遊漁船の安全設備に使える補助金は、水産庁の事業と日本財団の事業の2つあります。どちらも遊漁船業の登録を受けた事業者が対象で、業務用無線設備・AISやEPIRBなどの非常用位置等発信装置・改良型救命いかだ等を買う費用を補います。補助率は水産庁の事業が2分の1、日本財団の事業は小型船で3分の2です。額の上限は設備ごとに決まっていて、水産庁の事業は無線6万円・非常用位置等発信装置12万円・救命いかだ75万円です。
遊漁船そのものの購入費やエンジンの交換費は、どちらの事業でも対象になりません。遊漁船にはこれらの安全設備の搭載が義務になり、法定無線設備は令和8年10月1日以降に最初に迎える中間検査または定期検査までに載せる必要があります。2つの事業は、設備が違えば同じ船に両方使えます。
この記事では、2つの事業の違い・設備ごとの額・対象になる船・義務化の時期・お金が入る順番・自治体の上乗せ・開業するときの注意を水産庁・国土交通省・日本財団系の事務局の資料で確かめてまとめました。漁船のリースや燃油の対策など漁業者全般の補助金は漁業の補助金の記事で扱っています。
遊漁船の補助金の概要
遊漁船業とは、船で乗客を漁場に案内して釣りなどで魚を採らせる事業のことです。船釣り・瀬渡し(磯渡しや防波堤渡し)・採捕を伴う漁業体験が当たります。補助金の対象は、この遊漁船業を営む事業者です。釣りに行く客は補助金の対象に入りません。
水産庁の事業と日本財団の事業の2つがある
2022年に知床で起きた遊覧船の事故を受けて、国は遊漁船を含む一般の旅客を乗せる船に安全設備を載せる義務を設けました。その費用を補う仕組みとして、次の2つの事業が動いています。
水産庁の遊漁船安全設備導入支援事業は、水産業競争力強化緊急事業の一部です。実施主体はNPO法人水産業・漁村活性化推進機構で、申請の受付は一般社団法人海洋水産システム協会が担います。国土交通省の資料では、令和8年度の補助率は2分の1です。
日本財団の遊漁船の安全・安心確保推進事業は、日本財団の助成金30億円を使って日本中小型造船工業会が行う事業です。事務局の運営はTOPPAN株式会社が受けています。国の補助金ではないので、国土交通省や検査機関に問い合わせても答えてもらえません。国土交通省のページにも、この事業は国土交通省の補助金ではないと書かれています。
検索結果の上位には、片方の事業だけを説明するページが並びます。どちらを使うかを決めるには2つを並べて見るのが早いので、次の章で比べます。
船の購入費・エンジンは対象外
遊漁船を新しく買う費用やエンジンの載せ替えの費用に、この2つの事業の補助金は出ません。対象は安全設備の本体と事業が認める付属品です。日本財団の事業の公募要領は、無線設備について設置費用・登録申請料・免許取得費を補助の対象にならない経費としています。浸水警報装置と排水設備だけは、設置の人件費と部材費も対象です。
船の購入やエンジンの補助を探している場合は、漁業者向けの漁船リース事業が思い浮かびますが、遊漁船は対象の中心ではありません。漁船リース事業の概要は漁業の補助金の記事にまとめています。
自治体の独自の補助
2つの事業のほかに、県や市が出す補助があります。島根県は、2つの事業のどちらかを使った遊漁船業者に上乗せの補助を出しています。市町村の独自の補助は、この記事を書く時点で公式の要綱まで確かめられたものがありませんでした。詳しくは後の「自治体の上乗せ」の章に書いています。
水産庁と日本財団の違い
2つの事業の主な違いを表にしました。額は設備ごとに違うので、次の章で別に並べます。
| 項目 | 水産庁の遊漁船安全設備導入支援事業 | 日本財団の遊漁船の安全・安心確保推進事業 |
|---|---|---|
| 補助率 | 2分の1 | 小型船(20トン未満)は3分の2、大型船は2分の1 |
| 対象の設備 | 業務用無線設備、非常用位置等発信装置、改良型救命いかだ等の3つ | 上の3つと、浸水警報装置・排水設備の4つ |
| 対象の船 | 義務化の対象になる遊漁船(航行区域、人数、トン数の組み合わせで決まる) | 遊漁船業法に定める遊漁船。義務化の対象でなくても申請できる |
| 追加の条件 | 協議会への加入、遊漁採捕報告システムでの報告 | 新品で購入した設備のみ。中古品とリース品は対象外 |
| 1回の申請 | 1事業実施者につき1設備まで | 船ごとに4つの設備をそれぞれ1回 |
| 申請先 | 海洋水産システム協会 | 事務局サイト(TOPPAN株式会社が運営) |
| 申請の方法 | 年度ごとの公募 | インターネットのみ。令和8年5月7日から令和11年度まで(予定) |
| 予算 | 令和7年度補正で1億円 | 30億円。なくなり次第終了 |
水産庁の事業は年度ごとの公募で、予算に達すると締め切られます。令和7年度は7月1日から8月31日まで受け付けて、事務局の案内によれば申請額が予算の上限に達しました。令和8年度は、神奈川県の案内によると8月3日から9月30日に二次の募集がありました。令和9年度以降の予定は、確認できませんでした。
日本財団の事業は、公募要領の改訂版が出ています。申請の前に事務局サイトで公募要領を読み、版を確かめます。
設備ごとの補助率と上限額
業務用無線設備
業務用無線設備は、VHF無線電話・MF無線電話・27MHz帯無線電話・400MHz帯無線電話が対象です。衛星携帯電話は法定無線設備に当たりますが、汎用性が高いという理由で日本財団の事業では対象外です。
水産庁の事業は補助率2分の1で、上限は6万円です。日本財団の事業は小型船が3分の2で上限8万円、大型船(20トン以上)が2分の1で上限6万円です。無線設備を使うには船舶無線局免許と無線従事者免許が別に要ります。設備を載せるだけでは法定無線設備にならない点も、公募要領に書かれています。
非常用位置等発信装置(EPIRB・AIS)
非常用位置等発信装置は、衛星非常用位置指示無線標識(EPIRB)か船舶自動識別装置(AIS)です。水産庁の事業ではEPIRBはAIS-SART機能を持つものに限り、AISには簡易型AISも含みます。
水産庁の事業の上限は12万円です。日本財団の事業は小型船が3分の2で上限38万円、大型船が2分の1で上限28.5万円です。日本財団の事業の対象になるEPIRBは自動浮揚型で、手動ブラケット付のEPIRBは対象外です。AISは、アンテナやケーブル・AIS情報を表示できるモニターなど、一部の付属品まで補助の対象です。
たとえば、小型船で本体と付属品が合わせて15万円のAISを買うと、日本財団の事業では15万円の3分の2で10万円が給付されます。水産庁の事業なら2分の1で7万5,000円で、どちらも上限の範囲に収まります。同じ設備を同じ領収書で両方に出すことはできません。
改良型救命いかだ等
改良型救命いかだ等は、乗り移るときに落水する危険を減らす措置がついた救命いかだ、または内部収容型救命浮器です。乗込装置も含みます。水産庁の事業の上限は75万円です。
日本財団の事業は補助率が3分の2で、上限は船の最大搭載人員で決まります。公募要領に載っている区分は次のとおりです。
| 最大搭載人員 | 上限額 |
|---|---|
| 16人まで | 73.3万円 |
| 17〜25人 | 100万円 |
| 26〜50人 | 142.6万円 |
| 51〜66人 | 216万円 |
| 67〜75人 | 242.6万円 |
| 76〜100人 | 285.3万円 |
| 101〜116人 | 358.6万円 |
| 117〜125人 | 385.3万円 |
126人以上の上限は給付規程に書かれています。定員を満たすために複数の救命いかだをまとめて申請できます。たとえば最大搭載人員が23人の船は、8人乗りと15人乗りの組み合わせで申請できます。
救命いかだは国土交通省が型式承認した製品だけが対象です。型式承認のない製品には、補助金が給付されません。
浸水警報装置・排水設備(日本財団のみ)
浸水警報装置と排水設備は、日本財団の事業だけの対象です。補助率は3分の2で、上限は検知器または排水設備の購入数で決まります。
| 購入数 | 上限額 |
|---|---|
| 1個 | 25万円 |
| 2個 | 40万円 |
| 3個以上 | 55万円 |
この設備は設置費用(人件費と部材費)も対象ですが、本体と付属品の合計額を超える設置費用は認められません。公募要領の例では警報盤と検知器と排水設備の本体が30万円で設置費用が5万円、補助対象経費は35万円になり、3分の2の約23万3,000円が給付されます。上限の25万円より低いので23万3,000円がそのまま給付額です。
警報盤だけで申請するときは上限額を決められないため、事前に事務局へ連絡するよう書かれています。必要な区画や設置数は事務局では答えてもらえないので、検査機関や造船所に確かめます。
対象になる船とならない船
遊漁船業の登録を受けた事業者と、その船
どちらの事業も、遊漁船業の適正化に関する法律の第3条第1項に基づく登録を受けた事業者が対象です。船は、その法律の第2条第2項の遊漁船に当たるものです。日本財団の事業は漁業との兼業者も対象に含めています。
水産庁の事業は次の3つをすべて満たす登録事業者が対象です。1つ目は、無線・非常用位置等発信装置・改良救命いかだ等のいずれかを導入することです。2つ目は、営業する地域に遊漁船業法第28条の協議会または海面利用協議会があれば、これに加入することです。3つ目は、遊漁採捕報告システムで利用者が採った水産動植物を水産庁に報告することです。
対象外になるのは、導入する設備をその船にすでに設置している場合と事業実施計画の承認申請の日より前の1年以内に遊漁船業法等の違反が確定している場合です。
水産庁の事業は航行区域、人数、トン数で対象が分かれる
水産庁の事業の対象になる船は、航行区域・乗客の人数(13人以上か12人以下か)・船のトン数(20トン以上か未満か)・設備の種類の組み合わせで決まります。たとえば湖川港内の平水区域だけを走る船は、多くの組み合わせが対象外です。救命いかだは水温の条件が付くことがあります。
国土交通省の資料には、安全設備の義務化の対象にならない場合は補助の対象にもならない、とあります。申請の前に自分の船が義務化の対象かどうかを確かめる必要があります。日本財団の事業は、義務化の対象かどうかに関わらず申請できます。
旅客船の補助とは別の窓口
海上運送法の適用を受ける船(許可船・登録船・届出船)で事業をしている場合、日本財団の遊漁船向けの事業は対象外です。この場合は小型旅客船等の安全・安心確保推進事業を使います。旅客船向けの事業は5つの設備(遊漁船向けの4つにドライブレコーダーを加えたもの)が対象で、実施は令和10年度までの予定です。
反対に、旅客船向けの事業は遊漁船業と漁業だけに船を使う場合は対象外です。遊漁船業と旅客船事業を兼ねているなら、旅客船向けの事業を調べます。
中古品とリース品
日本財団の事業は、新品で購入した製品だけが対象です。中古品とリース品は補助の対象になりません。対象は、令和7年4月1日以降に購入した安全設備です。水産庁の事業では、処分制限期間が5年以上のものが対象になっています。
安全設備の義務化はいつから
遊漁船の安全設備の義務化は、国土交通省が進めています。省令は令和8年4月1日に公布され、令和8年10月に施行されました。設備ごとの期限は、次のとおりです。
| 設備 | 搭載が必要になる時期 |
|---|---|
| 法定無線設備 | 令和8年10月1日以降に最初に迎える中間検査または定期検査まで |
| 非常用位置等発信装置 | 令和8年10月1日以降に最初に迎える定期検査まで |
| 救命いかだ等 | 令和8年10月1日以降に最初に迎える定期検査まで |
| 隔壁の水密化等 | 令和9年4月1日以降に最初に迎える定期検査まで |
船ごとに検査の時期が違うので、いつまでに載せるかは自分の船の検査日で決まります。検査機関は20トン以上の船は運輸局など、20トン未満の船は日本小型船舶検査機構です。
水産庁の事業の概要を載せた国土交通省のPDFには、義務化の適用日は未定と書かれていました。同じ国土交通省の義務化のページは、搭載が必要になる日を示しています。PDFの記載は古いので、義務化の日付は国土交通省のページか県の案内で確かめます。
救命いかだ等を載せなくてよい特例
救命いかだ等には、搭載を要しない5つの方法があります。補助金の側でも関係があり、水産庁の事業はこの特例を使えない申請者を優先します。
- 一定の水温を上回る時期だけ航行する(水温20℃以上の海域と時期だけ。15℃以上20℃未満は母港から5海里以内、10℃以上15℃未満は平水区域だけ)
- 伴走船と一緒に航行する
- 救助船を配備する(水温15℃以上は30分以内、10℃以上15℃未満は10分以内、10℃未満は5分以内に現場へ到着)
- 船内に浸水しない構造にする(水温15℃以上の場合)
- 母港から5海里以内だけ航行する(水温15℃以上の場合)
特例を使うときは、適用日以降に最初に迎える定期検査の前に検査の準備が必要です。どの方法が使えるかは、国土交通省の水温の確認方法のページで航行する水域の水温を調べて決めます。
申請からお金が入るまで
どちらの事業も、補助金が入るのは設備を買って支払ったあとです。先に全額を自分で払う資金が要ります。
日本財団の事業の流れ
日本財団の事業は、パソコンから申請します。スマートフォンやタブレットは動作が保証されていません。パソコンがない場合は、家族や同僚による代理申請が認められています。流れは4つの段階です。
- 申請IDを作り、給付申請で遊漁船業者登録票と船舶検査証書などを出して、受給資格の審査を受ける
- 設備を買って、領収書と実績報告明細書、納品の写真を出す
- 精算払の請求のために、口座の確認書類を出す
- 登録した口座に補助金が振り込まれる
申請は安全設備ごとに申請IDを作って行います。同じ事業者の船で同じ設備なら、1つのIDで10隻までまとめて出せます。審査の結果が出るまでに、2か月以上かかることがあります。見積書と領収書は専用のフォーマットで出すため、販売店に作ってもらう必要があります。
納品の写真には、船体に貼ったステッカーの写真が含まれます。ステッカーと日本財団のロゴシールは、給付が決まったあとに届きます。
水産庁の事業の流れ
国土交通省の資料にある令和8年度の流れ(調整中と書かれていたもの)は、次のとおりです。事業実施計画と交付申請の受付・計画の審査・交付決定の順に進みます。交付が決まってから事業を始め、令和9年3月に実績報告と補助金の支払いがあります。
この事業は交付が決まってから設備を買います。交付の前に買うと、補助の対象外になるおそれがあります。令和7年度の事務局の資料には、見積書を3社以上から取る相見積もりの書類もあります。令和8年度の公募要領は読めていないので、書類は事務局のページで確かめてください。
買ったあとの義務
日本財団の事業では、納品後5年以内は設備を売却や処分できません。廃船で船が使えなくなっても売らずに保管します。申請の書類も、事業の終了後5年間は保管して、求められたら見せます。
水産庁と日本財団を併用できるか
日本財団の公募要領に、重複申請の扱いが書かれています。ポイントは設備と領収書です。
同じ船で設備が違えば両方の事業を使えます。公募要領の例では水産庁の事業でEPIRBを申請し、日本財団の事業でAISを申請する形で、同じ船に重ねて申請できます。EPIRBを2台とAISを2台でも構わないとされています。
同じ領収書を使った同じ設備を、別々の事業で申請することはできません。水産庁の事業の遊漁船安全設備導入支援事業や、漁船安全技術導入促進事業(AIS導入支援事業)で申請した設備を日本財団の事業で申請するときは、先に水産庁側の申請を取り下げます。
国・自治体・団体の他の補助事業とは、事務局が別に定める事業を除いて、重複して申請できるとされています。自治体の補助が自己負担分の一部を補うものであれば同じ領収書の設備でも申請できます。該当するかどうかは事務局に確かめる決まりです。
水産庁の事業の側から見ると国が行う他の事業の支援を受ける、または受けることになっている安全設備の費用は補助の対象になりません。2つの事業をどう組み合わせるかは設備ごとに先に決めておくと間違いません。
自治体の上乗せと独自の補助
島根県の上乗せ補助
島根県は、水産庁の事業か日本財団の事業を使った遊漁船業者に、県の事業で上乗せの補助を出しています。遊漁船業安全対策強化支援事業費補助金で、令和8年7月17日付けの要綱で決まりました。島根県で遊漁船業の登録を受けた事業者が対象です。
補助率は水産庁の事業を使った場合が補助対象経費の4分の1以内で、上限は水産庁事業の補助金の額の2分の1です。日本財団の事業を使った場合は補助対象経費の12分の1以内で、上限は日本財団事業の補助金の額の8分の1です。
公募は予算がなくなり次第終了です。県の事業の公募の前に、2つの事業の補助金の額が確定していれば、そのあとに申請できます。2つの事業以外の助成制度とは併用できません。
市町村の独自の補助
高知県の室戸市に、遊漁船業の安全対策に取り組む人への補助金があるという情報を見つけましたが、公式の要綱までは確かめられていません。市町村の制度は年度ごとに内容が変わります。
県や市町村の制度は、遊漁船業の登録をしている県の水産課か営業所のある市町村の窓口に聞くのが確実です。
遊漁船を開業するときの補助金
遊漁船業を始めるには、営業所ごとにその所在地の都道府県知事の登録が必要です。登録を受けずに営業すると3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が定められています。登録の有効期間は5年間で、法令に違反した場合などは短くなることがあります。
登録をするには、遊漁船業務主任者の選任・損害賠償措置への加入・すでに登録を持つ遊漁船業者のもとでの実務研修または実務経験などが要ります。手続きの詳しい内容は、営業所のある県の水産課が出している登録のしおりを読みます。
安全設備の補助金は、この登録を受けていることが前提です。開業前に設備を買ってしまうと、登録の前に買った分は対象にならないおそれがあります。日本財団の事業は令和7年4月1日以降に購入した設備を対象にしていますが、登録を受けた事業者であることが条件なので、登録の日と購入日の順番は事務局に確かめるのが無難です。
船の購入費や開業のための資金は、安全設備の補助金では賄えません。創業向けの補助金や融資は、自治体や金融機関の窓口で別に探します。
遊漁船の代表的な補助金の金額
国の制度と上限の大きい制度を上限額で比べた表です(制度名を押すと下の全国一覧のその制度へ移ります)。この表に並ぶのは漁業向けの国・県・市の制度で、遊漁船の安全設備の補助は上で説明した2つの事業です。
