従業員を出向させるだけで助成金は出るのか。出ません。条件は、戻ってきた後の賃金です。出向から復帰した後の6か月間、毎月の賃金が出向前より5%以上高くなっていることが求められます。
助成されるのは、出向中の賃金を負担した分の2/3(中小企業)か1/2(中小企業以外)です。出向元だけでなく、出向を受け入れた出向先も受け取れます。ただし片方が要件を満たさないと、両方とも不支給になります。
産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)の要点まとめ
正式名:産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)
だれが
- 申請者
- 事業者(出向元の事業主。出向先の書類とあわせて申請)
- 対象業種
- 業種の指定なし(雇用保険適用事業所の事業主)
- 利用目的
- 在籍型出向によるスキルアップと賃上げ
- 対象地域
- 全国
- 従業員数
- 規定なし(中小企業は2/3、それ以外は1/2)
いくら
- 補助上限額
- 1事業所・1年度あたり1,000万円まで
- 補助率
- 中小企業2/3、中小企業以外1/2
いつ・どこへ
- 申請受付
- 通年(計画届は出向開始の前日まで)
うちの会社は対象になる?
次の6つにすべて当てはまれば、対象の見込みです。
当てはまるものにチェックを入れてください。0 / 6
最後の項目は、出向元事業主の要件です。職業能力開発推進者は、社内で教育訓練の計画づくりや相談を担う人のことです。事業所ごとに1名以上を選びます。労務や人事の部課長が当たる例が示されています。
対象の従業員は、出向元の雇用保険被保険者で、計画届に名前がある人です。出向の前日までに6か月以上、引き続き雇用されている必要があります。
次のどれかに当たると対象外です。
- ✕ グループ会社間など独立性がない
- ✕ 戻らない転籍型の出向
- ✕ 有期契約の従業員
独立性がないとみなされるのは、次のような場合です。親会社と子会社の間、資本金の50%を超えて出資している間、代表者が同じ会社どうし、取締役の過半数を互いに兼ねている間などです。出資が50%以下でも、人事や経理への関与が深いなどの事情で独立性なしと判断されることがあります。迷うときは労働局で確かめます。
いくら戻ってくる?
助成額は、出向中の賃金のうち自社が負担した額に助成率をかけます。助成率は中小企業が2/3、中小企業以外が1/2です。助成の期間は出向開始日から最長1年間です。
1人1日あたりの上限は9,110円です。出向元と出向先の助成額の合計に対する上限で、雇用保険の基本手当日額の最高額にあたります。毎年8月に改正されます。1事業所が1年度に受け取れるのは1,000万円までです。同じ従業員への支給は1人1回までで、同じ賃金に別の雇用関係助成金を受けているときは対象になりません。
中小企業の範囲は業種で決まっています。資本金か従業員数のどちらか一方を満たせば中小企業です。小売業(飲食店を含む)は5,000万円以下か50人以下、サービス業は5,000万円以下か100人以下、卸売業は1億円以下か100人以下、その他の業種は3億円以下か300人以下です。
計算例です。
- 中小企業の出向元が、出向者の賃金を月24万円負担:24万円 × 2/3 = 16万円(12か月で192万円)
- 中小企業以外の出向先が、出向者の賃金を月24万円負担:24万円 × 1/2 = 12万円
- 賃金の負担が1日1万5千円:15,000円 × 2/3 = 10,000円 → 1日の上限9,110円
3つ目のように1日の上限に当たると、出向元と出向先が負担した割合で9,110円を分けます。
同じ条件の出向者が5人いれば、192万円 × 5人 = 960万円です。6人目から、1事業所1年度あたり1,000万円の枠に届きます。
どんな出向なら助成される?
対象にならない出向
- 港湾運送、建設、警備、病院などの医療関係の業務に就く出向
- 雇用調整、経営指導・技術指導、人事交流が目的の出向
- 従業員どうしを交換する出向
- 出向中の賃金が出向前を下回る出向
- 出向開始前の3年間に、出向先で働いたことがある人の出向
- 同じ会社(同一の事業主)の事業所間の出向
- 出向開始から1か月がたたないうちに終わる出向
対象になる出向
- スキルアップが目的で、労使協定にもとづく出向
- 出向元と出向先が出向契約を結んだ出向
- 本人が同意した出向
- 出向元に復帰する在籍型の出向
出向労働者に払う賃金は、出向前以上でなければなりません。出向前は出向開始日の前日、出向中は支給対象期間の末日の時点で、1日あたりの賃金額を比べ、出向中が100%以上である必要があります。賃金を合理的な理由なく下げてから出向させた場合は、要件を満たしません。
部分出向(週のうち特定の日だけ出向先で働く形)も対象です。出向先で勤務する日に、出向元で勤務しないことが条件です。出向先の勤務予定日数は、出向前の月の所定労働日数の半分以上が必要です。
賃金は何を、いつ比べる?
比べるのは、出向から戻った後の6か月間の毎月の賃金です。出向開始日の属する月の前月に払われた毎月決まって支払われる賃金と比べ、6か月すべてで5%以上上がっている必要があります。1か月でも届かないと不支給です。
月給30万円の人なら、復帰後の6か月はすべて31万5千円以上にします。
比べる賃金に入るのは、基本給と、役職手当・資格手当のように労働と直接関係して全員に支給される手当です。時間外手当、休日手当、夜勤手当、精皆勤手当などは入りません。家族手当、通勤手当、住宅手当は原則として入りませんが、全員に一律で払う場合は入ります。ベースアップや定期昇給による上昇も数えます。
6か月の始まりは、出向中の賃金を含まない最初の賃金支払日が属する月です。たとえば出向が3月末までで、4月10日払いに出向中の賃金が含まれていれば、5月から6か月(10月まで)を見ます。
申請の流れ
出向を始める前の準備が、助成を受けられるかを決めます。計画届を出さずに始めた出向は、助成の対象になりません。
- 出向先と条件を決める(出向元→出向先。産業雇用安定センターのマッチングを使う方法もあります)
- 労働組合等と出向協定を結び、出向先と出向契約を結ぶ(出向元→労働者の過半数を代表する組合など、出向先)
- 本人の同意書をもらう(出向元→出向する従業員。同意書は自署で)
- 計画届を出す(出向元→労働局またはハローワーク。出向開始日の前日まで、できれば2週間前までに)
- 出向を実施し、復帰後6か月の賃金を5%以上上げる(出向元)
- 支給申請を出す(出向元→労働局またはハローワーク。出向協定を結んだ労働組合等と出向先の確認を受けたうえで、賃金上昇確認期間の最後の賃金支払日の翌日から2か月以内)
出向契約書には、出向元で出向期間中を休職扱いにすること(部分出向を除く)と、賃金の負担のしかたを書きます。負担のしかたは、国が示す7つの型のどれかに当てはまる必要があります。
計画届に載せられるのは、出向開始日が計画届の提出日から3か月以内の人です。
出向先の雇用状況に関する証明書など一部の書類は、計画届を出した日から1か月以内に出せます。
必要な書類
準備できた 0 / 12
計画届を出すときは、ほかに事業所の状況を示す書類も要ります。労働局から追加の書類を求められることもあります。提出した書類は、支給決定日の翌日から5年間保存します。
もらえなくなるのはどんなとき?
- 計画届を出さずに出向を始めた:事前に計画届の提出がない出向は、助成の対象になりません。受理されただけで支給が決まるわけでもなく、計画届と支給申請の両方で審査があります。
- 賃金が5%上がらない月がある:復帰後の6か月のうち、1か月でも出向前の賃金の105%に届かなければ不支給です。
- 復帰後6か月のうちに別の事業所で働かせた:出向終了日の翌日から6か月が過ぎるまで、出向や派遣、請負などで出向元以外の事業所で働かせることはできません。その6か月を過ぎたあとも、継続して雇用している必要があります。事業主の都合でない退職の場合は、要件を満たすものとして扱われます。
- 出向元と出向先の一方が要件を満たさない:どちらかが対象外になると、両方とも不支給です。出向先は、直近3か月の雇用保険被保険者と派遣労働者の合計が前年同期より、中小企業で10%超かつ4人以上、中小企業以外で5%超かつ6人以上減っていないことが要件です。出向を受け入れるために従業員を解雇していないかも確かめます。
- 事業主の都合で解雇した:出向元は、出向開始日の前日から6か月前の日から支給申請書を出す日までの間、事業主都合の解雇や退職勧奨をしていないことが要件です。同じ期間に特定受給資格者となった離職者が被保険者数の6%を超え、かつ4人以上いる場合も対象外です。
- 期限を過ぎた:申請が2か月を過ぎると、1日でも受け付けられません。
令和8年4月8日の変更点
令和8年4月8日以降に計画届を出した出向から、出向先の事業主も助成の対象になりました。この日より前に出した計画届は、出向元のみが対象です。
あわせて助成額の計算も変わりました。令和8年4月7日以前の計画届では、出向中の賃金のうち出向元が負担する額と、出向前の賃金の1/2の額のうち低いほうに助成率をかけました。令和8年4月8日以降の計画届では、負担した額に助成率をかけます。
中小企業庁の施策ガイドブックには、1日あたり上限を8,870円と載せた版があります。令和7年8月時点の額で、厚労省のページでは9,110円です。
よくある質問
出向元と出向先は、どちらが申請しますか?
出向元の事業主が、出向先が作成した書類とあわせて、労働局またはハローワークに申請します。出向先は自分の書類を出向元に渡す立場です。審査は出向元と出向先のそれぞれに行われ、支給の決定もそれぞれ行われます。どちらかが要件を満たさないと両方が不支給になるので、計画届の前に相手の状況も確かめます。
転籍や移籍型の出向でも使えますか?
使えません。この助成金は、出向元の従業員としての地位を持ったまま出向先で働き、出向が終わったら元の事業所に戻る在籍型出向が対象です。復帰しないのに復帰するものとして申請すると、不正受給に当たります。出向の期間が終わる時点で元の事業所に戻す前提を、協定書や契約書にも書いておきます。
賃金の5%上昇は、何と何を比べますか?
出向開始日の属する月の前月に払った、毎月決まって支払われる賃金と、復帰後6か月の各月の賃金を比べます。基本給と、全員に支給される役職手当などが対象です。時間外手当や休日手当は入りません。たとえば月給30万円なら、6か月とも31万5千円以上にします。ベースアップや定期昇給の分も数えられます。
出向期間は何か月ですか?
1人あたり1か月以上2年以内です。出向開始日から1か月がたつ前に終わった出向は対象になりません。ただし助成の対象になるのは、出向開始日から1年が経つ日まで(その前に出向が終われば終了日まで)です。出向期間を2年に設定した場合でも、助成は最初の1年の分だけです。1年を超えた分の賃金は助成されません。出向期間は、労使協定と出向契約書に書いた期間の範囲内で決めます。
計画届はいつまでに出しますか?
出向を開始する日の前日までです。ガイドブックは、可能なら2週間前までを目安としています。郵送でも締切日必着で、末日が行政機関の休日なら翌開庁日が締切です。計画届の審査は書類がそろってからなので、期限に間に合っても、審査の結果として対象外になることがあります。早めの提出が安心です。
支給申請の期限はいつですか?
賃金上昇確認期間の最後の賃金支払日の翌日から2か月以内です。1日でも過ぎると受け付けられません。たとえば復帰後6か月目の賃金を10月10日に払うなら、10月11日から数えて12月10日ごろが目安です。正確な日付は自社の賃金支払日で数えます。末日が休日なら翌開庁日です。
職業能力開発推進者とは何ですか?
職業能力開発促進法第12条に定められた、社内で教育訓練の取組みを進める担当者です。事業内職業能力開発計画の作成と実施、従業員への相談や指導を行います。出向元事業主は、この推進者を選任している必要があります。事業所ごとに1名以上が基本です。常時100人以下の事業所で適任者がいなければ、本社の推進者と兼ねることもできます。
有期契約の従業員は出向させられますか?
出向させるのは自由ですが、有期契約の従業員は助成の対象労働者になりません。ほかにも、出向の前日までに雇用が6か月に満たない人、解雇を予告された人、退職願を出した人、日雇労働被保険者、特例高年齢被保険者は対象外です。出向先で3年以内に働いたことがある人も除かれます。対象を決める前に、全員を確かめます。
同じ会社の別の事業所への出向は対象ですか?
対象になりません。事業所から他の事業主の事業所へ出向することが対象で、同じ法人(同じ事業主)の間は、雇用保険の適用事業所番号が違っても助成されません。同じ従業員を復帰させたあとに再び出向させても、助成は1人1回までなので、2回目は対象外です。
企業グループ内の出向は対象になりますか?
対象外です。親会社と子会社の間や、代表者が同じ会社どうしの出向のように、資本的・経済的・組織的に独立していない関係は助成されません。資本金の50%超の出資、代表者が同じ人、取締役の過半数の兼務のいずれかがあると、独立性なしと判断されます。それ以外でも、人事や経理への関与などから判断されることがあります。
復帰後に従業員が辞めたら、助成は受けられませんか?
事業主の都合でない理由で辞めた場合は、要件を満たすものとして扱われます。たとえば本人の自己都合の退職です。一方、事業主都合の解雇や退職勧奨は、支給決定までの間にしてはいけません。復帰後6か月の賃金の比較ができない月があるときは、労働日数が著しく少ないなど比べるのが適当でない月を除いて、すべての月で5%以上上げます。
出向先を探すにはどうすればよいですか?
産業雇用安定センターが、全国47都道府県の事務所で出向のマッチングを無料で行っています。ウェブサイトで、出向の受入れを希望する事業所の情報も検索できます。ただしセンターを通さない出向も助成の対象です。計画届や支給申請の窓口はセンターではなく、都道府県労働局かハローワークなので、間違えないようにします。
電子申請はできますか?
雇用関係助成金ポータルで、計画届、変更届、支給申請ができます。郵送や窓口でも出せます。窓口は原則として都道府県労働局で、ハローワークで受け付ける場合もあります。ポータルから計画届を出すときは、期日までに出せない書類をシステム上で選ぶ必要があります。詳しい操作は厚労省のページのマニュアルをご覧ください。
