「育休の助成金」を調べている方の多くが最初につまずくのが、「従業員がもらえるお金」と「会社(事業主)がもらえるお金」の違いです。育休中に従業員本人が受け取るのは雇用保険の「育児休業給付金」で、これは会社ではなく本人の生活を支える給付です。一方、会社側が育休の取得しやすい環境を整えたり、育休中の代替要員を確保したりすると、事業主が受け取れる「両立支援等助成金」という別の制度があります。
この記事では、事業主が使える育休関連の助成金である両立支援等助成金を中心に、6つのコースの使い分け方と支給額を整理します。「育休を機に、何をしたいか」で選ぶべきコースが変わるので、自社の状況に近いものから読み進めてください。
「育休 助成金」で検索した方が最初に区別すべき2つの制度
育休に関するお金の制度は、大きく2つに分かれます。混同すると、間違った窓口・間違った申請方法で動いてしまうので、最初に整理しておきます。
| 制度 | 誰が受け取るか | 財源・窓口 | 目的 |
|---|---|---|---|
| 育児休業給付金 | 育休を取得する従業員本人 | 雇用保険(ハローワーク) | 育休中の所得を保障する |
| 両立支援等助成金 | 事業主(会社) | 雇用保険二事業(労働局・ハローワーク) | 育休を取得しやすい職場環境を整備した会社を支援する |
従業員本人がもらえる金額の計算方法や、支給期間の延長については別の記事で詳しく解説しています。 育休中の収入がいくらになるかを知りたい方は育児休業給付金の計算方法の記事、保育所に入れない場合の延長については育児休業給付金の延長の記事を参照してください。
この記事で扱うのは、あくまで会社側が申請する両立支援等助成金です。
両立支援等助成金とは(会社が使える育休関連の助成金)
両立支援等助成金は、従業員が仕事と育児・介護を両立できるよう、職場環境を整備した事業主に支給される厚生労働省の制度です。対象は雇用保険の適用事業所で、育児に関するものだけでも複数のコースに分かれています。
代表的な特徴は次のとおりです。
- 対象は雇用保険適用事業所の事業主(個人事業主・法人問わず)
- コースごとに「就業規則等の整備」「労働者への周知」「実際の育休取得・復帰」といった段階を踏む必要がある
- 支給額はコースにより数万円から最大260万円程度まで幅がある
- 育休を取得させる前に、就業規則や社内規定の整備が求められるコースが多いため、育休が始まってから慌てて準備しても間に合わないことがある
育休に関連する6つのコースと使い分け
「育休を機に何をしたいか」で、該当するコースが変わります。自社の状況に近いものを確認してください。
男性に育休を取ってほしい → 出生時両立支援コース
雇用環境整備の措置を複数実施したうえで、男性労働者が子の出生後8週間以内に一定日数以上の育児休業を取得した場合に支給されます。中小企業が対象になりやすく、男性育休の取得率を大きく引き上げた場合の加算区分もあります。詳しい支給要件・金額は出生時両立支援コースの記事で解説しています。
育休の取得・復帰をスムーズにしたい → 育児休業等支援コース
「育休復帰支援プラン」を作成・実施し、労働者が連続3か月以上の育児休業を取得し、原則として原職に復帰した場合に支給されます。人事担当者が個別に相談・調整するプロセスを社内制度として整える必要があります。詳しくは育児休業等支援コースの記事を確認してください。
育休中の欠員をカバーしたい → 育休中等業務代替支援コース
育休を取得した従業員の業務を、他の従業員でカバーする体制(応援手当の支給等)を整えたり、新たに代替要員を雇用したりした場合に支給されます。令和8年度は手当上限が最大260万円まで引き上げられており、6コースの中でも支給額が大きい部類です。詳しくは育休中等業務代替支援コースの記事で解説しています。
時短勤務やテレワークなど、柔軟な働き方を整えたい → 柔軟な働き方選択制度等支援コース
育児中の労働者向けに、短時間勤務・テレワーク・始業時刻の変更等、複数の制度を導入し、労働者が利用した場合に支給されます。詳しくは柔軟な働き方選択制度等支援コースの記事を参照してください。
介護との両立にも対応したい → 介護離職防止支援コース
育児だけでなく、介護を理由とした離職を防ぐための取り組みを支援するコースもあります。詳しくは介護離職防止支援コースの記事で解説しています。
不妊治療中の従業員を支援したい → 不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース
不妊治療と仕事の両立を支援する制度を整備した場合に支給されるコースもあります。詳しくは不妊治療・女性の健康課題対応コースの記事を確認してください。
6コースすべての支給要件・金額・申請の流れをまとめて把握したい場合は、両立支援等助成金の全体像を解説した記事を参照してください。
育休をきっかけに使える、両立支援等助成金以外の制度
育休は、両立支援等助成金以外の助成金とも関わりがあります。「育休だから両立支援等助成金しかない」と決めつけると、使える制度を見落とすことがあります。
- キャリアアップ助成金: 育休から復帰した有期雇用労働者を正社員に転換した場合、正社員化コースの対象になり得ます。育休復帰のタイミングで雇用形態の見直しをする会社は確認する価値があります
- 人材確保等支援助成金: 育休取得者が出た後の採用活動や、職場環境の改善に取り組む場合、目的に応じたコースが対象になることがあります
- 業務改善助成金: 育休の代替要員確保にあわせて、最低賃金の引き上げと設備投資をセットで行う場合に使える可能性があります。詳しくは業務改善助成金の記事を確認してください
これらは育休そのものを目的にした制度ではありませんが、育休をきっかけに社内制度を見直すタイミングで、あわせて検討する価値があります。 育休の取得者が出るタイミングは、採用計画や人員配置を見直す機会でもあるため、両立支援等助成金だけを単発で申請するより、関連する制度をまとめて洗い出しておくほうが、結果的に活用できる助成金の総額は大きくなりやすい傾向があります。
いくらもらえるか、代表的な支給額のイメージ
コースごとの支給額の考え方をまとめると、次のようになります。あくまで代表的な金額のイメージで、実際の支給額は要件・企業規模・加算の有無によって変わります。
| コース | 主な支給のきっかけ | 支給額のイメージ |
|---|---|---|
| 出生時両立支援コース | 男性労働者の育休取得 | 中小企業で20万円台〜(取得率向上の加算区分あり) |
| 育児休業等支援コース | 3か月以上の育休取得・復帰 | 育休取得時・職場復帰時それぞれ数十万円 |
| 育休中等業務代替支援コース | 業務代替体制の整備・代替要員の新規雇用 | 最大260万円程度(令和8年度) |
| 柔軟な働き方選択制度等支援コース | 短時間勤務・テレワーク等の制度整備 | 数十万円 |
金額の詳細な内訳・加算要件は、コースごとの個別記事または両立支援等助成金の全体像記事の早見表・シミュレーションで確認してください。
申請の前に整えておくべきこと(隠れ期限に注意)
両立支援等助成金の多くのコースは、「育休が始まってから」ではなく「育休が始まる前」に、社内の制度・規定を整えておくことが条件になっています。
- 就業規則等への規定の整備(例: 育児休業に関する規定、短時間勤務制度の規定)
- 対象となる制度の労働者への周知
- プラン(育休復帰支援プラン等)の作成と、労働者との事前面談
「従業員から育休の申し出があってから助成金を調べ始める」のでは、要件を満たせないコースが多い点に注意してください。育休の取得は事前に分かることが多いので、就業規則の整備状況を早めに確認しておくことが、支給要件を満たすための実務上のポイントです。
なお、就業規則の作成・変更そのものは、社会保険労務士の専門領域です。自社で作成する場合は、厚生労働省が公表するモデル規定例を参考にしつつ、実際の運用に合わせて調整することになります。
業種別に見る、育休の助成金の使い方(シミュレーション)
同じ両立支援等助成金でも、会社の状況によって使うコースの組み合わせは変わります。3つの業態を例に、具体的なイメージを見てみます。
製造業(従業員30人・男性社員が多い工場)の場合
これまで男性の育休取得実績がほとんどなかった工場が、就業規則に育休の規定を整備し、対象者への周知を行ったうえで、男性社員1人が2週間の育休を取得したケースです。出生時両立支援コースの対象になり、中小企業区分で支給を受けられる可能性があります。あわせて、育休中の生産ラインの欠員を他の社員がカバーする体制を整え、応援手当を支給していれば、育休中等業務代替支援コースの対象にもなり得ます。1人の育休をきっかけに、2つのコースを組み合わせて申請できる可能性があるという点は見落とされがちです。
IT企業(従業員15人・エンジニアが時短勤務を希望)の場合
出産後、エンジニア職の社員が時短勤務とテレワークを組み合わせて働きたいと希望したケースです。会社が短時間勤務制度・テレワーク制度を就業規則に整備し、実際に利用が始まれば、柔軟な働き方選択制度等支援コースの対象になり得ます。IT企業はもともとテレワークとの親和性が高いため、既存の制度を助成金の要件に合わせて整理するだけで対象になるケースもあります。
介護施設(従業員50人・育休と介護の両方に直面)の場合
育児中の職員だけでなく、親の介護を理由に離職を考えている職員もいる介護施設のケースです。育児休業等支援コースで育休復帰を支援する一方、介護離職防止支援コースで、介護に直面した職員向けの両立支援プランも整備すれば、育児と介護、両方の場面で助成金を活用できます。 介護業界は人手不足が深刻なため、離職防止の取り組みそのものが経営上のメリットにもなります。
自治体独自の育休関連助成金もある
両立支援等助成金は国(厚生労働省)の制度ですが、都道府県・市区町村が独自に、育休を取得しやすい環境づくりを行う中小企業向けの補助金を設けている場合があります。 例えば、育休取得者の代替要員を新たに雇用した際の人件費の一部を補助する制度や、育休復帰後の職場環境整備にかかる費用を補助する制度などです。
こうした自治体独自の制度は、国の両立支援等助成金と条件が重なる部分もあれば、独自に上乗せされている部分もあります。 両方を併用できる場合とできない場合があるため、自社の所在地の商工担当部署や労働局に、両立支援等助成金とあわせて確認しておくとよいでしょう。
「うちの会社でも対象になるか」の考え方
両立支援等助成金の対象になるかどうかは、業種や会社の規模だけでなく、実際にどんな取り組みを行ったかで判断されます。
- 中小企業・大企業のどちらも対象になりますが、支給額は中小企業の方が優遇される設計のコースが多くあります
- 対象労働者が有期雇用か無期雇用かによって、加算の有無が変わるコースがあります
- 過去に同じコースで助成を受けたことがある場合、対象人数の上限に達していると申請できないことがあります
自社が対象になるかの詳細な判断は、要件が細かく分かれるため、労働局・ハローワーク、または専門家に確認することをおすすめします。 特に、複数のコースを同時に検討している場合は、どのコースから着手するかによって、必要な社内整備の順序が変わってきます。就業規則の整備が先か、対象労働者の育休取得が先かなど、コースごとの前提条件を整理してから動き出すと、要件を満たせずに申請できなくなる事態を避けやすくなります。人事担当者が1人しかいない中小企業では、育休の相談を受けた時点で、まず「使えそうなコースの一覧」を作っておくだけでも、後の手続きがスムーズになります。
中小企業とそれ以外で何が変わるか
両立支援等助成金の多くのコースは、中小企業事業主かどうかで支給額や支給要件が変わります。 ここでいう中小企業事業主は、中小企業基本法に定義される中小企業者と同じ考え方で、業種ごとに資本金額または常時使用する従業員数のいずれかで判定されます(例えば製造業その他は資本金3億円以下または従業員300人以下、小売業は資本金5,000万円以下または従業員50人以下など、業種によって基準が異なります)。
中小企業のほうが支給額が優遇される設計になっているコースが多いため、自社が中小企業に該当するかどうかを、まず確認しておくことが申請の第一歩になります。従業員数だけでなく資本金額でも判定できるため、従業員数が基準を超えていても、資本金額の基準を満たしていれば中小企業として扱われる場合があります。
申請から支給までのタイミング
両立支援等助成金は、コースごとに「支給の要件を満たした日」が異なり、そこから一定期間内に支給申請をする必要があります。代表的な流れは次のとおりです。
- 就業規則等の整備・労働者への周知(育休が始まる前)
- 対象の取り組みの実施(育休の取得、代替体制の整備、制度の利用等)
- 要件を満たした日(例: 育休取得者が復帰した日)から一定期間内に支給申請
この「要件を満たした日から◯か月以内」という期限は、コースによって異なります。 育休が終わって落ち着いてから申請しようと後回しにすると、期限を過ぎてしまうことがあるため、育休が始まった時点で、いつ申請すべきかのスケジュールをあらかじめ確認しておくことをおすすめします。
情報公表による加算もある
一部のコースには、厚生労働省の「両立支援のひろば」に、自社の育休取得率等の実績を公表することで支給額が加算される仕組みがあります。育休の取得しやすさをアピールしたい企業にとっては、採用活動の面でもプラスに働く可能性があります。加算の対象コース・金額は年度によって変わるため、申請時に最新の案内を確認してください。育休の取得実績を対外的に公表することは、求職者に「働きやすい会社」であることを伝える材料にもなるため、助成金の加算だけでなく採用競争力の観点からも検討する価値があります。
よくある質問
育休の助成金と育児休業給付金は同時に使えますか?
はい、性質が異なる制度なので同時に使えます。育児休業給付金は従業員本人が雇用保険から受け取るお金、両立支援等助成金は会社が申請して受け取るお金です。片方を使ったからもう片方が使えなくなるということはありません。
個人事業主でも両立支援等助成金は使えますか?
雇用保険の適用事業所であれば、法人・個人事業主を問わず対象になり得ます。ただし、コースによっては対象労働者の雇用形態や勤続年数など、細かい要件があるため、自社の状況に照らして確認が必要です。
育休を取った従業員が1人もいなくても申請できるコースはありますか?
柔軟な働き方選択制度等支援コースなど、制度の導入・利用実績があれば対象になるコースもありますが、多くのコースは実際に労働者が育休を取得・復帰したことが要件になっています。コースごとに要件が異なるため、個別記事で確認してください。
助成金の申請書は社労士に作成してもらう必要がありますか?
申請書の作成は事業主自身でも行えます。ただし、就業規則の整備や複雑な要件確認については、社会保険労務士に相談することで、要件の見落としを防げる場合があります。専門家への相談を希望する場合は、社会保険労務士など各分野の専門家に無料相談することもできます。
育休を取得した従業員が退職してしまった場合はどうなりますか?
多くのコースは「原職への復帰」を要件にしているため、育休後に退職してしまうと支給要件を満たせなくなる場合があります。復帰前提のプランを事前に作成しておくコースが多いのはこのためで、退職の意向がある場合は、コースの選び方をあらかじめ見直しておく必要があります。
パート・アルバイトの従業員が育休を取っても対象になりますか?
雇用形態にかかわらず、雇用保険の被保険者であれば対象になり得ます。コースによっては有期雇用労働者が対象になった場合に加算がつく設計もあるため、正社員だけでなくパート・アルバイトの育休取得も助成金の対象として検討する価値があります。ただし、勤続期間や雇用契約の見込み期間など、雇用形態ごとに細かい要件が設けられている場合があるため、対象労働者ごとに確認が必要です。
一度申請したら、翌年以降も自動的に支給されますか?
いいえ、自動更新される仕組みではありません。コースによっては同一の取り組みで複数回申請できるものもありますが、その都度、支給要件を満たしているかどうかの確認と申請手続きが必要です。また、多くのコースには1事業主あたりの申請可能な人数・回数に上限が設けられているため、毎年の予算・計画に組み込んでおくと管理がしやすくなります。
免責事項: 本記事の内容は2026年9月時点で確認できた情報にもとづきます。両立支援等助成金の支給要件・支給額・受付状況は年度により変更されるため、申請前に必ず厚生労働省・お近くの労働局の公式ページで最新の内容をご確認ください。制度は毎年のように見直されるため、前年度の情報のまま準備を進めると要件を見落とすことがあります。
