「年収の壁」を越えないように、パートが働く時間を抑える。その一因が、配偶者の年収を支給条件にした配偶者手当です。この奨励金は、手当の見直しを実際にやった都内の中小企業に、1コース30万円を出します。就業規則の改正は、必ず労使協定の締結より後にしてください。順番を間違えると対象外です。
「年収の壁突破」総合対策促進奨励金の要点まとめ
正式名:令和8年度「年収の壁突破」総合対策促進奨励金
だれが
- 申請者
- 都内の中小企業事業主(個人事業主を含む)
- 対象業種
- 業種の指定なし(風俗営業等は対象外)
- 利用目的
- 配偶者手当の見直し、社会保険料に関する手当の新設
- 対象地域
- 東京都
- 従業員数
- 都内勤務の雇用保険加入者が1名以上(6か月以上継続)
いくら
- 補助上限額
- 最大50万円(1コース30万円、2コースで50万円)
- 補助率
- 定額
いつ・どこへ
- 申請受付
- 2026年5月18日〜2027年2月28日(月ごとに全10回)
- 事業の完了
- 取組は交付決定から3か月以内、実績報告は4か月以内
奨励金は2つのコースに分かれます。
- 配偶者手当見直しコース:配偶者の収入要件がある手当を見直す
- 社会保険加入促進コース:新しく社会保険に入るパートらの保険料に関する手当をつくる
うちの会社は対象になる?
共通の条件は次のとおりです。申請日から実績報告日まで、すべて満たし続ける必要があります。
当てはまるものにチェックを入れてください。0 / 5
コースごとの条件は次のとおりです。前者が見直しコース、後者が加入促進コースの条件です。
- 収入要件つきの配偶者手当がある
- 新たに社保に入るパート等がいる
次のどれかに当たると対象外です。
- ✕ 過去5年に重大な法令違反がある
- ✕ 同じコースを過去に受給した
- ✕ 交付決定前に見直しを済ませた
補足をいくつか書きます。
雇用保険加入者は、申請日の時点で雇入れから6か月以上たっている人を指します。休業中の人も数えます。就業規則の届出は、常時雇用の労働者が10人未満でも必要です。ここは労働基準法の義務より厳しい扱いです。労基署の受付印が申請日より後の日付だと、受け付けられません。
中小企業事業主かどうかは、国の雇用関係助成金の基準で決まります。資本金か常時雇用の人数のどちらかが基準以下なら該当します。小売業(飲食店を含む)は5,000万円以下または50人以下、サービス業は5,000万円以下または100人以下、卸売業は1億円以下または100人以下、その他は3億円以下または300人以下です。
社会保険加入促進コースは、同じ内容の手当が就業規則にすでにある場合は対象になりません。ただし、対象者を広げる改正は認められます。すでに雇っている非正規の人を正規雇用に転換する計画も、このコースの対象になりません。社会保険に未加入の非正規の人が、新たに加入する計画が必要です。
いくらもらえる?
コースごとの定額で、1事業主につき1回だけです。
- 配偶者手当見直しコースだけ:30万円
- 社会保険加入促進コースだけ:30万円
- 2コースとも実施:30万円 × 2コース = 60万円 → 上限の50万円
2コースで受け取れるのは50万円です。合計の60万円にはなりません。コースの追加は、交付申請のあとにはできません。2コースでやるなら、申請の時点で両方を選んでください。
どんな見直しなら認められる?
対象にならない見直しを先に挙げます。
- 配偶者手当を廃止しただけで、基本給への繰り入れもしない
- 配偶者の年収が一定額以下という条件を、金額だけ変えて残す
- 配偶者手当を廃止し、新しい手当にも配偶者の収入要件を付ける
- 見直しの予定が取組期間(交付決定から3か月)より先
- 手当を廃止して、元の対象者の基本給だけを上げる
対象になる見直しは、配偶者手当見直しコースでは次の3つのどれかです。
- 収入要件をなくして、配偶者のいる従業員に一律で支給する
- 手当を廃止して、子ども手当や介護手当など別の手当に振り替える
- 手当を廃止して、従業員全員の基本給に繰り入れる
募集要項には、こんな例が載っています。配偶者手当を月2万円払っている会社が、手当を廃止して子ども手当を1万5,000円支給する。または、フルタイムの非正規を含む全従業員の賃金を3,000円引き上げる。どちらも対象です。基本給に入れる場合は、もともと手当の対象でなかった人も含めます。
社会保険加入促進コースでは、新しく社会保険に入るパート従業員に月額の手当を出す規定をつくります。条文には、施行日、対象者、月額の金額(○○円、または保険料の○○%)を書きます。支給は毎月です。半年に一度や、1年だけの期間限定は認められません。
申請の流れ
- GビズIDプライムを取る(事業者→デジタル庁。電子申請をするなら早めに。郵送でも申請できます)
- 交付申請を出す(事業者→東京しごと財団。月ごとの受付期間内)
- 交付決定を受ける(財団→事業者。決定の前に労使協定の締結や就業規則の改正をしない)
- 1回目の個別相談を受ける(事業者→社会保険労務士。交付決定から1か月以内。オンライン)
- 労使協定、就業規則の改正、労基署への届出、社内周知と研修の順に進める(事業者。交付決定から3か月以内)
- 2回目の個別相談を受ける(事業者。1回目のあと、取組期間の最終日の1か月前までが目安)
- 実績報告を出す(事業者→財団。交付決定から4か月以内)
- 額の確定通知を受けて請求する(事業者→財団。振込を待つ)
労使協定は、会社と労働者代表が書面で結ぶ約束です。労働者代表は、パートやアルバイトを含む労働者の過半数でつくる労働組合があればその代表です。組合がなければ、過半数を代表する従業員が、投票などで選ばれた人になります。部長などの管理監督者や、会社が指名した人はなれません。
交付決定の前にやってよいのは、就業規則の改正案を社内で検討し、相談することだけです。
就業規則の「改正」は、規則の内容を変えることです。「施行」とは別です。改正日と施行日は附則に書き、施行日は取組期間内で、改正日から1か月以内にします。
必要な書類
準備できた 0 / 12
表の補足です。
- 雇用保険の確認通知書は、事業主通知用の1名分です。被保険者通知用は受け付けられません。
- 賃金台帳は配偶者手当見直しコースだけ、内定通知書は社会保険加入促進コースだけです。
- 履歴事項全部証明書と郵送申請の印鑑証明書は、発行から3か月以内のものです。電子申請では印鑑証明書は要りません。
- 個人事業主は、履歴事項全部証明書の代わりに、都内の税務署に出した開業・廃業等届出書の写しを出します。資本金が5,000万円を超える法人は、従業員数が分かる会社案内なども要ります。
- 個人事業主は、個人都民税の納税証明書を区市町村で取ります。個人事業税は都税事務所です。
- 就業規則は、本則と賃金規程などの別規程をすべて出します。労基署の受付印が必要です。
- 実績報告では、労使協定の写し、改定後の就業規則、見直し報告書などを別に出します。
もらえなくなるのはどんなとき?
- 手順の順番が違った:労使協定の締結のあとに就業規則を改正します。逆は対象外です。日付で確認されます。
- 個別相談が2回に足りない:取組期間に2回の利用実績がないと対象外です。1回目は交付決定から1か月以内です。
- 実績報告が間に合わなかった:期限は交付決定から4か月以内で、1日でも過ぎると受け付けられません。
- 途中で中止届を出した:中止後は、この奨励金に再度申請できません。
- 書類の不備で不交付になった:奨励金が出ないだけでなく、申請したことにはなります。次年度以降の同内容の奨励金には申請できません。
- 支給後に制度を削除した:整備した制度を就業規則から消すと、返還を求められることがあります。
手続きの取りやめと変更
交付申請を取り下げたいときは、申請撤回届(様式第6号)を出します。交付決定から14日以内なら、撤回は申請しなかったものとして扱われます。同じ年度の受付期間内に、もう一度申請できます。
交付決定から15日以降に取りやめるときは、中止届(様式第7号)です。こちらは再申請ができません。迷う場合は、決定の通知から14日以内に判断してください。
よくある質問
配偶者手当が就業規則にない会社でも申請できますか?
配偶者手当見直しコースは申請できません。このコースは、収入要件のある配偶者手当が就業規則にすでにあり、過去5年以内に支給した実績があることが条件です。ただし、社会保険加入促進コースなら、手当の新設が取組になります。新しく社会保険に入るパートらがいれば、そちらで申請できる可能性があります。自社の就業規則の条文を、先に確かめてください。
家族手当や扶養手当という名前でも対象ですか?
名前は問われません。企業が配偶者のいる従業員に支給する手当で、就業規則に定められていれば、扶養手当や家族手当でも配偶者手当として扱われます。ただし、対象になるのは収入要件がある手当です。たとえば配偶者の年収が103万円以下、または社会保険の扶養に入れる年収130万円未満という条件がある場合です。条件がない手当は、見直しコースの対象にはなりません。
手当を廃止するだけでは対象になりませんか?
対象になりません。廃止のみ、新設のみは奨励金の見直しとして認められません。収入要件をなくす、他の手当に振り替える、基本給に繰り入れるのどれかが必要です。基本給に入れる場合は、就業規則と労使協定の両方に、繰り入れを明記します。明記がないと対象外です。手当の対象でなかった従業員も含めた全員が、繰り入れの対象になります。
社会保険加入促進コースの手当はいくらにすればよいですか?
金額の下限は、読んだ範囲の募集要項には書かれていません。月額の定額(例:○○円)か、社会保険料額の○○%のどちらかで、毎月支給と明記します。条文には、施行日と対象者も書きます。支給期間を1年間に限ったり、半年に一度の支給にしたりすると、対象外になります。具体的な金額の設計は、個別相談で社会保険労務士に尋ねられます。
個別相談は社労士に任せて、自分は出なくてもいいですか?
任せきりはできません。個別相談は専門家との相談で、申請企業の担当者や従業員が、取組内容を分かる状態で出席する必要があります。顧問の社会保険労務士が同席するのは構いません。ただし、専門家だけの出席は取組として認められません。相談はオンラインで、1回1時間です。パソコンかタブレットで、カメラとマイクをオンにして参加します。
個別相談はいつまでに何回受けますか?
取組期間の交付決定から3か月以内に、合計2回です。1回目は交付決定から1か月以内に受けます。2回目は1回目のあとで、取組期間の最終日の1か月前までが望ましいとされています。2コースでやる場合も、2回のままです。予約は交付決定後に届くメールのフォームから行い、期限の5営業日前までに完了させてください。
社会保険加入促進コースで、パートの社会保険加入はいつまでに必要ですか?
募集要項には、取組期間の終了日から6か月以内に社会保険へ加入することが原則と書かれています。対象になる人は、交付申請日以降に新たに加入要件を満たす人です。申請日より前から要件を満たしていて、さかのぼって加入する人は含まれません。採用予定の人なら、入社日が取組期間内で、内定通知書を出している人が対象です。
労働者代表は誰を選べばよいですか?
パートやアルバイトを含む労働者の過半数でつくる労働組合があれば、その代表です。組合がなければ、投票などで選ばれた、労働者の過半数を代表する従業員です。部長や工場長などの管理監督者はなれません。会社が指名した人も、使用者の意向で選んだことになるので認められません。事業所が複数ある場合は、事業所一覧にあるすべての事業所で締結します。
申請は何回できますか?
1事業主につき、同一年度で1回だけです。令和7年度に同じコースを受給した、または審査中の場合は、申請できません。申請を撤回して財団が受領した場合は、申請しなかったものとして、同じ年度内にもう一度申請できます。一方、中止届を出したときは再度の申請ができません。不備で不交付になった場合も、申請実績として残ります。
受付は何社までですか?
各回の受付社数は130社と、特設サイトに書かれています。月ごとに全10回で、第10回は2027年2月1日から28日までです。受付時間は各回の初日の午前9時から、最終日の午後5時までです。130社を超えた場合の扱いは、読んだ範囲では記載がありませんでした。早めの月に出したほうが、取組期間の計画も立てやすくなります。
社労士や行政書士に申請を代行してもらえますか?
電子申請(Jグランツ)では、代理申請はできません。連絡先も、申請企業に在籍する従業員にする必要があります。郵送申請に限り、委任状(様式第11号)を付けて社外の人が提出を代行できます。ただし、内容は事業主の担当者に直接確認されます。社会保険労務士に相談するなら、取組内容の相談や就業規則の整備の支援として使うのが現実的です。
問い合わせ先はどこですか?
奨励金全般は、奨励金事務局(東京しごと財団 企業支援部 雇用環境整備課)で、電話は03-5211-2315です。平日の午前9時から午後5時まで受け付けます。正午から午後1時は除きます。個別相談の予約や変更は別の窓口で、電話は0120-041-052です。相談の際は、東京しごと財団の奨励金の個別相談であることを伝えてください。
