若手に現場の技術を仕込みたい。社員にAIやデータ分析を学ばせたい。契約社員を正社員にする前に、きちんと研修を受けさせたい。人材開発支援助成金は、こうした研修の費用と、研修を受けている間の賃金の両方を助成します。
支給の中身は2つです。研修経費は45%〜最大100%。研修中の賃金は1人1時間あたり800円〜1,000円。対象は雇用保険適用事業所の事業主です。
全業種で使える主なコースは「人材育成支援コース」「人への投資促進コース」「事業展開等リスキリング支援コース」の3つ。通年受付ですが、研修を始める前に「職業訓練実施計画届」を出す必要があります。ここを外すと、どれだけよい研修でも1円も出ません。
人材開発支援助成金の要点まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 人材開発支援助成金(人材育成支援コース〈人材育成訓練/認定実習併用職業訓練/有期実習型訓練/中高年齢者実習型訓練〉・人への投資促進コース・事業展開等リスキリング支援コース 等) |
| 対象業種 | 全業種(建設労働者向け2コースは建設業限定) |
| 利用目的 | 雇用・職場環境を改善したい |
| 対象地域 | 全国 |
| 従業員数 | 制限なし(助成率は中小企業事業主か否かで異なる) |
| 支給上限額 | メニューにより異なる(経費助成は1労働者1訓練あたり10万円〜50万円程度、OJT実施助成は1コースあたり10万円〜25万円程度。人材育成支援コースは1事業所・年間1,000万円が上限。詳細は本文表を参照) |
| 支給率 | メニューにより45%〜100%程度(本文表を参照) |
| 申請受付 | 通年受付(職業訓練実施計画届は訓練開始日の6か月前〜1か月前までに提出) |
| 公式サイト | 人材開発支援助成金 申請書類一覧(厚生労働省) |
図: 人材開発支援助成金の全体像。詳しくは本文で解説します
人材開発支援助成金にはどんなコースがある?
全業種の事業主が使える代表的なコースは、次の3つです。このほかに建設業限定の2コースと障害者職業能力開発コースがあります。
人材育成支援コース(4つのメニュー)
職務に関連した知識・技能を習得させる訓練を、幅広い目的別に4つのメニューに分けて助成するコースです。
- 人材育成訓練:職務に関連した専門的な知識・技能を習得させるための、10時間以上のOFF-JT(座学・研修)。最も汎用性が高く、多くの事業主がまず検討するメニューです。
- 認定実習併用職業訓練:主に新卒者を対象に、企業内のOJTと教育訓練機関でのOFF-JTを効果的に組み合わせた訓練(6か月以上2年以下)。厚生労働大臣の認定を受ける必要があります。
- 有期実習型訓練:正社員経験の少ない有期契約労働者等を、正社員等に転換することを目的にOJT+OFF-JTを組み合わせて行う訓練(2か月以上)。訓練終了後、支給申請日までに実際に正規雇用労働者等へ転換した場合に限り助成対象となります。
- 中高年齢者実習型訓練:45歳以上の労働者が実践的なスキルを習得するためのOJT+OFF-JT(2か月以上)。
人への投資促進コース(令和8年度末までの時限措置)
デジタル人材の育成や、社員自身の学び直しを支援するコースです。高度デジタル人材訓練、情報技術分野認定実習併用職業訓練、定額制訓練(サブスク型の研修サービス)、自発的職業能力開発訓練、長期教育訓練休暇制度などのメニューがあります。令和8年度末までの時限措置です。
事業展開等リスキリング支援コース(令和8年度末までの時限措置)
新規事業の立ち上げやDX・GX化に伴う、新しい知識・技能のOFF-JTが対象です。設備投資を伴う場合は、導入費用の50%が加算されます。こちらも令和8年度末までの時限措置です。
図: どんな研修をしたいかでコースを選ぶ。詳しい要件は本文表を参照
この2コースは令和8年度末(2027年3月31日)で終わります。計画届の提出から訓練終了、支給申請までが期限内に収まるか。研修計画を立てる前に、逆算して確かめてください。
いくらもらえる?コース・メニュー別の助成率
助成率は、対象が正規雇用労働者か有期契約労働者か、賃金要件を満たすかで変わります。内訳は次のとおりです。
| コース・メニュー | 対象・目的 | 経費助成率(中小企業/大企業) | 賃金助成(1人1時間・中小企業/大企業) |
|---|---|---|---|
| 人材育成支援コース:人材育成訓練(正規雇用労働者等) | 10時間以上のOFF-JTで職務関連の知識・技能を習得 | 45%〜60%/30%〜45%(賃金要件等達成で+15%) | 800〜1,000円/400〜500円 |
| 人材育成支援コース:人材育成訓練(有期契約労働者等) | 同上(有期契約労働者等が対象の場合) | 70%〜85%(賃金要件等達成で+15%) | 800〜1,000円/400〜500円 |
| 人材育成支援コース:認定実習併用職業訓練 | 主に新卒者向け、OJT+OFF-JTを6か月〜2年、大臣認定が必要 | 45%〜60%/30%〜45% +OJT実施助成20万〜25万円/11万〜14万円 | 800〜1,000円/400〜500円 |
| 人材育成支援コース:有期実習型訓練 | 有期契約労働者等を正社員へ転換する前提のOJT+OFF-JT(2か月以上) | 75%〜100% +OJT実施助成10万〜13万円/9万〜12万円 | 800〜1,000円/400〜500円 |
| 人材育成支援コース:中高年齢者実習型訓練 | 45歳以上のOJT+OFF-JT(2か月以上) | 60%〜75%/45%〜60% +OJT実施助成10万〜13万円/9万〜12万円 | 800〜1,000円/400〜500円 |
| 人への投資促進コース:高度デジタル人材訓練 等 | ITスキル標準レベル3・4以上等の高度デジタル人材育成訓練 | 75%/60%(メニューにより異なる) | 1,000円/500円(メニューにより異なる) |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 事業展開・DX・GX化に伴うOFF-JT | 75%/60% +設備投資加算(導入費用の50%) | 1,000円/500円 |
人材育成支援コースの経費助成には、訓練時間数に応じた上限額もあります(1労働者1訓練あたり)。
| 企業規模 | 10時間以上100時間未満 | 100時間以上200時間未満 | 200時間以上 |
|---|---|---|---|
| 中小企業 | 15万円 | 30万円 | 50万円 |
| 大企業 | 10万円 | 20万円 | 30万円 |
賃金助成の対象となる時間数にも上限があり、通常は1人1訓練あたり1,200時間まで、専門実践教育訓練の指定講座は1,600時間までです。また、人材育成支援コースには1事業所・1事業主団体等につき年間1,000万円の支給限度額もあります。
業種横断・シミュレーション
3つの業種を例に、どのコースでいくら助成されるかを見てみます。
図: 業種別に見る「どのコースで、どれくらい助成されるか」のイメージ
① 製造業(従業員35人・認定実習併用職業訓練) 新卒で採用した若手社員に、現場のOJTと座学(安全管理・品質管理など)を組み合わせた実践的な研修を6か月〜2年かけて実施したい。 → 厚生労働大臣の認定を受けた実習併用職業訓練として、経費助成率45%(賃金要件を満たせば60%)、賃金助成800円/時間(同1,000円/時間)に加え、OJT実施助成として20万円(同25万円)が対象です。大臣認定の申請は訓練開始日の30日前までに行う必要があるため、通常の職業訓練実施計画届よりもさらに前倒しで準備を始めます。
② 情報通信業(従業員18人・人への投資促進コース/高度デジタル人材訓練) 社内にAI・データ分析の専門人材がおらず、既存の社員を対象にITスキル標準の上位レベルを目指す訓練を受けさせたい。 → 高度デジタル人材訓練として、経費助成率75%、賃金助成1,000円/時間が対象です。訓練時間数に応じて経費助成の上限額(100時間未満30万円〜200時間以上50万円等)が変わるため、どのくらいの時間数の研修を組むかで受けられる助成額が変わります。
③ 小売業(従業員10人・有期実習型訓練) 契約社員として働いてもらっている販売スタッフに、接客・在庫管理・売場づくりの実践研修を受けさせたうえで、正社員として腰を据えて働いてもらいたい。 → 有期実習型訓練として、経費助成率75%(賃金要件を満たせば100%)、賃金助成800円/時間(同1,000円/時間)、OJT実施助成10万円(同13万円)が対象です。ただし、訓練終了後、支給申請日までに実際に正社員等へ転換していなければ助成対象になりません。 転換の計画を先に固めてから訓練計画を立てるのがポイントです。
まずは自社が育てたい人材を、「新卒の実践研修」「デジタル人材」「正社員転換前提の研修」「事業展開に伴う新分野の研修」のどれに近いかで仕分けてください。そこでコースが決まります。
自社に合うコースが分かりにくいなら、他に使える補助金・助成金も探してみてください。
どの訓練をどのコースの計画として位置づけるか、大臣認定が必要かどうかの判断で迷ったら、専門家に無料で相談できます。
申請のスケジュール感は?「通年受付」だが隠れ期限があります
この助成金に、年◯回の締切はありません。訓練を始めたい日を自分で決めて申請する通年受付型です。
ただし、思い立ってすぐ研修は始められません。「職業訓練実施計画届」は、訓練開始日の6か月前から1か月前までに労働局へ提出します。新たに雇い入れた労働者だけを対象とし、雇入れ日から訓練開始日までが1か月以内の場合などは、訓練開始日の前日までという特例があります。
最短でも、計画届を出した1か月後が研修開始日です。計画届を出したら、計画どおりに研修を実施します。認定実習併用職業訓練・有期実習型訓練・中高年齢者実習型訓練では、終了後にジョブ・カードで職業能力を評価します。支給申請は訓練終了日の翌日から2か月以内です。
図: 申請から支給までのスケジュール。「計画届をいつ出すか」が最初の分かれ目です
研修を始めたい時期が決まったら、そこから逆算して計画届の準備に入ってください。
承認までの重要なタイミングと必要書類
「何が必要か」よりも「いつ何が必要か」を押さえるほうが、準備のスケジュールを組みやすくなります。
| タイミング | やること | 必要になるもの |
|---|---|---|
| 研修を始めたいと決めたらすぐ | 職業能力開発推進者を選任し、事業内職業能力開発計画を策定・従業員に周知する(計画届の提出までに完了させる必要あり) | 職業能力開発推進者の選任、事業内職業能力開発計画 |
| (認定実習併用職業訓練の場合)訓練開始日の30日前まで | 実習併用職業訓練の厚生労働大臣認定を申請する | 実施計画認定申請書、実践型人材養成システム実施計画、教育訓練カリキュラム |
| 訓練開始日の6か月前〜1か月前まで | 職業訓練実施計画届を提出する(コース・メニューにより様式が異なる) | 職業訓練実施計画届、対象労働者一覧、訓練カリキュラム・受講案内等 |
| 計画届提出後〜訓練終了まで | 計画に沿って研修(OFF-JT・OJT)を実施する。訓練経費は支給申請までに事業主が全額負担する | 訓練実施の記録、賃金台帳、OJT実施状況報告書 等 |
| 訓練終了後(該当メニューのみ) | ジョブ・カードを使った職業能力の評価を実施する | ジョブ・カード様式3-3-1-1(職業能力証明シート) |
| 訓練終了日の翌日から2か月以内 | 支給申請を行う | 支給申請書、経費の請求書・領収書、賃金台帳・出勤簿 等 |
図: いつ・何が必要になるか。計画届の提出が最初の分かれ目です
コースやメニューによって、必要な書類や大臣認定の要否が異なります。自社が実施したい研修がどのコース・メニューに当てはまるかを早い段階で確認しておくと、慌てずに済みます。
「うちの会社でも対象?」対象事業者の考え方
対象となる事業主は、コースに共通して次の要件を満たす必要があります。
- 雇用保険適用事業所(雇用保険被保険者が存在する事業所)の事業主であること
- 職業能力開発推進者を選任していること(研修・人事の担当課長等でよく、国家資格保有は不要)
- 事業内職業能力開発計画を作成し、労働者に周知していること
- 訓練期間中も、対象労働者に賃金を適正に支払っていること(残業手当・休日手当を含む)
- 直近で事業主都合の解雇等を一定割合以上行っていないこと
例:従業員18人の情報通信業(法人・正社員15人+契約社員3人) → 雇用保険適用事業所なら、対象になり得ます。まず職業能力開発推進者を選任し、事業内職業能力開発計画を作って社員に周知します。そのうえで、計画届を訓練開始日の6か月前〜1か月前に提出します。
どのコース・メニューに該当するか、大臣認定が必要かの判断に迷う場合は、専門家に相談してください。
よくある質問
どんな研修でも対象になりますか?
いいえ。対象は、職務に関連した専門的な知識・技能を習得する訓練だけです。趣味・教養の講習、講習を伴わない資格試験そのもの、通常の業務説明会は対象外になります。通学制・同時双方向型の通信訓練は、1コースあたり10時間以上という要件もあります。
研修を始めてから申請してもいいですか?
いいえ。職業訓練実施計画届を、訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に提出しておく必要があります。 この期限を過ぎてから申請しても、原則として対象になりません。研修を始めたい時期が決まったら、早めに準備に着手することが重要です。
人への投資促進コース・事業展開等リスキリング支援コースはいつまで使えますか?
どちらも令和8年度末(2027年3月31日)までの時限措置です。計画届から訓練終了・支給申請までが期限内に収まるか、早めに確認してください。人材育成支援コースには、現時点で終了予定の記載はありません。
