「医療費控除 いくら」で調べると、まったく違う3つの答えが並びます。「10万円から」「200万円まで」「還付は数万円」。どれも正しいのですが、答えている問いが違います。
整理するとこうです。
- いくらから対象になるか → 10万円(所得によっては5%)を超えた分
- いくらまで控除できるか → 200万円が上限
- いくら戻ってくるか → 控除額に自分の税率をかけた額
この記事では前の2つ、つまり「対象になる医療費の範囲」と「10万円という線の考え方」を扱います。3つ目の「いくら戻るか」は医療費控除はいくら戻る?で計算しています。
医療費控除の計算式は3つの引き算でできている
国税庁が示している式はこれです。
医療費控除額 =(実際に支払った医療費の合計額 − 保険金などで補てんされる金額)− 10万円
(最高200万円)
引き算が2回あり、その結果に上限がかかります。順番に見ていきます。
① 支払った医療費の合計額
その年の1月1日から12月31日までに実際に支払った金額です。ここで大事なのは「治療を受けた日」ではなく「支払った日」で判定することです。
- 12月に治療を受けて、支払いが1月になった → 翌年分
- 12月に前払いした来年分の治療費 → 原則として支払った年(ただし前払いの扱いは治療内容により異なるため、高額な場合は税務署に確認してください)
- 未払いの医療費 → 現実に支払った年の医療費控除の対象(国税庁 No.1120)
クレジットカードや医療ローンで払った場合は少し特殊です。信販会社が立替払いをした金額は、その立替払いをした年の医療費控除の対象になります。分割の返済年ではありません(国税庁 No.1128)。ただし金利と手数料は対象外です。
② 保険金などで補てんされる金額
支払った医療費のうち、他から戻ってきた分は引きます。代表的なものはこれです。
| 引くもの | 引かないもの |
|---|---|
| 高額療養費 | 出産手当金 |
| 家族療養費 | 傷病手当金 |
| 出産育児一時金 | 死亡保険金 |
| 生命保険の入院給付金 | 見舞金 |
| 損害保険の医療費用保険金 | — |
出産手当金を引かないのは、国税庁が「医療費を補てんする性格のものではありません」と明言しているためです(No.1124)。出産育児一時金は引き、出産手当金は引かない。 ここは間違えやすい組み合わせです。
もう一つ、引き方に決まりがあります。
保険金などで補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きますので、引ききれない金額が生じた場合であっても他の医療費からは差し引きません。(国税庁 No.1120)
つまり、入院給付金は入院費からだけ引きます。 入院費12万円に対して給付金が18万円出ても、引くのは12万円までです。残りの6万円を歯科や通院の費用から引く必要はありません。この扱いを知らずに全額を引くと、控除額を自分で減らしてしまいます。
なお、申告時に補てん額が確定していない場合は見込額で計算します。後で確定額と違ったら、修正申告または更正の請求で直します(国税庁 No.1126)。
③ 10万円、または総所得金額等の5%
ここが「いくらから」の答えです。
| 総所得金額等 | 引く金額(足切り) |
|---|---|
| 200万円以上 | 10万円 |
| 200万円未満 | 総所得金額等の5% |
多くの人は10万円ですが、総所得金額等が200万円未満なら5%に下がります。総所得金額等が150万円なら7万5,000円、120万円なら6万円です。医療費が10万円に届かなくても控除を受けられます。
④ 上限は200万円
控除額の上限は200万円です。ここに届くには、保険金を引いた後の医療費が210万円必要です(足切りの10万円を戻すため)。長期の入院や高額な自由診療がある年には到達することがあります。
ただし公的医療保険が使える治療には高額療養費制度による自己負担の上限がかかるため、保険診療だけで210万円に達することはあまりありません。高額療養費制度については高額療養費制度とは?上限は所得で決まるで解説しています。
「総所得金額等」は年収ではありません
5%ルールを使えるかどうかは「総所得金額等が200万円未満か」で決まります。ここで誤解が起きやすいのは、総所得金額等は年収(給与収入)ではないという点です。
会社員の場合、給与収入から給与所得控除を引いた金額が給与所得です。総所得金額等は、この給与所得を含む各種所得を合計した金額(純損失・雑損失の繰越控除などの適用後)を指します。給与のみの方であれば、給与所得=総所得金額等と考えて差し支えありません。
給与所得控除の額は給与収入によって変わります。給与収入から逆算すると、おおよそこうなります。
| 給与収入(年収) | 給与所得のおよその額 | 足切り額 |
|---|---|---|
| 200万円 | 約132万円 | 5%ルール(約6.6万円) |
| 250万円 | 約167万円 | 5%ルール(約8.4万円) |
| 280万円 | 約194万円 | 5%ルール(約9.7万円) |
| 300万円 | 約202万円 | 10万円 |
| 400万円 | 約276万円 | 10万円 |
※給与所得控除の額は税制改正で変わります。上の表はおよその目安で、正確な金額は源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」でご確認ください。
つまり、給与収入がおおむね300万円を下回るあたりが分かれ目になります。年収250万円の方で医療費が9万円だった場合、10万円には届きませんが5%ルールなら控除額が出ます。「10万円に届かないから無理」と諦める前に、源泉徴収票を確認してください。
なお、給与以外に事業所得や不動産所得がある方、複数の収入源がある方は、それらを合計した金額で判定します。詳しくは医療費控除はいくらから?10万円の壁と5%ルールで扱っています。
対象になるかどうかは「治療か、予防か」で決まる
医療費控除の対象を一覧で覚えるのは大変です。ですが判定の軸は1本しかありません。
その支出が「治療または療養」のためか、それとも「予防・健康増進・美容」のためか。
国税庁の条文を並べると、この軸が一貫していることが分かります。
- 「いわゆる人間ドックその他の健康診断は疾病の治療を伴うものではないので、その人間ドック等の費用は、医療費控除の対象とはなりません」(質疑応答事例「人間ドックの費用」)
- 「ビタミン剤などの病気の予防や健康増進のために用いられる医薬品の購入代金は医療費となりません」(No.1122)
- 「疲れを癒す、体調を整えるといった治療に直接関係のないものは含まれません」(No.1122・あん摩マッサージ等)
- 「容ぼうを美化するための費用は、医療費控除の対象になりません」(No.1128・歯列矯正)
- 「容姿を美化し又は容貌を変えるための費用は、疾病の治療のための費用には当たらない」(質疑応答事例「ホクロの除去費用」)
同じものでも、目的が変われば結論が変わります。歯列矯正は、子どもの発育を阻害しないために必要と認められる場合は対象、見た目を整えるためなら対象外。ビタミン剤は、治療または療養に必要な医薬品なら対象、健康増進のためなら対象外。「何を買ったか」ではなく「何のために払ったか」で決まります。
対象になる医療費(国税庁 No.1122の12項目)
国税庁が対象として挙げているのは次の12項目です。いずれも「その病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分」に限られます。
| # | 対象 | 補足 |
|---|---|---|
| 1 | 医師・歯科医師による診療または治療の対価 | 健康診断の費用や謝礼金は原則含まない |
| 2 | 治療・療養に必要な医薬品の購入費 | かぜ薬は対象。ビタミン剤など予防目的は対象外 |
| 3 | 病院・診療所・介護老人保健施設・助産所などへ収容されるための費用 | — |
| 4 | あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師の施術 | 疲れを癒す目的は対象外 |
| 5 | 保健師・看護師・准看護師・特に依頼した人による療養上の世話 | 家政婦への付添料は含む。家族への付添料は対象外 |
| 6 | 助産師による分べんの介助 | — |
| 7 | 介護福祉士等による一定の喀痰吸引・経管栄養 | — |
| 8 | 介護保険制度で提供された一定の施設・居宅サービスの自己負担額 | — |
| 9 | 診療等を受けるために直接必要なもの | 通院費、部屋代・食事代、医療用器具、義手・義足・松葉杖・補聴器・義歯・眼鏡、おむつ代など |
| 10 | 日本骨髄バンクに支払う骨髄移植のあっせんに係る患者負担金 | — |
| 11 | 日本臓器移植ネットワークに支払う臓器移植のあっせんに係る患者負担金 | — |
| 12 | 特定保健指導(一定の積極的支援)の自己負担金 | 一定の基準に該当する人に限る |
9番の「直接必要なもの」の中身が、実務でいちばん判断に迷うところです。
- 通院費は対象。ただし電車・バスなど公共交通機関が利用できない場合を除き、タクシー代は対象外。自家用車のガソリン代・駐車場代も対象外です(No.1122の注1・注2)
- 眼鏡・補聴器は「医師等による診療や治療を受けるために直接必要な」ものが対象。近視のための一般的な眼鏡は対象外です
- おむつ代は、おおむね6か月以上寝たきりで医師の治療を受けている場合に、医師が発行した「おむつ使用証明書」があれば対象
交通費の細かい判定は医療費控除の交通費で手段別に整理しています。
対象にならないもの(よく間違えるもの)
国税庁の各ページから、対象外とされているものを集めました。
| 対象外のもの | 根拠 |
|---|---|
| 健康診断・人間ドックの費用 | 質疑応答事例「人間ドックの費用」 |
| 特定健康診査(メタボ健診)の自己負担額 | No.1122 Q&A |
| 予防接種 | 治療ではなく予防のため |
| ビタミン剤・サプリメント(予防・健康増進目的) | No.1122 |
| 医薬品に該当しない漢方薬等 | 所得税基本通達73-5 |
| 医師・看護師へのお礼 | No.1126 |
| 本人や家族の都合による差額ベッド代 | No.1126 |
| 入院時の寝巻き・洗面具などの身の回り品 | No.1126・No.1124 |
| 入院中に出前を取った・外食した食事代 | No.1126 |
| 家族・親類縁者に払った付添料 | No.1122・No.1126 |
| 美容目的の歯列矯正 | No.1128 |
| ホクロの除去費用 | 質疑応答事例「ホクロの除去費用」 |
| 自家用車のガソリン代・駐車場代 | No.1122 注2 |
| 実家で出産するための帰省の交通費 | No.1124 |
| 歯科ローンの金利・手数料 | No.1128 |
| 通勤・通学定期券の部分 | 通院のための支出ではないため |
一方で、「対象外だと思われがちだが実は対象」というものもあります。
- 市販のかぜ薬は、医師の処方や指示がなくても対象になります(質疑応答事例「かぜ薬の購入費用」)
- 不妊症の治療費・人工授精の費用は、医師による診療等の対価として支払われるものであれば対象です(質疑応答事例)
- 入院中に病院で出される食事代は、入院費用の一部として支払われるものなので対象です(No.1126)
- 金やポーセレンを使った歯の治療は、現在これらが一般的に使用されている材料であることから対象です(No.1128)
- 人間ドックの費用でも、重大な疾病が発見されて引き続き治療を行った場合は対象になります(所得税基本通達73-4)
最後の1つは例外として重要です。健康診断の結果、重大な疾病が発見され、引き続きその疾病の治療を行った場合には、その健康診断のための費用も医療費控除の対象に含まれます。健診で見つかって治療に入った年は、健診の領収書も残しておいてください。人間ドックの費用補助については人間ドックの費用補助・助成で扱っています。
家族の分をどこまで足せるか
医療費控除は、本人だけでなく生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費も対象になります(国税庁 No.1120)。
「生計を一にする」の判定で押さえておくことが3つあります。
- 同居は条件ではありません。 単身赴任中の配偶者、進学で下宿している子ども、仕送りをしている親も、生活費を共通にしていれば該当します
- 扶養に入っている必要もありません。 共働きで配偶者が扶養から外れていても、生計が一なら対象です
- 年齢の制限もありません。 大人の子ども、高齢の親も含みます
ただし、申告できるのは「実際に支払った人」です。誰の医療費かではなく、誰が払ったかで決まります。妻の医療費を夫が払ったなら夫が申告し、妻が自分で払ったなら妻が申告します。
また、同じ領収書を2人で分けて申告することはできません。 夫が半分、妻が半分という按分はできない決まりです。
家族の分を足せるかどうかは、控除額を大きく左右します。1人では10万円に届かなくても、家族分を合算すれば超えることは珍しくありません。
セルフメディケーション税制なら1万2,000円から
医療費が10万円に届かない年でも、ドラッグストアで対象の市販薬を買っていれば、セルフメディケーション税制という別の道があります。
| 通常の医療費控除 | セルフメディケーション税制 | |
|---|---|---|
| いくらから | 10万円(所得200万円未満は5%) | 1万2,000円 |
| いくらまで | 200万円 | 8万8,000円 |
| 対象 | 治療にかかった医療費全般 | 対象のスイッチOTC医薬品など |
| 追加の要件 | なし | 健康診断・予防接種などの一定の取組 |
| 適用期限 | 期限なし | 令和8年12月31日まで |
両方を受けることはできず、どちらか一方を選びます。しかも選んだ後は更正の請求や修正申告でも変更できません。
市販薬の購入が年5万円で、それ以外の医療費が3万円という年を考えます。合計8万円では通常の医療費控除の足切り10万円に届かず控除額は0円ですが、セルフメディケーション税制なら5万円 − 1万2,000円 = 3万8,000円が控除できます。
詳しい要件は医療費控除とサプリメントで扱っています。
対象から外れる・後で直すことになる要因
申告の後で問題になりやすいのは次のような場合です。
- 健康診断・人間ドックの費用を入れていた。 重大な疾病が見つかって治療に入った場合を除き、対象外です
- 予防接種を入れていた。 インフルエンザの予防接種は対象になりません
- 自家用車で通院した費用を入れていた。 ガソリン代も駐車場代も対象外です
- 保険金の見込額が実際と違った。 修正申告または更正の請求で直す必要があります
- 支払った年を間違えた。 12月の治療を1月に払ったなら翌年分です
- 家族の医療費を、支払っていない人が申告した。 申告できるのは実際に支払った人です
- 領収書を捨てていた。 医療費控除の明細書の記載内容を確認するため、確定申告期限から5年を経過する日までの間、領収書の提示または提出を求められることがあります
医療費通知(健康保険組合から届く「医療費のお知らせ」)を添付した分については、領収書の保存は不要です。ただし医療費通知に載らない自由診療・市販薬・交通費については、領収書やメモを残す必要があります。
よくある質問
医療費が10万円を超えていなくても申告できますか
総所得金額等が200万円未満であれば、足切りは10万円ではなく総所得金額等の5%になるので、10万円以下でも控除を受けられます。給与収入だけの方なら、おおむね年収300万円を下回るあたりが目安です。また、通院の交通費や家族の医療費を足すと10万円を超えることがよくあるので、集計する前に諦めないほうが確実です。
保険が使えない自由診療も対象になりますか
治療のための費用であれば対象になります。医療費控除の判定に「公的医療保険が使えるか」という条件はありません。ただし「その病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分」に限られます。歯の治療では、金やポーセレンは現在一般的に使用されている材料なので対象ですが、一般的な水準を著しく超えると認められる特殊なものは対象になりません。
差額ベッド代は絶対に対象外ですか
「本人や家族の都合だけで個室に入院したとき」の差額ベッド代が対象外です(国税庁 No.1126)。逆に言えば、病院側の事情(大部屋に空きがない、感染症のため隔離が必要など)で個室になった場合は、その費用は入院費の一部として扱われる余地があります。この判断は個別の事情によるため、領収書の記載内容を確認したうえで税務署にご相談ください。
コンタクトレンズや眼鏡は対象になりますか
原則として対象外です。近視・遠視のための一般的な眼鏡やコンタクトレンズは、治療のためではなく視力を補うためのものと扱われます。対象になるのは「医師等による診療や治療を受けるために直接必要な」場合で、たとえば白内障の術後に医師の指示で使う眼鏡などが該当します。判断に迷う場合は、医師の指示書と処方箋を用意したうえで税務署にご確認ください。
上限の200万円は1人あたりですか、世帯あたりですか
申告する人1人あたりです。医療費控除は申告する人の所得から差し引くものなので、夫が200万円、妻が200万円というように、それぞれが自分の所得から控除できます。ただし同じ医療費を2人で分けて申告することはできません。
