診療報酬のベースアップ評価料を届け出ても、物価高と賃上げの負担がすぐに軽くなるわけではありません。東京都は、その差を埋める費用を診療所や訪問看護ステーションに定額で支給していました。
この申請は2026年8月7日に終了しています。 都内の無床診療所・歯科診療所は賃上げ支援15万円と物価支援17万円で計32万円、訪問看護ステーションは賃上げ支援22.8万円でした。有床診療所は病床数に応じて増えます。次の募集に備えて、条件と賃金改善のルールを整理しておきます。
東京都 医療機関等の賃上げ・物価上昇支援事業の要点まとめ
正式名:東京都医療機関等における賃上げ・物価上昇に対する支援事業(診療所・歯科診療所、訪問看護ステーション申請用)
だれが
- 申請者
- 事業者(都内の診療所・歯科診療所・訪問看護ステーションの開設者)
- 対象業種
- 医療業(有床・無床診療所、歯科診療所、訪問看護ステーション)
- 利用目的
- 賃上げ、物価高騰への対応
- 対象地域
- 東京都内(開設者の住所が都外でも、施設が都内なら対象)
- 従業員数
- 規定なし(施設単位で支給)
いくら
- 補助上限額
- 施設の種別で単価が異なる(無床診療所32万円、訪問看護22.8万円ほか)
- 補助率
- 定額支給
いつ・どこへ
- 申請受付
- 2026年6月11日〜2026年8月7日(受付終了)
- 事業の完了
- 賃上げは2026年5月分までの実施と6月以降の維持が条件
自分の施設は対象だった?
次の5つに当てはまれば対象でした。
当てはまるものにチェックを入れてください。0 / 5
施設の種別は、有床診療所・無床診療所・歯科診療所・訪問看護ステーションのどれかです。請求実績は2025年4月1日から申請時点までのもので、廃院・廃止の予定も申請時点で判断しました。ベースアップ評価料の届出は、2026年3月1日時点のものです。
ベースアップ評価料とは、医療従事者の賃上げを診療報酬で評価する仕組みです。現行制度では届け出られない施設(院長と事務職員だけの診療所など)は、2026年6月1日時点で見直し後の評価料を届け出ると誓約すれば対象になりました。
対象外だったのは次のケースです。
- ✕ 都が開設している医療機関等
- ✕ 申請時点で休止・廃止届を出していた
- ✕ 2026年1月1日時点で廃院・廃止
- ✕ 助産所・施術所・歯科技工所
- ✕ 病院
休止・廃止や廃院でも、事業譲渡で診療が続く場合など、知事がやむを得ないと認めたときは別でした。助産所・施術所・歯科技工所は別の申請区分で、金額も異なります。病院は、厚生労働省から支給される別の枠です。
いくら支給される?
支援は「賃上げ」と「物価」の2本立てで、施設の種別ごとに単価が決まっていました。
| 施設の種別 | 賃上げ支援 | 物価支援 |
|---|---|---|
| 無床診療所・歯科診療所 | 15万円/施設 | 17万円/施設 |
| 有床診療所 | 7.2万円 × 許可病床数(2床以下は15万円) | 1.3万円 × 許可病床数(13床以下は17万円) |
| 訪問看護ステーション | 22.8万円/施設 | なし |
計算の例です。
- 無床の歯科診療所:15万円 + 17万円 = 32万円
- 10床の有床診療所:7.2万円 × 10床 = 72万円、物価支援は13床以下なので17万円で、合計は89万円
- 19床の有床診療所:7.2万円 × 19床 = 136.8万円、1.3万円 × 19床 = 24.7万円で、合計は161.5万円
- 訪問看護ステーション:22.8万円(物価支援はありません)
病床数は、一般・療養・精神・感染症・結核などを合わせた使用許可病床数です。訪問看護ステーションの物価支援は、介護保険法の指定を受けていれば福祉局の「介護事業所等に対するサービス継続支援事業」の対象になる、と公式ページに書かれています。
賃上げの使い方に決まりはある?
賃上げ支援は、受け取った額を職員の賃金改善につなげることが前提でした。受け取った額を賃金改善以外に使うと、決定の取消しと返還の対象になります。
- 2025年12月から2026年5月までの6か月間、対象職員の基本給か、毎月決まって払う手当を引き上げる
- 2026年6月1日以降も、その水準を維持するか上回らせる
- 給与規程の改定に時間がかかる場合は、2025年12月から2026年3月までの最大4か月分を一時金か特別手当で払える。ただし2026年4月と5月は基本給や毎月の手当の引き上げが必要です
賃金改善に含められるのは、引き上げ分に連動して増える賞与・時間外手当・法定福利費の事業主負担分です。法定福利費は「(基本給等の引上げ分+賞与の増額分+時間外手当の増額分)×16.5%」で簡単に計算できます。
含められないものもあります。定期昇給による上昇分、診療報酬や他の補助金を財源にした部分、通勤手当や扶養手当のように個人の事情で払う手当です。施設の管理者・法人の理事長・個人事業主本人は賃上げの対象者に入りません。
申請の流れはどうなっていた?
- 案内を受け取る(東京都→施設。2026年4月28日以降にご案内はがきを送付。対象なのに届かない場合もあるとされています)
- Webで事前に申し込む(施設の開設者→都の事務局。2026年5月14日から6月10日まで。ご案内はがきには、Jグランツでも書面でも事前申込みが必要と書かれています)
- 申請書を用意する(施設の開設者。事前申込みをした施設には7月上旬から順次メールで申請書が届き、していない施設は都のページから様式をダウンロード)
- Jグランツか郵送で出す(開設者→都の事務局。どちらも2026年8月7日まで。郵送は当日消印有効)
- 不備があれば補正する(開設者。補正に応じないと取り下げ扱いになります)
Jグランツで出す場合は、GビズIDプライム(国の電子申請に共通で使うID)が要ります。発行に2〜3週間かかるため、早めの取得が呼びかけられていました。
書面で出すときの書類
準備できた 0 / 3
交付申請兼実績報告書は様式第1号と別紙で、Web事前申込みで届いたメールからも入手できました。口座の書類は、ネットバンキングの口座情報の写しでも構いません。印鑑証明書は個人事業主なら印鑑登録証明書で、原本が申請書1枚につき1枚必要です。申請書にはその届出印を押します。
賃金台帳などの証拠書類は、申請時には求められていません。ただし確定の日の属する年度の終了後5年間は保管する決まりです。
支給後に返還を求められるのはどんなとき?
- 賃上げをしなかった・水準を下げた:支給額は賃上げに使う前提です。賃金項目の水準を下げることや、一部の職員に偏らせることも認められていません。
- 偽りや不正があった:虚偽の申請などで決定が取り消されると、返還に加えて年10.95%の違約加算金がかかります。
- 受給後に正当な理由なく廃院・廃止した:事業譲渡で診療が続く場合など、知事がやむを得ないと認めたときは別です。
- 補正の依頼に応じなかった:申請が取り下げ扱いになり、支給されません。
受付が終わったあと、どう備える?
東京都の公式ページは2026年7月15日更新の状態で、追加募集の案内は載っていません。次の募集があるかどうかは確認できませんでした。
Q&Aには、別事業の「医療機関等物価高騰緊急対策事業」について、令和8年度・9年度とも「実施に向けて準備中」で、申請時期は別途ホームページでお知らせする、と書かれています。ベースアップ評価料の届出状況と賃金台帳は、募集が出たときにすぐ使えるよう整えておくと動きやすくなります。
よくある質問
助産所や施術所は同じ申請でよいですか?
別の申請区分です。この記事の対象は、診療所・歯科診療所・訪問看護ステーションです。助産所・施術所・歯科技工所は、Jグランツでも別のページから申請する形で、金額も異なります(施術所と歯科技工所は賃上げ7.5万円・物価8.5万円)。自施設がどの区分かは、東京都保健医療局のページで確かめてください。
病院は対象ですか?
病院は対象外です。東京都のページには「病院については、厚生労働省から支給します」と書かれています。この事業の対象は、有床診療所・無床診療所・歯科診療所・訪問看護ステーションなどの施設です。病院の開設者は、厚生労働省側の案内で自院の扱いを確認する必要があります。
開設者の住所が都外でも申請できますか?
申請できます。Q&Aでは、開設者の所在地が都外でも、医療機関等の所在地が都内であれば対象になるとされています。判断の基準は施設がどこにあるかです。一方、都が開設している医療機関等は対象になりません。都内に複数の施設を運営している場合も、施設ごとに要件を確かめます。
賃上げ支援か物価支援のどちらかだけ申請できますか?
どちらか一方だけの申請も可能でした。Q&Aには、物価支援はより多くの施設が使える事業なので、希望があれば申請漏れのないよう検討してほしい、と書かれています。賃上げ支援は賃金改善の実施が条件で、物価支援にはその条件がない点が違います。無床診療所なら合計32万円ですが、片方だけなら15万円か17万円です。
賃金表の改定が間に合わないときはどうしますか?
2025年12月から2026年3月までの最大4か月分を、一時金(臨時賞与など)や特別手当で払う方法が認められていました。ただし2026年4月と5月は、基本給の引き上げか毎月の手当の支給が必要です。一時金で始めた場合も、2026年6月1日から、その水準に当たるベースアップを続けることが条件でした。
育休中の職員や途中で入退職した職員は対象ですか?
育休中の職員は、ベースアップ評価料の対象職員にならないため、この事業でも賃金改善の対象外です。期間中に採用した職員は、基本給などの引き上げ分は採用月から2026年5月まで、一時金は採用月から2026年3月までが含まれます。退職した職員は、2025年12月から退職月までが含まれます。
賃金台帳は申請時に出す必要がありましたか?
申請時や実績報告時に、証拠書類の添付は求められていませんでした。ただし、実績報告の内容を確認するときに、提出や提示を求められることがあります。賃金台帳などの帳簿は、補助金の額が確定した日の属する年度の終了後5年間、保管してください。保管していないと、確認を求められたときに説明できなくなります。
6月以降に賃上げの水準を下回ったら返還ですか?
Q&Aでは、受診患者数の変動でベースアップ評価料の収入が減り、2026年6月1日以降の賃金改善の水準が事業で実施した水準を下回っても、給付金を賃金改善に充てていれば返還は不要とされています。ただし、賃金項目の水準を下げることは別の問題です。2026年5月までは水準を下げてはならない決まりです。
廃院を予定している場合も申請できましたか?
申請時点で休止届・廃止届を出している場合は対象外でした。物価支援は2026年3月31日まで運営を続けていれば対象です。賃上げ支援は、2026年6月以降も運営され、申請期限の8月7日まで続いている施設が対象でした。8月6日までに廃院しても、同じ法人内で職員の雇用が続くなら差し支えない、とされています。
2.0%を上回るベースアップはどう扱いますか?
2025年度に、2025年3月31日時点の賃金水準より2.0%を超えて賃上げをしていた場合、2025年12月から2026年5月までの2.0%を超える部分に、この事業の支給額を充てられます。たとえば3.5%上げて維持していれば、1.5%分×6か月×対象職員数が充当の対象です。余った分は賃金改善に使います。
消費税の仕入控除税額の報告は必要ですか?
不要です。Q&Aには、この事業は特定の設備などを購入するための補助金ではないため報告は要らない、と書かれています。申請書類は、実績報告を兼ねた交付申請兼実績報告書にまとまっているため、手続きの手間も少なく済みます。ただし賃金台帳などの書類は5年間保管してください。
問い合わせ先はどこですか?
東京都の事務局(電話 03-6820-6037)です。ベースアップ評価料の届出そのものについては、都は受け付けておらず、関東信越厚生局東京事務所に問い合わせる決まりでした。次の募集があるかどうかも、保健医療局のページで確かめられます。電話は、申請内容の不備を直すときにも使えます。
