資格を取らせたいのに、研修に出すと現場の人手が足りなくなる。建設業の技能実習でいちばんの壁は、費用よりも「その間の日当をどう出すか」という会社が少なくありません。
人材開発支援助成金の「建設労働者技能実習コース」は、この壁を2方向から支えます。ひとつは実習にかかった費用そのもの(経費助成)。もうひとつは、実習を受けている間の賃金(賃金助成)です。対象は中小建設事業主、または建設事業主団体。支給額は1事業所あたり年間上限500万円です。通年で申請できますが、実習を始める前に「計画届」という手続きが挟まります。
建設労働者技能実習コースの要点まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請者 | 事業者(中小建設事業主、または中小建設事業主団体) |
| 制度名 | 人材開発支援助成金(建設労働者技能実習コース) |
| 対象業種 | 建設業(建設労働者を雇用する建設事業主・建設事業主団体) |
| 利用目的 | 建設労働者の技能実習(安全教育・技能検定の事前講習・登録基幹技能者講習等)にかかる経費・訓練中の賃金の一部助成 |
| 対象地域 | 全国 |
| 従業員数 | 規定なし(中小建設事業主の該当性は雇用保険料率の区分と資本金・従業員数の基準で判定。助成率は雇用保険被保険者数20人以下/21人以上で分かれる) |
| 補助上限額 | 経費助成・賃金助成・賃金向上助成等手当助成の合計で1事業所あたり年間500万円が上限。経費助成は1人の技能実習あたり10万円、賃金向上助成等手当助成は1人あたり2万円が別枠で上限 |
| 補助率 | 経費助成は対象経費の20分の9〜5分の4(企業規模・受講者の年齢等で変動)/賃金助成は日額7,600円〜9,405円(企業規模・建設キャリアアップシステム登録の有無で変動) |
| 申請受付 | 通年(技能実習を実施しようとする日の3か月前〜原則1週間前までに計画届の提出が必要。登録教習機関等に委託する場合は計画届は不要) |
| 公式サイト | 厚生労働省「人材開発支援助成金(建設労働者技能実習コース)」支給要領 |

何から始めればいい?──最初の一歩は「計画届」
思い立ってすぐ研修に出す、というわけにはいきません。この助成金を使うには、実習を始める前に「計画届」を管轄の労働局に届け出る必要があります。
提出できる期間は、訓練を実施しようとする日の3か月前から、遅くとも1週間前までです。ここを外すと、その回の実習は助成の対象になりません。年度初めにまとめて研修計画を立てる会社が多いですが、思い立った順に出すのではなく、まず計画届のスケジュールから逆算する必要があります。
ただし例外があります。登録教習機関・登録基幹技能者講習実施機関・職業訓練法人・指定教育訓練実施者が実施する講習を受講させる場合は、計画届の提出は不要です。外部の講習機関に任せる形なら、この手続きの負担は軽くなります。
自分の会社は対象になる?
対象になるのは、次のいずれかです。
- 中小建設事業主:建設労働者を雇用し、雇用保険に加入していて、雇用管理責任者を選任している建設事業主のうち、中小企業基本法上の中小企業事業主に該当するもの(業種ごとに資本金・従業員数の基準があり、建設業の場合は資本金3億円以下または従業員300人以下のどちらかを満たせば該当します)
- 中小建設事業主団体:事業協同組合・商工組合・職業訓練法人など、構成員の3分の2以上が中小建設事業主である団体
一方、次に当てはまる場合は対象外です。
- 一人親方(労働者を雇用せず自分だけで建設業を営む方)
- 同居の親族のみを使用して建設事業を行っている場合
「労働者を雇っているかどうか」が対象・対象外の分かれ目です。従業員を雇わず一人で仕事をしている方や、家族だけで営んでいる事業者は、この助成金の対象にはなりません。
いくら戻ってくる?──3つの助成の中身
支給の柱は3つです。組み合わせて使うこともできますが、年間の合計は1事業所あたり500万円が上限です。メニューごとに500万円もらえるわけではありません。
| 助成の種類 | 支給額の考え方 |
|---|---|
| 経費助成 | 実習にかかった費用(指導員謝金・実習場所の借上料・教材費等)×助成率。企業全体の雇用保険被保険者数20人以下なら4分の3、21人以上で35歳未満の技能実習なら10分の7、35歳以上なら20分の9。中小建設事業主団体は5分の4。1人の技能実習あたり10万円が上限 |
| 賃金助成 | 実習を受けた日数×日額。20人以下の企業は1日8,550円(建設キャリアアップシステム技能者情報登録者は9,405円)、21人以上の企業は1日7,600円(同8,360円)。1人につき20日分が上限 |
| 賃金向上助成・資格等手当助成 | 経費助成または賃金助成の支給決定を受けたうえで、実習後1年以内に賃金を5%以上引き上げる(または資格等手当を新設し賃金を3%以上引き上げる)と追加で支給。経費助成ベースなら算定額の20分の3、賃金助成ベースなら日額2,000円(20人以下)または1,750円(21人以上)。1人あたり2万円が上限 |
具体的な計算で見てみる
雇用保険被保険者数18人(20人以下の区分)の中小建設事業主が、新人3人にとび技能講習(技能実習の一種)を5日間受けさせた場合を考えます。実習にかかった費用の合計が30万円だったとすると、次のようになります。
- 経費助成:30万円×4分の3=22万5,000円(1人あたり7万5,000円で、上限の10万円以内)
- 賃金助成:8,550円×5日×3人=12万8,250円
合計で約35万3,000円が支給の目安になります。3人のうち1人が建設キャリアアップシステムの技能者情報に登録済みなら、その1人分の賃金助成は9,405円/日に上がり、支給額はさらに増えます。
つまずきやすいのは「順番」
この助成金でよくあるつまずきは、金額の計算ではなく手続きの順番です。
- まず計画届を出す(実習の3か月前〜1週間前)
- 実習を実施する(1日1時間以上、合計10時間以上が基本。実技・実技試験は通学制で行う)
- 実習が終わった日の翌日から2か月以内に支給申請する(賃金の支払日から支給申請期限まで2週間に満たない場合は、賃金支払日から2週間以内)
計画届を出さずに実習を始めてしまうと、経費助成・賃金助成のどちらも対象外になります。「まず実習を予約してから、あとで届け出よう」という順番は通りません。
もうひとつの注意点は、賃金助成の対象になる訓練日です。1日の訓練時間が3時間未満の日は、その日ぶんの賃金助成は支給されません(通学制・同時双方向型の通信訓練の場合)。半日だけの短い講習を何日かに分けて実施する計画だと、賃金助成の対象日が思ったより少なくなることがあります。
書類は実習のあとにそろえる
実習が終わったら、支給申請にあわせて次のような書類を準備します。
- 実施日ごとの科目時間数がわかるカリキュラム
- 受講者名簿(対象労働者一覧)
- 実習を自社で実施した場合は、指導員謝金・実習場所の借上料・教材費等の領収書(実費相当額であることがわかるもの)
- 登録教習機関等に委託した場合は、受講申込書または委託契約書の写し
- 賃金台帳・出勤簿・タイムカードなど、訓練期間中の出勤と賃金支払いを確認できる書類
指導員を自社の役職員以外(部外指導員)に頼んだ場合、謝金の支払いは指導員本人への直接払いであることが条件です。社内の担当者が講師を兼ねると、その分の指導員謝金は対象になりません。
よくある質問
一人親方でも使えますか?
対象外です。この助成金は「労働者を雇用して技能実習を行う事業主」を支援する制度で、労働者を雇わずに一人で建設業を営む一人親方は、対象になりません。
eラーニングでの受講は対象になりますか?
対象になります。ただし、教材を送るだけで質疑応答のやり取りがないものは対象外です。eラーニング・通信制・同時双方向型の通信訓練のいずれかで、質疑応答が行われる形である必要があります。また、実技や修了試験を非対面で行った部分は対象になりません。
登録教習機関に委託して受講させる場合、計画届は必要ですか?
不要です。登録教習機関・登録基幹技能者講習実施機関・職業訓練法人・指定教育訓練実施者が実施する講習を受講させる場合は、計画届の提出そのものが省略できます。ただし、支給申請の際には受講申込書などの写しが必要です。
