「今年の確定申告に間に合わなかったから、医療費控除はもう無理」。そう考えて諦めた分が、まだ取り戻せる可能性があります。
国税庁は、還付申告について「確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出することができます」としています。医療費控除だけのために申告する会社員の方は、多くがこの還付申告に当たります。
つまり2026年9月の時点でも、令和2年分(2020年分)まではまだ間に合うという計算になります。5年分の医療費の領収書が残っているなら、いま動く価値があります。
一方で、期限を過ぎると取り返しがつかないものもあります。すでに確定申告を提出した年の内容を直す「更正の請求」は、法定申告期限から5年以内。そしてセルフメディケーション税制と医療費控除の選択は、あとから変更することが一切できません。
この記事では「いつまでに何ができるか」を期限別に整理します。金額の判定は医療費控除はいくらから、申告の手順は医療費控除のやり方にまとめています。
医療費控除の期限の要点まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象になる医療費の期間 | その年の1月1日から12月31日までに実際に支払ったもの |
| 通常の確定申告期間 | 令和7年分は令和8年2月16日(月)〜3月16日(月) |
| 還付申告のみの場合 | その年の翌年1月1日から5年間。確定申告期間とは無関係に提出できます |
| さかのぼれる年数 | 5年分。過去に申告していなかった年について、まとめて申告できます |
| すでに申告した年を直す | 更正の請求。原則として法定申告期限から5年以内 |
| 申告期限内に間違いに気づいた場合 | 訂正申告(正しい申告書を出し直すだけ) |
| 領収書の保存期間 | 5年間。提出は不要ですが自宅で保存します |
| 支払いの年の判定 | 診療を受けた日ではなく、支払った日で判定します |
| 変更できないもの | セルフメディケーション税制と医療費控除の選択。修正申告・更正の請求でも変更不可 |
| 住民税への反映 | 申告した年の6月からの住民税に反映されます |
【原則】医療費控除は「支払った年」で決まる
期限の話をする前に、そもそも「どの年の医療費か」を確定させる必要があります。基準は1つだけです。
国税庁は、医療費控除の対象を「その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費」としています。診療を受けた日ではなく、お金を払った日です。
この違いが効いてくる場面を並べます。
| 状況 | どの年の医療費か |
|---|---|
| 12月に診療、12月に支払い | その年 |
| 12月に診療、翌年1月に支払い | 翌年 |
| 12月に入院、翌年1月に退院・精算 | 翌年(年内に内金を払っていればその分だけ当年) |
| 12月にクレジットカードで決済、翌年1月に口座引き落とし | 決済した年(カードで支払った日が基準) |
| 未払いのまま年を越した診療費 | 実際に払った年。未払いのままでは控除できません |
国税庁は歯の治療について「治療中に年が変わるときは、それぞれの年に支払った医療費の額が、各年分の医療費控除の対象となります」と明示しています。矯正のように複数年にわたる治療は、年ごとに区切って計算することになります。
★ここが「10万円の壁」との関係で重要です。 長期の治療を2年に分けて払うと、どちらの年も足切り額に届かない、ということが起こります。逆に、支払いのタイミングを調整できるなら1年にまとめたほうが控除額が大きくなることがあります。ただし未払いのものを「払ったことにする」のは不可です。 あくまで実際の支払いのタイミングの話です。
【期限1】今年の確定申告期間 — 2月16日から3月16日
給与所得者以外の方、あるいは他にも申告すべき所得がある方は、通常の確定申告期間に提出します。
令和7年分の申告期間は、令和8年2月16日(月)から3月16日(月)までです(国税庁「令和7年分 確定申告特集」)。
この期間に提出する必要があるのは、次のような方です。
- 個人事業主・フリーランスで、事業所得の申告が必要な方
- 給与収入が2,000万円を超える方
- 給与以外の所得が20万円を超える方
- 2か所以上から給与を受けている方
- 青色申告特別控除など、期限内提出が条件の特例を使う方
★青色申告特別控除の65万円・55万円の枠は、法定申告期限内の提出が条件です。 医療費控除の集計に手間取って3月16日を過ぎると、青色申告特別控除まで減額されてしまいます。事業所得のある方は、医療費控除を理由に期限を延ばさないでください。
【期限2】還付申告なら5年間 — これが最も知られていない
給与所得者で、医療費控除のためだけに申告する方は、通常の確定申告期間に縛られません。
国税庁は還付申告について「確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出することができます」としています。国税庁が挙げる還付申告の例にも「多額の医療費を支出したとき(医療費控除)」が明記されています。
いつからいつまでか
| 医療費を支払った年 | 提出できる期間 |
|---|---|
| 令和2年(2020年)分 | 令和3年1月1日〜令和7年12月31日 |
| 令和3年(2021年)分 | 令和4年1月1日〜令和8年12月31日 |
| 令和4年(2022年)分 | 令和5年1月1日〜令和9年12月31日 |
| 令和5年(2023年)分 | 令和6年1月1日〜令和10年12月31日 |
| 令和6年(2024年)分 | 令和7年1月1日〜令和11年12月31日 |
| 令和7年(2025年)分 | 令和8年1月1日〜令和12年12月31日 |
2026年9月の時点では、令和3年分から令和7年分までの5年分が提出可能です。
さかのぼるときの注意点
1. 年ごとに1通ずつ申告書を作ります。 5年分をまとめて1通に書くことはできません。それぞれの年の源泉徴収票と医療費の集計が必要です。
2. その年の源泉徴収票が要ります。 転職・退職している場合、前の勤務先に再発行を依頼することになります。これが最大のハードルです。 手元にない場合は、まず勤務先または元勤務先に問い合わせてください。
3. 領収書の保存期間と重なります。 領収書は5年間保存する義務がありますが、5年前の分をいま申告するなら、その領収書が手元にあることが前提です。捨ててしまっていると集計できません。医療費通知が残っていれば、それを使える場合があります。
4. 所得税を納めていない年は還付が生じません。 その年の源泉徴収票の「源泉徴収税額」が0円なら、還付される所得税がありません。ただし住民税は別に判定されるため、申告する意味がまったくないとは限りません。 お住まいの市区町村にご確認ください。
5. 住民税への反映は当年度からではありません。 過去分の申告で住民税がさかのぼって減額される場合、市区町村の処理を経て通知されます。取扱いは自治体により異なるため、市区町村の課税課にお問い合わせください。
6. マイナポータル連携が使えない年があります。 マイナポータル連携で取得できるのは、毎年2月9日以降に取得可能となる保険診療分の情報です。何年も前の医療費情報が取得できるとは限らないため、過去分は領収書や医療費通知からの集計になると考えてください。
【期限3】すでに申告した年を直す — 更正の請求は5年以内
「その年は確定申告をしたが、医療費控除を入れ忘れた」というケースです。この場合は還付申告ではなく更正の請求になります。
国税庁は「更正の請求ができる期間は、原則として法定申告期限から5年以内です」としています。
| 状況 | 手続き | 期限 |
|---|---|---|
| 申告期限内に間違いに気づいた | 訂正申告(正しい申告書を出し直す) | 法定申告期限まで |
| 申告後、税金を納めすぎていたと分かった | 更正の請求 | 法定申告期限から5年以内 |
| 申告後、税金が少なすぎたと分かった | 修正申告 | 気づいたら速やかに |
| そもそも申告していない年がある | 還付申告 | 翌年1月1日から5年間 |
★申告期限内なら、訂正申告がいちばん簡単です。 国税庁は、申告期限内であれば正しい内容の申告書をもう一度提出すればよいとしています。更正の請求書を作る必要はありません。3月16日までに気づくかどうかで、手間がまったく違います。
修正申告は「速やかに」が原則です。 更正の請求と違って明確な期限が示されていませんが、修正申告書の提出日が納期限になり、その日に納付する必要があります。放置すると延滞税がかかります。
保険金の額が後から確定した場合
医療費控除でよくあるのが、申告のあとに保険金の額が確定するケースです。
国税庁は、確定申告の時点で補填される金額が確定していない場合は見込み額をもとに計算するとし、後に見込み額と実際の額が異なることが分かったときは修正申告または更正の請求で調整するとしています。
- 実際の保険金が見込みより少なかった … 医療費控除額が増えるので更正の請求(5年以内)
- 実際の保険金が見込みより多かった … 医療費控除額が減るので修正申告
高額療養費の支給決定が翌年にずれ込むケースが典型です。「まだ確定していないから申告しない」のではなく、見込み額で申告して後で調整するのが正しい進め方です。
【変更できないもの】セルフメディケーション税制との選択
期限の話の中で、最も取り返しのつかないものがこれです。
国税庁は、セルフメディケーション税制を適用した場合、修正申告や更正の請求によって通常の医療費控除に変更することはできないとしています。逆に、通常の医療費控除を適用した後でセルフメディケーション税制に変えることもできません。
| 選択 | 差し引く額 | 上限 |
|---|---|---|
| 通常の医療費控除 | 10万円(総所得金額等200万円未満なら5%) | 200万円 |
| セルフメディケーション税制 | 1万2,000円 | 8万8,000円 |
5年さかのぼれるのは「申告していない年」の話であって、「選択をやり直せる」という意味ではありません。 申告書を送信する前に、両方の控除額を計算してください。判断の基準は医療費控除はいくらからにまとめています。
なお、セルフメディケーション税制の適用期限は令和8年12月31日までとされています。それ以降の取扱いは税制改正で決まるため、国税庁の公表内容をご確認ください。
併用できるか — 他の制度の期限との関係
医療費控除だけを見て期限を判断すると、他の制度の期限を落とすことがあります。
| 制度 | 期限の関係 |
|---|---|
| ふるさと納税(ワンストップ特例) | 医療費控除で確定申告をするとワンストップ特例は無効。同じ申告書に寄附金控除を書かないと控除が消えます |
| 住宅ローン控除(1年目) | 初年度は確定申告が必要。医療費控除と同じ申告書で申告します |
| 青色申告特別控除(65万円・55万円) | 法定申告期限内の提出が条件。還付申告の5年ルールは適用されません |
| 高額療養費の申請 | 健康保険の制度で、診療を受けた月の翌月1日から2年が時効です。医療費控除の5年とは別の期限。詳しくは高額療養費制度の記事 |
| 自立支援医療の受給者証 | 有効期間は原則1年。更新は有効期限の3か月前から。詳しくは自立支援医療の記事 |
| 介護休業給付金 | 介護休業終了日の翌日から2か月を経過する日の属する月の末日まで。詳しくは介護休業給付金の記事 |
特に高額療養費の時効(2年)に注意してください。 医療費控除が5年さかのぼれるからといって、高額療養費も5年待てるわけではありません。先に時効が来るのは高額療養費のほうです。
申請の流れ(さかのぼる場合)
過去分をまとめて申告するときの手順です。
- 申告する年を決める(直近5年のうち、医療費が足切り額を超えていた年)
- その年の源泉徴収票を用意する(手元になければ勤務先・元勤務先に再発行を依頼)
- その年の医療費の領収書・医療費通知を集める
- その年の保険金・高額療養費の受取額を確認する
- 年ごとに1通、確定申告書と医療費控除の明細書を作る
- 年ごとに別々に提出する(e-Tax・郵送・持参)
- 領収書は引き続き5年間保存する
★確定申告書等作成コーナーは、過去の年分にも対応しています。 その年分の様式を選んで作成できます。ただし年分によって画面の仕様が異なるため、国税庁のサイトで該当年分を選んで進めてください。
期限切れ・やり直し不能になる要因
取り返しがつかなくなる典型例を挙げます。
- 5年を過ぎた。還付申告は翌年1月1日から5年間、更正の請求は法定申告期限から5年以内。この期間を過ぎると手続きできません
- 領収書を処分してしまった。5年間保存する義務がありますが、さかのぼって申告するなら現物が必要です。医療費通知も再発行できない場合があります
- 源泉徴収票が入手できない。廃業した勤務先の場合、再発行が困難なことがあります。所轄の税務署にご相談ください
- セルフメディケーション税制を選んでしまった。修正申告でも更正の請求でも医療費控除に変更できません
- ふるさと納税のワンストップ特例が無効になった。確定申告書に寄附金控除を書かなかった場合、ふるさと納税分の控除が失われます。ただしこれは更正の請求で救える可能性があります(法定申告期限から5年以内)
- 高額療養費の2年の時効が過ぎた。医療費控除より先に期限が来ます
★青色申告をしている方の落とし穴です。 医療費控除は5年さかのぼれますが、青色申告特別控除の65万円・55万円は期限内提出が条件です。医療費の集計に時間をかけて期限を過ぎると、青色申告特別控除が10万円に減額されます。医療費控除で戻る額より、青色申告特別控除で失う額のほうが大きくなることがあります。
よくある質問
確定申告の期限を過ぎましたが、医療費控除はもう受けられませんか?
医療費控除のためだけに申告する給与所得者の方であれば、還付申告として翌年1月1日から5年間提出できます。国税庁も「確定申告期間とは関係なく」提出できるとしています。ただし事業所得などで確定申告義務がある方は、期限後申告として扱われ、加算税や延滞税がかかる場合があります。
何年前まで医療費控除をさかのぼれますか?
還付申告は、医療費を支払った年の翌年1月1日から5年間提出できます。2026年9月時点であれば、令和3年分から令和7年分までが対象です。年ごとに1通ずつ申告書を作成し、それぞれ提出してください。
12月に診察を受けて1月に支払った医療費は、どちらの年に入れますか?
支払った年、つまり翌年分の医療費になります。医療費控除は、診療を受けた日ではなく実際に支払った日で判定します。年をまたぐ治療は、それぞれの年に支払った額が各年分の対象になります。
クレジットカードで支払った場合、どの年の医療費になりますか?
医療機関でカード決済をした日が基準になります。カード会社からの引き落としが翌年になっても、決済した年の医療費として扱います。なお、ローンの金利や手数料は医療費控除の対象になりません。
すでに確定申告をした年に、医療費控除を入れ忘れました。
更正の請求という手続きで、納めすぎた税金の還付を求めることができます。国税庁は更正の請求ができる期間を「原則として法定申告期限から5年以内」としています。申告期限内に気づいた場合は、正しい申告書を出し直す訂正申告で足ります。
5年前の領収書を捨ててしまいましたが、申告できますか?
領収書がないと医療費の額を証明できないため、そのままでは困難です。健康保険から届いた医療費通知が残っていれば、保険診療分についてはそれを使える場合があります。ただし市販薬や通院交通費は医療費通知に載らないため、記録がないと集計できません。
さかのぼって申告すると、住民税もさかのぼって安くなりますか?
確定申告の内容は市区町村にも連携され、住民税の再計算が行われることがあります。ただし処理の時期や還付の方法は自治体によって異なるため、お住まいの市区町村の課税課にご確認ください。
高額療養費も5年さかのぼれますか?
いいえ。高額療養費は健康保険の制度で、診療を受けた月の翌月1日から2年で時効になります。医療費控除の5年とは別の期限です。医療費控除より先に期限が来るため、高額療養費の申請を優先してください。
過去分の申告にマイナポータル連携は使えますか?
マイナポータル連携で取得できるのは、毎年2月9日以降に取得可能となる保険診療分の情報です。過去何年分まで取得できるかは仕様によるため、さかのぼる場合は領収書や医療費通知からの集計を前提に準備してください。取得可能な範囲はマイナポータルでご確認ください。
