「学費」で情報を探す方の多くが本当に知りたいのは、学費の相場そのものより、「学費が足りないときにどんな支援制度が使えるか」ではないでしょうか。この記事では、学費の負担を軽くする制度を、「返さなくてよいもの」と「返す必要があるもの」の2つに分けて整理します。
制度は校種(小中学校・高校・大学等)や家計の状況によって細かく分かれているため、この記事では全体の地図を示し、各制度の詳しい金額・条件は個別記事で深掘りする形にしています。文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」によれば、幼稚園から高校卒業までの15年間の学習費総額は、すべて公立に通った場合で596万円、すべて私立に通った場合で1,976万円とされ、大学まで進学すればさらに数百万円が上乗せされます。学費は多くの家庭にとって人生最大級の支出の一つであり、使える支援制度を漏れなく把握しておく価値があります。
義務教育段階(小中学校)にも支援制度がある
「学費」というと高校・大学を思い浮かべがちですが、義務教育段階(小学校・中学校)にも「就学援助制度」という支援があります。 経済的な理由で就学が困難な家庭に対し、学用品費・給食費・修学旅行費等を市区町村が補助する制度です。
- 対象: 生活保護受給世帯(要保護)、それに準ずる程度に困窮している世帯(準要保護。所得基準は市区町村が独自に設定)
- 補助内容: 学用品費、給食費、修学旅行費、通学費、医療費(学校病)等
- 窓口: 在学する学校または市区町村の教育委員会
義務教育は授業料が無償ですが、給食費・学用品費・修学旅行の積立金など、実際には保護者の負担が発生します。就学援助制度は、この「授業料以外の学校にかかる費用」を補うための制度で、所得基準を満たせば多くの家庭が利用できます。
補助対象費目は、学用品費・新入学児童生徒学用品費・通学費・修学旅行費・校外活動費・クラブ活動費・生徒会費・PTA会費・卒業アルバム代・オンライン学習通信費・医療費(学校病)・学校給食費など幅広く設定されています。「要保護(生活保護受給世帯)」と「準要保護(それに準ずる困窮世帯)」の2区分があり、準要保護の所得基準は市区町村ごとに独自に定められているため、同じ年収でも住んでいる自治体によって対象になるかどうかが変わります。制度の存在自体を知らずに利用していない家庭も多いとされているため、まずは学校に確認してみることをおすすめします。
学校種別の学習費はどのくらいかかるか
文部科学省の調査によると、学校種別の学習費総額(年額)は次のとおりです。
| 学校種別 | 公立 | 私立 |
|---|---|---|
| 幼稚園 | 約18万5,000円 | 約34万7,000円 |
| 小学校 | 約36万7,000円 | 約174万2,000円 |
| 中学校 | 約54万2,000円 | 約156万円 |
| 高等学校(全日制) | 約59万7,000円 | 約117万9,000円 |
私立は公立の2〜5倍程度の学習費がかかることが分かります。特に私立小学校は公立の約4.7倍と差が大きく、進学先の選択が家計に与える影響の大きさがうかがえます。「幼稚園だけ私立、それ以外は公立」というように、校種ごとに公立・私立を組み合わせるケースも多く、その場合の15年間の総額は647万円〜776万円程度になるとされています。この金額には塾や習い事等の学校外活動費も含まれるため、進学先を選ぶ際の目安として参考にしてください。
学費の支援制度は「返済不要」と「返済必要」の2種類に分かれる
まず大きな分類を押さえておくと、自分に合う制度を探しやすくなります。
| 分類 | 制度の例 | 返済 | 主な窓口 |
|---|---|---|---|
| 返済不要(給付) | 高等学校等就学支援金、高等教育の修学支援新制度(給付奨学金+授業料等減免) | 不要 | 学校経由、日本学生支援機構(JASSO) |
| 返済不要(減免) | 都道府県独自の私立高校授業料上乗せ補助 | 不要 | 都道府県 |
| 返済必要(無利子・有利子) | JASSOの貸与型奨学金(第一種・第二種) | 必要 | 学校経由、JASSO |
| 返済必要(融資) | 国の教育ローン(日本政策金融公庫) | 必要 | 日本政策金融公庫 |
返済不要の制度から検討し、それでも足りない場合に返済必要の制度を組み合わせるのが基本的な考え方です。返済不要の制度は所得制限があることが多いため、まず自分の世帯がどの制度の対象になるかを確認することが最初のステップになります。
高校の学費: 高等学校等就学支援金と都道府県独自の上乗せ
公立・私立を問わず、高校生の授業料を支援する国の制度が「高等学校等就学支援金」です。令和8年度からは所得制限なしで年45万7,200円が上限になります。
ただし、私立高校の授業料はこの上限額を超えることも多く、その差額を都道府県が独自に上乗せする仕組みがあります。上乗せの有無・金額は都道府県によって大きく異なり、実質的な自己負担額も地域差が生まれます。
- 国の支援金だけで足りるかどうかは、通う学校の授業料水準による
- 都道府県独自の上乗せがあるかどうかで、実質無償化に近づくかが変わる
高校の学費支援制度の詳細は、私立高校無償化はいくらまで?で都道府県ごとの実例を比較して解説しています。年収による支援額の違いは高校無償化と年収の関係、支援がいつから始まるかは高校無償化はいつから、所得制限の詳細は高校無償化の所得制限でそれぞれ整理しています。
大学・専門学校の学費: 高等教育の修学支援新制度(給付型奨学金+授業料等減免)
大学・短大・高専・専門学校に進学する学生向けの返済不要の支援が、「高等教育の修学支援新制度」です。日本学生支援機構(JASSO)が生活費相当を現金で支給する「給付奨学金」と、大学等が学費を安くする「授業料等減免」の2つがセットになっています。
- 給付奨学金: 私立・自宅外通学・第I区分(住民税非課税世帯)で月7万5,800円が最も高い水準
- 授業料等減免: 学校種別・設置者(国公私立)によって上限額が決まり、第I区分は上限額まで全額減免
令和8年度からは、子どもを3人以上扶養する多子世帯であれば、所得にかかわらず授業料等が原則無償になりました。 制度の成り立ちと対象要件は給付型奨学金とは?、大学に絞った合計支給額の試算は大学の給付型奨学金、「給付型か貸与型か」という制度の入口の判断は給付型奨学金とは?返さない仕組みで詳しく解説しています。
返済が必要な支援: JASSOの貸与型奨学金
給付型の対象にならない、または給付額だけでは足りない場合、JASSOの貸与型奨学金が選択肢になります。
- 第一種奨学金: 無利子。家計基準・学力基準は給付型よりやや広め
- 第二種奨学金: 有利子(在学中は無利子)。家計基準は比較的緩やか
貸与型は「借りて、あとで返す」制度のため、卒業後の返済負担を見込んだうえで利用額を決める必要があります。給付型と貸与型は併用できるため、給付型だけで足りない分を貸与型で補う、という組み合わせ方が一般的です。
返済が必要な支援: 国の教育ローン(日本政策金融公庫)
奨学金とは別に、保護者が借りる「教育ローン」という選択肢もあります。代表的なのが日本政策金融公庫の「国の教育ローン」です。
- 貸付限度額: 学生一人あたり350万円以内(自宅外通学・大学院・海外留学等の一定要件に該当する場合は450万円まで)
- 資金使途: 入学金・授業料だけでなく、教材費・通学費用・アパート等の敷金・家賃なども対象
- 特徴: 奨学金と違い保護者が借入・返済の主体になる。JASSOの奨学金との併用が可能
教育ローンは「入学前」にも申し込める点が奨学金と異なります。 JASSOの奨学金は入学後(または在学中)に振り込まれることが多いのに対し、教育ローンは入学金の支払いなど、まとまった資金が先に必要になる場面で使いやすい制度です。低所得世帯・ひとり親世帯・多子世帯(子ども3人以上を扶養)には金利の優遇や返済期間の延長といった措置もあります。
就職後の奨学金返済を軽くする「代理返還制度」
貸与型奨学金を利用して就職した後、企業が本人に代わって奨学金の返還額の一部または全部を負担する「企業による代理返還制度」を導入する企業が増えています。これは学費そのものへの支援ではありませんが、卒業後の返済負担を軽くする仕組みとして知っておく価値があります。
- 仕組み: 企業がJASSOに直接送金する形で、従業員(元奨学生)の返還額を負担する
- 対象: 制度を導入している企業に就職した人(企業ごとに条件は異なる)
- メリット: 企業側は損金算入等の税制上の扱いを受けられる場合があり、人材確保策として導入が広がっている
就職活動の段階で、応募先企業がこの制度を導入しているかどうかを確認しておくと、卒業後の返済負担の見通しが変わってきます。求人票や採用サイトの福利厚生欄に記載されていることが多いため、進路選びの一つの判断材料として確認してみるとよいでしょう。
学費のシミュレーション(3つのケース)
具体的にどの制度をどう組み合わせるか、3つのケースで考えてみます。
ケース1: 公立高校→国公立大学、住民税非課税世帯
高校では就学支援金(年45万7,200円)で授業料はほぼカバーされます。大学では、高等教育の修学支援新制度の第I区分(住民税非課税世帯)に該当すれば、給付奨学金(私立・自宅外なら月7万5,800円)と授業料等減免(国公立大学で年53万5,800円が上限)を受けられ、自己負担を大きく抑えられます。
ケース2: 私立高校→私立大学、多子世帯(子ども3人以上を扶養)
私立高校では、国の就学支援金(年45万7,200円)に加えて都道府県独自の上乗せがあれば、実質的な自己負担はさらに小さくなります。大学では、令和8年度からの多子世帯向け措置により、所得にかかわらず授業料等が原則無償になる可能性があります。
ケース3: 私立大学、中間所得層(給付型の対象外)
給付型奨学金の所得基準を超える世帯の場合、貸与型奨学金(第一種・第二種の併用)と国の教育ローンを組み合わせるのが一般的な選択肢になります。例えば、入学金・初年度納付金の一時金は教育ローンで賄い、在学中の生活費は貸与型奨学金で補う、という役割分担が考えられます。
同じ「学費」でも、世帯の所得区分と進学先によって使える制度の組み合わせがまったく変わることが、このシミュレーションから見えてきます。まずは自分の世帯がどの所得区分に当たるかを確認することが、支援制度を活用する第一歩になります。
自治体独自の奨学金・返還支援もある
このほか、都道府県や市区町村が独自に行う奨学金や、大学卒業後に地元へUターン就職した場合の奨学金返還支援を用意している自治体もあります。対象・金額は自治体ごとに大きく異なり、実施していない自治体も多いため、「(お住まいの自治体名) 奨学金」で個別に確認する必要があります。
制度の利用と並行して考える「事前の学費準備」
ここまで見てきた支援制度は、いずれも進学のタイミングで申請するものです。一方で、学資保険や積立預金のように、子どもが生まれた時点からコツコツ準備しておく方法もあります。
- 支援制度: 進学時の所得・世帯状況に応じて使える。所得制限があるものが多い
- 事前の貯蓄・保険: 所得にかかわらず誰でも利用できるが、準備には時間がかかる
両方を組み合わせることで、進学時の選択肢が広がります。 例えば、貯蓄である程度の入学金を準備しつつ、在学中の生活費は給付型・貸与型奨学金でまかなう、という役割分担も考えられます。「支援制度があるから貯蓄は不要」と考えるのではなく、両方を並行して考えておくことが、子どもの進学先の選択肢を狭めないための現実的なポイントです。
申請のタイミングを逃さないための時系列
学費の支援制度は、申請できる時期が制度ごとに決まっています。 「進学が決まってから慌てて調べる」と、間に合わない制度が出てくるため、時系列で把握しておくことが重要です。
- 進学の1〜2年前: 給付型奨学金の「予約採用」(進学前に採用候補者として決定する制度)の申請時期。高校3年生の春〜夏頃に案内があることが多い
- 入学前: 教育ローンの申し込み(入学金の支払いに間に合わせるため、早めの申請が必要)
- 入学後: 高校の就学支援金の申請(原則、入学後に学校を通じて手続き)、大学の授業料等減免・給付奨学金の「在学採用」申請
- 就職後: 貸与型奨学金の返還開始(卒業後7か月目から)、企業の代理返還制度の確認
特に給付型奨学金の「予約採用」は、進学先が決まる前の高校在学中に申し込む必要があるため、「大学に合格してから奨学金を探す」のでは遅い場合があります。高校の担任や進路指導の先生に、早い段階で相談しておくことをおすすめします。案内を見逃さないよう、学校からの配布物はきちんと確認しておきましょう。
専門学校・高専の学費支援も大学と同じ枠組み
高等教育の修学支援新制度は、大学だけでなく短期大学・高等専門学校(4〜5年生)・専門学校も対象に含まれています。国公私立を問わず、文部科学省が「対象校」として確認した学校に限られる点は共通です。
- 専門学校: 授業料等減免の上限額は学校種別の中でも幅があり、私立専門学校で年59万円が上限(国公立は16万6,800円)
- 高等専門学校: 私立で年70万円、国公立で年23万4,600円が授業料減免の上限
「大学以外は対象外」と誤解しているケースが少なくありませんが、専門学校・高専に進学する場合も同じ制度の対象になります。 ただし、通っている学校が文部科学省の確認を受けた「対象校」であるかどうかは、事前に学校のウェブサイトや学校説明会で確認しておく必要があります。
学費の相談窓口をどう選ぶか
制度ごとに窓口が異なるため、「何を」「誰に」相談するかを整理しておくと動きやすくなります。
| 相談したいこと | 窓口 |
|---|---|
| 高校の就学支援金・都道府県の上乗せ | 在学している高校の事務室、都道府県教育委員会 |
| 給付型奨学金・貸与型奨学金 | 在学(進学予定)の学校の奨学金窓口、JASSO |
| 教育ローン | 日本政策金融公庫(電話・オンライン相談) |
| 自治体独自の奨学金 | お住まいの市区町村・出身地の自治体 |
| 就学援助制度 | 在学する小中学校、市区町村の教育委員会 |
| 企業の代理返還制度 | 就職予定の企業の人事担当窓口 |
窓口を間違えると案内をたらい回しにされることもあるため、「どの制度について聞きたいか」を先に整理してから問い合わせると、話がよりスムーズに進みやすくなります。
よくある質問
給付型奨学金と教育ローンは併用できますか?
できます。給付型奨学金・貸与型奨学金・教育ローンは、それぞれ別の制度なので併用が可能です。ただし教育ローンは借入なので返済負担が生じる点を踏まえ、まず給付型・貸与型を優先的に検討するのが一般的です。
高校生の子どもと大学生の子どもがいる場合、両方の制度を使えますか?
使えます。高校生の子どもには高等学校等就学支援金、大学生の子どもには高等教育の修学支援新制度というように、校種ごとに別々の制度が適用されます。 多子世帯向けの優遇措置もあるため、扶養する子どもの人数もあわせて確認するとよいでしょう。
所得が高い世帯は学費の支援制度を一切使えませんか?
給付型奨学金や高校の就学支援金には所得制限がありますが、貸与型奨学金の第二種(有利子)は所得制限が比較的緩やかで、教育ローンには収入による優遇はあっても上限による対象除外はありません。所得が高い世帯でも、返済が必要な制度は利用できる場合があります。
就学援助制度は誰でも申請できますか?
所得基準を満たしている世帯であれば申請できます。 基準は市区町村ごとに異なり、生活保護受給世帯(要保護)だけでなく、それに準ずる程度に困窮している世帯(準要保護)も対象になります。「うちは対象外だろう」と決めつけず、在学する学校や市区町村の教育委員会に一度確認してみることをおすすめします。
給付型奨学金の予約採用に落ちた場合、大学入学後に再申請できますか?
できます。予約採用で不採用だった場合でも、大学等に入学した後に「在学採用」として改めて申請する機会があります。 予約採用と在学採用で審査基準が大きく変わるわけではありませんが、進学後の状況(成績等)が加味される場合もあるため、あきらめずに再申請することをおすすめします。
学費の支援制度と児童手当は関係がありますか?
児童手当は学費の支援制度とは別の制度で、中学生以下の子どもがいる世帯に支給される現金給付です。学費そのものへの支援ではありませんが、貯蓄に回して将来の学費に備える家庭も多く、学費を準備する手段の一つとして間接的に関わってきます。
兄弟姉妹が同時に進学する場合、支援額は増えますか?
制度によります。高等教育の修学支援新制度では、扶養する子どもの人数が多子世帯向けの判定に関わるため、兄弟姉妹が多いほど所得基準が緩和される、または授業料等が無償になる可能性があります。 一方、高校の就学支援金は子どもの人数に応じた加算はなく、それぞれの子どもについて個別に申請・支給される仕組みになっています。
免責事項: 本記事の内容は2026年9月時点で確認できた情報にもとづきます。制度の対象要件・金額は毎年見直される場合があるため、申請前に必ず文部科学省・JASSO・日本政策金融公庫等の公式ページでご確認ください。
