漁業の補助金は、国の事業・県と市町村の制度・全業種向けの補助金の3つに分けると探しやすくなります。国の事業は水産庁が中心です。代表的なのは、漁船のリース・燃油と配合飼料の価格上昇への備え・収入が減ったときの補塡・新規就業の研修と資金です。県と市町村は、燃油や物価の高騰への支援金・新規就業者への支援・養殖や水産加工の設備への補助が中心です。
全業種向けの補助金は、漁業者が使えるかどうかを必ず確かめます。小規模事業者持続化補助金は、第20回の公募要領で「系統出荷による収入のみである個人農業者(個人の林業・水産業者についても同様)」を補助の対象にならない者に挙げています。漁協への出荷だけで収入を得ている個人の漁業者は、この補助金を使えません。
この記事では、補助金と助成金の違い・国の主な事業の仕組み・全業種向けの補助金の注意・県と市町村の制度の探し方・個人と法人の違い・漁協への相談を順に整理しました。そのあとに代表的な補助金の金額と締切の暦・共通の注意点・都道府県ごとの一覧を載せています。遊漁船の安全設備の補助は遊漁船の補助金の記事にまとめました。
漁業補助金とは
漁業補助金は、漁業者や水産業者が設備の導入・経営の安定・人材の確保に使うお金を国や自治体が一部負担する制度の総称です。水産庁の令和8年度の予算の資料には、地域を担う漁業者の収益性を上げる取組・漁業用機器の導入・新規就業者の確保・スマート機械の導入・漁業経営安定対策が主要な項目として並んでいます。
補助金と助成金の違い
補助金と助成金は、どちらも返さなくてよいお金ですが窓口と決まり方が違うことが多いです。水産庁・経済産業省・自治体の補助金は公募の期間があり、審査で採択が決まるものが中心です。厚生労働省が窓口の雇用関係の助成金は、要件を満たして書類をそろえれば受けられる性格が強いとされます。
ただし、自治体は「補助金」「助成金」「支援金」「交付金」を厳密に使い分けていません。検索では「漁業 補助金 助成金」とまとめて探されるので、この記事も名前に関わらず漁業者が受け取れるお金の支援を扱います。
補助金・融資・共済の違い
漁業では、補助金のほかに融資と共済も経営を支えます。補助金は設備や取組の費用の一部を負担するもので、返す必要がありません。融資は借りて返すお金です。水産庁の令和8年度予算の資料には、経営改善に取り組む漁業者への金融支援が載っています。共済は、掛金を払って漁獲が減ったときなどに支払いを受ける保険の仕組みです。
収入が減ったときの積立ぷらすは、漁業共済に実質的に加入していることが加入の条件に入っています。補助金だけを見るのではなく、共済に入っているかも一緒に確かめます。
国の漁業の補助金
国の漁業の事業は、水産庁が所管するものが中心です。申請の窓口は水産庁ではなく、基金を管理する団体や漁協・漁連であることが多いです。年度ごとに公募の期間と条件が変わるので、公募要領を読んで確かめます。
漁船リース事業(水産業競争力強化漁船導入緊急支援事業)
漁船を取得するお金の一部を国が出す仕組みです。漁業者に直接お金が入るのではなく、漁協などのリース事業者が漁船を取得して漁業者にリースします。助成率は取得費・改修費の2分の1以内で、1件あたりの上限は4億円です。漁船漁業構造改革緊急事業で漁獲対象魚種や漁法を複数にする取組をする場合に限り、上限は5億円になります。
借りられるのは、広域浜プランに「中核的漁業者」として位置づけられた漁業者です。個人経営体は原則55歳未満(45歳未満の後継者がいる場合は除く)、法人経営体は原則として償却前利益が確保されていることが要件です。5年以内に漁業所得または償却前利益を10%以上伸ばす目標を立てます。
浜の担い手漁船リース緊急事業は、原則として中古漁船が対象です。必要な規模や仕様の漁船が見つからない場合や、中古船の取得・改修費が新船の建造費を上回る場合に限って、新造船も認められます。リース期間は法定耐用年数以上とし、20トン未満のFRP漁船は5年が例として示されています。実施主体はNPO法人水産業・漁村活性化推進機構です。
漁業用機器・設備の導入支援
水産庁の令和8年度の予算の資料に、生産性の向上と省力・省コストにつながる漁業用機器・養殖業への転換に必要な機器・遊漁船の安全性向上につながる機器の導入を支援すると書かれています。公募の時期と期間・補助率・上限額は年度ごとに変わります。
この種類の事業は漁業者グループが機器を導入する形で公募されることが多く、個人が単独で応募できるとは限りません。応募を考える年は水産庁と事務局のページで、公募の予定と応募できる者を先に確かめます。
燃油・配合飼料のセーフティーネット(漁業経営セーフティーネット構築事業)
燃油や配合飼料の価格が上がったときに補塡金が出る仕組みです。漁業者・養殖業者と国が資金を積み立てておき、価格が基準を超えて上がったときに積立金と国の助成から支払われます。補塡の基準は、四半期ごとの平均価格が、直前7年間のうち高い12か月分と低い12か月分を除いた5年分の平均(7中5平均)を超えたかどうかです。
補塡金は、漁業者と国が1対1で負担するのが基本です。燃油は、基準価格を大きく超えると国の負担割合が段階的に上がる仕組みがあります。価格が基準に届かなくても、一定期間に急に上がった場合の急騰対策もあります。水産庁の資料では、令和8年1〜3月期の補塡金の単価に上乗せがありました。
加入は、漁協や漁連などの団体を通して申し込みます。毎年3月末までに積立単価と購入予定数量を決めた申込書を出し、積立金は6月末までに納めます。燃油は積立単価を1kl当たり1,000円から8,500円の7段階から選びます。加入期間は3年で、満了の申し出がなければ同じ内容で自動更新されます。
燃油の加入には条件があります。10年間で最大5%の購入予定数量の削減目標を決める届出書と省エネ計画の策定が必要です。削減率は5%・3%・現状以下から選べて、現状以下にすると急騰対策の対象外になります。
漁業収入安定対策事業(積立ぷらす)
漁獲量や価格の変動で収入が減ったときに、減収を補う仕組みです。計画的に資源管理や漁場改善に取り組む漁業者・養殖業者が対象です。漁業者が積み立てた額と国費から払い戻され、負担の割合は漁業者1に対して国3です。
収入が減ったかどうかは、漁業者ごとの基準収入と比べます。基準収入は、直近5年の収入のうち最大と最小を除いた3年の平均です。漁業共済の掛金には、法定の補助に加えて国が上乗せで補助します。水産庁の令和6年度の資料では、国の上乗せは掛金の30%程度(平均)でした。
加入には、資源管理協定または漁場改善計画に参加していることが要綱で求められます。新規就業者は、新規就業の要件も満たす必要があります。資源管理協定への参加は、漁協や都道府県を通じて確かめるのが一般的です。
スマート化・養殖・環境変化への対応
水産庁の令和8年度の予算には、漁業者へのスマート機械の導入・スマート化を進める人材の育成・環境の変化に対応する漁業・養殖業の取組への支援が入っています。海水温の変化や赤潮に備える養殖の取組と、陸上養殖や大規模な沖合養殖の実証もその一部です。
養殖では、内水面漁業・養殖業活性化総合対策事業や養殖業体質強化緊急総合対策事業なども予算の項目にあります。スマート漁業の補助金を探す人が多く、DXやICT機器の導入は水産庁の事業か県と市の漁業者向けの制度で探します。
水産加工・認証・6次産業化
水産加工業者向けには、持続可能な水産加工流通システム推進事業が令和8年度の予算にあります。国際水準の水産エコラベル認証を取る費用を支える水産エコラベル認証取得支援事業もあり、こちらは水産庁ではなく輸出・国際局の予算に計上されています。
県と市には、水産加工品の開発・6次産業化・認証の取得に補助を出す制度が多くあります。県と市の制度は後の章で説明します。
浜の活力再生プラン(浜プラン)
浜プランは地域の漁業者と漁協などが話し合って作る、収益を上げるための計画です。漁船リース事業の中核的漁業者は、広域浜プランに位置づけられることが条件です。水産庁の予算資料には、浜プランの推進を支える事業として浜の活力再生プラン推進等支援事業・水産業強化支援事業・海業推進事業が挙がっています。
自分の地域のプランに入っているかどうかは、漁協か都道府県の水産課に聞きます。
遊漁船の安全設備
遊漁船業者向けには、水産庁の遊漁船安全設備導入支援事業と日本財団の遊漁船の安全・安心確保推進事業があります。無線・AISやEPIRB・救命いかだ・浸水警報装置が対象で、義務化の期限もあります。くわしくは遊漁船の補助金の記事で比べています。
全業種向けの補助金は漁業者も使えるか
小規模事業者持続化補助金、ものづくり補助金、事業承継・M&A補助金などの全業種向けの国の補助金に漁業者が応募することもあります。ただし対象の範囲と条件は補助金ごとに違うので、漁業者向けの制度だけを見ていると見落としが出ます。
小規模事業者持続化補助金
商工会議所または商工会の地区で事業をする小規模事業者の販路開拓を支える補助金です。第20回公募の通常枠は、補助率が3分の2、補助上限が50万円です(賃金引上げ特例などの上乗せは別にあります)。
注意が要るのは対象の者です。第20回の公募要領は、補助の対象になる者を会社と、商工業者である個人事業主などとしています。補助の対象にならない者には、系統出荷による収入のみである個人農業者が挙がり、個人の林業・水産業者も同様とされています。漁協への出荷だけの個人の漁業者は対象外です。
漁業者であっても、水産物の加工や水産物を用いた料理の提供などの事業は対象になりえます。農作物の例では、個人農業者でも加工や料理の提供などの事業なら、その加工や提供に必要な経費が補助の対象です。水産物の生産そのものに必要な経費は対象外とされます。自分の事業のどこに経費が当たるかを公募要領の例と照らして確かめます。
ものづくり補助金・事業承継の補助金
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)は、回ごとに公募される全業種向けの補助金です。加工設備の導入や新商品の開発を考える水産加工業者が候補にできます。公募要領で、対象の業種と事業が自分の計画に合うか読みます。
事業承継・M&A補助金は、後継者への承継や事業の引継ぎに使える補助金です。漁業の後継者に関する補助金を探す人も多いですが、漁業に特化した国の後継者向けの補助金は確認できませんでした。県の制度と全業種向けの補助金を並べて調べます。
雇用関係の助成金
人を雇う漁業者や水産加工業者は、厚生労働省の雇用関係の助成金も対象になることがあります。働き方改革や賃金の引上げに関する助成金は業種を問わず申請できるものが多く、窓口は都道府県労働局です。
都道府県・市町村の漁業の補助金
県と市町村の制度は、国の事業より金額が小さいものが多く、個人の漁業者が直接受け取れる制度もあります。主な種類を実際にある制度の名前とあわせて紹介します。金額と受付の状況は下の一覧で見られるので、ここには書きません。
燃油・物価高騰の支援金
燃油や資材の高騰への支援金は、市町村が漁業者に出すものが目立ちます。千葉県鴨川市の漁業用燃油価格高騰重点支援金や、熊本県水俣市の漁業燃油高騰対策事業費補助金があります。水俣市は燃油の購入数量と単価の差に応じて額が決まる形です。
埼玉県の中東情勢に伴う仕入価格高騰の緊急支援は、農業者と漁業者を合わせて対象にしています。岡山市の農林水産業者への資金繰り支援は、中東情勢の影響を受けた農林水産業者が融資を受けたときの利子を助成します。
新規就業・担い手
新規に漁業を始める人への支援は、国と自治体の両方にあります。国は漁業担い手確保・育成事業として、漁業学校などで学ぶ人への就業準備資金の交付・就業相談会・インターンシップ・新規就業者の長期研修・若手漁業者の経営能力と技術の向上を支援しています。水産高校卒業生を対象にした海技士の養成事業もあります。新規就業者向けの漁船や漁具のリース事業も、水産業成長産業化沿岸地域創出事業にあります。
自治体では、鹿児島県阿久根市の新規漁業者就業支援金と資格取得費補助金があります。北海道北斗市の漁業担い手支援事業補助金もあります。
神奈川県の漁業就業・定着化のための資格取得支援補助金は、県内で漁業に就いて3年以内の人が対象です。小型船舶操縦士・中型自動車・フォークリフト・移動式クレーン・海上特殊無線技士(第2・3級)・玉掛け・潜水士の資格の取得費を補います。補助率は3分の1以内で、上限は1件5万円です。資格を取ったあと県内で3年以上漁業を続けることが条件で、続けられなければ全額の返還があります。申請は就業地域の漁協を通して出します。教習機関などへの受講の申込前に交付決定を受ける必要があります。
養殖・水産加工・認証
養殖では、宮城県の陸上養殖システム導入支援事業と石巻市の陸上養殖システム導入支援事業費補助金があります。水産加工では、福井県の水産加工品開発支援事業補助金があります。岩手県の水産加工業連携新活動促進事業費補助金と宮城県の水産加工業物価高騰対策緊急経営支援事業もあります。
認証では、東京都の水産認証取得支援事業があります。北海道網走市の水産業パワーアップ事業補助金のように、漁業者の設備や取組を幅広く支える市の制度もあります。
自分の自治体の制度を探す方法
県と市町村の制度は、都道府県の水産課と、漁港のある市町村の水産担当の課で聞くのが確実です。検索では「県名 漁業 補助金」「市名 漁業 支援金」で探します。県別の制度は、この記事の一覧にも載っています。
漁協の窓口でも、組合員向けの案内として県と市の制度を知らせてくれることがあります。県の制度は漁協や漁連を経由して申請する形もあります。
個人の漁業者と法人の違い
個人と法人で、使える制度と条件が変わることがあります。
国の漁船リース事業は、個人経営体なら原則55歳未満(後継者がいれば例外)、法人なら償却前利益の確保が条件です。年齢の条件は個人だけにあり法人には利益の条件があります。
全業種向けの補助金は、個人の漁業者に壁があります。小規模事業者持続化補助金は、系統出荷による収入のみの個人の水産業者が対象外です。法人であれば、会社として応募できます。
自治体の支援金は、経営体を単位とするものが多くあります。香川県観音寺市の漁業者物価高騰対策支援金は、1経営体に一定額を支給する形です。個人事業主として漁業をしている人を対象に含む制度もあります。受け取るには、漁業を営んでいることを示す書類を求められることがあります。
漁協に相談する
国の事業の多くは、漁協や漁連が窓口や実施主体を担います。漁業経営セーフティーネットは、お近くの漁協や漁連に申し込むと水産庁の資料に書かれています。漁船リース事業のリース事業者は、漁協・漁連・中小企業協同組合などです。浜プランも漁協と地域の漁業者が話し合って作ります。
漁協の組合員でない人は、使える制度が限られることがあります。加入が条件の制度かどうかは、公募要領の対象者の欄で確かめます。組合員でなくても申請できる自治体の制度もあります。
漁業の補助率と上限額の目安
補助率と上限額は制度ごとに違うので、確かめられた主な制度を一度に並べました。同じ漁業の補助金でも、費用の割合で決まるもの・積立金に国が上乗せするもの・定額のものがあります。
| 制度 | 決まり方 | 上限・単価 |
|---|---|---|
| 漁船リース事業 | 取得費・改修費の2分の1以内 | 1件4億円(漁獲対象や漁法を複数にする取組は5億円) |
| 燃油のセーフティーネット | 漁業者1に対して国1が基本。基準を大きく超えると国の割合が上がる | 積立単価は1klあたり1,000円から8,500円の7段階から選ぶ |
| 配合飼料のセーフティーネット | 漁業者1に対して国1 | 積立単価は1tあたり1,000円から14,000円の7段階から選ぶ |
| 積立ぷらす | 漁業者1に対して国3 | 基準収入は直近5年のうち最大と最小を除いた3年の平均 |
| 小規模事業者持続化補助金(通常枠・第20回) | 3分の2 | 50万円(特例の上乗せは別) |
| 神奈川県の資格取得支援 | 3分の1以内 | 1件5万円 |
費用の割合で決まる制度は、対象経費に補助率をかけた額と上限額を比べて低いほうが補助されます。計算の例は次のとおりです。
- 神奈川県の資格取得支援で講習と受験の費用が15万円なら、3分の1は5万円で、上限の5万円と同じなので5万円です。
- 持続化補助金の通常枠で90万円の経費なら、3分の2は60万円ですが、上限が50万円なので50万円です。
- 漁船リース事業で取得費が6,000万円なら、2分の1の3,000万円が助成の目安で、4億円の上限には届きません。
対象経費の中身は制度ごとに違います。漁船リース事業は、船体・機関・レーダーや魚群探知機などの設備・中古船の運搬費が助成の対象で、漁具などの消耗品は除かれます。資格取得支援は、講習会の受講料と受験料が対象で1回分に限ります。見積もりの段階で、公募要領の対象経費の欄と照らします。
補助金は併用できるか
同じ経費に複数の補助金を重ねられるかは制度ごとに決まっています。遊漁船の安全設備の補助では、同じ設備を同じ領収書で別々の事業に出すことはできませんが、設備が違えば同じ船で2つの事業を使えます。自治体の補助が自己負担分の一部を補うものなら、同じ領収書でも申請できるとされています。
漁業でも考え方は同じです。国の補助金で買った漁船や機器に同じ領収書で県の補助金を申請すると、二重の受け取りになるおそれがあります。県と市の制度のどちらも使う予定なら、申請の前に両方の窓口で重ねて受けられるかを確かめます。重複を認めない制度は、公募要領や要綱の「他の補助金との重複」の欄に書かれています。
漁業の補助金を調べる順番
制度が多くて迷うときは、次の順番で調べると漏れが少なくなります。
- 地区の漁協か漁連に、組合員向けに案内している国や県の制度を聞く
- 都道府県の水産課と、漁港のある市町村の担当課に、年度ごとの補助金や支援金を聞く
- 水産庁の予算の資料で、年度ごとの国の事業を確かめる
- 全業種向けの補助金(持続化補助金など)の公募要領で、漁業者が対象になるかを読む
- 下の一覧で、自分の県の制度を見て、各制度の記事で条件を確かめる
燃油や配合飼料のセーフティーネットは、毎年3月末の申込に間に合うようにします。国の事業の公募は短い期間で終わることがあるため、水産庁と事務局のページを定期的に見る習慣をつけます。
漁業の代表的な補助金の金額
国の制度と、上限の大きい都道府県の制度を上限額で比べた表です(制度名を押すと下の全国一覧のその制度へ移ります)。
