新規事業に使える国の補助金の中心は「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」です。令和8年度から、それまで別々だった中小企業新事業進出補助金とものづくり補助金が1つの制度になりました。既存の事業と違う市場に出る「新事業進出枠」の上限は従業員数に応じて2,500万円から7,000万円です。賃上げ特例を使うと最大9,000万円まで上がります。
ただし、この制度は応募の時点で従業員が1人以上いることが条件です。従業員のいない個人事業主や役員だけの会社は申請できません。販路の開拓には小規模事業者持続化補助金があります。ITツールにはデジタル化・AI導入補助金、人手不足の対策には省力化投資補助金があり、やりたいことで使う制度が変わります。都道府県と市区町村にも新しい事業や新商品の開発に出す補助金があります。
この記事では目的ごとの制度の選び方と、統合後の制度の枠・要件・対象者を先に整理しました。そのあとに代表的な補助金の金額と締切の暦を載せています。多くの制度に共通する注意点と都道府県ごとの一覧も続けて載せました。自分の地域の制度は一覧から各制度の記事へ進めます。
新規事業の補助金の概要
新規事業の補助金は、お金を出す側で国・都道府県・市区町村の3つに分かれます。国の制度は中小企業庁と中小企業基盤整備機構(中小機構)が担い、金額が大きく全国で使えます。都道府県と市区町村の制度はその地域に事業所がある事業者が対象です。国の補助の自己負担を軽くする上乗せの制度もあります。
新規事業に使える国の補助金は、やりたいことで選ぶ
中小機構の「補助金活用ナビ」は、補助金にはそれぞれテーマが決まっていると説明しています。まず自分のやりたいことに合う補助金を確かめるよう案内しています。同じ新規事業でも、新しい市場に出るのか新商品を開発するのか販路を広げるのかで使う制度が変わります。
次の表は国の主な補助金を目的ごとに並べたものです。金額は各制度の公募要領と事務局のページで確かめた値です。細かい条件は制度ごとに違います。
| やりたいこと | 国の主な補助金 | 補助上限 | 補助率 |
|---|---|---|---|
| 既存の事業と違う市場に出る(設備・建物) | 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(新事業進出枠) | 2,500万〜7,000万円(賃上げ特例で最大9,000万円) | 1/2(特例で2/3) |
| 新しい製品・サービスを開発する | 同(革新的新製品・サービス枠) | 750万〜2,500万円(賃上げ特例で最大3,500万円) | 1/2(小規模事業者は2/3) |
| 輸出に向けて国内の拠点を強くする | 同(グローバル枠) | 2,500万〜7,000万円(賃上げ特例で最大9,000万円) | 2/3 |
| チラシ・ウェブサイト・店舗改装で販路を広げる | 小規模事業者持続化補助金<一般型・通常枠> | 50万円(特例で最大200万円の上乗せ) | 2/3(赤字の事業者の賃金引上げ特例は3/4) |
| 創業して1年以内に販路を広げる | 小規模事業者持続化補助金<創業型> | 200万円(インボイス特例で50万円の上乗せ) | 2/3 |
| 業務のソフトウェアやAIを入れる | デジタル化・AI導入補助金(通常枠) | 5万〜450万円 | 1/2(条件を満たすと2/3) |
| 人手不足を機械やロボットで補う | 中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型) | 500万〜1,000万円(賃上げで最大1,500万円) | 1/2以下 |
| 事業を引き継ぐ・M&Aで新しい事業を得る | 事業承継・M&A補助金 | 枠で違う(事業承継促進枠は800万〜1,000万円) | 枠で違う(1/3〜2/3) |
売上高100億円を目指す中小企業の大きな投資には、中小企業成長加速化補助金があります。100億企業成長ポータルの公募概要資料(3次公募)では、上限は5億円で補助率は1/2です。対象は売上高10億円以上100億円未満の中小企業で、「100億宣言」を行っていることと、投資額が1億円以上であることが要件に入っています。賃上げの要件もあるので、公募要領で確かめてください。
新規事業の補助金を探す人の多くは、まず表の一番上の制度にたどり着きます。ただ、この制度は新事業進出枠とグローバル枠で補助の下限が750万円あり、事業計画の審査も重いつくりです。投資の額が数百万円までなら持続化補助金やデジタル化・AI導入補助金のほうが合う場合があります。編集部としては、投資の総額と従業員の人数を先に書き出すことを勧めます。表の下限と対象者の条件で候補を2つ程度に絞ってから公募要領を読むと迷いません。
新事業進出補助金とものづくり補助金は、令和8年度に1つになった
中小機構の補助金活用ナビは、新事業進出補助金とものづくり補助金のどちらのページでも同じ案内をしています。令和8年度からは統合後の「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」として公募するという内容です。旧制度の中小企業新事業進出補助金の事務局サイトには「本補助金の公募は終了しております」とあります。新規の受付は統合後の制度へ移りました。第4回公募の採択結果は2026年9月30日に公開されています。
旧制度の名前で検索すると、統合前の回次や要件を載せたままの記事も出てきます。名前が似ていても、新しく申請できるのは統合後の制度だけです。旧名称で見つけた要件や上限額は使わず、統合後の公募要領で読み直します。統合後の第1回公募は、中小企業庁が公募要領を2026年6月29日に公開しています。
統合後も旧制度との関係は残ります。第1回公募要領は、申請の締切日から16か月以内に交付候補者に採択された事業者を対象外としています。対象になる補助金は事業再構築補助金・新事業進出補助金・ものづくり補助金・統合後の補助金です。締切日の時点でこれらの補助事業を実施中の事業者も対象外です。過去に旧制度で採択を受けた事業者は、採択日と補助事業の完了日を確かめてから準備を始めます。
旧制度の詳しい経緯と統合後との違いは新事業進出補助金とは?もう申請できない旧制度と後継の違いにまとめています。事業再構築補助金も事務局サイトに「本補助金の公募は終了しております」とあります。新しく申請できない理由と代わりの制度は事業再構築補助金の記事で説明しています。
統合後の制度の3つの枠と、従業員数ごとの上限
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は目的に合わせて3つの枠から選びます。上限は応募の時点の従業員数で決まります。事務局のよくあるご質問によると、採択のあとに従業員が増えても上限は上がりません。
| 従業員数 | 革新的新製品・サービス枠 | 新事業進出枠・グローバル枠 |
|---|---|---|
| 1〜5人 | 750万円(850万円) | 2,500万円(3,000万円) |
| 6〜20人 | 1,000万円(1,250万円) | 2,500万円(3,000万円) |
| 21〜50人 | 1,500万円(2,500万円) | 4,000万円(5,000万円) |
| 51〜100人 | 2,500万円(3,500万円) | 5,500万円(7,000万円) |
| 101人以上 | 2,500万円(3,500万円) | 7,000万円(9,000万円) |
| 補助の下限 | 100万円 | 750万円 |
| 補助事業の期間 | 交付決定から10か月以内(採択発表から12か月以内) | 交付決定から14か月以内(採択発表から16か月以内) |
かっこ内は賃上げ特例を使った場合の上限です。
補助率は革新的新製品・サービス枠が中小企業者1/2で、小規模企業・小規模事業者と再生事業者は2/3です。新事業進出枠は事業者の規模を問わず1/2です。地域別最低賃金引上げ特例に当てはまると2/3に上がります。グローバル枠は2/3です。
補助の対象になる経費は、3つの枠に共通するものと枠で違うものがあります。
- 3つの枠に共通: 機械装置・システム構築費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、原材料費、広告宣伝・販売促進費
- 新事業進出枠とグローバル枠だけ: 建物費
- グローバル枠だけ: 海外旅費、通訳・翻訳費
革新的新製品・サービス枠では機械装置・システム構築費が必ず要ります。新事業進出枠とグローバル枠では機械装置・システム構築費か建物費のどちらかを必ず入れます。経費の区分ごとに上限もあるので、見積もりの前に公募要領の経費の章を読みます。
「新規事業」と認められる条件(新規性と新しい市場)
新事業進出枠で「新規事業」と認められるには2つの条件をどちらも満たす必要があります。1つは新しく作る・提供する製品やサービスが自社にとって新しいこと(新規性)です。もう1つは、その製品やサービスの市場が自社にとって新しい市場であることです。
新規性は自社にとっての新しさで判断します。第1回公募要領は、日本初・世界初といった世の中での新しさは求めないと書いています。新しい市場とは既存の事業では相手にしていなかった顧客層の市場のことです。公募要領は顧客層の違いの例として「法人/個人、業種、行動特性等」を挙げています。
公募要領は、新事業進出枠に当たらない例として次のものを挙げています。
- 既存の製品の製造量や提供量を増やすだけの場合
- 過去に作っていた製品を作り直す場合
- 既存の製品の作り方を変えるだけの場合
- 性能を数字で測れる製品で、性能に意味のある差が無い場合
- 既存の製品と市場が同じ場合(新製品が既存の製品の需要を置き換える場合、単なるメニューの追加と考えられる場合)
- 既存の製品の市場の一部だけを対象にする場合
- 既存の製品のまま、商圏だけを変える場合
たとえば飲食店が隣の市に同じ業態の2号店を出すのは、商圏が違うだけと判断される形です。同じ飲食店がこれまで取引の無かった企業向けに冷凍の惣菜を製造して卸す計画なら、製品と顧客層の両方が新しくなります。どちらに当たるかは最終的には審査で判断されます。事務局の資料「新市場・高付加価値事業の考え方」で自社の計画を照らしてください。
革新的新製品・サービス枠は自社の技術力などを生かして新製品・新サービスを開発する取り組みが対象です。機械やシステムを入れるだけで新製品の開発を伴わないものは当たりません。同業の中小企業ですでに広く普及している製品の開発も当たりません。既存の製品の生産工程を改善するだけの事業も対象外です。グローバル枠は、自社の製品で新しい国・地域の市場に自ら販路を開くための国内拠点の強化が対象です。取引先から頼まれて始める事業は対象になりません。
賃上げと付加価値の要件、達成できないときの返還
統合後の制度では補助事業が終わったあと3〜5年の事業計画で、次の要件をすべて満たす必要があります。
- 付加価値額の年平均成長率を4.0%以上にする(事業者全体で判定)
- 1人あたり給与支給総額の年平均成長率を3.5%以上にする
- 事業場内の最低賃金を、毎年、地域別最低賃金より30円以上高くする
- 次世代育成支援対策推進法の一般事業主行動計画をつくり、「両立支援のひろば」で公表する(従業員100人以下の企業も必要)
- 子育て等に関する職場環境整備に向けた取り組みを行う
- 金融機関から資金を借りて補助事業を行う場合は、その金融機関の事業計画の確認を受ける
このうち賃上げの要件と事業場内の最低賃金の要件は、達成できないと補助金の返還を求められることがあります。事務局のよくあるご質問によると、賃上げの要件は事業計画期間の最終年度の終了時点で確かめます。見るのは申請のときに自分で決めた目標値に届いているかです。公募要領の基準値を超えていても、自分の目標値を下回れば要件を満たさない扱いです。事業場内の最低賃金は毎年確かめます。満たさない年は、補助金の額を事業計画期間の年数で割った額の返還を求められます。
賃上げ特例で上限を上げる場合は、給与支給総額の伸びを合計で年平均6.0%以上にすることが要件です。事業場内の最低賃金も地域別最低賃金より50円以上高くします。上限が上がるぶん、未達のときの返還の対象も広がります。上限の大きさだけで特例を選ばず、3〜5年の人件費の計画を立ててから決めることを勧めます。
個人事業主・従業員0人・創業したばかりの会社は使えるか
統合後の制度は資本金か従業員数が基準以下の「会社又は個人」が対象で、個人事業主も申請できます。ただし応募の時点で従業員が0人の事業者は対象外です。事務局のよくあるご質問は、役員は「常時使用する従業員」に入らないと答えています。役員だけの会社は従業員0人の扱いです。
応募までに従業員を雇えば申請できます。ただ、補助金の対象になることだけを目的に従業員数や資本金を変えたと認められると、申請の時点にさかのぼって対象外になる場合があります。日々雇い入れる人や2か月以内の期間を決めて雇う人、試用期間中の人は常時使用する従業員に数えません。
| 制度 | 個人事業主 | 従業員0人 | 創業したばかり |
|---|---|---|---|
| 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(新事業進出枠) | 対象 | 対象外 | 設立・創業から1年未満は対象外 |
| 同(革新的新製品・サービス枠・グローバル枠) | 対象 | 対象外 | 1年未満の制限は無い |
| 小規模事業者持続化補助金<創業型> | 対象(商工業者) | 従業員数の下限は公募要領に無い | 特定創業支援等事業の支援を受けた日と開業日が、締切から過去1年以内であることが条件 |
| 事業承継・M&A補助金(専門家活用枠) | 対象 | 枠の要件で確かめる | 枠の要件で確かめる |
事務局のよくあるご質問によると、新事業進出枠の「1年」は応募申請の時点で数えます。個人事業主から法人成りして1年未満の場合は、事務局が事業を承継した事実を確認できれば、個人事業主としての実績を含めて要件を確かめる扱いもあります。開業したばかりで従業員もいない段階なら、持続化補助金<創業型>や自治体の創業の補助金が候補です。創業向けの制度は起業の補助金・助成金の記事にまとめています。持続化補助金とデジタル化・AI導入補助金の個人事業主の扱いは持続化補助金は個人事業主も対象?とIT導入補助金は個人事業主も対象?で線引きしています。
財団法人・社団法人(公益・一般)、医療法人、法人格の無い任意団体は対象外です。組合や連合会は、公募要領の条件に当てはまるものだけが対象になります。
補助金と助成金の違い
中小機構の補助金活用ナビのよくあるご質問は、補助金は審査を通る必要があると説明しています。助成金は要件を満たせば基本的に受けられるものが多いとしています。新規事業の設備や開発の費用に出るのは主に補助金です。人を雇うことや非正規の社員を正社員にすることには厚生労働省の助成金があります。
新規事業で人を雇うなら、設備は補助金で雇用は助成金と分けて考えると探しやすくなります。たとえばキャリアアップ助成金は、有期・パート・派遣の労働者の正社員化や処遇の改善に取り組んだ事業主に出る助成金です。コースと金額はキャリアアップ助成金の記事にまとめています。ただし統合後の補助金は、国の他の補助金や助成金と経費が重なる事業を対象外にしています。同じ経費に2つの制度を重ねることはできません。
都道府県・市区町村の補助金と、国の補助への上乗せ
都道府県と市区町村も、新しい事業や新商品の開発・新しい分野への進出に補助金を出しています。東京都と(公財)東京都中小企業振興公社が行う「経営力強化に向けた創意工夫チャレンジ促進事業」には新市場・新分野進出コースがあります。対象は、直近の決算期に営業利益が前期より減っているか、損失を計上している都内の中小企業等で、助成限度額は1,000万円です。対象と注意点は創意工夫チャレンジ(新市場コース)の記事で読めます。市区町村の制度は新製品の開発・クラウドファンディングの活用・地域の課題を解く事業のように、対象を絞ったものが多くあります。
国の補助に採択された事業者の自己負担を県が追加で補助する制度もあります。中小機構の補助金活用ナビは熊本県・高知県・島根県の上乗せの制度を紹介しています。熊本県の「熊本県中小・小規模事業者生産性・売上げ向上後押し事業補助金」は、県が指定する国・県の補助事業の自己負担額を最大10分の1まで軽くするものです。上限は1件200万円です。高知県の「高知県賃金向上環境整備事業費補助金」は、県が指定する補助金の交付決定を受けた事業者に対象の従業員1人あたり10万円を補助します。
上乗せの制度は、対象になる国の補助金や交付の確定を受けていることといった条件が県ごとに違います。国の補助金を申請する前に自分の県の制度を確かめておくと、採択後に申請の時期を逃しません。熊本・福岡・東京都など地域ごとの制度はこの記事の後半の一覧から探せます。
申請からお金が入るまで(後払いとGビズID)
国の補助金は申請してすぐにお金が出るわけではありません。中小機構の補助金活用ナビは、多くの補助金は事業者がいったん費用を払い後から補助金が支払われる仕組みだとしています。統合後の制度を例にすると、大まかな順番は次のとおりです。
- GビズIDプライムのアカウントを取る
- 公募要領を読み、事業計画を自分でつくって電子申請する
- 審査を受ける(必要に応じてオンラインの口頭審査がある)
- 交付候補者に採択されたら、説明会に参加し、見積書を出して交付申請をする
- 交付決定を受けてから発注・契約し、補助事業の期間内に納品・検収・支払いを終える
- 補助事業の完了から30日以内(または完了期限日のどちらか早い日)に実績報告を出す
- 確定検査で補助金の額が決まったあと、精算払いを請求し、補助金が振り込まれる
- 完了した年度の終了後から5年間、毎年、事業化状況報告を出す
事務局のよくあるご質問によると、GビズIDプライムは書類に問題が無ければ1週間程度で発行されます。書類に不備があるとさらに時間がかかります。GビズIDプライムは法人の代表者か個人事業主しか作れないので、担当者に任せず代表者が手続きします。
採択されてもお金はすぐには入りません。採択のあとに交付申請・発注・納品・支払い・実績報告・確定検査と進み、振り込みはその後です。設備の代金はいったん全額を自社で払います。金融機関からの借り入れを考えるなら申請の前に相談しておきます。借り入れで補助事業を行う場合は、その金融機関の「金融機関による確認書」が必要です。
新規事業の代表的な補助金の金額
国の制度と上限の大きい都道府県の制度を、上限額で比べた表です。制度名を押すと下の全国一覧のその制度へ移ります。
