医療費控除は「使えるかどうか」より、「どうやって申告するか」でつまずく人のほうが多い制度です。領収書の束をどう集計するのか、明細書には何を書くのか、e-Taxは何から始めるのか。手順が見えないまま3月を迎えて諦める、というのがいちばん多い失敗です。
結論から書きます。やることは4つだけです。
- 1年分の医療費を集計する(家族分もまとめて)
- 保険金・高額療養費で戻った金額を差し引く
- 「医療費控除の明細書」を作る
- 確定申告書に控除額を書いて提出する
そしてマイナポータル連携を使えば、1と3の大半が自動になります。 保険診療分の医療費情報が申告書に自動入力されるためです。
この記事では、この4つを順番に埋めていきます。自分が対象になるかどうかの判定は医療費控除はいくらから、期限とさかのぼりは医療費控除はいつまでにまとめています。
医療費控除の手続きの要点まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 手続きの種類 | 確定申告(年末調整では受けられません) |
| 申告期間 | 令和7年分は令和8年2月16日(月)〜3月16日(月)。還付申告だけなら1月1日から提出可能 |
| 必要な添付書類 | 医療費控除の明細書。確定申告書に添付します |
| 領収書 | 提出不要。ただし5年間自宅で保存 |
| 医療費通知 | 添付すれば、その分の明細書への記載を省略できます |
| マイナポータル連携 | 毎年2月9日以降、前年1月〜12月の保険診療分を自動取得・自動入力できます |
| 家族分 | マイナポータルで代理人登録すれば、家族分も自動取得できます |
| 提出方法 | e-Tax(PC・スマホ)/郵送/税務署へ持参 |
| 還付までの期間 | e-Taxのほうが早い傾向。時期により変動するため所轄税務署にご確認ください |
| セルフメディケーション税制 | 選択適用。申告後に医療費控除へ変更することはできません |
【準備】まず何を集めるか
申告書を開く前に、手元にそろえるものを確認します。ここが済んでいれば作業は30分で終わります。
必ず要るもの
- 本人確認書類(マイナンバーカード。無い場合は通知カード等+運転免許証などの身元確認書類)
- 源泉徴収票(給与所得者の場合。提出は不要ですが、申告書に金額を書き写します)
- 1年分の医療費の領収書・レシート(1月1日〜12月31日に支払ったもの)
- 還付金を受け取る本人名義の口座番号
あると作業が速くなるもの
- 医療費通知(健康保険組合・協会けんぽ・市区町村国保から届く「医療費のお知らせ」)
- 保険会社からの給付金の支払明細
- 高額療養費の支給決定通知書
- 通院交通費のメモ(日付・行き先・金額)
★通院交通費は領収書が出ません。 電車・バス代は医療費控除の対象ですが、証明する書類がありません。国税庁は家計簿などに記録して実際にかかった額を明らかにするよう求めています。1年分をあとから思い出すのは無理なので、通院のたびにスマホのメモに残すのが現実的です。
【ルート1】マイナポータル連携で自動入力する(いちばん速い)
国税庁は、確定申告書等作成コーナーでマイナポータル連携を使うと、医療費情報を取得して申告書に自動入力できるとしています。手入力がほぼ不要になります。
いつから使えるか
毎年2月9日以降、申告する年分の1月から12月までの保険診療分の医療費情報が取得できるようになります。
つまり、1月中に還付申告を出したい人はマイナポータル連携が使えません。手入力するか、2月9日を待つかの二択になります。
手順
- マイナポータルで利用者登録をする(スマホにマイナポータルアプリをインストール。すでに登録済みの方はログイン)
- 家族分も取得したい場合は、マイナポータルで代理人の登録をする
- 国税庁の「確定申告書等作成コーナー」からマイナポータル連携を利用する
- 自動入力・自動計算された申告書を確認し、e-Taxで送信する
代理人登録には、ご家族のマイナンバーカードが必要です。 さらに、家族自身も事前にマイナポータルの利用者登録を済ませておく必要があります。この2つが揃っていないと家族分は取得できません。夫婦・親子で申告をまとめる予定なら、2月9日より前に代理人登録だけ済ませておくと当日つまずきません。
自動取得できないもの
保険診療分であっても、次のような情報は取得できません。取得できなかった分は自分で明細書に足す必要があります。
- はり・きゅう等の施術費用
- 整骨院・接骨院の柔道整復療養費
加えて、そもそも保険診療でないものは対象外です。
- 市販薬(ドラッグストアで買った治療用の薬)
- 通院交通費
- 保険が使えない自由診療(インプラント、レーシック等の治療目的のもの)
- 医療費控除の対象になる介護サービス費
マイナポータル連携で出てきた金額がそのまま正解、ではありません。 自動入力は「保険診療分の下書き」だと考えて、そこに市販薬と交通費を足す作業が必要です。
【ルート2】医療費通知を使う
マイナポータル連携を使わない場合も、医療費通知(医療費のお知らせ)があれば作業がかなり楽になります。
国税庁は、医療費通知を添付した場合、その医療費については医療費控除の明細書への記載を省略できるとしています。個々の医療機関名や金額を書き写さなくてよい、ということです。
医療費通知には次の項目が記載されている必要があります。
- 被保険者等の氏名
- 療養を受けた年月
- 療養を受けた者の氏名
- 療養を受けた病院・診療所・薬局等の名称
- 被保険者等が支払った医療費の額
- 保険者等の名称
注意点が2つあります。
1つ目。医療費通知は1年分すべてが載っているとは限りません。 保険者によって、10月頃までの分しか反映されていないことがあります。載っていない月の分は、領収書をもとに明細書に書き足します。
2つ目。医療費通知に載るのは保険診療分だけです。 市販薬・通院交通費・自由診療は載りません。これらは別途、明細書に記入します。
【ルート3】領収書から医療費控除の明細書を作る
医療費通知も使わない場合は、領収書をもとに明細書を作ります。この方法でも問題なく控除は受けられます。
明細書に書く項目
医療費控除の明細書は、次の単位で1行にまとめて書きます。
| 記入欄 | 書く内容 |
|---|---|
| 医療を受けた方の氏名 | 本人・配偶者・子など、実際に治療を受けた人ごとに |
| 病院・薬局などの支払先の名称 | 医療機関名、薬局名、交通費なら「電車・バス(通院交通費)」など |
| 医療費の区分 | 「診療・治療」「医薬品購入」「介護保険サービス」「その他の医療費」から該当するものにチェック |
| 支払った医療費の額 | その人・その支払先ごとの1年間の合計額 |
| 左のうち補填される金額 | 保険金・高額療養費などで戻った金額 |
1件ずつではなく、「人 × 支払先」でまとめて1行にできます。同じ病院に12回通ったなら、12行書く必要はなく、1行に合計額を書けば足ります。ここを知らずに全レシートを1行ずつ入力して何時間もかける方がいます。
集計のコツ
領収書を机に広げたら、次の順で仕分けます。
- 人別に分ける(本人/配偶者/子ども/親)
- その中で支払先別に分ける(○○病院/△△歯科/□□薬局/交通費)
- 束ごとに合計を出す
- 保険金・高額療養費が出ているものにメモを付ける
国税庁は「医療費集計フォーム」(Excel形式)を配布しています。このフォームに入力しておくと、確定申告書等作成コーナーにそのまま読み込めます。 医療費の件数が多い方はこちらを使ったほうが速く、集計ミスも減ります。
保険金の差し引き方
ここが最も間違いやすい部分です。保険金は「その給付の目的となった医療費」からのみ差し引きます。
例: 入院費20万円に対して、医療保険の入院給付金が30万円出た場合。
- 正しい処理 … 入院費の行に補填額20万円と書く。残りの10万円は他の行から引かない
- 誤った処理 … 通院費や歯科治療費からも合計30万円を引いてしまう
国税庁は「保険金で補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引き、引ききれない金額が生じた場合であっても他の医療費からは差し引かない」としています。誤って全額を差し引くと、控除額を自分で減らしてしまいます。
金額が確定していない場合はどうするか。 国税庁は、確定申告の時点で補填される金額が確定していないときは、その見込み額をもとに計算するとしています。後になって見込み額と実際の額が違ったときは、修正申告または更正の請求で調整します。「確定していないから申告できない」ではありません。
集計でつまずきやすい3つのケース
領収書を仕分けていると、必ず判断に迷うものが出てきます。多いのは次の3つです。
1. クレジットカード・医療ローンで払った分
医療費控除は「実際に支払った年」で判定します。クレジットカードで決済した場合、カード会社への引き落とし日ではなく、医療機関でカード決済をした日が支払った日になります。12月にカード決済して翌年1月に引き落とされた分は、決済した年の医療費です。
歯科ローンや信販会社の立替払いも同様の考え方で、信販会社が医療機関に立て替え払いをした年の医療費になります。ただしローンの金利・手数料は医療費控除の対象になりません。 立替金額と手数料が一体になった請求書の場合は、契約書などで内訳を確認してください。
2. 年をまたぐ入院・治療
12月に入院して1月に退院し、退院時にまとめて精算した場合、支払いは1月なので翌年分の医療費になります。国税庁も、治療中に年が変わるときは、それぞれの年に支払った医療費の額が各年分の対象になるとしています。年内に一部を内金として払っていれば、その分だけが当年分です。
3. 家族名義の口座から引き落とされた分
生計を一にする家族の医療費は、支払った人がまとめて申告できます。口座名義が誰であるかより、生計が一であるかどうかが判断の軸です。ただし同じ医療費を家族2人の申告に重ねて入れることはできません。誰の申告にまとめるかを先に決めてから集計してください。
【提出】3つのルートの選び方
作った明細書と申告書を、どう出すか。3つの方法があります。
| 方法 | 必要なもの | 向いている人 |
|---|---|---|
| e-Tax(スマホ) | マイナンバーカード+対応スマホ | 給与所得者で、医療費の件数が少ない方 |
| e-Tax(PC) | マイナンバーカード+ICカードリーダーまたはスマホ連携 | 家族分をまとめる方、件数が多い方 |
| 書面(郵送・持参) | 印刷した申告書・明細書 | マイナンバーカードをお持ちでない方 |
マイナンバーカードを使う場合、電子証明書の有効期限に注意してください。 国税庁も注意喚起しています。署名用電子証明書の有効期限は発行から5回目の誕生日までです。期限が切れているとe-Taxで送信できないため、市区町村の窓口で更新する必要があります。申告の直前に気づくと間に合いません。
手順(確定申告書等作成コーナー・共通)
- 国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」を開く
- 「作成開始」を選び、提出方法(e-Tax/書面)を選ぶ
- 源泉徴収票の内容を入力する(給与所得者の場合。マイナポータル連携で自動入力できる場合もあります)
- 所得控除の「医療費控除」を選ぶ
- 医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらを適用するか選ぶ
- 医療費を入力する(マイナポータル連携/医療費集計フォームの読込/手入力から選択)
- 還付金の振込先口座を入力する
- マイナンバーを入力し、送信または印刷する
5の選択は、あとから変更できません。 国税庁は、セルフメディケーション税制を適用した場合、修正申告や更正の請求で通常の医療費控除に変更することはできないとしています。逆も同様です。両方の条件を満たす方は、送信ボタンを押す前に両方の控除額を計算してください。
医療費控除と併せて確認したい制度
確定申告をするなら、同じ申告書で他の控除も申告できます。別々に手続きする必要はありません。
| 制度 | 医療費控除との関係 |
|---|---|
| 高額療養費制度 | 医療費控除とは別の、健康保険の制度。戻った分は医療費から差し引きます。詳しくは高額療養費制度の記事 |
| セルフメディケーション税制 | 選択適用。医療費控除と同時には使えません |
| ふるさと納税(寄附金控除) | 併用できます。ただしワンストップ特例は無効になるので、確定申告書に寄附金控除を必ず書いてください |
| 住宅ローン控除 | 併用できます。1年目は確定申告が必要です |
| 自立支援医療 | 軽減後の自己負担額が医療費控除の対象です。詳しくは自立支援医療の記事 |
| 介護保険の給付 | 医療系の介護サービス費は医療費控除の対象になるものがあります。詳しくは介護の補助金・給付金まとめ |
★ふるさと納税をしている方への注意です。 ワンストップ特例は「確定申告をしないこと」が条件の仕組みです。医療費控除のために確定申告をすると、すでに提出したワンストップ特例申請はすべて無効になります。確定申告書に寄附金控除を書き忘れると、ふるさと納税分の控除がまるごと消えます。
申告後に修正・返還が必要になる要因
提出して終わりではないケースがあります。あらかじめ知っておくと慌てません。
修正申告(税金を追加で納める)になる場合
- 保険金の見込み額が実際より少なかった。差額分の医療費控除が過大だったことになり、修正申告が必要です
- 対象外の支出を含めていた。人間ドック代・予防接種代・美容目的の施術・自家用車のガソリン代などが混ざっていた
- 同じ医療費を家族2人の申告に入れていた。合算できるのは1人の申告にだけです
更正の請求(税金を返してもらう)ができる場合
- 保険金の見込み額が実際より多かった
- 申告し忘れた医療費が見つかった
- 更正の請求ができる期間は、原則として法定申告期限から5年以内です
控除が否認される場合
- 領収書を保存していなかった。5年間の保存義務があります。税務署から提示を求められて出せないと、控除が認められないことがあります
- 通院交通費の記録がなかった。金額の根拠を示せないと認められないことがあります
★申告期限内に間違いに気づいた場合は、もっと簡単です。 申告期限内であれば、正しい内容の申告書をもう一度提出すれば足ります(訂正申告)。修正申告や更正の請求の手続きは不要です。3月16日までに気づけるかどうかで、手間が大きく変わります。
よくある質問
会社員ですが、年末調整で医療費控除を受けられますか?
受けられません。医療費控除は確定申告が必要な控除です。年末調整の書類には医療費控除の欄がないため、ご自身で確定申告書を作成して提出する必要があります。
領収書は税務署に提出しますか?
提出は不要です。医療費控除の明細書を添付する方式になっています。ただし領収書は5年間ご自宅で保存してください。税務署から確認を求められた際に提示できないと、控除が認められないことがあります。
医療費通知が届いていない、または一部の月しか載っていません。
医療費通知は保険者によって発行時期や対象期間が異なります。載っていない月の分は、領収書をもとに医療費控除の明細書に書き足してください。医療費通知がなくても、領収書から明細書を作れば控除は受けられます。
マイナポータル連携はいつから使えますか?
毎年2月9日以降、申告する年分の1月から12月までの保険診療分の医療費情報を取得できます。1月中に申告したい場合は連携が使えないため、手入力で作成することになります。
家族の医療費もマイナポータル連携で取得できますか?
できます。ただし事前にマイナポータルで代理人の登録が必要です。登録にはご家族のマイナンバーカードが必要で、ご家族自身もマイナポータルの利用者登録を済ませている必要があります。
市販薬や通院の電車代はマイナポータル連携で入りますか?
入りません。マイナポータル連携で取得できるのは保険診療分の情報です。市販薬・通院交通費・自由診療分は、ご自身で明細書に追加してください。はり・きゅうの施術費用や整骨院の柔道整復療養費も、保険診療分であっても取得できない場合があります。
保険金の額がまだ確定していない場合、申告できますか?
できます。国税庁は、確定申告の時点で補填される金額が確定していない場合は、見込み額をもとに計算するとしています。後に見込み額と実際の額が異なることが分かったときは、修正申告または更正の請求で調整します。
e-Taxと書面提出で、還付されるまでの期間は変わりますか?
一般にe-Taxのほうが早い傾向にありますが、時期や税務署の混雑状況によって変わります。具体的な処理期間は所轄の税務署にお問い合わせください。なお、申告した内容によって還付されるかどうかは審査のうえで決まります。
医療費が多くて明細書に書ききれません。
国税庁が配布している「医療費集計フォーム」(Excel形式)を使うと、確定申告書等作成コーナーにそのまま読み込めます。また、明細書は「医療を受けた方 × 支払先」の単位でまとめて1行に書けるため、同じ病院への通院を何行にも分けて書く必要はありません。
