熊本市の補助金には、地域の産業構造の変化に合わせて中身を継ぎ足してきたものが少なくありません。半導体関連企業との取引拡大支援事業補助金も、その一つです。
対象は半導体関連の展示会出展・市場調査・ISO/SBT認証取得にかかる経費で、補助率は1/2、上限は20万円です。令和8年度(2026年度)第1回は2026年5月13日から2027年2月19日まで募集されますが、予算額に達し次第、先着順で締め切られます。
なぜ熊本市はこの補助金を用意しているのか
熊本県では台湾TSMC系の工場進出をきっかけに、半導体関連企業の集積が急速に進んでいます。一方で、恩恵を受けられるのは進出企業と直接取引がある一部の事業者にとどまりがちで、地場の製造業・情報サービス業がサプライチェーンに新規参入するには、展示会での接点づくりや、取引先が求める品質・環境認証の取得といった「入口のハードル」があります。この補助金は、そうした参入準備にかかる初期費用の負担を軽くし、地場企業が半導体関連企業との取引を広げる後押しをする制度です。
対象になる事業者を具体例で見る
補助対象者になるには、次の要件をすべて満たす必要があります。
- 半導体関連事業を行う小規模企業者・中小企業者、またはこれらを主体とする組合・任意団体であること
- 熊本市内に本社または主たる事業所を有すること(団体の場合は構成員の1/2以上が市内に事業所を持つこと)
- 市税の滞納がないこと・暴力団関係者でないこと
- 令和8年度「熊本市展示会等出展支援事業補助金」の交付を受けていないこと
対象業種は日本標準産業分類の製造業(食料品・繊維・化学・金属製品・電子部品/デバイス・電気機械器具など)と情報サービス業です。従業員数の基準は業種で異なります。
| 区分 | 従業員数の基準 |
|---|---|
| 小規模企業者(卸売業・小売業以外) | 20人以下 |
| 小規模企業者(卸売業・小売業) | 5人以下 |
| 中小企業者(一般業種) | 300人以下 |
| 中小企業者(卸売業・サービス業) | 100人以下 |
| 中小企業者(小売業) | 50人以下 |
具体的にどんな事業者が当てはまるか、3パターンで見てみます。
- 従業員40名の金属製品製造業: 半導体製造装置向けの部材加工を手がける会社。中小企業者の一般業種基準(300人以下)を大きく下回るため対象。国内の半導体関連商談会への出展が申請候補になる
- 従業員15名の情報サービス業: 半導体設計・検証ツールの受託開発を行う会社。中小企業者基準(一般業種300人以下)の範囲内で対象。海外の半導体関連展示会に出展し、翻訳費やPR動画作成費を申請するケース
- 従業員4名の半導体部材卸売業(個人事業主): 卸売業の小規模企業者基準は5人以下のため対象範囲内。取引先から要求されたISO9001の認証取得費用を申請するケース
株式会社などの営利法人だけでなく、個人事業主も対象です。一方で発行済株式の1/2以上を大企業が保有する「みなし大企業」に該当する場合は対象外となります。
対象になる取組・経費と補助額のシミュレーション
補助対象になる事業は、展示会等への出展/市場調査/ISO・SBT認証取得の3本柱です。対象経費は次の9区分に整理されています。
- 出展料(展示会等の主催者に支払う出展・参加費)
- 小間装飾費(備品のリース料、電気ガス水道等の工事費・使用料)
- 宿泊費及び交通費(1事業者につき3名を上限)
- パネル・のぼり・ポスター・パンフレット作成費
- 輸送費(自社事業所から会場までの商品・備品の輸送)
- 自社・商品PR用写真・動画コンテンツ作成費
- 翻訳費(国外の展示会等への出展に限る)
- 市場調査に要する専門業者への委託費
- 認証取得に係る費用(ISO9001・14001・27001等、SBT認証のコンサル料・登録料など)
補助率は1/2以内、上限は対象経費を合算した金額に対して20万円です。実際の使い道で試算すると、次のようになります。
| 想定する取組 | 対象経費(税抜) | 補助率 | 補助額(概算) |
|---|---|---|---|
| 国内の半導体関連商談会に出展(出展料15万円+宿泊交通20万円+パネル作成5万円) | 40万円 | 1/2 | 20万円(上限) |
| 海外の半導体関連展示会に出展(出展料20万円+翻訳費4万円+輸送費6万円+PR動画5万円) | 35万円 | 1/2 | 17.5万円 |
| 半導体市場の調査のみを専門業者へ委託 | 50万円 | 1/2 | 25万円→上限の20万円まで |
対象経費の合計が40万円を超えると、補助額は上限の20万円で頭打ちになります。逆に、展示会出展と認証取得を組み合わせて対象経費を40万円前後に積み上げる計画の立て方が、上限を無駄なく使う現実的なアプローチです。なお消費税・地方消費税は対象経費から除外して積算します。
申請の流れとスケジュール:交付決定前の着手は原則NG
申請実務でもっとも注意すべきポイントは、展示会の出展申込や専門業者への委託契約は、原則として交付決定を受けたあとに行う必要があることです。募集要項では、交付決定前に着手する場合は「事前着手届(様式第2号)」の提出が必須とされ、認められるのは展示会主催者側の都合など客観的に正当な事由がある場合に限られます。
申請から補助金受け取りまでの流れは次のとおりです。
- 申込書類の作成: 交付申込書(様式第1号)、補助事業計画書、補助要件適合の補足資料、市税滞納有無調査承諾書を準備
- 申込: 対象経費の見積書・展示会等の概要が分かる資料と併せて、熊本市経済政策課へメールまたは郵送で提出(原則、展示会等に出展する日の2週間前まで)
- 交付決定: 提出書類にもとづき審査
- 事業実施: 交付決定後に展示会出展・市場調査委託・認証審査等を実施(展示会等は2026年5月20日~2027年2月28日開催分が対象)
- 実績報告: 手続き完了日から30日以内に、実績報告書と支出の証拠資料(領収書等)を提出
- 精算払い: 実績報告の内容確認後、補助金額を確定して精算払い(概算払いは不可)
本補助金は1事業者につき2年に1回限りの交付で、年度内の申込も1事業者・1代表者につき1件のみです。 展示会出展で申請した後、同じ年度に市場調査や認証取得だけで2回目の申請をすることはできません(一度の申請でまとめて申請する場合は対象です)。
他制度との組み合わせ(併用の考え方)
募集要項には「同一内容の事業について、国・県・市町村が補助する他の制度と重複する事業は補助対象となりません」と明記されています。同じ経費に対して複数の補助金を重ねて受け取ることはできませんが、同一の補助対象経費について複数の補助金の公募に応募すること自体は差し支えないとされています(採択後にどちらか一方を選ぶ形になります)。
熊本市には設備・ITの導入を支援する制度もあります。あわせてこちらの記事で解説しています。
たとえば「展示会出展や認証取得は半導体取引拡大支援事業補助金」「バックオフィスのITツール導入は熊本市DX補助金」というように、経費の区分ごとに使う制度を分けて計画するのが現実的です。熊本市の制度以外にも自分の事業が対象になる補助金・助成金がないか気になる方は、3分でできる補助金診断も活用してみてください。
対象経費の区分や、申込のタイミング設計、事前着手届の要件に迷う場合は、専門家に相談するのも一つの手です。
よくある質問
個人事業主でも申請できますか?
はい、対象になります。募集要項では会社・会社に準ずる営利法人だけでなく個人事業主も補助対象に含まれると明記されています。ただし医師・歯科医師・助産師や系統出荷のみの個人農業者、みなし大企業に該当する事業者などは対象外です。
展示会に出展する予定日が近いのですが、間に合いますか?
申込は原則、展示会等に出展する日の2週間前までとされています。交付決定を待たずに出展申込等をせざるを得ない場合は、「事前着手届(様式第2号)」の提出により交付決定前の着手が認められる場合がありますが、主催者都合など客観的に正当な事由が必要です。早めに熊本市経済政策課へ相談することをおすすめします。
展示会出展・市場調査・認証取得を同じ年度にまとめて申請できますか?
はい、一度の申請でまとめて申請する場合は対象です。ただし、年度を通じて1事業者あたり1回の補助金交付という制限があるため、展示会出展で先に申請した後、同じ年度に市場調査や認証取得だけで別途2回目の申請をすることはできません。
免責事項: 本記事の内容は2026年7月時点で確認できた熊本市公式の令和8年度第1回募集要項にもとづきます。補助率・上限額・対象経費・申請要件・募集期間は変更される場合があり、また予算額に達し次第、募集期間中でも早期に締め切られる可能性があります。申請前に必ず熊本市の公式ページおよび最新の募集要項でご確認ください。
出典:
