電力・ガス・石油精製・鉄鋼といった産業インフラの点検を、人手をかけずに安全に回す。そんな技術を持つ会社にとって、実証の場と開発費をまとめて確保できる補助金がかつて存在しました。「産業保安高度化推進事業費補助金」は、令和2年7月14日で募集を終了しています。
この記事では、終了した公募の内容を記録として残し、次に似た制度が公募された際に何を準備しておけばよいかを整理します。
制度の運営元は一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)で、経済産業省の令和2年度補正予算を財源としていました。対象は電力・ガス・石油精製・石油化学・一般化学・高圧ガス・鉄鋼の7分野で保安業務を担う事業者、またはそこにIoT・AI技術を提供する事業者です。補助上限は4億円、補助率は中小企業なら2/3、それ以外の法人は1/2という、規模の大きな実証型の補助金でした。
産業保安高度化推進事業費補助金の要点まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請者 | 事業者(法人。日本国内に登記し活動実績のある法人) |
| 制度名 | 産業保安高度化推進事業費補助金(令和2年度補正) |
| 対象業種 | 電力・ガス・石油精製・石油化学・一般化学・高圧ガス・鉄鋼分野の保安業務事業者、またはIoT/AI関連技術を提供する事業者 |
| 利用目的 | 産業保安分野のAI・防爆ドローン・発電所遠隔制御・送電鉄塔監視の開発実証(設備投資・DX・IT導入) |
| 対象地域 | 全国 |
| 従業員数 | 中小企業の区分に該当すれば補助率2/3(製造業等は資本金3億円以下または従業員300人以下など、業種で基準が異なる) |
| 補助上限額 | 4億円/補助対象事業者 |
| 補助率 | 中小企業(みなし大企業を除く)2/3以内、それ以外の法人1/2以内 |
| 申請受付 | 終了しました(2020年6月25日~2020年7月14日17:00必着) |
| 公式サイト | SII「令和2年度補正 産業保安高度化推進事業費補助金について」 |

どんな実証に使えたのか(4つの類型)
公募要領では、事業は4つの類型に分かれていました。
- 類型A(AI実証): 保安業務向けAIの開発・実証。点検・検査の精度を上げ、災害や運転停止を防ぐ能力(保安力)の向上を狙う
- 類型B(防爆ドローン等): プラント内で使う防爆仕様のドローン等の開発・実証
- 類型C(発電所遠隔制御): 火力・水力・太陽光発電所を対象に、カメラやセンサで現場のデータを遠隔取得し、点検作業を省人化する技術の開発
- 類型D(スマート鉄塔): 送電鉄塔にスマートセンサを設置し、気流シミュレーションと組み合わせて強風などの影響を分析する技術の開発
どの類型も、開発したAIや機器を補助事業終了後に他の事業所・事業者へ展開する計画があることが要件でした。自社だけで使う実証実験は対象外という位置づけです。
補助対象経費と、対象外になった費用
補助対象経費は4類型とも共通の枠組みで、人件費・外注費や委託費・機材購入費や部品購入費・その他諸経費に分かれていました。人件費は「時間単価×作業時間」で計算し、国が示す標準報酬月額保険料額表をもとにした単価を使う決まりです。
一方で、次の費用は対象外でした。
- 補助金の申請書作成費用
- 交付決定日より前に発生した費用(発注・契約は必ず交付決定後に行う必要があった)
- 事務所の借料・敷金・礼金
- 予備品購入費
交付決定前の発注・契約は補助対象にならないという原則は、この種の実証型補助金ではほぼ共通のルールです。次に似た制度が出たときも、まず公募要領でこの一文を確認してから動き出すのが安全です。
単独・共同・コンソーシアムの3つの申請パターン
この補助金は、1社だけで完結する取り組みだけでなく、複数社が組んで申請するケースも想定していました。
| パターン | 補助率の扱い | 特徴 |
|---|---|---|
| 単独申請 | 自社の補助率がそのまま適用 | 取得資産は自社保有。協力会社への外注費は対象 |
| 共同申請 | 参加者のうち最も低い補助率が全体に適用 | 企業間の費用流用が可能。幹事社に一括振込 |
| コンソーシアム申請 | 各社それぞれの補助率が適用 | 企業間の受発注は補助対象外。各社に個別振込 |
プラント運営事業者とAI・IoTベンダーが手を組んで応募するケースを想定した設計で、どの申請パターンを選ぶかで補助率の計算方法が変わる点は、この種の連携型補助金に共通する注意点です。
次に似た制度が出たときの備え方
この公募は終わっていますが、産業保安分野のスマート化を後押しする国の方針自体は続いています。次回以降、同種の実証支援策が公募される可能性を見据えて、いま準備しておけることを整理します。
- 法人の登記事項証明書と直近の財務諸表(損益計算書・貸借対照表)は、いつでも出せる状態にしておく。 交付申請時の必須提出書類でした
- 中小企業に該当するかどうかを業種ごとの基準で確認しておく。 中小企業基本法上の区分(業種ごとに資本金と従業員数の上限が決まっており、製造業その他は資本金3億円以下または従業員300人以下、卸売業は1億円以下または100人以下、サービス業と小売業はさらに小さい基準)のどちらか一方を満たせば該当します。これにより補助率が2/3か1/2かが変わるため、実証計画の予算感に直結します
- 連携先候補との合意形成を進めておく。 審査項目には「実証体制・スケジュールの適切性」があり、候補企業や役割分担が明確になっているかが評価対象でした
- 開発後の展開計画を具体化しておく。 「実証事業後の展開・波及効果」も加点項目で、他事業所・他事業者への導入計画が描けているかが問われました
よくある質問
この補助金はまだ申請できますか?
いいえ。2020年7月14日17:00で受付を終了しており、現在申請することはできません。 交付決定・補助金支払いまで完了した過去の公募です。
後継の制度はありますか?
SIIや経済産業省では産業保安のスマート化を目的とした事業がその後も継続的に公募されています。最新の公募状況は、SIIの公式サイト(https://sii.or.jp)で「産業保安」「スマート保安」などのキーワードで確認するのが確実です。
個人事業主でも対象になりますか?
対象外です。要件は「日本国内に登記し活動実績のある法人であること」で、個人事業主は含まれていません。 電力・ガス・石油精製など指定7分野で保安業務を持つ、または関連するIoT/AI技術を持つ法人が対象でした。
