国民健康保険課」「保険年金課」「健康支援課」など自治体によって異なります。
国保の助成で確認すべきこと
| 確認する項目 | なぜ必要か |
|---|---|
| そもそも実施しているか | 廃止している自治体があります |
| 申込期間 | 年度の初めに受付が集中し、期間を過ぎると翌年度になります |
| 定員・抽選の有無 | 先着順ではなく抽選の自治体があります |
| 指定医療機関 | 市内の協力医療機関に限られることが多いです |
| 保険料の納付状況 | 未納があると対象外になる自治体があります |
| 特定健診との受診順 | 順番を間違えると助成を受けられない自治体があります |
【後期高齢者医療】広域連合または市区町村
原則75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度でも、人間ドックの費用助成を行っている自治体があります。千葉市の例では、後期高齢者医療被保険者も一日人間ドック・脳ドックの助成対象に含まれています。
ただし、こちらも自治体によって実施状況が分かれます。後期高齢者医療広域連合または市区町村の窓口でご確認ください。
人間ドックの費用は医療費控除の対象になるか
補助を調べる方が次に当たるのが、税の扱いです。ここは国税庁がはっきりと答えを出しています。
原則は対象外
国税庁の質疑応答事例「人間ドックの費用」には、こう書かれています。
いわゆる人間ドックその他の健康診断は疾病の治療を伴うものではないので、その人間ドック等の費用は、医療費控除の対象とはなりません。
医療費控除は「治療または療養」にかかった費用が対象です。人間ドックは体の状態を調べるものであって治療ではないため、原則として対象になりません。
ただし、大きな例外がある
同じ質疑応答事例には続きがあります。
ただし、健康診断の結果、重大な疾病が発見され、引き続きその疾病の治療を行った場合には、その健康診断は、治療に先立って行われる診察と同様に考えることができますので、その健康診断のための費用も、医療費控除の対象に含まれます(所得税基本通達73-4)。
つまり、人間ドックで重大な病気が見つかり、そのまま治療に入った年は、人間ドックの費用も医療費控除の対象になります。
満たす必要があるのは2つです。
- 健康診断等の結果、重大な疾病が発見されたこと
- その診断等に引き続きその疾病の治療を行ったこと
「引き続き」がポイントです。異常が見つかっただけで治療をしていない場合や、しばらく経ってから別の理由で治療を始めた場合は、この例外にあたらない可能性があります。
同じ考え方は、メタボ健診(特定健康診査)にも適用されます。国税庁のQ&Aによれば、特定健康診査の費用も原則対象外ですが、その結果、高血圧症・脂質異常症・糖尿病と同等の状態であると認められる基準に該当すると診断され、かつ引き続きその医師の指示に基づいて特定保健指導が行われた場合は、特定健康診査の費用(自己負担額)も医療費控除の対象になります。
人間ドックで何か見つかって治療に入った年は、健診の領収書を捨てないでください。 医療費控除の集計に入ります。医療費控除の対象範囲は医療費控除はいくら?対象になる範囲と10万円の線、還付額の計算は医療費控除はいくら戻る?で扱っています。
セルフメディケーション税制の「一定の取組」には該当する
もう一つ、人間ドックには税の使い道があります。セルフメディケーション税制の「一定の取組」に該当します。
セルフメディケーション税制は、対象の市販薬の購入費が年1万2,000円を超えた分を控除できる制度ですが、適用を受けるには申告する人がその年に健康の保持増進および疾病の予防への取組を行っている必要があります。国税庁が挙げる6つの取組の1番目に「保険者(健康保険組合、市区町村国保等)が実施する健康診査<人間ドック、各種健(検)診等>」が入っています。
ただし注意点があります。人間ドックなど一定の取組に要した費用そのものは、セルフメディケーション税制による控除の対象にはなりません(国税庁 No.1129)。あくまで「取組を行った」という要件を満たすためのものです。
セルフメディケーション税制の詳細は医療費控除とサプリメントで扱っています。
会社が人間ドックの費用を負担した場合の税
勤務先が人間ドックの費用を出してくれる場合、それは給与として課税されるのか。ここも国税庁が答えを出しています。
源泉所得税の質疑応答事例「人間ドックの費用負担」によれば、次のとおりです。
役員や特定の地位にある人だけを対象としてその費用を負担するような場合には課税の問題が生じますが、役員又は使用人の健康管理の必要から、雇用主に対し、一般的に実施されている人間ドック程度の健康診断の実施が義務付けられていることなどから、一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができ、かつ、検診を受けた者の全てを対象としてその費用を負担する場合には、給与等として課税する必要はありません。
条件を整理すると、こうなります。
| 会社の負担のしかた | 給与課税 |
|---|---|
| 一定年齢以上の希望者全員が受けられ、受けた人全員の費用を会社が負担する | 課税されない |
| 役員や特定の地位にある人だけを対象に費用を負担する | 課税の問題が生じる |
| 一般的に実施されている人間ドックの水準を著しく超える高額な検診 | 個別の判断が必要 |
会社が福利厚生として人間ドックの費用を出す場合、社内規程を設けて対象を全員に開いておくことが前提になります。役員だけが受けられる制度にすると、その費用が給与として課税される可能性があります。
補助を受けられない・受け損なう要因
- 保険者を勘違いしていた。 協会けんぽの制度を調べていたが、実は勤務先に健保組合があった、というケースがあります
- 指定外の健診機関で受けた。 協会けんぽも自治体も、契約または協力している医療機関でないと補助が出ません
- 申込期間を過ぎた。 自治体の助成は年度初めに受付が集中します
- 定員に漏れた。 千葉市のように抽選になる自治体があります
- 保険料に未納があった。 国保の助成では、未納があると対象外になる自治体があります
- 受診の順番を間違えた。 特定健診を先に受けると人間ドックの助成が受けられない自治体があります
- 被扶養者が本人向けのメニューに申し込んだ。 協会けんぽの人間ドック健診は被保険者(本人)が対象です
- 年度内にすでに受けていた。 協会けんぽの補助は年度内に1回です
よくある質問
協会けんぽの人間ドック補助は誰でも受けられますか
35歳から74歳の被保険者(本人)が対象です。75歳の誕生日前日まで毎年受診できます。扶養に入っているご家族(被扶養者)は対象外で、40〜74歳の被扶養者には特定健診(最高7,150円の補助)が用意されています。回数は年度内にお一人様1回です。協会けんぽへの申込手続きは不要で、契約している健診機関に直接予約します。
補助を受けたら自己負担はいくらになりますか
健診機関によって異なります。協会けんぽの人間ドック健診は「最高25,000円を補助」という形なので、健診機関の料金から25,000円が差し引かれます。協会けんぽ自身も「金額も含め詳細は健診機関へお問い合わせください」と案内しているため、予約時に総額を確認してください。オプション検査を追加すると、その分は別途かかります。
人間ドックの費用は医療費控除に入れられますか
原則として入れられません。国税庁は「いわゆる人間ドックその他の健康診断は疾病の治療を伴うものではないので、その人間ドック等の費用は、医療費控除の対象とはなりません」としています。ただし、健康診断の結果、重大な疾病が発見され、引き続きその疾病の治療を行った場合には、その健康診断のための費用も医療費控除の対象に含まれます(所得税基本通達73-4)。何か見つかって治療に入った年は、領収書を保管してください。
会社に人間ドック代を出してもらうと給与として課税されますか
条件を満たせば課税されません。国税庁の質疑応答事例によれば、一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができ、かつ検診を受けた者の全てを対象としてその費用を負担する場合には、給与等として課税する必要はありません。逆に、役員や特定の地位にある人だけを対象に費用を負担する場合は課税の問題が生じます。社内規程で対象を全員に開いておくことが前提です。
国民健康保険でも人間ドックの助成はありますか
自治体によります。 千葉市のように国保・後期高齢者医療の被保険者を対象に一日人間ドック費用助成(検診費用36,800円に対し自己負担18,400円)を実施している自治体がある一方、横浜市国保のように「平成20年度から、特定健康診査・特定保健指導が実施されたことから廃止になりました」と公式に案内している自治体もあります。お住まいの市区町村の国民健康保険担当課の公式ページで、実施の有無・申込期間・定員をご確認ください。
